表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

第二章7

 駅前、件のクレープ屋の前にあるベンチ。そこに春香たち三人は座っていた。

 真ん中に凜、そのすぐ右隣に春香。凜の左隣に少し間を開けて和哉が座っている。


「うーん、甘くて美味しい!」


 そう言ったのは凜だった。

 彼女が食べているのは生クリームにチョコソースとバナナ、カスタードクリームまでもが入ったクレープ。

 聞くだけで口の中に甘さが広がるようなものだ、と春香は思った。


「気に入りました?」


 春香は凜に視線を向けて聞いた。

 春香が手にしているのは生クリームにチョコソースが混じったシンプルなクレープだ。

 それでも春香にとっては甘すぎであったけれど、不快感を顔には出さなかった。


「うん! 来てよかったよ」

「それはよかったです」


 凜が浮かべる満面の笑み。それが見られただけで、苦手な甘い物を食べに着てよかった。

 春香はそう強く思った。


「一ノ瀬くんはどう?」


 春香はベンチから身を乗り出して和哉を覗いて、一応という感じで彼にも聞いてみる。

 すると和哉は視線を返してきた。


「僕が注文したのはスイーツではから、そっちとは味の共有が難しいと思うぞ」


 クレープはスイーツだけとは限らない。肉や野菜などを巻いたものだってある。

 和哉はそっちのクレープを食べているのだ。


 具材は豚の生姜焼きにキャベツの千切り。実のところ、春香も興味を持ったメニューだった。

 凜がいる手前、注文することは諦めたけれど。


「それでもだよ。美味しい?」

「そうだな。クレープ生地に合うのかと興味本位で食べてみたけど、普通に美味い」

「そっか」


 春香は自分のクレープを見下ろして、それからまた和哉が持つクレープへと視線を向ける。

 自分の甘いクレープよりも魅力的に思えた。

 そもそも春香は豚の生姜焼きが好きだ。男子が好みそうだという理由で友だちには言っていないけれど、肉系の料理が大好物なのだ。


 羨ましいと思った。気兼ねなく好きなものが食べられる和哉が、いやすべての人が羨ましいと思った。

 羨ましいなんて感じるのもおかしな話だとは思うのだ。そう思うくらいならもっと素直になって、春香も食べたいと思ったものを食べればいいのだ。

 せっかく好きに選べるのだからそうするべきなのだ。

 周りの目なんて気にせずに。そうしたいとだって思っているのだ。


 けれど、怖かった。

 たったそれだけのことが怖い。

 恥ずかしいわけじゃない、怖いのだ。

 もし誰かに少しでも男っぽいと思われたら。そうなることが怖かった。

 だから、我慢するのだ。


 春香は思いを断ち切るように、勢いよく自分のクレープにかぶりついた。

 口の中に甘さが広がる。

 気持ち悪さがこみ上げてきても、その強い甘さを感じ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ