#3
「いいえ、あなたは千人万人に一人の豪傑になるです。石舟くん、これからわたしの言うことをよく聞いてください。あなたの命に関わることです」
「なんだって? 命に関わるってどう言うことだ」
すでにこの視界になれ、平衡感覚も取り戻しつつあった。しっかりと体の中心に芯を入れて立っている。
「それは……」
おれは天宮の言葉を一通り聞くことにした。そして、話が終わる頃、周囲の風景はそれまでのいつものそれに戻っていた。
「いいですか、ゆめゆめ疑うことなかれ。これより10日の後に迎えが参ります。それまでにできる準備を全て行ってください。いいですね、できる限りの事すべてをですよ。これは親切心で申し上げております」
彼女の話を全て信じたわけじゃないが、自分で見たこと聞いたこと体験したことを全て否定するほど感性も凝り固まってはいなかった。武道の有段者である自分に武術素人の雨宮が何か仕掛けができると思わなかった。先ほど体験したことも疑えば催眠術や詳しくはないがメンタリズムなどの心理の誘導があったのかもしれないが、あれほどのことができるのであれば周囲が放っておかないだろうしもっと有名になっていると思う。
自宅に帰るとおれはスマートフォンのアプリを開き、数少ない女性の友人に雨宮の評判を聞いてみた。その結果は驚くべきものだった。
「天宮さんね、彼女はすごいよ」
「すごい? どんな風に」
「霊感があるのよ、彼女。あれは本物だわ」
「え? それって有名な話なの?」
「占いなのかな? ちょっと怖いぐらい当たるのよ」
電話の相手のクラスメイトも過去に実体験として、彼女から警告を受けた話をしてくれた。そのおかげで信じていた人から騙されそうになっていたことに気付けたとか。
「彼女は人の心が見えるのよ」
それはおれも半ば信じそうになっていた。
「シャーマンって知ってる?」
「オカルトとか宗教用語だよな? 超自然的存在と交信できる人とか、巫女とか呪術師、預言者とかか。天宮はそう言う家系の人間なのか」
「彼女は家族の中で同じことができる人間はいないって言ってたわ」
彼女固有の能力のようだ。
自分がいかに他人に関心を持っていないのかと言うことを痛感した。自己嫌悪に陥る位だ。彼女は目立たないクラスメイトではあったが、その認識は誤りであり、それは半分はおれ自分自身のせいなのだった。