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魔道書屋の松本さん  作者: 海智
初版
2/2

松本さん、物語を書く

「物書きというのはいいですね、仕事してるのか趣味でやってるのか傍目にはわかりにくくて」

「げ」

嫌味が飛んできて嫌な気持ちになって振り向くとやはりジョシュアだった。助手のジョシュア。ばかみたいな名前だがぼくがばかになり切ってつけた名前なのでばかな名前で当然だった。

「いいもんか、仕事も物書きで趣味も物書き。ぼくは文字なんていうものがなくなっちまえばいいと思うがね」

「なるほど、そうすれば僕もあなたも魔道士は廃業して明日からは拳闘士(グラップラー)ですか」

「・・・」

自分のなまっちろい手を眺める。ペンだこにも負けてしまうような手だ。拳なんか30秒だって握っていられないし(これは試してみればわかるのだが拳をかたく握るというのは結構重労働だ)、これで岩を叩くなんてことはおおよそまともな人間のやることじゃない。昔魔道を織り交ぜながらならできるんじゃないかと炎の呪文(スペル)を唱えながら岩を殴ってみたがただ手が焼けるように痛かった。(僕はこれでも一流の魔道士なので本当に手を焼いたりしないのだ)

暗唱学(ペーパーレス)がもっと普及すれば文字書きの仕事は減るからそれまでの辛抱だな」

「そうしてあなたは一銭にもならない小説を書くと」

「うるさいぞ!」

人間サラリーマンが嫌になるとクリエイティブなことを一回はやってみたくなるものだ。人によってはそれが音楽だったり絵だったりするのだろうがそれが僕にとっては小説だった。小説はいい。小説の世界なら魔道なんかなくたっていいし、それに憧れの拳闘士(グラップラー)にだってなれる。しかしだいたいの人にとってそうであるように、そういった逃避まがいの創作物というのは全然形にならない。

「だからご自分の名前で発表すればいいじゃないですか。松本さんが小説を書いたとなれば随分ファンが飛びつくと思いますがね。それをそんな、ペンネームで・・」

「だからうるさいってば!!!」

ペンネームそのものへの生ぬるい視線が飛んでくるのが恥ずかしくて一生懸命話を遮ってから書いていた小説を適当に丸めて引き出しにしまいこんだ。が、しまいきれなくて原稿用紙がちょっと引き出しからはみ出してしまう。はずかしついでにもう1つ白状すると、僕は本当はジョシュアという名前は結構かっこいいと思ってつけたのだが、ペンネームにしても名前にしても僕にはネーミングセンスというものが皆無らしい。だからペンネームも小説をほとんどいっこ書き上げるごとに変えている。といっても、趣味の小説を書く人のほとんどがそうであるように、僕はほとんど小説を完成させられないからジャポンの昔の有名な魔道士ホクサイみたいにはならない。

 こうして小説家としてはちっともうだつのあがらない僕だが今書いている小説については珍しく少しモチベーションが高くて結構書き進めることができていた。これは多分、というか確実に、今手をつけている仕事も関係している。

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