第二章5
「情けない姿、見せちまったな」
ブランコをゆらゆらと揺らしながら、足をつけた地面を見つめて春香は言った。
先ほどいた場所から移って、近くにあった小さな公園。
ビルが建ち並ぶ街の中にポツンと取り残されたように、その公園は人気がなくてあたりの喧騒が嘘のようにひっそりと静まり返っていた。
ジャージの袖をまくって露出した春香の肌が、夏の太陽にジリジリと焼かれる痛みを発する。
本当は面倒臭くて嫌だったけれど、その白い肌には日焼け止めを塗ってあった。
これで日焼けして、葛木春香のイメージを壊すことはないだろう。
「確かに驚きはしたな。まさか泣いている姿を見せられるとは」
「な、泣いては……ねえよ」
「本当か?」
「……本当だよ。なんだよ、ニヤニヤすんな」
隣のブランコに座って。いつもの意地悪な笑みを浮かべる和哉の肩を、春香は少し強めに叩いた。
それでも和哉はニヤニヤしていたから、たぶんそれほど痛くはなかったのだろう。意外と頑丈なのかもしれない。
春香は泣いていないと口では否定しているけれど、和哉に泣いている姿を見られたという自覚がある。和哉がどう思ったのか、なんとなくわかっていた。
どうしてあれだけのことで泣いていたのか。
きっと和哉は疑問に思っている。春香が彼の立場ならそう思う。
どうしてだろう、と。けれど、できることなら聞いてほしくなかった。
だから。気になるだろうに何も聞かず、いつものようにからかってくる和哉の態度が少し嬉しかった。
「でもまあ、その。……助かった。ありがとな」
そんな意味も込めて口にした。
けれど春香はどうにも気恥ずかしく感じて、頬をかいて和哉から視線を逸らす。目線は雲一つない快晴の青空へと向けていた。
「秘密は隠すと言っただろう。こう見えて僕は約束を守る男だからな」
和哉は真面目な顔でさらりと言った。
嫌な奴だったり、いい奴だったり。忙しい奴だ。春香はそう思って、なぜだか少し笑えた。そのせいか、今度は素直に口を開くことができた。
「ありがとな」
「気にしないでいいさ」
少しだけ。
ほんの少しだけではあったけれど、一ノ瀬和哉のことを見直した。
約束は守り、そのためなら助けてくれる。もしかしたら、和哉にも優しさはあるのかもしれない。それが知れてよかったと、春香は思った。




