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第一章4

 駅前には噴水広場がある。その噴水はよく待ち合わせ場所に使われていて、駅前に集合と言えば皆ここをイメージする。

 今日も噴水の周りには待ち合わせをしていると思しき人が幾人か見受けられた。そして春香もまた、その幾人かの一人だった。


 昨日とは打って変わり、今日の春香は歳相応な少女らしい服装をしていた。

 紺色の半袖Tシャツに真っ白な膝丈のフレアスカート、ハイカットスニーカー。そして昨日と同様の薄桃色のミニリュックを背負っていた。髪型はいつものサイドテールだ。


 待ち合わせ場所に着いたのは、約束の時間の十分前だった。そこからちょうど十分が経った。

 一ノ瀬和哉もそろそろやってくるだろう。

 梅雨の時期も終わり、夏休みが近い。


 どこまでも澄み渡るような青空に、灼熱の太陽が浮かぶ。

 それを辟易とした気分で見上げて、額に滲む汗を拭う。

 暑かった。けれどまだ夏全体から見ればピークではないというから、暑さのピークだという八月はどうなってしまうのか。春香は想像もしたくなかった。


「葛木」


 憂鬱な気分になっていたところで、声をかけられた。

 夏の空から目を逸らし、顔を正面へと向ける。そこには一ノ瀬和哉がいた。

 白と黒のボーダーシャツに七分袖の黒い綿麻のジャケット、黒のスキニーパンツとスニーカー姿。

 彼は軽く手を上げながら春香の元へとやってきた。


「待たせたか?」

「あ、えっと……。ううん、全然だよ」


 和哉の言葉に、春香は笑顔を浮かべた。

 それは取り繕うための笑顔であったけれど、これからどこへ連れて行かれるのかという不安からか、自分でもわかるくらいぎこちないものになってしまった。

 案の定、和哉は訝しげな表情を見せた。その目で春香を見つめてくる。


「な、なに? 顔、じっと見つめて……。なにかおかしかったりする?」

「……猫かぶる必要なくないか」

「な、なんのことかな? 何を言ってるのか、わたしにはわからないよ」

「笑顔がぎこちない。無理しているんだろう? 僕の前ではいつもも通りでいいぞ。もう知っているんだし。……というか、まさか今さら誤魔化せられると思ったのか?」

「う、うるせえ! そんなんじゃねえよ!」

「怒るなって。ほら、みんな見ているし」

「誰のせいだと……。なんか、お前といると調子狂うな」


 最後の言葉はボソリと呟くように言う。

 この男の前では取り繕うことができない。主に腹立ちが原因で。

 そのせいか、昨日から不安を抱えていた自分が馬鹿みたいに思えてくる。


「服装だって、無理しなくても昨日のでよかったのに」

「似合わねえとか言いたいのかよ」

「なんというか。似合わなくはないんだが、なんとなく葛木の雰囲気には合わない気がする。無理をしているというか」

「……、」

「どうかした?」

「別に、なんでもねえよ」


 和哉という男は勘がいいのだろうか。

 春香の秘密に気がついた風でもない。気がついてもいないのに、雰囲気には合わないだとかわかるものだろうか。長くいるといつかバレてしまうんじゃないかと不安になる。

 上手い誤魔化し方を先に考えておくべきかもしれない。


「そうか? ……まあいいや。とりあえず行こうか」


 和哉はそう言って、春香を促すように、駅構内へと歩き出す。春香もそれに続いた。



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