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『北土聖伐』顛末記~異世界転生者が奴隷少女を前にして必死過ぎる件~

作者: ヤク物

異世界に転生した現代人は、ある日所用で訪れた王都の往来で

『奴隷を商う商人』と『年端も行かない奴隷の少女』を眼にし、自分はどうすれば良いのか苦悩する。


※2019年11月22日にツイッター上で放流した一連の会話劇SSを短編として若干修正し、投稿したものです。

挿絵(By みてみん)


奴隷の少女「……」


現代人「あ、アレは奴隷…!?あんな小さい子が!?」


奴隷商「(げっ、あの顔は奴隷を開放しろとか言ってくる面倒なタイプのヤツだ…しかも無駄に強そうな装備をしている…仕方無い。コッチに落ち度は無いが、格安で売り渡して帰ってもらおう)奴隷に興味がお有りですか?」


現代人「………ぐぅぅ…だがっ…」


奴隷商「(なんだ?金が無いのか?それにしてもなんて眼で睨みやがる…確かに因果な商売だが、何故俺がそんな眼で見られないといけないんだ…だが腰の剣を抜かれでもしたらたまらん、さっさと売りつけよう)この娘でしたら銀貨50枚のところ、30枚でお売りしますよ」


奴隷の少女「……」


現代人「銀貨30枚……だが、何故値引きを?」


奴隷商「(お前が今にも斬り掛かってきそうな眼でこっちを見ているからだよ)いえ、当方としても商人としての目利きに自負が御座いますので、強い冒険者の方とは良い取引を…と。それに、この子の事を哀れんでいらっしゃったようなので」


現代人「…だがな」


奴隷商「(なんだ?)なんでございましょう?」


現代人「この世界…もとい国では、奴隷制は当たり前なのだろう…?」


奴隷商「(そりゃ税金払ってるからな)その通りで御座いますが」


現代人「読者がな…怒る…」


奴隷商「(は?)は?」


現代人「俺の暮らしていた世界…国では、奴隷は悪だった。俺も良いものとは思えない。できれば奴隷制なんかなくしたほうが良いと俺も思う。銀貨30枚でその娘だけでも救えるのなら、救ってあげたい気持ちはある。」


奴隷商「(何が言いたいんだコイツ)…はぁ」


現代人「だが『現代の感覚を押し付けるな!』と、他の要素は一切無視して俺と俺の生みの親が極悪人の様に扱われるんだ!!」


奴隷商「……………(何言ってんだこいつ)さ、さようでございますか…」


現代人「なぁ、どう思う!?奴隷の少女一人を買うのも怒られ、奴隷制を廃止しようとすれば怒られ、さりとて何もしないで立ち去っても怒られる…俺は、俺と俺の親はどうすればいい!?」


奴隷商「……(さっさと買うか、買わないなら帰ってくれないかな)大変な事情があるのですね…銀貨28でどうです?」


現代人「何故さらに値下げを!?」


奴隷商「(さっさと帰って欲しいからだよ)少しはお気持ちが軽くなるかと…」


現代人「金はあるんだ!でも買うと怒られる!!」


奴隷商「先程のお話ですと、買わなくても怒られるのでは?」


現代人「そうなんだよぉぉぉ!!!!!」


奴隷の少女「(なんなのこの人…)」


現代人「そ、そうだ…君はどうしたい?」


奴隷の少女「えっ…(どうしたいって、お父さんとお母さんは盗賊に殺されてしまったし、私を売った孤児院にも戻れない…)」


現代人「君の願いを聞きたいんだ…!その…俺だけでは決められないから…ごめんね?」


奴隷の少女「私の願い…」


現代人「そうだ!出来る限り力になる!こう見えても戦いだけは強いんだ!といってもチートじゃないぞ!!自力で、この世界のルールに則って修行して強くなったんだ!!本当だ!!!信じてくれ!!!!!お願いだ!!!!チートじゃないんだ!!!」


奴隷商「(必死過ぎる)」


現代人「俺だってチートに頼りたかったさ!!鑑定や付与で大儲けしたかったさ!!ネットスーパーの胡椒や、ホームセンターの手押しポンプでウハウハを夢にも見たさ!!でも読者が怒るんだ!!!それで助かる人がいるかも知れないけど、怒られるから我慢したんだ!!!」


奴隷商「え、胡椒?欲しい…」


現代人「でもソレやると滅茶苦茶ぶっ叩かれるんだ!だから死物狂いで修行して、勉強して一生懸命薬草を集めて、ポーションだってプロと契約して正規の手順で流通させてるんだ!!ダンピングもやってない!!」


奴隷商「最近のポーションの流通は…」


現代人「材料の栽培に成功した」


奴隷商「は?チートでは?」


現代人「ち、ちがう!!プロの所に素材を優先して安く提供しているだけだ!!俺自身の出来る事以外は手を付けてない!!!信じてくれ!!!」


奴隷商「えぇ…」


現代人「研究畑の人間が自力で集められない素材を卸しているだけなんだ…研究が進んだ今が正常なんだ……研究のために予算も回したけど…」


奴隷商「ぁー…ギルドの中抜きで研究が進まなかったんですね…よくあるよくある」


現代人「でも告発するのは『現代の感覚を押し付ける』事になるから…内税感覚で賄賂分も俺が働いて…」


奴隷商「滅茶苦茶有能な冒険者じゃ無いですか」


現代人「チートでは無いんだ!!」


奴隷商「見りゃわかりますよ」


現代人「でも読者はわかってくれないんだ!!」


奴隷商「えぇ…」


現代人「『コイツお手軽に強くなりすぎじゃね?』『こんなに稼げるなんておかしいだろ』『簡単に研究進みすぎ!ありえねー!』って言われる…」


奴隷商「うわぁ…ご愁傷様です…」


奴隷の少女「あ、あの…」


現代人「あっ!ごめん…!君の願いを聞くんだったね…」


奴隷の少女「はい…あの…わ、わたし復讐がしたいです…!」


現代人「えっ!?」


奴隷商「あー…お前、盗賊に両親を…」


奴隷の少女「はい…私を売ったのは孤児院の院長ですが、両親の復讐をしなければいけません…」

現代人「復讐…でも『しなければいけない』!?」


奴隷商「えぇ、北方氏族は仇を受ければソレを返さないと、血族全てが死後も卑しまれますので」


奴隷の少女「わたしの力が足りなくて死ぬなら、ソレは仕方ないと赦されますが、復讐は義務なので…」


現代人「そ…それは…困った…」


奴隷商「は?」


現代人「『復讐』は…叩かれるんだ…」


奴隷商「もう逆に何が叩かれないんですか」


現代人「『復讐は何も産まない!』とか『復讐しても両親は喜ばないだろ!』とか言われる…」

奴隷の少女「氏族の掟なのですが…」


奴隷商「と言うかそれは『現代の感覚』とやらの押しつけなのでは…?」


現代人「でも怒られるんだ!!滅茶苦茶にぶっ叩かれて、長文で俺の生みの親まで罵倒される!!長文で!!」


奴隷商「文まで送ってくるのですか…暇なことですな…」


奴隷の少女「では…貴方に買われても復讐は…」


現代人「それもダメなんだ」


奴隷商「は?」


奴隷の少女「は?」


現代人「『復讐をさせるべきだ』『手伝うべきだ』って意見に叩かれる…復讐を否定すると…滅茶苦茶悪し様に批判される…こっちも長文で…」


奴隷商「どうしろと」


奴隷の少女「もしかして貴方も奴隷なのですか…?」


現代人「否定できなくて泣けてきた…」


奴隷商「本当に泣き出したぞ…」


現代人「俺も俺の生みの親も頑張ってるんだ!!でも…でも何処まで行っても怯えながら細々とやるしか…殴られるのに怯え続けるしか…」


奴隷商「もう好きなようにやるしか無いのでは?」


現代人「だが…だが叩かれるのは怖い…」


奴隷商「いえ、貴方は奴隷では無いんだから、好きにやればよいのです」


現代人「だが低評価が…感想欄が…」


奴隷商「お話を聞く限り、何やっても叩かれるのでしょう?なら無視するしか無い。そんな事では商売なんてやっていけませんよ。」


現代人「奴隷を買っても…復讐を手伝っても…」


奴隷商「胡椒で儲けるのも良いでしょう、ポンプとやらは良くわかりませんが」


現代人「水がね、汲める…子供でもじゃぶじゃぶ」


奴隷商「は?え?は???」


現代人「原始的なやつならすぐ作れる…現代で覚えたから図面出して…ドワーフに依頼すれば…」


奴隷商「なんで今までやらなかった?」


現代人「叩かれるから…」


奴隷商「わかった、お前を叩いているヤツらは悪魔かなにかなんだな?」


現代人「滅多なことを言うな!!」


奴隷商「どう考えても要るだろ!売れるだろ!!出せ!他にもなんか有るだろ!!!どんだけ生活が向上すると思うんだ!!」


現代人「でも…現代知識チートは…」


奴隷商「生活や文化が発展して、商業が促進されて誰が困る!?だーーーーせーーーーーーッッッ!!!!と言うか売れ!!!売ってくれ!!!!!!こっちで勝手に広めるから!!!!金は払う!!!!!」


現代人「知識を…売る…?でも俺が考えたモノじゃ無いし…」


奴隷商「俺は奴隷商だよな?」


現代人「あ、うん…」


奴隷商「奴隷制は俺が考えたか?」


現代人「いや、ちがうと…」


奴隷商「同じ様なもんだ!だから出せ!!売れ!!儲けて奴隷でも国でも買え!!!無くしたいなら奴隷もそこでなくせ!」


現代人「そんな事俺に出来るかな…やったら叩かれそうだし…」


奴隷商「やらなくても叩かれるだろうが!!」


現代人「そうだった…」


奴隷商「だったらやれ!!今すぐ!!!ジャスト!!ドゥーイットッッ!!」


現代人「いいの…?本当にいいの…好きにやって…」


奴隷商「構わん!まず何をする!?」


現代人「じゃあ…銀貨100枚でこの子を買って…」


奴隷の少女「!」


現代人「復讐を手伝って…」


奴隷商「その後は?」


現代人「稼いで、この子が奴隷にならない様な国……街………村…………」


奴隷商「トーンダウンするな!!張るなら大きく張れ!!」


現代人「ひぃっ」


奴隷の少女「じゃあ…陛下とお呼びすれば?」


現代人「や、やめてよ…まだ何もしてないし、これでも『勇者』なのに…」


奴隷商「………………はァ??????????????」


現代人「あっ、その…チートじゃないぞ!?自力で竜とか倒して…この剣も鎧もその時…」


奴隷商「『国教認定勇者』……」


現代人「そうそれ」


奴隷商「はーーーーーーーー………」


奴隷の少女「でしたら領地もあるのでは…」


現代人「有能な知り合いに任せてて…」


奴隷商「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー???」



その後、北方氏族を食い散らかしていた

盗賊を名乗る『西方貴族の私兵』に対する

『北土聖伐』を影で支え

『国教認定伯領の財政内務』を一手に担った『大管財』が、元は一介の奴隷商であった事。

『勇者』に『北土聖伐』を決心させ、妻として大管財を支えた女性が元奴隷であった事は、特に秘されていない。


2019年11月23日遊方隠棲さんの挿絵を追加いたしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです >「わかった、お前を叩いているヤツらは悪魔かなにかなんだな?」 これが全てだな
[一言] 感想欄に分かってます感醸し出してる痛い人がいるけどこういうのが作品を潰すんやなって スター・ウォーズの監督を勤めたジョージ・ルーカスだって「俺の宇宙では音が出るんだよ」って言葉を残してるし…
[気になる点] 鑑定なりショップなりが叩かれるのは原理が不明だからですよ?そもそもスキルと魔法の何がどう違うのかとか下手にゲームみたいにするから叩かれる。分かってます? [一言] チートだなんだありま…
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