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白鴉は幻想に飛ぶ  作者: 自重します
2/2

1話:時間を守らない天狗

私の推しキャラは射命丸様です。。。


幻想の空を一羽の鴉がカメラを片手に飛び回っていた。守り神と囃されている天狗ではなく、どちらかと言うとあまり人気の無い、と言うと語弊があるが少なくともこの幻想郷に住まう数名には嫌われているのは確かだ。

人里にいる者は毎日の様に会えるだろう。自称新聞記者の彼女は常に記事に飢えているのだから。


「ネタが無いですねぇ……」


相棒を片手に射命丸文は人里を行くあてのないネタ探しと称してフラフラと歩き回っている。時折近くに駆け寄る子供達と戯れながら、射命丸はとある一角の小さな喫茶店に辿り着いた。

常連なのか、店の扉にかかった準備中の札を気にせず、思い切り扉を開いた。


「……あのねぇ、射命丸さん。私、まだ店開けてないんだけどなぁ……」

「あやや、いいじゃあないですか。どうせいつもの人達しか来ないような小さい店なんですし、時間は金なりですよぉ」

「ネタが無いんですね、わかります。でも、私の店に来てもネタなんか見つかりませんよ」

「喉が渇いたのでコーヒーでも入れてくれませんか?」

「図々しいですねぇ……」


ハア、と小さな店の中に響く程大きな溜息を吐いたマスターはやかんに水を入れ、コンロで火をかけ始めた。何れも本来なら存在しないはず、と思いきやどうやら河童の技術力は幻想郷一らしい。

このやかんも、コンロも、その他諸々の道具やこの店にだけではあるが上下水道も完備させてくれたことに関しては流石河童様様、足を向けて寝れないよ、とマスターは少し前に射命丸に語った。


「今日のブレンドは?」

「いつも通りマスターのオススメでいいですよ」

「じゃあ今日こそはわさびたっぷりの搾りたて茶でよろしくて?」

「新聞の記事に載せて差し上げましょうか??」

「そんな人気の無い新聞誰が読むんでしょうか?」


真を突かれた射命丸は口を真一文字に結び、マスターを睨みつけた。珈琲豆を挽きながら、マスターは店の隅に綺麗に並べられた新聞を一瞬だけ目に映した。不定期に刷られる新聞であるがマスターが知っている範囲では全て揃っている。

「文々。新聞」、という題名をわざと裏返して並べているのだが。


「まあ、冗談はこの辺りで。

いつも通り、気分と感覚で淹れたブレンドコーヒーですよ。その都度味が変わるから味の保障はできないけどね」

「外れを引いたことがないので、マスターの味には信頼しかありませんよ」

「……ツッコミって大事だと思うんだよ、私はね。

美味しく頂いてくれたら代金を置いてさっさと仕事に戻りなさいね」

「私の仕事は取材と発行です。いざとなったらマスターの事を取材させていただきます」


カメラをマスターに向け、ニヤリと口角を上げた射命丸は「冗談ですよ」と笑いながら珈琲を一口飲み込んだ。


「さて、と。そろそろ開店して来ますから。射命丸さんは大人しくその珈琲を飲んでいてくださいね」

「私を小さい子どもか何かと勘違いしてませんか?」

「この間、小さな吸血鬼当主が嘆いてらしたんでね」

「美鈴さんが寝ていたから門が空いてるものかと……」

「それはいつものことですよねぇ……」


とある館の門番が寝ているのはここではいつもの光景。門番としての役割を果たしていない故、必要性は無いとは思う。

が、そんなユーモラスなメンバーが揃っているからこそ、「紅魔館」は楽しいのだろう、とマスターは考えた。

準備中の札を開店中の札に変えたマスターは再びコンロの前に立った。


「今日のお客はどんな人が来るのでしょうか」

「……」

「おや、射命丸さん。どうされましたか」


思い詰めたようにカップを見つめ、幾度となくため息をつく彼女はカップを持ち上げ、恥ずかしそうに小さく呟いた。


「あの……おかわり下さい……」

「ええ、構いませんよ」


マスターの名は夜白、夜の白と書いて「やと」と読む。そして、夜白が開く小さく賑わう喫茶店は人里に伝わる伝説に出てくる守り神の名を借り、「白鴉喫茶」と呼ばれている。

この話はこの喫茶店でグダグダと店主と客が戯れるだけ、の筈。


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