24/41
第二章12
走って、走って、走り続けた。
向かう場所なんてない。ありのままの春香を受け入れてくれる場所なんてどこにもない。
春香に居場所なんてない。
隠さなければ。黙っていなければ。我慢しなければ。
感情を抑えなければ。背を向けなければ。諦めなければ。
心を着飾らなければ。自分を殺さなければ。
普通でいなければ居場所がなくなってしまう。
すべてを失ってしまう。
失うかもしれないと思うだけで心が引き裂けそうになる。
だからずっと黙っていた。黙っていなければいけなかったのに。
家族や親戚の顔を思い出す。あの嘆くような表情。
小学校でのみんなの顔を思い出す。あの気味がるような表情。
中学校での彼女の顔を思い出す。あの拒絶の表情。
もう見たくないと思っていたのに。
和哉の困惑した顔が思い浮かぶ。
終わった、と思った。
せっかく友だちになれたのに、仲良くしていけると思ったのに。理解してくれると思っていたのに。信じていたかったのに。
やっぱりだめだった。
和哉ですら理解なんてしてくれなかった。
駆ける春香を、街は無視していた。