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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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事前準備・B

「初めまして、現地協力者の最上・彩斗です」


 応接室で早乙女兄妹は見知らぬ男性と顔を合わせることになった。

 革張りのソファに座っているスーツの男は一緒に入ってきたフローと比較するとあまりにも普通で、室内の面々の顔面偏差値を大幅に引き下げている。

 誂えられたかのように室内には美男美女ばかりだ。その中で普通である彩斗の存在は逆に引き立つものの、本人はまったく気にも止めていない。

 

「ヴェルサスに以前から協力してくれている人物だ。 ヴェルサス内のメンバーではないが、日本でのサポートを一手に引き受けている。 彼が居なければ我々は野宿生活をしていただろうな」


「そ、そうなんですか……」


 フローの言葉からは彼に対する信頼が伺える。

 滅多に他人に優しくしない彼女が褒めるなんてと蓮司と奈々は内心驚きつつ、見知らぬ協力者に対して並々ならぬ興味を抱いた。

 同時に、案内役をしていた鳴滝も彼に目を向ける。普通の人間である筈の彼が、どうしてそこまで信じられているのか。

 真摯であるだけでフローは信頼しないだろう。誠実であるだけで傍に置く真似もきっとしない。

 この二人の間には何かがある。故に、自然と意識せざるを得ない状態に彼女はなった。


「すみませんが、今日は身の上話をするつもりはありません。 それをしたいなら先ずは配信を成功させましょう。 今後の我々の立ち位置を明確にしなければ、次の方針を立てることも出来ません」


「す、すみません。 つい……」


「あはは、フローさんが罵倒しない人って珍しくて……」


 二人の言い訳にフローは眉を少し寄せるが、ここで脅しを仕掛けては時間の無駄。

 壁に寄り掛かって無言を貫く彼女に彩斗は内心冷や汗を流しつつ、次に入室した渡辺社長と共に最終確認を行った。

 仕事となれば全員の意識も切り替わる。遊びの雰囲気の無い緊張感が流れる空間は、なるべく長時間居たくはないものだ。

 配信時間は全てで三十分。その中でコーナーを区切り、全員の立ち位置についても順番に説明していく。

 説明は彩斗の役目だ。パイプ役として彼は此処に居るが、同時に企画進行の役目も彼が担っている。

 

「今回は学生三人、大人三人の計六人での登場になります。 子供組は割愛し、大人組は渡辺社長と開発部の人間二人。 会社の説明等については完全に任せる形となりますが、大丈夫でしょうか」


「ああ、問題無い。 それくらいは言えないと流石にな?」


 隣に座る渡辺社長の声に彩斗は口元を若干緩ませ、もう慣れたかと胸の内で呟く。

 突発的な社長就任であったが、予想に反して彼は然程動じていない。そうするしかないと覚悟しているのか、焦りを必死に隠しているのか。

 本番でボロを出さなければ何でも構わない。彩斗にとってこの会社は、所詮ヴェルサスが日本で表立って活動する為の拠点に過ぎないのだから。

 

 最後まで確認を続け、全員がそれに応と答える。

 最初に台本を用意されてから早乙女兄妹と鳴滝は皆必死に練習していた。放課後の誰も居ない空き教室や親の前で台本を読んでいないかのように表情と口を動かし、親達は子供の成長の為にと厳しく指摘した。

 特に鳴滝の父親は彼女がヴェルサスに関与する仕事に就いたと知った時点で厳しく鍛え始めている。

 如何に彼女が戦いを嫌ったとて、ヴェルサスと関われば遅かれ早かれ戦闘に巻き込まれるのは必至。

 

 将来的には社員増加で鳴滝の父親もフォートレスに就職することになり、衰えを感じさせない為にも彼女と父親は一緒に身体を鍛えていた。

 そこに彼女に対する憤怒も憎悪も無い。ただただ、父親は己の無力を呪うだけで責め立てる真似は一切許さなかった。

 鳴滝も先の一件で弱さが罪であると実感している。その所為か、そのお蔭か、鍛えることに関して意欲は高い。早乙女兄妹と鳴滝のどちらのポテンシャルが高いのかは、実は彩斗の興味の対象である。


「――では、この流れで本番を行います。 リハは二回しますが、結果が駄目だった場合は最悪人員を変更することになるので注意してください」


「それは社長であってもか?」


「誰であろうとです。 極論、ヴェルサスの皆様方だけで行っても良いのですから」


 彩斗の言葉は、つまるところ傀儡化を進めることに繋がる。

 更なる支配を受け入れたくないのであれば、己の足で結果を出せ。提供出来るモノは提供するが、それ以外は自身達の力で解決してみせろと言っているのだ。

 言外であれどそう言われてしまえば、渡辺社長は余計に気合を入れるしかない。それで皆の自由を守れるならばと。

 最後の確認を済ませ、皆は配信室に向かう。

 

 先頭を歩くのは彩斗とフロー。その一つ後ろを渡辺が歩き、最後尾に子供組が横一列となって歩く。

 会話は無い。緊張感が辺りを支配しているが故に、雑談をする余裕が無かった。

 それは配信室に入ってからも一緒だ。用意されたステージに奈々は喜ぶ暇も無く、早々にリハーサルが開始される。

 彩斗はおかしな点がないかをカメラの外で見つめ、フローが現場をハンドサインで操作していく。

 

 ――最初の一回目は、全員の視線がカンペに向けられる回数が多過ぎた所為で失敗に終わった。

 練習途中でカットが入り、カメラの背後にある確認用モニターで全員が失敗を確認して修正に入る。 

 覚えてきた筈の文章が上手くでてこないのは緊張している証拠だ。そこまで追い立てたのは彩斗だが、正直に言ってこの程度で緊張していては今後精神崩壊を起こすだろう。


「まだ一回目です。 気にせずいきましょう」


『はい』


 支給されたお茶を飲みながら、役者は揃って返事をした。

 こういう作業は一度失敗した方が肩の力が抜ける。一発目で成功しようとして過度に力が入り、視野狭窄に陥るものだ。

 余計な緊張が覚えた記憶に影響を与えることもある。だから誰も気にせず、幾分か気が抜けた子供組は二回目で及第点を取った。

 

「こうして見ると、あの子達の状況適応能力はずば抜けていますね」


「最初から普通ではない出来事だったからな。 嫌でも早く慣れねばと脳が勝手に進化したのだろうさ。 流石に肉体面まではどうにもならなかったようだがな」


 鳴滝のここまでに至る状況の変化を二人は知らない。だが、足の動き等から鍛え始めたばかりであることは推測が付いている。

 となると、空我への適正は純粋な才能だけで決まったということだ。本人の動きは拙くとも、機械の身体であれば想像していた通りの動きを実現出来る。

 だからこそ、空我達の中でも彼女は飛び抜けて質が良かった。それが更に力を増した時、果たしてどれほど彼女は化けてくれるのだろう。

 蓮司にも才はある。だが、実際にどうなるかは誰にも解らない。――それが面白いのだと、彩斗とフローは共有した意識で笑った。


「二回目は肩の力が抜けていたな。 ……よし、このまま進めるぞ」


「解りました。 皆さん、本番の準備をお願いします!!」


 フローのOKが入ったことで作業をしていた社員達がにわかに騒ぎ出す。

 役者達は僅かとはいえ休憩を取り、その間に生配信の準備も完了させた。最新式のパソコンはこの日の為に準備されたもので、更にフロー独自の改良が加わっている。

 化け物スペックとはいかないまでも、今回使うパソコンの性能は桁が一つや二つ違う。

 それを操作しながらカメラの微調整も行い、予定開始時刻の五分前に全ての支度は整った。

 

 彩斗は携帯を開き、SNSに予め下書きに残していた文章を投稿する。

 緊急配信。我々の今後の活動と、新メンバーの紹介について。

 URLも付けて投稿された文面は一気に人々の間に広まり、時間がある者は一斉に配信待機画面に移動する。

 その数――僅か一分にして五十万。

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