第4章 《孤独》という強さが薄れる恐怖
ちょっとしたトラブルもありましたがなんとか投稿できます!
では第4章、スタート!
追加
2017/9/17 A.M.3:44改稿完了
巨大な魔物を倒してから数時間が経った。目的地のアグュルリまでもう少しという所まで来た。
後ろを見る。カナとユイ、ミオ、トオルが楽しそうに会話していた。あの後、カナが3人とパーティーを組みたいと言って来たのだ。
俺は断ることが出来ず、勧誘は任せたとだけ言った。恐らくカナは同性という存在が欲しかったのだろう。だから俺が今ぼっちなのは仕方ない。仕方ないのだが…なんだか寂しい。
「寂しい、か。いつから、こんなに弱く…」
声に出てしまっていた。幸い、会話が盛り上がっていたので聞こえていないように見えた。
俺は小さい頃に両親を亡くした。今年で17だから、12年前かな。母親は通り魔に滅多刺し。父親は病院に向かう途中で事故死。助かったのは俺だけだった。ずっと孤独だった。
そんな俺が寂しい、か。笑えねぇ。消えろ。こんな感情は要らないっ!
「ハル!」
「え!?な、なにかね?」
「なにじゃないよ。着いたじゃん」
本当だ。目の前に門があった。
「すまん、ぼーっとしてた」
俺は軽く謝り、門に付いているベルを鳴らす。
「やあ、こんにちは。御用件は?」
「観光をしに来ました」
「その武器は」
「護身用です」
「…いいでしょう」
門が開く。その瞬間、花のいい香りに包まれた。
「ようこそ、アグュルリへ。楽しんでね」
「ありがとうございます」
俺は一礼し、宿を探そうと歩き出す。するとガシッと腕をユイに掴まれた。掴むなよ袖を摘めよ。
「お花畑はそっちじゃないよ?」
「知ってるよ。俺は宿を取ってから行くから先に行っててくれ」
「お金、ある?」
「あるにはあるが、なんで?」
「いや、その…」
あっ…察し。
「盗まれたのか分かった。一部屋でも文句言わないでくれよ」
「はい…」
「じゃあまた後でな」
さーて、宿を探そう。ってもう見つけた。俺は早歩きでカウンターまで行く。
「何名様でしょうか?」
「5です」
「部屋が、あと余り一部屋となっておりますが…」
「問題無いです。1泊お願いします」
「2500バルトでございます」
「これで足りますか?」
俺は袋の中の金を全部出した。
「丁度お預かりします。こちら、鍵です」
「…ありがとうございます」
まじかよ。もう金持ってんのカナだけじゃんか。えー、ちょっと泣きそー。
「ハル!」
「ひょえ!?か、カナ?」
「宿は?」
「取ったけど」
「じゃあ行こ!」
カナはどこか急いでいるように見えた。と思ってたらなんということだろう。手を繋いできたのである。うれぴい。
「か、カナ?」
「寂しいんでしょ?」
あらら、やっぱり聞こえちゃってたか。そんな気はしてたよ。
「うん、まあ、そうかな」
「じゃあ繋いでてあげる」
嬉しい。そう思ったけど、同時に、心が締め付けられる感覚があった気がした。この時は嬉しさが勝っている感じだったが。
「ありがとう」
それからというもの、カナはずっと俺の手を握っててくれた。お花畑に向かう途中も、3人の前でも、ずっと。
あの3人は何かを察したように俺たちとは別の花を見に行っていた。
なんというか、嬉しい。愛おしい。カナがしゃがんで花をまじまじと見てる時も、蝶を追いかけて行った時も、手を握っていてくれたから。
俺は、カナのことをもっと好きになった。カナはどうなんだろ?俺のこと、どう思ってんのかな?
「なあカナ?俺はカナのこと好きだけど、カナは?」
「…!うるさいばか!」
悶えそうになった。興奮した。初めてうるさいと言われた。初めてばかと言われた。頬が少し膨らんでる。控えめに言って可愛い。尊い。少し意地悪してみていいかな。
「そっか、嫌いか」
「ち、違う!嫌いじゃない!…!って言っても好きって訳でも…うぅ、意地悪!」
あのカナがぐだぐだで顔真っ赤っかだ。尊い。
「ご、ごめんよカナ」
「あんぽん!」
あんぽん頂きました。尊い。しかも未だに手を繋いでるっていうね。もう可愛すぎて死にそう。っと、そろそろやめておこう。
俺はカナを抱きしめる。
「カナ、ありがとうな。本当に、ありがとう」
「……うん」
***
「ベットふかふかー!」
「ベットではしゃいでるカナちゃん可愛い」
「一部屋…」
「なんかしたら承知しないから」
ユイ、激しく同意。ミオ、文句言うなよ?そんでトオルさん怖いです。
「とりあえずみんな風呂入ってこい。それから話するから」
と言って、風呂に向かった。服を脱ぎいざ男湯へ!って、誰もいねぇ。まあ結構遅い時間だし、仕方ねぇか。
俺はささっと体を洗い、湯船に浸かる。
「混浴なかったな。しっかりしてやがるぜ」
「わー、広〜い!」
「カナちゃん可愛い…」
「やっぱりミオってスタイルいいよね」
「と、トオル?なにを言ってるの?ってちょっ!カナちゃん?」
「スベスベぷにぷにー」
丸聞こえなのですが。耳を澄ませる必要ねえ。
「ねえ、隣男湯だけど大丈夫?」
「「「え」」」
そ、そろそろ上がろうかな。
「は、ハルさん?」
「ん?なに?」
「あ、いた」
「羨ましい限りですなぁ。女の子同士でキャッキャウフフと。本当に羨ましいなぁ!」
「じゃあ来る?」
「行く」
ナイスカナ!すぐ行くぜ!
「ちょ!カナちゃんダメだよ!」
「そっ、そうだな。確かに俺がそっちに行くのはやめた方がいい。こっちに来るか?」
「行く」
「アウトー!」
ユイが叫ぶ。多分めっちゃ焦ってるかな。しっかし、何がアウトなのか。
「なんでだ!不公平だろ!カナたんの生まれながらの姿を俺だけが見ていないぞ!」
「それは男として生まれたことを憎んどけ!」
トオルがそう叫んだ数秒後、オケが頭に命中した。
「痛っ!ふん、ま、まあいい俺は上がるからな。のぼせるなよ」
俺は高速で体を拭き服を着て部屋に戻った。
***
「さあ揃ったな。では今後の予定を発表しようかね。まず!お金が一銭もない人手挙げて!」
と言い俺が手を挙げると、ユイ、ミオ、トオルが申し訳なさそうに手を挙げた。
「まあこうも無残な結果だ。だから金が欲しい。だから考えた。名付けて人に借り作って金で返してもらおう作戦!」
「うわあ」
「待て。その反応はおかしいぞミオさんや」
「おかしくないでしょ」
とトオルが言う。なんか味方いねーんすけど。だが、こうなるのはまあそのうん、予想してたよ?だから策はある。
「じゃあみんな揃いに揃ってカナに養って貰うのか?現状持ってるのカナだけだぞ」
「「「う」」」
「とにかく聞け。この付近に魔王軍の幹部の隠れ家があるらしいんだ。そいつらを捕まえて渡せば金になると思う」
「殺さないようにやんの?」
「やむおえない場合は殺してもいい。自分や仲間が危険だと思ったら殺せ」
俺が真剣な表情で言うとカナとミオ、トオルは頷いた。
「和解は、できないのかな」
と、唯一頷かなかったユイがぽつりと呟く。皆微妙な表情をする中俺は顔色ひとつ変えなかった。
「明日分かるよ。できるかできねえかは」
ユイはコクリと頷く。こう言うしかない。答えは分かりきっている気がするが。
和解できるなら、わざわざ異世界から召喚してまで戦力増やす必要がない。
「とりあえず英気を養おう。ほら寝ろ寝ろ!」
「…ベッド2つしかないのですが」
と、ミオが少し青ざめたように言う。俺はそれに苦笑した。
「俺は床で寝るからいいよ。俺さ、子供の頃からベッドで寝れないんだよ。自由に使っていいよ」
「…分かった」
結果、カナとユイ。ミオとトオルで寝ることとなり、俺は床で寝た。
***
母さんが死んだ。父さんが死んだ。俺を呼んでいる。やめろ。来るな。呼ぶな。どっか行け!
「かはっげほっごほっ…はぁ、はぁ、はぁ」
くっそ、唾が気管に入った。しっかし、何ヶ月ぶりだ?両親が出てくる夢を見たのは。
「ハル君?」
「…ユイか。起こしちゃったか。ごめん」
「それはいいけど、大丈夫?苦しんでる様にしか見えなかったよ?」
「…夢を見てた。死んだ両親が、俺に迫ってくる夢」
「え?死ん、だ?」
ははは、なんつー顔してんだよ。その心配そうな顔がどこか母さんそっくりだ。
「ああ。12年前にな。兄弟もいない」
「そう、なんだ…」
「まあもう12年前だしな、慣れたっちゃ慣れたかな」
そう言って俺は体操座りのまま寝ようとする。すると数秒後、俺は抱きしめられる感覚を覚える。
「…なに、してんだよ」
「言いたいことが、あって…」
「なんだよ。てかここまで来なくてもいいだろ」
「いいじゃん。…あのさ、えっと、寂しい?」
「?…ああ、まあ」
「…何かあったらさ、私に相談して欲しい。私がなんとか出来るとは限らないし、ほぼ無理だろうけど、話せば楽になる可能性もゼロじゃないと思うから」
「……まあ、そのうち。気が向いたらな」
そう言うとユイは満足そうに「うん」と頷き、ベッドに戻った。
ユイの寝息が聞こえ始めた頃に俺は立ち上がりベランダに出る。
完全に満ちる一歩手前の月が俺を照らす。
ユイに優しくされた時、安心感と、その真反対の感情である恐怖。その2つの感情がグルグルと回っていた。
ユイたちに依存してしまえば多分きっとすんごい楽なんだろうと思う。
でも、手放したくない。俺にとって《孤独》は弱さでもあるけど、強さでもあるから。多分俺は、ユイたちに依存しない。
「上辺の会話はやっぱきちーや」
俺でも聞こえにくい声で呟き、星を見つめた。
***
「起きろー、朝だぞー」
「ん…おはよぉ…ハル君…」
「おはようユイ。みんなを起こしてくれ。朝ご飯はそこにあるから。俺は外の空気吸ってくるな」
「了解…」
バタンとドアが閉まる。
「…ねえユイ。ハルさんのご両親が亡くなったって本当なの?」
「聞いてたんだ。そうだと思うよ。冗談に聞こえなかったし」
「……私たちはハルさんにとっては邪魔なのかしら」
「距離は、感じるね」
沈黙に包まれる。彼は辛く重い過去を持っている。そしてある程度距離を開けられているのもなんとなく分かっていた。このままが良いのか、距離を詰めても良いのだろうか。
「支えてあげたい」
と、カナが立ち上がり、ユイたちを真っ直ぐ見つめ言う。
「多分だけど、ハル寂しがり屋さんだけど、頼り方というか、接し方がよく分かんないんだと思う。だから、その、支えながら待ちたい、かなって…」
「そうだね。それしかなさそうだね」
***
顔が合わせられない。とりあえず外に出たのだが、こっからどうすっか。
「いつも通りができればいいけど、いけるかなぁ」
まあ頑張るか。これからも多分あの4人と一緒だと思うし。
そう思い、宿に戻ろうとしたその刹那、ドンと爆発音が響いた。
「ッ!?何だ?」
俺は急いで宿に戻る。ドアを開けると、カナたちも、何が起きたか分からないといった顔をしていた。
「…多分だけどここら辺に隠れ家作った魔王軍の幹部が来ちゃったのかもな。ユイ、ミオ、トオルは住民の避難を手助けしてから来てくれ。俺とカナは先に行く」
「わ、分かった」
「よし行くぞカナ」
「うん」
俺とカナは最短距離で行くため、屋根の上を疾走する。
そして幹部らしき人影が見えた刹那、カナが突撃する。が、
「うん。良い挨拶だね」
と、言いながらカナの大剣を指2本で受け止めていた。
「やっぱ《生まれたて》がいた。ラッキーだねメアリ」
「貴方にとっては、ですけどね。我が主よ」
「ッ…!カナ!下がれ!」
「ん」
カナは着地した瞬間に最速で離脱し、俺の後ろまで後退した。
「あんた、何者だよ」
「人に名を尋ねる時は?」
「自分から、か。俺はハル。彼女はカナだ」
「よろしく。僕はイフィラ。魔王さ」
「なッ!?」
自称魔王が、召喚されて3日で目の前に?アホかよほんと。最高に絶望的じゃねえか。
魔王出現!?どうなってしまうのでしょうな!
次もお楽しみに!