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無能×超能で三界攻略  作者: レイジ
第1章
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第1話 ようやくたどり着いたのはスタートライン

 朝ごはんの準備をするため手をサッと振って火を起こした俺──風薙英次かざなぎえいじは窓から見える飛龍を見て改めて実感する。ここは異世界......いや、ここに来るときに死んでるから天国って言った方が分かりやすいか?まあ、その類のものだ。元の世界と違うところは魔法が使える、そしてそれによる文化の違いで世界が全体的に一昔前なところくらいだろうか。そして不思議なことに言語や地形は全く同じ。ついでに言うと固有名詞に若干のなまりがある。例えばここ、東京都八王子市は東郷県八王市となる


 そして今日はこんな世界に来て初めての集団生活──孤児院はぼっちだったからノーカン──となる高校に入学するわけだが……

──こんこん、くしゃ、べちゃ

めちゃくちゃ緊張する……。俺は殻が混ざってしまった卵から箸で殻を取り出しながら考える。1番の懸念は人間関係。元の世界でも孤児院時代でも、俺は友達が少ない……どころではなく文字通りいなかった。0だ。ましてや異世界人で孤児院出身?絶対クラスで浮いてしまう。

 ずっと引きこもってるせいで無駄に料理が上達した俺は適当にピザトースト、ベーコンエッグ、サラダを皿に盛り付けていくと


「おはよー。あ、朝ご飯作ってくれてるの?ありがとぉ。お姉ちゃん今日のことが心配で全然寝れなかったよー」

そこへ黒髪ロングがボサボサに跳ね、目が半開きで隈もできてる、ザ・寝起きって感じの少女がリビングダイニングに扉を開けて入ってきた。彼女は神谷かみや笑根えね、俺を養子にとった親父の一人娘だ


「おーっす」

ちなみにさっきのセリフ、心配性の優しい姉の印象を得るかもしれないが1週間前から聞いている

「俺の心配なんていいからちゃんと寝ろよ?」

「いやいや、今日はエイちゃんの入学式でしょ?しっかりとお見送りしなきゃね」

そう言って笑根がぱんっと両手で頬を叩くと......おいっ、パジャマが肩からずれて胸元がチラチラしてるぞ。そして反動で揺れた胸も目に毒だ。だがそんな弟みたいに扱わなくてもなぁ。血は繋がってないし、そもそも同い年なのに。

 この自称:姉は弟をもつことに憧れでもあったのか、初めて会ったときに『姉』とでかでかと書かれた段ボールを紐で首から下げていた記憶がある


 そうこうしている間に俺は朝食とミルクを運び、いつのまにかテレビをつけて木製の椅子に座っていた笑根とモソモソと食べ始めるのだが、

 始まってしまったッ......。毎朝恒例の朝食時間サイレント・デス・タイムが。コミュ力の無い俺と食べることに集中する笑根で食事をとると箸が食器に当たる音──今日はお天気お姉さんの声も聞こえるが──がうるさく感じるほどの静寂が訪れる。食事中以外だとうるさいくらいに話しかけてくるのになぁこいつ。だがこういうときに何か話せなければ......姉相手で無理だったら俺は高校で死ぬぞ!?しかし幸いなことに今日はピッタリの話題が、あった


「そういえば今日からか。お前が巫女になるのは」

 実は俺を養子にとった親父──名は総一そういちという──は奥摩おくまにある神社の宮司ぐうじをしていて、人手不足が激しいらしく笑根は巫女として手伝いに行くらしい。たいして人も来ないのにバカでかくて管理だけが大変だとか。素人の姉が巫女になっていいのかわからんが、神社は全国で8万社、それに対して宮司は1万人しかいないそうだ。四の五の言ってられないんだろう


 すると姉は直前になって不安になったのか

「うん......」

としか言わなかった。そして、ずず~っとミルクを飲む音。何とか会話を続けるために仕方ない、憂鬱ゆううつだが高校の話をしよう

「あとは俺が学生課に行って書類と学生証、魔剣士(MS)免許の顔写真を提出するだけだよな」

「うん、ごめんね。本当はそれらも入学説明会のときに済ませておかないといけなかったのに。......んくっ、ごちそうさまー」

 コト...とマグカップを置き、シンクに食器類を運ぶ姉は振り返らずに笑根は「そういえば」と続ける。

契約魔術種(CM)特殊三元能力(SA)が決まるのも今日よね。大丈夫?異世界から来たって言ってたけど......」

 養子縁組の際に戸籍が無いと気づかれて親父と一緒にこいつにも俺がこの世界の住人じゃないことを伝えたのだが......うーん、確かに心配だ。


 高校のホームページを見るとpdfの予定表に

『4月2日:入学式(第一体育館)、魔術種契約*(第四魔術実験室)、特殊三元能力発現検査**(特殊三元能力研究科棟2F暗室)』

と書かれているが下に注釈で

『*・・・後日各普通教室にて配られる用紙に結果を記入(全員・・) 

**・・・検査後、同棟の影山教員室へ移動(発現者・・・のみ)』

とある。『全員』つまり俺もいずれかの魔術種を契約しないといけない


 親父から聞いた話、この世界に生を受けた者・物は全て体内に魔素まそと呼ばれるエネルギーを持っており、それを消費して魔術を使っているらしい。魔素は空気中にも漂っているがそれらは周囲の環境に左右されて不安定なため、基本は自身のものを使う。

 だが俺は異世界の生まれだからこの世界での先天性の魔素を持ってない可能性がある、そう言っていた。だからさっきみたいに火を起こしたいときは空気中の魔素を使わなければならない

 そして契約というのは魔術の種類(属性)に関わるものだ。魔術にはそれぞれ特徴を持った属性があり、水氷すいひょう業火ごうか暴風ぼうふう大地だいち神聖しんせい暗黒あんこくの7種類。さら魔素を合成・分解・変換することによって半無限の組み合わせの魔術を使うことが出来る


 だが親父の説明もここまで。特殊三元能力とやらについての知識は皆無で、高校のHPにも載っていない。他のページを見ても抜け目は無いあたり、記述ミスとは考えられないし、意図的に隠してるっぽいのが不安を掻き立てる。まあそれ以前に俺は魔術種契約で引っかかりそうだが


「まあ、なんとかなるよ」

 だが不安なのは笑根も同じ。なんの対策も無いが、不安にさせないように俺は笑顔を向けておく。コイツは特性『過保護』というされる側からすれば迷惑極まりない能力を持ってるからな......。小指をタンスの角にぶつけて悶えていたら救急車を呼ばれたことがある

 すると笑根も「そっか、頑張ってね」と笑顔を返してきた。その笑顔に不意を突かれた俺は照れ隠しなのか足を二階に向かわせた


 階段をのそのそと上りながら俺は思う。前々から思っていたことだが笑根はめちゃくちゃカワイイ。まずパッと見た印象は大和撫子。黒髪ロングの前髪を斜めぱっつんにしていて、普段付けている右耳の上の髪飾りも桜を模した和風なものだ。スタイルも抜群でいわゆるボンキュッボンのアレ


 夏に海に連れていかれたときはもう周りの海水浴客から笑根はいやらしい目線、俺は殺意のこもった視線を向けられて大変だった。着痩せするタイプなのか水着姿になるまで分からなかったが最低でもEはあったぞ......。なのに顔は割と童顔でさっきみたいな純粋な笑顔は太陽のようにまぶしい。笑根が照れながらも教えてくれた名前の由来もよくわかる。


 笑根の笑顔を妄想していると最後の段につまずきながら『エイちゃんの部屋♡』という友達が見たら──そもそもいないが──2㎞の距離をおいて引かれそうなネームプレートが掛かった部屋にたどり着く。ドアを開いてもともと物置だったから少し狭い部屋に入ると、真ん中にでーんと荷物の山があった。


(この部屋とももうお別れだな......)

 3年前、俺が初めてこの家に来たときのことを思い出す。狭い敷布団で笑根と一緒に寝たこと、笑根と喧嘩して壁をぶち抜いたこと、1年目には引きこもりになったこともあった。そのときは親父はドライブに連れてってくれて、笑根は毎日ご飯を部屋の前に置いててくれたっけ

 今となってはいい思い出だが、あのときは本当につらかったな......


 今日はかかとまでつけて歩ける床を進んでクローゼットを開けると中には真新しい制服があった。『魔法陣に刺さる剣』というような感じの徽章が胸に入ったブレザー。しわ一つ無く朝日で眩しいカッターシャツ、「すぐに合うようになるよ」と笑根に言われて選んだ少し長めのズボン、結び方を親父に教わったネクタイ、首に巻いて遊んだベルト、どれも新品の匂いがする


 それらを手に取ってしばらくぼーっとしていると中々降りてこない俺を「もう荷物積むよー」と笑根が呼んだ。このままだと10秒おきに呼ばれることは学習済みなので俺は早着替えの達人のように上と下を同時に着替え、もう一度呼ぼうとしていた笑根の前に現れる。この早着替えYouTubeに投稿してやろうかな。この世界にあるか知らんが


「もう遅いよー、学校遅れちゃうよ?」

そういわれて時計を見ると8時半。学生課の用事も考えるともう出発しなければならない

「ごめんごめん」

曲がったネクタイを直してくれる笑根はもう巫女装束みこしょうぞくに着替えておりゆるゆるな胸元から......み、見えちゃってるよ下着が!しかし笑根はネクタイを結ぶのに夢中になって気づいていないもよう。だがここで変に顔を逸らすと意識してると気づかれて逆効果。

 そう思った俺はコホンと咳をして口元に寄せた右手で胸を視界から隠すが、はいた息を吸った俺の鼻に笑根のつやつやした髪から女子特有のイイ匂いがッ......。俺は慌てて鼻を腕でおおうがその動作にびっくりした笑根は後ろに倒れ、掴んでいたネクタイに引き寄せられるかたちで俺もその上に倒れこむ。

「きゃっ」「お!?っと」


(いって......)

 先日掃除して綺麗なフローリングの床に結構派手に突っ込んだ衝撃でしばらく動けずにいると「いてて......」という声が真下から聞こえてきた。ん?と思ってチラっと見るとそこにはちょっとでも力を抜いたらキスしてしまいそうな距離に笑根の顔が!!げ、と思った矢先、気が付いた笑根がまず俺を見て急赤面。そして顎を引いて下を見て第二次赤面。

 それにならうように俺も下を見るとそこには重力でちょっと潰れたむ、胸を!俺の左手がさらにむにゅりと潰している。マズイマズイマズイマズイマズイ!!俺は瞬時に手を引こうとするがその手をがしっ。笑根がなぜか自分の胸に引きずり込もうとしている!?15歳・女とは思えないような腕力で俺の手が引かれてどんどん胸にめり込んでいくッ


「エイちゃんいいんだよ、最後だもんね。思いっきりして♡」

「なにもしねえって。早くは、な、せッ」

何をしてほしいのか分らんし分かりたくもない俺も本気になって引くとその揺れで──慣れない着付けでうまく結べてなかったせいもあって──だんだんと笑根の巫女装束がはだけていき......もう完全に胸とブラの全形が見えるまでになったとき


「おーい、早く荷物積みに来いよ」

と、本来なら神社から帰ってそのまま高校に送ってくれる予定だった親父が玄関を開けて入ってきた


「……もしもしおふくろ?笑根がとうとう女になってしまったみたいだ。俺は父親として何もしてやれなかったがこの15年間いっ──」

「待てこらクソジジイが~!!!!!」

「お?続きしねーの?」

「しねーよ!」

「エイちゃんしないんだ……」


「だー、もう!早く積み込むぞ!!」

一連のやりとりで結構時間ロスってしまったが結局は助けてくれた親父に心のなかで饅頭まんじゅうをお供えしつつ荷物を運び、親父はそれを車に入れる。その間に服を整えた笑根も車に乗ったところで車は出発した


「お前ら、忘れもんねえな?もう戻らねえぞ?」

「ああ」

意外と用心深い親父に返事する俺だが、笑根が「あっ」といって親父は車を急停止。笑根はバタバタと家の方へ戻っていった。


 すると親父は俺の方を振り返って

「おい、あいつの下着何色だった?」

ぶーーーーー!突拍子な質問に、水筒に注いでおいたお茶で喉を潤していた俺は盛大に吹き出してしまった。

「ハァ?何聞いてんだよエロ親父が」

「いやさ、最近あいつ反抗期でよ......。さっきお前が荷物取りに2階に上がってたときだって、あいつずーっと俺のこと睨んでたんだぜ」

うーん、下着を見られたから?いや、この質問をするってことは俺の体に隠れて親父からは見えてなかったっぽいな

 だがそれと下着の色がどう関係すんだよ。そろそろ笑根が戻ってきそうで怖いし早くしてくれ

「それでよ、ネットで見たんだが女ってのは反抗期になったり彼氏ができたりすると下着の色が派手になるらしいんだよ」

一応色は黒だったが派手......ではないよな。なんか勘違いしてる気もするがまぁいいや

「まあ派手ではなかった」

そのネット情報も胡散臭いが早く終わらせたい俺が答えると、親父は最上級の安心顔でハンドルに向き直った。ので俺も何もなかったふりをして笑根を迎え、ようやく出発した


 だが俺の表情は一瞬で凍り付くことになる

「ごめんごめん、これ持っていくの忘れちゃって......」

そう言って笑根が俺の前に出したのは......人形?


「でね、これね、背中からスピーカー入れててちゃんと喋るの!」

へえ、見た感じ手作りっぽいがよく出来てるんだな。すると小さくカチッとスイッチを入れる音がして

『大好きだぞ』

結構キレイな音質で流れたそれはどこかで聞いたことがあるような......。まさか

「結構大変だったんだよ?エイちゃんあんまり喋らないから。録音機仕掛ける場所とかも工夫して──」

 え、俺知らないうちに盗聴&録音されてたの?めちゃくちゃ怖いんですけど

「個人情報保護法第17条!個人じょ──」

と俺が主張するも

「2人の愛に法律の干渉の余地はないわ!」

謎理論でシャットアウト。だがこんなもん作られて黙ってる俺じゃないぞ。何とかして捨てなければッ


「いいからそんなもの捨てろ!」

人形の左手を持つ俺

「だめっ、これは心の支えにするの!」

右手を持つ笑根。途中でボタンに指が当たって『お姉ちゃん///』※寝ぼけてた。『き、寿司、手』※編集しやがったな。『付き合ってくれ』※買出しに。俺のボイスが次々に再生されて精神攻撃が痛い......。そして俺が自殺を心に決めかけたとき、人形の右腕がちぎれてしまった。やべ、と思って笑根をみると

「ふ、ふえええええ......」

声をあげて泣き出してしまった。

 するとさっきから聞いていたのか親父が

「おいエイジ、なに女の子泣かせてんだ」

ちょっとマジな感じで睨んでくる。え、なに?この状況おかしいと思ってるの俺だけ?


 俺が何か悪いことしたのか分からんが笑根は泣き止まねえわ親父は鏡越しに犯罪者でも見てるかのような目つきで睨んでくるわ、早くしないと入学式遅刻とかいう最悪の第一印象になってしまうので仕方なく。

「ああもうわかったよ好きに使え」

そう言って右手を失った本体を笑根に返す。受け取った笑根は天使のような笑顔になり「後でちゃんと治療してあげるね」とか言って人形の頭をなでてる。俺がいない間は頼んだぞエイちゃん人形。親父と2人きりは不安だしな


 そのあとは笑根も会話相手を本物の俺にチェンジして「そういやなんでもう着替えてんだよ」「いやぁ巫女姿をエイちゃんにも見てもらいたくて♡」なんてテキトーに駄弁ってると


「まずいな......」

今度は運転席で問題発生らしい

「どうした?」「なに?」

俺と笑根が同時に訊くと親父は「ん」と前方を顎で指した

 そこには頭を下げる人と『お願い 御迷惑をおかけして居ります 工事中御協力をお願いいたします。』という文字の入った看板が立ててあった。中では3人の男性が両手をかざして次々に魔術を使い、地面を掘っている。


「エイジ、お前こっから歩け」

「そうなるよな......」

まあ学校はすぐそこだし荷物はギリギリ魔術の有効射程イン・レンジだったので笑根に頼んで寮付近まで転送してもらおう


「んじゃ元気でな」

別れ際をそれっぽい雰囲気にすると良くないことが起こりそうなので、それだけ言って背を向ける。外泊届を出せば休日なら帰れるし。

 だが当然笑根がそれだけで済ませるはずもなく

「えっ?えっ......えと、何かあったらすぐ連絡してね!悩みとかなんでも相談にのるから!それと──」

「わかったわかった」

「『元気でな』じゃなくて『またな』でしょ?」

そうだったな......。俺たちはこれから何度でも再会する。だから次会ったときのための『またな』


「それじゃあ、また会う日まで......またな!」

「うん、またね」

2人ともここが新たなスタートラインだ。笑根は巫女、俺は高校生。


 そのときちょうど工事現場から鳴り響いた笛の音を合図に、俺は駆け出した


to be continued……

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