第2話 はじめて会ったのはひさしぶりの美少女
学校へと徒歩で向かい始めた俺は工事現場を通り抜ける。学校はすぐそこだし、入学説明会は行ってないし制服の採寸もしてないから一度も来たことはなかったのだが迷わずにたどり着くことが出来た。そして校門の前に出ると......誰もいない?
それどころか案内用の看板も無ければ、あろうことか校門が閉まっている。ま、まさか......日にちを間違えた?いやいやそんなはずはない。だとすれば......いや、遅刻もありえない。途中から徒歩だったとはいえ時間には余裕をもって出たし、携帯で時刻を確認するとちょうど9時をまわったところ。教室に集合するのは9時半だからそろそろ入らないと......。焦った俺が携帯で学校のHPを調べていると向こうから在校生と思しき男女がやってきた
「あ、やっぱ開けてなかった」
と女
「だからなぜキミはこうも仕事ができないのか......」
と男
どうやら彼らは門を開けに来てくれたようだ。そして門を挟んで向かい側まで来ると
「いやー、うちのバカが悪いね。ここにいるってことはキミ新入生?」
「ぁ、はぃ......」
いきなり話しかけられて心の準備ができてなかった俺は蚊の鳴くような返事をしてしまう
「そんなに緊張しなくていいよ、もうすぐ仲間になるんだから。おっと、まずは自己紹介をしないと。私は目先、そしてこっちは霧雨だ。」
そう言って目先さんは慣れた手つきで校門を開けてくれた。紹介された隣の女子学生も「どもー」と手を振る
目先と名乗った男子学生は大人びた態度とは逆に背が低く、アンダー140くらいなんじゃないかという低身長。キッチリと着こなした制服にはシミ一つ無く、その人物の性格を感じさせる。真っすぐに俺を見る目は支子色の髪と対照的に透き通った瑠璃色だ
一方霧雨さんは目先さんと不釣り合いに長身で、俺と変わらないくらい。瞳と同じ胡桃色の髪はポニーテールに整えてある。太陽みたいに明るい性格はしかし、俺みたいな陰極の人種からすれば少々接しずらそうだ......。ゆるい態度の現れなのかブラウスの胸元は上2つボタンを開けており、笑根と同じくらいのサイズの胸が前に少し飛び出てるのも気に食わんし。失礼だけど
「ところで集合まであと1時間もあるけど、何か用事でもあるのかい?」
一応用事はあるんだが......ん?1時間?
「えと、学生課に用事があるんですけど、でも、い、1時間って......?」
「おや、その様子では早く来すぎてしまったようだね。霧雨クン、確か新入生の集合は10時半からだったはずだが」
いや、そんなことはない。あの用心深い親父と心配性の笑顔に確認させたんだからな。しかし
「そだよー。で、在校生が9時半、私たち学生会が9時集合です」
霧雨と呼ばれた女性は既に手に持ったスマホで確認して言う。おいおいマジかよ。彼女の言葉から察するに、親父と笑根は在校生の集合時間と間違えたっぽいな。今夜神社に忍び込んで時計を1時間早めてやろうか
「だがまあ来てしまったものはしょうがない。そうだな......よし、霧雨クン、この子を連れて学校を案内してやってくれ。」
え、いきなり何言いだすんですか目先さん!?すると霧雨さんも
「ちょ、ちょっと!何で私っ──」
「私はちょっと影山先生のところに用事があってね。では失礼」
そしてとうとう完全に背を向けて歩き始めてしまった。やばい。初対面の先輩、しかも女性と二人きりになってしまったら俺は生きて帰れる気がしない
「はあ?『もう今日はやること終わったし暇だー』って言ってたじゃないですか!」
すろと目先さんは振り返って俺をじっと見つめたあと
「いや、いま用事ができた」
とだけ言って去って行ってしまった。ていうか敬語ってことは霧雨さんは一応後輩なんだ......
「そういえば君の名前聞いてなかったね。なんていうの?」
「あっ、すみません、こっちだけ名乗ってなくて......。風薙英次っていいます」
「英次くんか~。いい名前だね」
「ども」
霧雨さんに校内を案内されることになった俺は短い会話を交わしながら、当初の予定だった学生課に行くことにした。その間に霧雨さんはこの学校についていろいろ教えてくれた
「まあ一言で言うなら、この学校は普通じゃない」
国立東郷魔剣士高等専門学校(通称:東魔高専)──それがこの学校の名だ。名前の通りここは魔剣士──魔術を操る剣士を育成する学校。普通高校とは違い、5ヵ年制。工業高専や商業高専と違い、専門科目は魔術や剣術を主に学ぶ。学科は7つあり、戦闘科、探偵科、電気情報科、機械科、治療科、管理科、異能捜査研究科、そして最後にPLP科。ちなみに俺の学科は異捜研。専門科目が学びたくて入ったわけじゃない俺は、学校のHPを見て一番楽そうなのを選んだ
そう、俺は別にこの学校に来たかったわけじゃない。ここしかなかったのだ。戸籍が無くても入学できるようなガバガバなとこは
それに、俺はあと数年もしたら神谷家を暇するつもりだ。もう3年も住まわせてもらっていたし俺はもう15だし、そろそろ潮時だろう。そうなったら自分で生きていくための術を身につけなければならない。そんな2つの理由から俺はこの東魔高専に入学を決めたのだ
結構敷地が広いのか、なかなか学生課に着かないのでその後もずっと話を聞いていると
「でもまあ基本的な概要はHPに載ってるからね~。あ、でもこれは知らないんじゃない?」
といって霧雨さんは突然ブラウスを下着が見えないギリギリセーフのところまでたくし上げた。......は?しかもここは学生課までの近道らしい体育館の裏。何をされるか分からない恐怖で俺が目を瞑ると
「ねぇ、ちゃんと見て?」
とさらなる追い打ち。耐えろ......耐えるんだ俺の理性ッ。しかも声の位置で分かったが、めちゃくちゃ接近しているのが分かる。ええとこういうときは素数を......
「ゴメンゴメン、別にヘンなことじゃないから」
数え始めてすぐ霧雨さんがそういってくるので7でストップさせて恐る恐る目を開けると、そこには朝日で眩しい霧雨さんの腰のくびれ......のところに赤い──というよりも血色の紋章が刻まれていた。校章にも似ているが、少し違う
「これは血印っていってね、師弟関係を示すためのものなの。」
「えと、してい?」
「そ。HPに載ってないのはちょっと訳ありでね~」
そして霧雨さんは教育システムについて少し話してくれた。この東魔高専は封建主義を主軸とした体制をとっており、その一環として『師弟制度』なるものを取り入れているらしい
「この制度があるのは3年生までで、基本的には1,2年、2,3年のあいだで師弟関係を結ぶの。さっき見せた血印は私の弟子にも同じ模様で刻まれているんだよ」
ってことは俺は2年生の誰かの弟子になるわけか......
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「いえ、少し自分の将来に絶望を抱いてただけです......」
「全然気にしないでいいよ~。優しい先輩ばっかりだから~」
まあ実際ここに優しい先輩がいるわけだし、その通りなのかもしれない。あ、性別は男で頼む
霧雨さんに背中をバシバシ叩かれながら俺はやっと学生課にたどり着くことができた。そこで俺は一旦霧雨さんと別れ、窓口に笑根に渡された書類と学生証、魔剣士免許の顔写真を提出......しようとすると先客がいるようだ。こちらに背を向けて学生課に職員と何やら話している
「えと、入寮には別途申請が必要でして......」
「仕方ないじゃない、今朝決めたんだから。そこをなんとかできないの?ここは東魔高専でしょ?」
「ですから無理なんです。部屋割りの関係もありますし」
机に手をついて身を乗り出し、露草色のポニーテールを揺らしながら口論しているその少女を俺は見たことがあるような気がしたが、まあ気のせいだろう。その光景を後ろからボケーっと眺めていると
「後ろの方こちらにどうぞー」
と別の窓口に呼ばれたのでそっちの方に向かいつつその少女の横顔を見ると、アニメにでも出てきそうな美少女だった。翡翠色の目を吊り上げ、八重歯のある口から放たれるのはこれでもかというくらい高いアニメ声。そんな彼女を手続きを済ませた後もを見つめていると......ふと、目が合ってしまった。気まずい......だが!ここで俺のスキル『視線逸らし』発動ッ!目が合った瞬間に相手が認知するよりも早く視線を逸らすことで「あれ?今目が合ったと思ったんだけど......気のせいよね」を意図的に引き起こす技である。ちなみに習得に2ヶ月かかった
が、しかし
「......」
その少女はじーっと俺を見続けている。いや俺本人に用がある感じだ。なので恐る恐る俺も視線を戻すと
「エイジ......?」
「えっ......」
少女の口からこぼれたのはあろうことか俺の名前だった
「あんたエイジでしょ!ひさしぶりね、まさかこんなところで出会うなんて」
このセリフを聞けば感動の再会シーンだと思うかもしれないが、問題なのは
「はじめまして......?」
俺がこの少女を知らないということだった
to be continued……