夢中幻想
一粒一粒が、たしかに主張し、降り注いでいる。
私はその中にいる一つの光。
望まれているのですね。望まれているのですね。
そう、君も望まれている光。
互いは、触れていなくても共有するものを持った。
それでいて、なお、相手を慈しむ。
一瞬のざわめき、そして煌きを感じさせる何かでありたいのです。
私という器において、私という生き物に命を吹き込んでいてくれるのはあなたなのです。
たしかに、問うてみても答えは出ないのでしょう。
ですが、あなたという存在は私の中で次第に肥大してゆく。
遥か空の上、宙の元、あなたを突き動かす衝動は、私という入れ物を満たしてくれるのです。
良き友でありたい。
立ち返っているのですね。
ああ、私は感謝しています。感謝しています。
人の何たることか。
私の心に空いた穴。打ち付けられた楔も柔らかく溶かされ、独りでいたことが嘘の様。
俯瞰し達観することで、耐え抜いた辛い日々を感謝いたします。
あなたの見た景色を私もいつか見るのでしょう。
いつも見上げた空のゆく様。雲模様。
自由を求め私は、いつしか孤独を求めてしまいました。
そして、それの成れの果て。
後悔はしておりません。あなたに出会えたのですから。
嬉しく思います。あなたに答えは受け入れられたのですね。
ビュンと、滑空し、飛んでゆく燕の様も。
ざわつく場所であっても。
あなたは受け入れられてるのです。
私の希望。
満たされるのが怖いですか。
ええ、たしかに怖い。怖い。
透明で、それでいて、淡い光は伝えてくれます。
今までが。今までの自分も。
尊いあなたの一部なのですよ。
全てを内包し慈しんでくれるあなたが。
わかっています。わかっております。
しんしんと、冷えるこの世界ですらも、熱い熱い核をもって存在しているのですから。
新しい世界へ旅立とう。
そう、思うのです。
ジジッっと真空管が鳴り、爆ぜる。
顔を両手でかきむしりながら、景色が歪む。
淡く、赤く鉄臭い液体が噴き出てくる。
少し、しょっぱい味が口腔をくすぐり始める。
ああ、俯瞰し眺めている自分が悲しそうに嘆いている。
私はいけない子なのです。
これではいけないと。自分が自分を巻き戻し始める。
灯台から眺める景色。
これは夢の中。
白いワンピースの少女。
それが私。
年端も行かない女の子。
それが今。
閉じ込められている。
遠い海の上、鳥が羽ばたきながら飛んでいる。
私は今どこ。
何をしているの。
私は教室の中。
車いすに乗りながら遊んでいる少女。
アリス。それが私の名前。
黒板の前で遊んでいるの。
楽しい。
でも、他の人はいないの。
でも寂しくないの。
不思議なことだけど。
これも夢の中。
なんで私はここにいるの。
ふと、音像がぼやけ、滲み、離れてゆく。
上官に命令され、監獄された囚人の後頭部に銃を突きつける。
ふるえる指と、吹き出す汗に打ち勝てずに、弾を放つ。
私は父を殺したのだ。
そして、父に食われ、蝕まれ、生きている。
上官は、母。
そう、こうして生まれたのだ。
嘲笑が聞こえてくる。
ああ、笑えばいいさ。
罪の意識はぬぐえない。
罪の連鎖は続いている。
罰ともいうべきそれは常に見つめている。
失った半眼で、にらみつけている。
5人、馬に乗り、走り抜けている。
無頼の輩というやつだ。
壊し、殺し、奪い、犯し尽くした。
呵責などなかった。
自由気ままその5人は家族であった。
全ては5人できていると思うほど。
夢の中。夢の中。
体が動かない。
内側から膨張し這うそれは。
体を食い破りながら。
無数に増殖しながら、喰らう、私を喰らってゆく。
痛みとともに痺れを増して。
私は消えてゆく。
いくつもの刀で切りかかられる。
抗えずに熱い痛みが直線に走っていく。
これは夢の中。夢の中。
刺され、斬られ、そしてある一瞬から抗いだす私の自我。
刀を掴みながら折ってゆく。
折り続ける。
祈るように。
六つの翼。
純白の羽が舞う。
包まれながら、眠る君。
もうずっと眠っているね。
吐息は、とても心地いい。
これでは、起こすこともできないよ。
すごく素敵な鼓動を聴いているよ。
これも夢の中、夢の中。
急にこだまする罵倒と嘲笑。
私は、夢を見ているのだろうか。
今まさに目の前に居る者と会話をしている。
ざわつく。ざわめき、ひどく何かが摩耗し消耗してゆく。
有線から流れてくる曲が、私を揺さぶり、気づくと涙を流してしまっていた。
これも夢の中。夢であってほしい、だが現実だった。
私は壊れてしまった。
壊れてきている、そうに違いないのだろう。
靄がかかっている。
ひどく周波数があっている。
これも夢。
そう、夢のごとき現実。
靄は、行き交い、人と人をつないでいた。
たしかにそこに何かがつながっていた。
胸の内が見透かされてるかのように。
胸が痛む。
周りの想いに耐えられそうもない。
自我を保つために殻にこもってゆく。
さらさらと、流されながら。
その頃には、子供の頃に描いた万能感は、とっくに失っていた。
これでいいのだろう。
壊れた人形のように、壁にもたれかかり、今にも倒れかけていよう。
道化としての役目も、もう果たしてしまった。
そして、存在は淘汰されてゆく。
君は誰。
俯瞰し見続けていた自分に、ためらいもなく話しかけてくる。
蝋燭の光がひどく淡く感じられる。
見つめてくる君は興味津々なのだろう。
目の前にある水晶玉に歪み映る少女。
フフフと微笑みかけている。
軽やかに意識は沈降したのち、緩やかな螺旋階段を上ってゆく。
繰り返されてゆく。
ひたすらに。
自分がどこまで登ってきたのかさえ、わからなくなってきている。
無意識でふさいでいた耳が、音を拾い始める。
いくつもの音が交錯し、メロディを奏でることもなく、淡く、切なく消えてゆく。
戦車が怒号しながら雄々しくキャタピラの音をさせている。
次第に爆発音がこだましてくる。
耳は、すでに、機能しなくなってしまっている。
一つの感覚が閉ざされ、よりほかの感覚が生々しく、発露してくる。
粉塵、弾は、飛び交い、辺りを壊し、蹂躙している。
恐怖感すら麻痺し、頭を射抜かれた兵士が隣に横たわっている。
そうではない。
これが現実。
頭の中でぶわっと沸き上がる声が、私を支配してしまう。
町の人が、怒鳴り散らしながら、物を奪い合っている。
その光景を無意識で許容していることが、さらに怖い。
どうにかなってしまいそうな神経をつなぎ留めながら、前へと進む。
ふと光ったと思ったら意識は闇へ。
私は額を射抜かれてしまったようだ。
巻き戻されるかのように人形のように崩れ落ちてゆく自分を見ながら、旅だった。
あなたの求めているものはここにある。
私の求めているものと同じではないけれど。
そして、それは、優しく語りかけてくる。
命の脈動。
胎児のようなものが、映像で差し込まれ、光の中へ。
ひたすら静かで、暗い。
青白い光が揺らぎ、燃えている。
彫像のように立つ年輩の男が、言い放つ。
おかえり、と。
立ち返りなさい。立ち返りなさい。
あなたは今どこにいる。
そして私はどうなった。
波に飲み込まれそうにながら、朦朧としながら。
答えはそこに。
もうどうでもよくなったかのように、つらつらと言葉が紡がれてゆく。
私は死んだ。そして、託し受け継ぐものに、言葉を伝え、消えてゆく。
ああ、消えてゆく。
霧のように払われてゆく。
これも夢の中。
私は、自分の意識すらも、支配できず揺れている。
ああ、こうしている間にいくつもの命が消えて行くのであろうか。
戻らなければ。だがその場から動けない。
とめどなくあふれて滴り落ちる涙が、床を濡らし、それでも足らずに流れてゆく。
決して悔いてなどいない。
だが、溢れる想いは、とめどなく頬を濡らす。
いつ、眠りから覚められるのであろう。
私は何になろうとしたのだろうか。
互いに認め合い、上へと行きたかった。
それだけだった。
ただ、それだけであった。
次こそは。次こそは。
ああ、この想いを果たしてくれ。
私は、生きている。
あなたの中で息づいている。
覚えていておくれ。
この世界も、新たな世界もなく、もう終わっているのだから。
もう、終わっているのだから。
夢から、いつか目覚めることを望んでいるよ。
この上なく愛しい者たちへ。
私は愛しい。
そのものを愛せることが。
旅は終わりを告げる。
等しく涙を残しながら。
(終)