無謀な2人
凍りついた湖はとても平らで、雪もあまり積もっておらず視界もよかった。
「アレックス、着陸するよ。」
「おう。 それで俺はなにをすればいいんだ」
「ではまずは、火をきろう」
アレックスは指示通りにバーナーをきった。
ぼくは気球のバルーンの栓の役割をしている蓋を開けた。
紐を引けば開く仕組みになっていた。
浮力を失った気球は徐々に降下していく。
およそ地上50メートル。
そのあたりで丁度湖の上空に入った。
バルーンが小さくなる。
その分だけ落下速度は上がる。
「エリオット、着地の衝撃に備えろ」
氷上およそ20メートル。
ゴンドラにしがみつく。
気球は加速する。
氷が近くに見える
だいたい蒸気機関車ほどの速さに感じる。
氷上およそ5メートル。
「踏ん張れぇ。」
アレックスは叫んだ。
僕は必死にゴンドラに掴まった。
歯を食いしばり、必死にゴンドラを摑んでいた。
つもりだった………
バリバリバリ
あまりの衝撃で視界が真っ白になる。
僕はゴンドラの外に放り出される。
二回か三回か、もしくはもっと転がったかもしれない。全身を氷に叩きつけられる。
足に力を入れる。
仰向きになって回転の勢いは止まった。
だが、高速で氷の上を滑る。
進行方向を見た。
氷が隆起している。
「ダメダメダメダメ 止まれっ!!」
足に力を入れる、
体が隆起した氷の上を通る。
軽々と飛ばされる。
受け身を取ることも出来ず、背中から落ちる。
「かはっッ!」
肺の中の空気がすべて抜ける感覚。
だが、次の空気が入っていかない。
五秒ほど呼吸が止まる。
「ヒュー ヒュー」
呼吸を落ち着かせる。
一分ほどしたあと上体だけを起こす。
「アレックスは、どこに。」
滑ってきた方を見た。
気球が墜ちている。
バルーンはまだ半分ほど空気が入っていた。
だがアレックスの姿がない。
「アレックス………」
僕は静かに俯いた。
「おいエリオット、まだ俺は死んでないぞ。」
僕の後ろで声がする。
どうやらアレックスは僕よりも遠くへ飛ばされていたようだ。
「あんなの耐えれるわけないだろ……ほんとバカなことしたぜ。」
「そうだねアレックス。でもこういうの案外嫌いじゃないよ。」
「ふふっ、そうかよ。筋金入りのバカだな。」
「それならアレックスもだろう。」
ふたりの笑い声は雪山に吸い込まれていった。