#1
最近、隣の席の女子生徒から妙な視線を感じる。
剣道部のおれと帰宅部の彼女は普段あまり接点も無かったのだが、何かと彼女がおれを観察しているのに気づく。
彼女の名前は天宮塔子、ちょっと独特な雰囲気をもつクラスメイトだ。スピリチュアル系と言うのか、一見地味な生徒だがセーラー服の首元にネックレスのチェーンを時折のぞかせている。我が校は校則が厳しい校風でもないし、彼女のネックレスもシルバーの細い目立たないものだったので、咎める教師もいなかった。
おれは高校2年生だが去年は天宮と別のクラスだったし、中学校以前は学区も異なり面識は無い。それでも最近、明らかに見られていると感じる。
(なんだろう? おれに気でもあるのかな)
ふと、そんなふうに考えてもみたが実感が湧かない。彼女の瞳にその様な色を感じなかったからだ。
そんな彼女がよく体育館の近くにいるのだが、どうやらおれの稽古を見ているらしいことは確信があった。運動部でもないのに放課後の体育館に来るのは部員の彼女ぐらいのものだ。女子運動部員の彼氏はそんなマメなことをしない。
ある時、部活の休憩時間に彼女を見かけたので声をかけてみた。
「天宮さん、剣道に興味があるの?」
制服姿で鞄を手にした彼女は、ここのところよく見るように高1時間練習を眺めてから帰宅するつもりなのだろう。
「はい」と短く彼女は答えた。
「入部希望なら歓迎するよ。うちは男女混合の部だからね、経験はある?」
「いえ、自分で剣道を習うつもりはありません。でも、剣道のことは最近よく本を読んで研究しています。剣豪とはいかなるものか」
おかっぱ頭を少し伸ばした様な髪型に手足は細く長い。アスリート体型ではなくただ痩せ気味の彼女。肌も生っ白い。
「剣豪って宮本武蔵とか柳生十兵衛のこと?」
「わたしはよく剣豪ランキングに登場する歴史上の人物に、あなたも匹敵する力量をもっていると思います。石舟一刀くん」
そう。おれの名前は石舟一刀。柳生石舟斎の石舟が姓で、伊藤一刀斎の一刀が名だ。名前だけ見たらこれ以上はない剣豪っぽい名前だ。
「へえ、おれがどれだけ強いかわかるの?」
確かに大会はじめ公式戦の試合で負けたことは無い。それを天宮は知っているのだろうか。
「高校生の部活の剣道と実戦剣術を比べても仕方ない。戦に行ったこともないのに剣豪と比べられるはずも無い」
「わたし、人の性質が色で見えるの」
「はい?」
「石舟くんのオーラの様なものが見えているの。あなたは自分が普通の人とちがうってことを気づいているよね?」