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第三章2

 メイド喫茶【Cloud house】のバイト中。

 春香は他のスタッフと一緒に開店準備をしていた。その中には和哉もいた。


「ハル、僕にも台拭きをくれ」


 棚から台拭き用のタオルを取ろうとしていた春香の背後から、いつもどおりの声色で和哉が声をかけてきた。

 彼とはなるべく会話をしたくなかったし、近くにいたくなかった。


 だから春香は何も言わず、台拭きを手にとって。後手に和哉へ台拭きを差し出した。

 振り向く気はなかった。目を合わすことすらしたくなかった。


「……ありがとう」


 和哉もあまり会話をしたくなかったのだろう。

 気まずそうな口調でそう言うと、背後から立ち去る気配がした。

 春香は和哉と何一つだって話したくなかった。話してしまったらもっと辛くなる気がしたから。それが嫌だった。


 テーブルを拭いて行く中、時折和哉とすれ違ったりもした。その度に春香は目を合わせないように、一言も言わずに通り過ぎた。

 先日のこともあるし、そんなわかりやすい動きもしているのだ。きっと和哉は春香に避けられていることに気がついていることだろう。


 反対に和哉も不必要に春香に近づいてくることはなかった。

 和哉だって春香と話したくないはずだ。

 だって春香がおかしな人間だと知ってしまったから。


 気まずいだろうし、できれば関わりたくないと思っているはずだ。そのはずだ。

 今までだってみんなそうやって離れていったのだ。だから和哉だって……。


 春香としてはそれでよかった。その方が辛さも減る。

 無駄に縋りつこうとすれば明確に拒絶の言葉を告げてくるだろう。

 だからこれでいいのだ。


 このまま約束の一ヶ月まで仕事上必要なもの以外の接触を避ける。

 そうすれば約束を守ったことになるし、バイトをやめたあとですんなりと関係を断ち切れる。

 もう辛い思いをしなくても済む。


 そう思っているのに、けれどどうしてか胸がズキリと痛んだ。

 その理由に思い当たりそうになり、けれど蓋をして閉じ込めた。

 理由なんて知りたくない。必要なんてない。そう思った。


 結局、その日は和哉と一言も言葉をかわすことはなかった。



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