細い勝ち筋
彼は知らずに乗ったわけだが、実は気球での飛行で最も難しく危険なのは、着陸のである。
だが、僕らに着陸以外の選択肢はない。
その上時間ももうわずかなはずだ。
なぜなら………
「アレックス、残りのガスはどれくらいある」
「半分をきってる」
ガスが切れた何も出来ず墜ちるだけだ。
タイムリミットが迫る
僕はこの極限状態で、自分でも驚くほどに冷静だった。
「アレックス、まわりで開けていて平らな地面は無いか探してくれ。 なるべく岩の近くや木がある所は避けてくれ。危険だ」
着陸のポイントを探す用にアレックスに指示をだす。
アレックスは安全なポイントを探すため、目をこらす。
「エリオット、あそこの池はどうだ」
「なるべく進行方向を探してくれ」
気球での着陸が難しい理由の一つとして、風の方向にしか進めないということだ。
例えばの話だが、右にしか曲がれない車は左へ曲がれない。
当たり前だが、風の方向にしか進めない気球は風の方向以外に進むことは出来ない。
その上、気球にはブレーキもアクセルもついていない。
「進行方向には山しかないぜ」
「その山を越えよう」
一瞬の沈黙
「エリオット、何言ってんだ。着陸しないとガス切れて操作不能になるぞ。」
アレックスは少し驚いていた。
僕はアレックスに伝えた。
「あの二つの山はミッテルホルンとシュレックホルンだ。その先にはいくつか湖がある。」
エリオットはその中でもトーテン湖に着陸しようと考えていた。水面標高2000越えで真冬であれば表面はおそらく……
「おそらく凍結している。」
他の湖はとても広い、だがトーテン湖は広さも深さもちょうどよい。
エリオットは確信した。
「まずは空のタンクを捨てよう。重りになるもののすべてだ。」
気球は軽くなり、浮上し始めた。
ガスを無駄遣いせず、上昇できるメリットは大きい。
落ちてゆくタンクがとてもゆっくりと見えたのは、僕だけじゃなかったと思う。