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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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大打撃・THE・日本

 配信が始まる。

 用意されたステージはテレビのニュース番組と特に変わり無く、しかしそこに居る面々に人々は注目を寄せた。

 早乙女兄妹、鳴滝・花蓮。そして元自衛隊・特務機動部隊所属の三人。

 開発部に居る二人は皆が知らなかったが、それでも先頭に立っていた渡辺を知らない人間はあまり多くない。

 

 最初に口を開けたのはスーツ姿の早乙女・蓮司。

 練習通りに挨拶から始め、突然の配信を詫び、次に背面のモニターを指差し内容を纏めたものを表示する。

 詳細はこれから語られるにせよ、大雑把に書かれたコーナーごとの説明はどれも社会に影響を及ぼすものだ。

 先ず最初に早乙女兄妹がSNSから配信に切り替わる旨を伝え、今後は配信の頻度が増えることを宣言。

 

 続いて防衛リストから日本を外す内容を口にし、予想通りに配信のコメント欄は大荒れとなった。

 当然だ。つい少し前にβという怪物の中の怪物を遠目でも視認した。守護の壁は多ければ多い程良いというのに、怪物退治を積極的に行ってくれる組織が日本を守らないと言っているのだ。

 反発は大きくなるし、非難に塗れた言葉は人間の悪意を大いに感じさせられた。

 だが、それはヴェルサスがまだ正当な理由を述べていないからである。


『このような決断に踏み切った理由として、日本政府の我々に対する仕打ちが挙げられます』


 奈々の冷え冷えとした言葉に合わせ、背面モニターからは政府の失敗が画像や動画で市井の間に流れ出す。

 奈々の誘拐騒ぎ。自衛隊上層部のヴェルサス捕獲指示。

 彼等の力を強制的に手にすることを目的として動く証拠は揺るがぬもので、例え今後どれだけ政府が言い訳をしたとしても覆るものではない。

 下手人の情報までも完全に露見されては、最早一個人への攻撃も避けられないだろう。

 ネットの人間を味方に付けるには、詳細に敵を教えてあげれば良いのだ。


『残念なことではありますが、妨害活動に注力する日本政府を我々は信用することは出来ません。 人々を守るのは変わりませんが、ヴェルサスにおいて日本を守ることが優先にならなくなったと御理解していただきたいと思います』


 仮に日本と何処か別の国に怪獣が一斉に現れたとしよう。

 その際、ヴェルサスは日本を後回しにする。彼等にも人員の限界が存在するのだから、どちらか片方に意識を向けた方が効率的だ。

 しかしその結果として日本の大地は荒れる。空我の性能では怪獣の脅威を取り除くことは出来ず、結局大きな被害を齎してしまうだろう。

 実際には澪がそう調整するのだが、聞いている側からすれば血の気の引くような話だ。


 政府が馬鹿な真似をした所為で強大な戦力が引いたのだ。

 未だ空我の弱さを人々は知らないので発狂することはないが、それでも非難が国に向かうのは間違いない。

 この配信が終わった直後から問い合わせ電話が殺到するのは約束された未来だ。

 暗い内容が流れ、暫し皆の顔が暗くなる。暗雲が押し寄せてきたような空気は容易く取り除けない。

 

『それでは、次のコーナーからは私が説明をさせていただきます』


 流している側はそんなことなど知らず、渡辺社長にカメラの焦点を当てる。

 オーダーメイドの一張羅を身に纏う茶髪の男は、渋さのある魅力的な顔だ。彼が部隊を率いていたのは有名な話で、空我が戦果を稼いだお蔭で彼自身の人気も非常に上がっている。

 それは彼が自衛隊を強制除隊された後も変わらない。

 堂々とした佇まいからは犯罪者の気配は無く、先程の宣言もあってからは彼を悪人として見る者はいない。

 精々が上層部の勝手なことをして邪魔な人間を排除した程度。

 実際に殆どの元特務機動部隊は辞めていることで信憑性は高まっている。


 そんな男からの新会社設立の報が発された。

 資金はヴェルサスの運営予算から出され、フォートレスの名で今後はヴェルサスのサポートを行う。それと並行する形で自社製品の販売も行うことを告げ、ヴェルサスの技術を用いた特別な品を一般販売エリアに展開する。

 その内容はヴェルサスを好いている者であれば心惹かれるものだ。

 第一弾としてモバイルバッテリーが販売され、開発部の人間の説明によって現実的に桁外れな代物であることを理解し――そして興味を否応なしに引き出される。


『また、第二弾として温度調節機能を備えたパーカーを販売する予定です。 これらの販売利益は一部をヴェルサスのサポートに使用し、これからの彼等の活動を日本の一会社として支えていく所存でございます』


 最後にその言葉で締め括り、後は別れの挨拶と共に配信が終了する。

 だが、これで一安心している暇は無い。SNSには配信終了と同時に販売エリアの説明や開店時間等を投稿している。

 それに合わせて現状出来上がっている製品を工場から運び出し、販売エリア内の保管室に入れておかねばならない。また、正式に会社の姿を見せたことでこれまで半ばゴシップの類だとされてきた取材内容が真実だとも判明した。

 担当していた取材班は大慌てで会社の上層部から金一封が渡され、残留を力強く約束させられたそうな。

 

 騒ぎは大きなものになっていく。

 大手のメディアも彼等の活動に更に注目していき、それと同時に政府を袋叩きにすることも止めない。

 βの件で改めてヴェルサスは必要な組織であることが解った彼等は、これまでの態度を翻して一斉に政府を叩く。国外勢力も動き出し、政府はこの状況に蜂の巣を突いたような騒がしさを見せた。

 これは自衛隊も変わらない。上の人物に対する不信は一気に高まり、中には辞表を机に叩き付けた者も何人も居たという。


「おお、やってますねぇ」


「ああ、暫くは止まらんだろうな。 いい様だ」


 配信を終えた彼等は一度応接室に戻り、携帯で動向を伺っている。

 何処もかしこも炎上、炎上、大炎上。国家に対する人民の罵倒は最早普通の領域に非ず、遠くない内に緊急辞任が相次ぐことになるだろう。

 それでも足掻く人間は出てくるであろうが、そんな輩には別の毒を与えるだけだ。

 澪達が集めた情報は深い。闇の底まで漁って手にした数々の不祥事は、足掻いた高官を谷底に落とすには十分である。

 その未来を想像してか、渡辺社長は悦の顔を浮かべた。他者の破滅を願うなど悪意そのものだが、それでも止められない。人が人であるが故に。


「兎も角、これで暫くはあちらも満足に動けないでしょう。 その内に我々の会社を一気に拡大させます。 具体的には五年で中堅を脱したいところですね」


「五年か……。 普通なら先ず無理だと言うべきところだが、君達がバックに居るとなればそれも不可能に感じんな」


「勿論です。 ヴェルサスの保有する技術は数世紀も先を行きますから」


「はは、嘘とは思えん。 ――よし、今日は気分が良い」


 小さく笑う渡辺は太腿を軽く叩き、立ち上がる。

 

「今日は私の奢りだ。 流石に全員は無理だが、六人くらいで飯を食べに行こうじゃないか」


「良いですねぇ! それなら子供組とフローさんを誘いますか?」


「うむ、人選として間違いはあるまい。 で、何処に行く?」


「ここは寿司なんてどうでしょう。 私は魚が大の好物でして」


「はっはっは、奇遇だな。 私も肉より魚の方が好きだ。 なら、直ぐに連絡を頼む」


 解りました、と彩斗は明るく部屋を抜けた。

 渡辺社長は何時になく気が抜けているが、今日は特別な日と言っても過言ではない。他の社員には悪いものの、頑張って配信を無事に終わらせた子供組を労おう。

 携帯のチャットで連絡を送ると、直ぐに全員から返事がやってくる。

 鳴滝については渡辺社長自らが誘い、夜の二十時を迎える頃に全員がスーツを纏った状態で会社前に集合。

 子供組は寿司ということで興奮し、その様を彩斗は微笑ましく眺めていた。


「よし、それじゃあ行きましょう」


『おおー!』


 澪だけは無言だったが、彩斗の内側で歓声を上げていた。

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