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高橋優のルポルタージュはこの小説を書いた後に、多分偶然作詞作曲された物です

作者: まゆぴー

難民がいる。戦地から命からがら逃れてきた難民だ。だが身形は整っている。UNIQLOから贈られた支援物資を身に付けて居るからだ。

時折吹き付ける風で砂塵が舞う。皆の表情に悲愴感は無い。痩せてガリガリでも無い。でも彼等は難民だ。何と言っても難民なのだ。

カメラを向けられると、彼等は満面の笑顔で手を振った。彼等は黒人で、真っ白な歯と瞳が美しく白く輝いている。とても健康そうに見える。

「はい、カットー」

ディレクターが声をあげた。

集まっていた人々に、身振り手振りで説明して、それを翻訳者の背の高いワイシャツとデニムのパンツを着た黒人の青年が周りの者に伝えた。

集まって居た難民達は立ち上がり、300円均一の新品のワイシャツを貰って帰って行く。

「良いんですか?あれで。バレなかったかな」

カメラを構えて居てた日本人の若者が呟くと。

ディレクターは変な顔をして

「バレるわけ無いだろ、ほんの一瞬じゃないか」

と怒った。

瞬間、ディレクターの携帯電話が鳴った。

ディレクターは慌てて電話に出る。

「何ですか?さっきの中継の事ですか?一瞬でバレた?またあの方ですか?悲愴感が伝わらなかった?難民の癖に嬉しそう?あれじゃあ、そらジローと写ってる、唯のテレビに出たい人?次はもっと悲愴感を出せ?ショッキングな動画にしろ?わかりました。そうします」

ディレクターは電話を切ると。大慌てで、通訳の青年、帰ろうとして居た人々を呼び戻し。テキパキと指示した。

「近頃、あのお方は生中継なら真面目に見てくれる。それが裏目に出た!今度の報酬は100円均一のノビール手袋だ!メイドイン バングラデシュだ。勿論、日本人が監修してる。誰の手でも合うように作られた手袋だ!タダシ伸ばしたら最後形状記憶になるから注意してくれ」

帰ろうとしていた難民達は、通訳が手をメガホンにして言った言葉に拍手した。

「で、今度の動画だが。爆撃された街から救出される怪我人の動画にする。誰か怪我人役をやりたい者は居るか?顔色を悪くするから化粧をする。それと包帯を手に巻いて担架に乗せて運ばれる。包帯には血糊が必要だ!アヒルの血を使おう。良いか皆!群衆は今迄生きて来て一番哀しかった事を思い出せ」

ディレクターがいう側で、次々に翻訳して行く、通訳の青年。ウンウンと頷く難民達。

「アハーン。グスングスン」

突然、難民の少女が泣き始めた。

「名演技だな。カメラが回ってる時にそれを頼む」

ディレクターはウンウン頷きながら、少女の肩に手を回した。

「アヒルが可哀想だと言っています」

通訳の青年が気まずそうに言った。

「じゃあ、なんの動物の血を使う?以前、メイク用の血糊を使ったらいっぺんでバレたぞ!何じゃありゃあ鮮やか過ぎる血糊とか言われてな!」

「山羊の血はどうですかね?」

日本人のカメラマンが言うと、通訳の青年が翻訳して、少女はウンウン頷きながら泣き止んだ。

「さあ。爆撃地に移動しよう」

ディレクターが言うと、通訳の青年が空かさず言い直し、難民達はゾロゾロと歩き始めた。

5分程歩くと、此処から爆撃地。と英語で書かれた看板が立っていた。

難民達の中には駆け足で走りながら、担架を用意したり、ペットボトルに入った山羊の血を運んだりする物が居た。

此処から爆撃地の看板を潜ると、景色は一様し、無数の白い建物に銃弾の跡が有る地帯が1キロほど続いていた。

「この前は北から写したから、今度は南から写そう。この現場は何度も使いまわしてるが、何故かバレないな。じゃあ担架スタンバイ。ああ君が撃たれた役を演じてくれるのかい?良いねぇ」

さっきアヒルが可哀想と泣いて居た少女が担架に横たわった。右腕と左足に包帯を手早く巻かれ、山羊の血がペットボトルから豪勢に引っ掛けられた。

少女はワーワー泣き始めた。担架を運ぶ役の男達は急いで服を着替えている。誰かが用意した軍服にだ。空砲の銃を肩に担いで、担架を持ち上げた。

もう何度も撮影に協力しているのだろう。とても手慣れた動きだ。


15年前此処は本当に戦場だった。

処が、有る日本人がネットでポツリと呟いてからだ。戦争するより、勉強した方が儲かるんじゃないかと。人々は途端に殺し合いを辞めた。銃を置いて学校を建てた。

その事に反対する者も居たが、また例の日本人が呟いた。

殺し合いを見たいものには演じて見せればいい。其の内、飽きるだろう。平和の方が楽に決まってる。お前らの家族が殺された処を想像してみれば良いよ。辛いだろう?胸が張り裂けんばかりに哀しく無いか?

それからは人々はお祭り騒ぎだった。

戦争を辞めて、戦争の真似事を始めた。テレビや新聞のニュースでは戦争が終わらない事になって居たが、それはフィクションのニュースだった。

ニュースの中で死にたい者は名乗り出た。新しい名前を貰い、生きているのに形だけの葬式が盛大に執り行われた。芸能人や著名人も沢山死んだ。序でだから、死因は麻薬やガンにして、あの日本人が何か言ってくれるのを催促する事にした。

あの日本人は最初の頃は律儀に答えてくれた。ガンはガン細胞を攻撃する免疫細胞を作れないか。殺人者が何故、人を殺すのか。それは自分の事を理解して欲しいからだ。

不思議とあの日本人が言う事は実現出来た。最初の頃は馬鹿にしていたが、殺人者の1人が涙を流して男泣きしている姿を見た時、無茶苦茶な事まで、あの日本人に質問するようになった。

原発事故を起きなかった事にするのはどうすれば良いのか?今後の学校の授業はどうしたら良いのか?虐めを無くすにはどうすれば良いのか?児童虐待を無くすにはどうすれば良いか?不妊治療は何とかならないか?不倫を無くすにはどうしたら良いのか?

あの日本人は律儀に答えていたが、勉強のし過ぎで寝不足になり、完全に頭がオカシクなった。あの日本人は一銭の得にもならない事に時間をかけ過ぎて、仕事が出来ない状態にまで追い込まれた。

いつになったら、嘘の事件は起こらなくなるのだろう。あの日本人は小説を書いていた、ドラえもん、藤子F不二雄の影響を色濃く受けた小説だった。

小説の中では戦争が起き、睡眠銃なる物を使って、敵を眠らせて地下シェルターに匿うと言う内容だった。睡眠銃にはタイマーがセットされ、三年後に撃たれた者は目を覚ますと言う設定だった。睡眠銃を敵や味方に売り捌き、大変な儲けが出た。開発者の若者は未来から来た未来人で大変な金持ちになり、未来へと帰って行った。

その後、撃たれた者達が目を覚まし、地上を闊歩し始めた。死んだと思われていた人々が生き返り、天国の門が開かれたと称された。

そして馬鹿げた戦争は終わった。


だが現実では終わらなかった。戦争の終わらせ方が解らなかったらしい。天下の国営放送迄が嘘を付いていた事になる。あの日本人の事を預言者呼ばわりし、徹底的に監視した件も有る。それをどう釈明すれば良いのだろう。あの日本人は2兆円払えばなかった事にしても良いと言い出した。それでも辞めないので、1億円で良いとまで言い出した。

新聞や雑誌迄が調子に乗って嘘記事を載せた。起きても居ない殺人事件の記事や、火事の事件、廃屋にワザと火を放ち、あの日本人に殺人事件へのコメントや、火事のコメントを求めようとした。


ネタが無かったから、火事のニュースは何回も繰り返した。あちこちで矢鱈と火事が起きた。

シツコイなぁ。とあの日本人は言った。あの日本人が興味を示すと何度でも放送した。

あの日本人には夫と2人の子供達が居た。あの日本人が演劇の鑑賞に行く時は、子供達が見易いように前の席を空席にするサービスまでするようになった。

でも、あの日本人と子供達は喜んだが。五回も空席が続いた時、其処までするならヤラセを辞めろと言い出した。

なんでこんなに面白いヤラセを辞めろと言うのだろう?

あの日本人はヤラセにゲンナリしていた。遂には自分の頭がオカシクなったのだと迄思った。包丁で手の甲迄斬ったが、それでもヤラセは終わらなかった。

結局、どんなに自分が知恵を出し答えても結果は変わらない。あの日本人は絶望して自殺した。首吊り自殺だった。あの日本人の家族は嘆き哀しんだ。あの日本人を支持するものも嘆き哀しんだ。哀しんでもヤラセは終わらなかった。

起きていなかった戦争は再び再開された。何時迄も悪ふざけでヤラセを辞めなかったから、影響を受けるものたちが出始めた。減っていた自殺者も嘘の数字通り急激に増加した。殺人事件もフィクションの通り増加した。

視聴者達の中には、それが嘘だった事を知っている者も沢山居た。彼等も絶望した。


半年程経っただろうか。あの日本人が目を覚ました。嘘も吐き続ければ真実になるとはこの事だと嘆いた。

テレビ局も新聞も、本当の事を流した。戦争は終わった。変な殺人事件も終わった。皆んな暴力は馬鹿馬鹿しいと思った。嘘に踊らされ戦いを始めた事を悔いた。


何年かして、不老不病の新薬が開発された。大人は皆んな若い姿になり、働けるようになった。これで少子化問題は解決した。働き手が増えて、土日祝日は交代で休めるようになった。平日働く人も週休三日制になった。休みが増えたが給料は減らなかった。そのうち、ロボットに寄るオートメーション化が流行り始めた。人間の仕事は徐々に減っていった。暇になった人間達は学校に通うようになった。幾つになっても勉強が出来るようになった。勉強が苦手な者はスポーツをするようになった。

最も、勉強が本当に苦手な者はいなくなった。皆んな其れなりに知性を身に付けたのだ。其れは正にユートピアで、犯罪は壊滅した。


悪口や陰口を言う者も居なくなった。当然虐めも無くなった。浮気や離婚も無くなった。皆んなが思い遣り、仲良く手助けする。そんな世界だった。

やがて人々は宇宙に出た。この頃になると死んだ人間も生き返るようになった。あの日本人が考えたヤラセの死人ではなく、本当の死者達だ。天国の門は本当に開かれたのだ。死者達の魂はコンピュータの中に取り込まれた。そしてロボットに移植された。最初の頃は善良な者だけが選ばれた。生き返るか、生き返らないかは裁判で決められた。

それは正に天国だった。地獄なんて無い天国の世界の始まりだった。そして遂にドラえもんが生産された。藤子F不二雄は飛び上がって喜んだ。あの日本人も藤子F不二雄の生原画とサインを貰って喜んだそうだ。

良かったね。

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