改めた説明と、追加の設定
「基本的に本部の施設はこんなところかな」
モザンが拡大を行いながら説明し、時折蓮司達の誰かが質問を挟んだりしながら本部の紹介は終わりを迎えた。
この説明だけで四時間も掛けていたが、四時間を掛ける価値は確かにあったと皆は感じている。
本部は確かに怪獣との戦闘を意識しながらも、同時に居住にも比重を置いていた。
他に居場所が無いからこそ、本部は正に超能力者の実家として機能しているのだ。厨房やコインランドリー、小さいながらも商品を販売する自販機も存在し、倉庫には常に修理用予備パーツが満載状態で収められている。
超能力者達が修理を主に行っているが、何時彼等が戦死するかも解らない。最悪を想定して修理パーツは量産しておき、なるべく戦艦内部の生産機械達で済むようにもしていた。
「家っていうか、小さな町って感じですね」
奈々の素直な感想は正に適当だろう。
このアラヤシキは正に小規模な街だ。超能力者達による超能力者達の為の街。勿論普通の人間が住むにも適しているが、優先されているのは住む場所を限定されてしまう彼等だ。
超能力者は常に国が求めている。今も彼等を疑似的に生み出す方法はないかと模索する集団は多く、詐欺的な手段で超能力者になれる薬を売る者も居た。
最近のニュースでは自分は超能力者であると宗教を起こした者も居たそうで、誰であれ超能力者には憧れている。
しかし、では実際に超能力者を国が抱えれば明らかな優遇を行うだろう。
レッドやフローが良い例だが、両名は特に能力としては際立っている。単純明快な力は縛るだけでは制御出来ず、下手に拘束でもしようものなら即座に破滅だ。
金や女などの娯楽を与え、明らかな特権を与えることで国に住んでもらう。
その方が制御はし易く、怪獣を討伐する際にも最前線で戦ってくれる。優劣の差を嫌う者達からは反対意見は出るだろうが、合理的に判断するのであればそれが正解だ。
問題なのは、反対派が超能力者を害した場合である。
反対派は総じて人間であろうし、その力も一般程度。武器を持っても大した脅威にならず、言葉で責めても拳一発で彼等は沈黙する。
超能力者相手に攻撃は悪手だ。それでも、理性を振り切って暴れる集団は絶対に現れる。
「赤子から老人まで。 皆が心穏やかに過ごしてもらうには、街くらいの規模にしないと実現しないからね。 建造当初は揉めに揉めたみたいだけど、今では作って正解だと皆思っているよ」
そして、害された超能力者は思うのだ。――果たして自分は、本当にこの国に住み続けて良いのかと。
確かに良いと言ってくれる誰かは居るだろう。その為に優遇措置を施しているのだから、居てくれなければ特権に対する益が無くなる。
ただ、人は善意の言葉よりも悪意の言葉の方を気にする種だ。善意の中に混ざった悪意だけに意識が向き、最終的に居場所を自分から捨てることもある。
どうしても、今の世の中に超能力者は馴染めない。超能力者側がどれだけ馴染もうと努力しても、普通の人間が彼等に忌避を抱いてしまうのだ。
「僕等が姿を隠すのは今の人の世から距離を置く為。 本当なら、君達とだって会う機会はきっと無かったんだよ」
「でも、怪獣があんなに派手に暴れた」
「そ。 僕等は人類を守る役割も持っているから、絶対にあんな怪獣を倒さなくてはならない。 お蔭でステルスに関しては最優先で研究されていてね、今後は本部の隠蔽ももっと上手くなるよ」
「……なんと言いますか、話を聞けば聞く程私達側の落ち度が目立つのですが」
ヴェルサスを含め、超能力者達は別に今の世の中を搔き乱そうとは考えていない。
寧ろ逆に人々の安寧を守ろうとしていて、そんな彼等に対して騒いでいるのが今の人類だ。
聞けば聞く程に恥ずかしい話であり、クルスの言葉に皆が頷いた。
「今の話の中にモザンさん達の落ち度って殆ど無いよね。 どれもこれも、こっちが変に願望を持ったり反感を持ったからおかしくなってる。 そりゃ、確かに超能力者の力を使いたいとは思うよ?」
「まぁ、漫画や小説の中の能力だったからなぁ。 憧れが目の前にあったら、そりゃ必死に手を伸ばしたくなるもんだ」
「それで相手に迷惑を掛けていては最悪です。 もっと友好的に接する努力をするべきでしょうに……」
怪獣を倒して人類を存続させる。
それをしているだけなのに、悪意は向こうから勝手にやってくるのだ。同じ人類だと思いたくはないし、目の前でそんなことをしようとする人間が居れば彼等は殴ってでも止めようとするだろう。
そんな彼等の様を見て、モザンは内心苦笑する。
悪いのは全て此方だ。全ての仕掛け人はあの二人だが、加担している以上は無関係だと主張することは許されない。
本当に良い子達だと彼女は思う。欲望に支配されず、彼等は確りと善性を維持したまま生き続けた。
だからこそ、アントや楓も彼等には好意的だ。澪やイブはあまり気にしていないが、出来る限り死なせないようにと彩斗を含めた四人は考えている。
いざとなれば身を挺することにも否は無い。
「有難うね。 こっちはもう割り切ってるけど、実際にそう言ってくれると嬉しいよ。 ……まぁでも、怪獣は今暫くは出続けるだろうなぁ」
「そうなのですか?」
この場の中で人の悪意によって怪獣が誕生することを知らないのはクルスのみ。
故に超能力者の誕生理由等を含め、蓮司がちょうどいいとクルスに説明。彼女はその話を聞けば聞く程、何とも難しい話だと腕を組んでしまう。
人の悪意を無しにするのは不可能だ。何時だって一定の割合で悪意は芽生え、誰かに必ず害を与える。
我慢をしていても、それを長く胸の内に蓄積させては何時か爆発するだけ。ガス抜きなんて言葉があるように、何処かで不満を吐き出せる場を用意して人は何とか善悪のバランスを取っているのである。
「悪感情の喪失以外で怪獣の出現を防ぐ方法ってあるんですか?」
「大元を潰すって手はあるけど、その大元は星そのものだからねぇ。 流石に星を砕いたら誰も生きていけないよ」
「となると、取るべき手は恒久的な怪獣対策組織なんですかね。 ……そっちもそっちで利権関係で揉めそうですけど」
クルスの質問による返答は、その全てが最悪に繋がる。
現状、怪獣の出現を防ぐ手立ては零。ヴェルサスのように怪獣討伐を専門とした組織が対応する他無く、かといって全てを彼等だけに任せるのはよろしくない。
特別とは何も良いことばかりではないのだ。責任が一極集中し、ミスをした際にカバーする者が居なくなってしまう。
同ヴェルサスが責任を取って組織を解散することになれば、今度は誰が人類を怪獣から守るのだ。空我ですらまともに相手にされない状態で、現行の人類が立ち向かうのは無謀が過ぎる。
仮に技術が解決しても次は利権問題だ。怪獣に繋がる利益は莫大であり、決して誰も逃そうとは考えない。
考えれば考える程、人の欲は深い。
一致団結。その四文字は昔であっても希少性が高かっただろうが、今はもっと高い。一種の奇跡に等しく、同じ行いをしようとすれば何処かの誰かが邪魔をするのは明白だ。
反ヴェルサスのように誰かの怒りを扇動し、反抗組織が妨害をする。
それが今の日常で、潰されぬにはどうしても武力が求められた。言葉だけで解決する平和な世は何時も生まれないが、最早この世においては架空の存在と断じても良い。
「あの、ではフォートレスを使うのはどうでしょう」
おずおずと、鳴滝が言葉を述べる。
フォートレスを使う。その言葉の意味は、彼等であれば容易に想像が付く。唯一付かないのもやはりクルスぐらいなもので、モザンもその手しかないよねと同意していた。
「現状はヴェルサスがどうにか倒している状態だ。 怪獣が無限に出てくると仮定して、何時までも僕達だけで解決出来るとは思っていない。 最近は数か国に一斉に出てきた例もあることだし、全国一斉出現なんて起きても不思議じゃないよ」
「ヴェルサス以外にも脅威に立ち向かえる組織はきっと必要になる。 けど、その組織自体は社会性を持っていた方が都合が良い」
「かといって世界の技術じゃまだ怪獣は倒せないから――」
「ヴェルサスと繋がりつつ、民間とも関りがある組織。 即ちフォートレスが怪獣討伐の任を請け負えば良いことになります。 勿論、事前に国の許諾が求められますが」
モザンへの訪問。それは本来本部の場所等を聞くことが目的であったが、当初の予定とは異なる方向に舵を切ることになった。
されど、この中でモザンは素直に面白いと感じている。
叶うかどうかはあの二人次第ではあるものの、進言するくらいは別に構わないだろう。恐らく蓮司本人も説得に乗り出し、渡辺社長にまでこの話は上る筈だ。
今度の騒ぎは決して不快なものだけにはならない。なんとなくではあるが、彼女は確信を含んだ笑みを浮かべつつお菓子を口にした。




