他力の対価
「そう、それで嘘ついちゃったの。私もかなり洋楽好きですよ、って」
金曜の午後、混み合ったカフェに女子二人。彼女達は水滴でベタベタになったグラスを前に、恋愛トークで盛り上がっていた。
「なんでまたそんな嘘を。あんたアイドルしか興味ない癖に」
「だって。そうしないと先輩と次会うキッカケが見つからなくて」
「はぁ〜恋する乙女ね〜」
「でさ、サエちゃん洋楽に詳しいじゃん。だから、なんか情報くれないかなぁ」
「で、カフェオレで私を買収かい」
「フォンダンショコラも付ける!」
「しし、しゃーないね。まぁ洋楽って一口に言っても色んなジャンルがあるからねー」
うんと暫し考え込むサエ。
「ちょっとマニアックだとオルタナ系のバンドでコープランドとか」
「オル・・・系・・・コップランド・・・」
「ジャズだったらビル・エヴァンスとか」
「ジャズのビールバカンス・・・」
「あと、ダンス系ならゼッド、インスト系はティコ、R&Bはザップ、あ、あとエレクトロニックだとメジャーレイザーがお薦めかな」
「・・・ゼッ・・・ティ・・・ゼツ・・・メイ」
「とりあえずここら辺のアーティスト言っておいたら、お、詳しいねってなると思うよ」
「・・・なると思う」
「じゃ、フォンダンショコラお願いね」
「あ!そのアーティストなら知っているよ!!聞いた事ある!!」
「いや、フォンダンショコラはケーキだから。アーティストじゃねーし。まぁ良いから早く奢れって」
「あ、はい」
しっしっと手で払われ、重い腰を上げる。財布を持ってレジに並ぶ彼女の背中を見届けながら、サエの心の中では邪な感情が沸き上がってきていた。
(あの先輩、洋楽詳しいんだ。趣味合いそうだな〜。イケメンだし、今度呑みに誘っちゃおうかな)