寒さの極み
浮上してゆく気球はミシミシと音を立て始める。
「聞こえるかエリオット、何の音だろう」
「凍結しているんだ」
ゴンドラが凍ってゆく。
アレックスは最悪の事態を想像した。
「もしバルーンが凍りついて、穴でも開いたら………」
「落ち着けアレックス、バルーンの中はバーナーで暖められている。」
「そりゃそうか、」
「だけど……俺たちの方がマズいかも。」
寒さでの痛手はバルーンよりも身近な所にあった。
「寒い……」
今は何度まで気温が下がってしまったのか、
指先が割れそうなほど痛い。
髪の毛が凍りつく。まぶたが重い。
その上、上空は風がある。
体感温度はマイナス30℃ほどで、
人間の耐えれる限界ぎりぎりだった。
「エリオット、、エリオット、」
アレックスの声で呼び覚ました。
「あれ、俺 、 寝てたのか」
「おい、マジで死んじまうって。」
本当にぎりぎりだった。
命の炎が弱々しくぎりぎり耐えている感じだ。
意識の飛びかける僕に、
アレックスが提案する。
「よくドラマとかでやってる、雪山で遭難したカップルがやってるやつを今試すしかないな。やるか」
「アレック ス…… 抱き 合うなら…… 男同士 は…… いや……だよ…。」
「エリオット、何言ってんだ。抱き合わないぞ。それよりもやるぞ サン ニー イチ 」
スパァーンッッ!!
エリオットの左へほほに衝撃が走る。
そして後から激痛が来た感じだ。
だがアレックスは立て続けに二発目を、
「いくぞ」
「ストップ、ストーーップ」
スパァーンッッ!!
エリオットの停止信号ではアレックスは止まらなかった。
「痛っいって アレックス、何で!!」
「何って寝ないように、ほっぺつねったり、叩いたりしてるのさ」
アレックスは自慢げに言った。
「お前はどんなドラマを見てるんだ!!」
正直アレックスのアホさ加減はついて行けないときがある。
だが、やっることはいつも嘘偽りなく彼が彼自身正しいと思ったことだけだ。そして例外なく今回も……
「ほらぁ、あれだよ。ビックリしたり怒ったりで、寒さなんて忘れてただろ。人間は(痒さ)よりも(寒さ)、(寒さ)よりも(痛さ)を優先するからな。 そんなことより、目的地が見えてきてるぞ。」
アレックスは指を指した。
その震える指で指していたのは、
氷の張られた湖だった。
「本当にあそこなら着陸できるかもしれないな。」
僕は小さく頷いた。