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邪竜と花嫁と因果の黙示録  作者: 飯富こより
ミシュリエル公国
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ミシュリエル公国にて 前

ミシュリエル公国・ある仲睦まじい夫婦の御話。

 水の女神・ミシュアへの信仰により成り立っている公国、ミシュリエル。臨月であった女王・アヴィニアは、メイド達も寝静まった真夜中に、ある騎士夫妻を呼びだした。音も無く現れた二つの陰に声を掛けると、二人は一度顔を見合わせて、困惑の表情を見せる。しかしその迷いを消した二人は、再度女王に首を垂れた。

 『貴方達に、どうか女神ミシュア様のご加護がありますように』

 

 ミシュリエル公国・王家守護騎士団。それはミシュリエル公国を守護する最強の男達が鍛錬を積み重ね、国を守っている、要するに国一番で強い男達の集まりだ。その騎士団の団長を務めるベグール・アンネ=オーディスは、王家からの信頼も厚く、また女神ミシュアへの信心深さと共にその強さも評価されている、まさに最強の騎士である。その妻であるメリー=オーディスは、女神ミシュアを祀る神殿で巫女達を纏める筆頭巫女であった。明朗快活で忠義に厚いベグールと、慎ましくも強かなメリー。二人は騎士団の中でも、非常に仲睦まじい夫婦であった。ベグールは国王夫妻の護衛も担っていた為、夫婦間で親交があった。特に女王アヴィニアとメリーは年齢が同じである事もあって、時折他愛も無い話で盛り上がったりしていた。

 ――二人の女は、子宝に恵まれなかった。特にメリーは、子供を授かったものの、流産となってしまい、子供の顔を見た事は無かった。流産であったと判明した時のメリーは、ベグールの支えが隣にあっても、二日間我が子の死を悼み続けた。彼から子供の話を聞いた国王夫妻は、相談し合い、メリーを城に呼んで彼女を慰めた。三日目になってようやっと落ち着いた彼女の話を、女王は黙って聞き続けた。体質的に子供を産む事が出来ない事、其れでも夫が愛してくれること。

 『メリー、子供を産む事だけが女の務めではありませんよ。夫の傍に寄り添い、彼を支えてあげる事が、これからの貴方の務めなのです。大丈夫、今まで通りにベグールを愛してあげなさい。ベグールの大好物で彼を労わってあげるのですよ』

 

 そう声を掛けて、再度二人の愛を確かめた女王の瞳に、影が落ちた。

 国王、シェヘラザール・フィンセント=ミシュリエルが、長年患っていた病により、倒れたのである。恋愛結婚で結ばれ、「二人の縁を切るには死神すらも遠慮する」とささやかれていたほどに仲睦まじい夫婦であったが故に、アヴィニアの悲しみは三日では済まず、その涙が赤く染まり国中に赤い雨を降らせるほどに、彼女は泣いた。

 国王の死により、一ヶ月も喪に服した彼女の悲しみを共有するように、国王夫妻を敬愛する騎士達、国民達、ひいては周辺の国々や其処に潜む山賊や海賊たちも、シェヘラザールの死を悼んで同じ期間、喪に服した。アヴィニアの最も近くに居たオーディス夫妻は、彼女が夫の遺体から離れようとせず、埋葬する墓場までその棺桶を追いかけていた姿を見ていた。だから更に苦しくなって、二人はまた二人の愛情に涙した。

 ――そしてその翌日、女王懐妊の報せが入ったのである。


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