第二章3
倉持裕樹。それが一ノ瀬和哉の恋人の名前だった。十六歳、高校二年生。つまり春香と同じ学年だった。
そんな情報を春香が知ったのは、バイト終わり後のことだ。
場所は全国チェーン店の某ファミリーレストラン。説明を求めた春香に、そこで話そうと言ったのは和哉だった。
「つまり、二人はその……えっと。……同性愛者ってこと?」
「まあ、そうなるかな。ただ裕樹はもともとノーマルだった。だから本来なら恋人になるのは難しいはずだった。それが運命的な出会いを果たして恋人となったわけだ」
さらりと言ってのけた和哉に対し、裕樹は恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「……真面目な顔でそういうこと言わないでよ」
裕樹は和哉の肩を軽くどついて抗議したけれど、和哉はなにも気にしていないようだった。
彼が気にしないのはいつものことではあるけれど、照れないなんて本当に不思議な奴だと春香は思った。
現在この場にいるのは。春香と凜、和哉と裕樹の四人だった。
和哉は凜に来なくていいと言っていたけれど、彼女は勝手についてきて、しれっと和哉にパフェを奢らせていた。
「でも、そんなこと、店内で言ってよかったの? お客さんだってまだいたし」
和哉の顔を見ることがなんとなく憚られて。幸せそうな顔でパフェを頬張る凜を横目に、春香は懸念を口にした。
春香に簡単に打ち明けたこともそうだったけれど、和哉は堂々と言っている節がある。
そういう人たちは、話したがらない傾向があると思っていただけに、春香にとって和哉の平然としたカミングアウトは衝撃的だった。
「あの人たちは常連で、僕と裕樹の関係を知っているからな。特に問題はないさ」
「……そう、なんだ」
そういう理由であるのなら、ある程度納得はできた。
それでも春香に簡単に答えたことに関してはよくわからなかった。
春香だったらそう簡単にはカミングアウトしない。だから不思議なのだ。
夏休み前、春香は和哉のことを【普通】だと思っていた。だからこそ『他人が決めた尺度に振り回される意味はない』と言えるのだと思っていたのだ。
けれど違った。
春香は驚いているものの、拒絶感はない。けれど世間ではそれを普通とは呼ばない。
和哉は春香と同じく普通ではなかった。
だからこそ思うのだ。
どうしてそんなに強くあれるのか、と。
考えてもどうしても答えが出ない。同じマイノリティであるはずなのに、どうして自分とはこうも違うのか。何が違うのか。
春香にはわからなかった。