表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第1エター テンプレ異世界物語
5/43

第5話 神殿

「今夜は遠慮しないで食べられるね」

「はい、遠慮なく食べます。でも飲みません」

「こんな素晴らしい日にビールも飲めないなんて、リィヴは人生の半分損してるな」

「損した半分は他に楽しみを見つけるようにしますよ」


 ニレの宿屋1階の食堂で、俺達は今日の成果を祝っていた。

 今日の成果はサンディさん達にとって、1日の稼ぎとしてはもちろん過去最高である。

 しかも、リュックにはまだ小魔石が8個も入っている。


 今朝は戸惑いを見せていたサンディさんも、実際に成果が上がるとやっぱり嬉しそうだ。

 成果が上がればテラの家に仕送りできる。

 多くを仕送りできれば、子供達の生活が豊かになる。


 祝いの食事をしながら、どうして生活の糧を得るのに魔石狩りを選んだのか聞いてみた。

 他にも仕事はありそうなもんだからね。


「私達は18歳の時に結婚して、それから働いたことなんて無かったからね。私達みたいなのを雇ってくれるとしたら、本当に安い賃金で働くしかないわ。それなら夫がしていた魔石狩りをしてみようって思えたの」

「それに浅瀬での魔石狩りは、ちゃんと注意事項を守れば危険は少ない。ま、そんなこと言っても悪魔みたいなのが数十年に一度現れるんだけどな」

「ほんと災難よね……」


 またちょっとしんみりしてしまった。


「しかしギルドも知らなかったな。小魔石100個で最下級魔石1個分の魔力ってこと」

「何かを隠している感じもしなかったわね。ま~受付の人が知らないだけかもしれないけど。振ってみた話も、小魔石100個で魔貨と交換出来たりしますか? だったしね」

「そういえば、最下級魔石って1個いくらになるんですか?」

「100万ゼニよ」


 あ、あれ?

 たったの100万ゼニ?

 小魔石が1個10万ゼニだから、魔力量からすると1000万ゼニのはずなのに。


「ちなみに、下級魔石は1個500万ゼニで、中級魔石は1個1000万ゼニだったはずよ」


 これまた魔力量と金額は比例していない。


「実は探索者にとって魔石狩りの最終地点って最下層であることがほとんどなの」

「え? 下層には行かないんですか?」

「下層からはね、私達ミズガルズの人間が行くには本当に危険な場所なの。中には下層の入り口付近に下級魔石が運良くないかって見に行ってしまう探索者もいるんだけど、ほとんどが戻ってこれないわ」

「オレ達が生きていくためだけのゼニを得るなら浅瀬で十分。経験と知識と装備が整えば最下層で稼ぐことも可能だ。でも下層に行くような奴らはゼニが目的なんじゃなくて、危険な場所に挑みたいって馬鹿な奴らだ」

「そうね。人々の暮らしを豊かにするための生活魔道具も、ほとんどが小魔石と最下級魔石で作られているからね。下級魔石とか別にいらないのよね」


 ミズガルズの人達にとっての魔石と、エインヘルアルにとっての魔石は価値が違うんだろうな。


「下層の魔獣って魔石を持たない人でも必ず襲うんですか?」

「聞いたところによるとそうでもないらしい。ただ、聖樹の根元に下級魔石が生えていたら、だいたい魔獣が見張って潜んでいるそうだ。その下級魔石を狙ってやってくる魔獣を殺すために」

「運良く見つけた下級魔石を取ろうとしたら、罠を張っていた魔獣の怒りに触れて殺されちゃうってわけ。魔獣からしたら人間なんて殺しても食べられないから意味ないんでしょうけどね」


 む~下層から先は本当に恐ろしい領域のようだ。

 いずれ俺は下層に進まなくてはいけないのだろう。

 元の世界に戻るためにも、神玉を集めなくちゃいけないしね。

 この情報はテラの神殿に行ってみないと分からないことが多すぎるな。


「最下級魔石を魔貨に交換するといくらになるんですか?」

「1魔貨だね。そういえば、魔貨との交換率はリィヴが教えてくれた魔力量に比例するわ。下級魔石は100魔貨だったはずよ。中級魔石はちょっと覚えてないけど」


 こちらは魔力比例か。

 魔道具の中でも戦闘魔道具と呼ばれるものが、主に魔貨で買う魔道具だ。

 探索者で戦闘魔道具を求める人は、きっとリタさんが言っていた危険な場所に挑みたい探索者なのだろう。


「とりあえず、明日はリィヴの探索者登録用の身分証明書を作りましょう」

「ああ、そうだな」

「身分証明書って作れるんですか?」

「まぁ……そういう裏の人がいるのよ」

「探索者は犯罪履歴があると登録出来ないんだ。でも生活が苦しくて盗みの罪を犯してしまった者が探索者になろうとしたら?」

「なるほど……」


 やっぱりちょっとよろしくない方法だったみたいだけど、俺は別に構わない。

 登録出来ればなんでもいいや。


「リィヴは明日どうする?」

「え? 俺は一緒に行かなくていいんですか? 俺の身分証明書なのに」

「逆にいない方がいいかも。ぼろが出てエインヘルアルだってばれたら困るし」

「確かに。身元保証はオレとサンディの正規の身分証明書を持っていけば問題ないだろう。あとはオレ達が上手く話を通せるかどうかだな」

「うん。リィヴは私の本当の弟だってことにしておくね」


 おお、偽造だけどサンディさんと本当に姉弟の関係に!


「ま、ギルドも偽造の身分証明書だって分かって登録するんだけどな」

「あれ?」

「ギルドも馬鹿じゃないから。それに偽造も本物を作れるわけじゃないからね。探索者登録用の身分証明書を偽造する人達も、本当の悪人に対しては作ってあげないの。ま、そういう人達のための場所もまたあるんだろうけど」

「オレ達が身元を保証するから問題ないよ」


 ありがたい。

 これで魔法袋のことを隠しながら、ゼニを稼ぐことが出来る。


 でも神殿に行ってみないと、エインヘルアルにとってゼニがどれだけ重要なのか分からないか。

 やっぱり戦闘魔道具を揃えていかないと、下層とか中層とか無理なんだろうな。

 それに神玉を集めるために、ミズガルズ以外の世界にも行かないといけないし。


 うむ、神殿に行こう。

 そうしよう。

 そこで知らなくてはいけない情報があるはずだ!


「じゃ~俺は明日、テラの神殿に行ってみます」

「お、ついに行くのか」

「そうね。普通なら私達なんかに付き合わないで、すぐに神殿に行くのが当たり前だもんね」

「神殿でいろいろ情報を聞いてこようと思います」

「神殿に行ってリィヴが強くなるのは、オレ達にとっても嬉しいことだからな」

「うん。そして私達も強くなって、リィヴと一緒に最下層に行けるといいわね」

「はい! 絶対一緒に行きましょう!」


 おお! サンディさん達と一緒に最下層!

 これは燃える! 俺は絶対強くなるぞ!


 今日もまたサンディさんとリタさんが、ほろ酔いから酔っ払いに変わる頃にマリアさんがやってきてお開きとなった。

 2人はマリアさんに連れられて部屋に戻っていったのであった。



 そして俺も部屋に戻り風呂に入る。

 さっぱりすると、Tシャツとパンツ姿でベッドの上に寝転がる。

 明日はいよいよテラか。

 ルーン王国の王都で、ここカリーンよりずっと発展しているそうだ。

 サンディさん達の家の住所も教えてもらったけど、お土産持っていく時間あるかな。

 明日の夕方には戻ってきて、探索者ギルドで登録を済ませておきたいし。


 神殿で得られる情報によっては、俺の行動も変わってくるかもしれない。

 サンディさん達を助ける……というと何か偉そうだけど、サンディさん達と一緒に強くなっていきたいって想いは変わらないけど、俺は俺で元の世界に戻るためにやらなくちゃいけないことがある。

 簡単に言えば強くなることなんだけどね。


 刻んでもらった戦術の最下級の槌術と盾術。

 頭に浮かんでくる動きのイメージを、身体が覚えるように鍛錬していかないと。

 闘気の使い方にも慣れたいな。

 身体能力が一気に跳ね上がるから、動きの感覚がずれるだろうし。


 とにかく魔法袋を使って魔石を集めまくる。

 ゼニに変える分以外は、俺の成長のために吸収だな。

 あ、魔法袋にも食べさせてあげないといけないか。


 そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 誰だろう?

 ってサンディさんかリタさんしかない。

 酔っぱらって絡みに来たのかな?


「はいは~い。ちょっと待って下さいね」


 部屋着用に買った服を着てドアを開けた。

 ドアの先に立っていたのは、2人のどちらでもなかった。


「あらあら~、ちょっとお邪魔していいかしら?」


 マリアさんだった。




「部屋はどうかしら? サンディちゃん達から聞いているかもしれないけど、これだけ快適に過ごせる部屋はなかなか無いのよ?」

「は、はい! すごく快適です! もう本当に素晴らしい部屋です!」

「あらあら~、そう言ってもらえると嬉しいわ」


 にこにこ笑顔のマリアさんが、俺の部屋にいる。

 なぜだ?

 なんでだ?


 部屋の広さは1人部屋用とあって、それほど広くない。

 マリアさんが1つだけある椅子に座ったので、俺は自然とベッドに腰掛けている。

 なんかドキドキしちゃうな。


 改めて見るとマリアさんは本当に完璧な大人の女性だ。

 今日は濃い朱色のドレスを着ている。

 あいかわらずドレスを今にも破りそうな膨らみだな。

 あ、やばい。

 胸を見る男の視線ってすぐに気付かれるんだっけ。

 あれ? そう考えるとサンディさんやリタさんの胸を見ているのってばれてるのかな?


「あらあら~? どうしました?」

「あ、いえ! なんでもないです! それよりその……何か用が?」

「うふふ、私とお話するのは嫌です?」

「い、いえ! そんなことないです! むしろ嬉しいです!」

「よかった。嫌われていたらどうしようかと思ったわ~」


 にこにこ笑顔のマリアさん。

 その笑顔は眩しいけど、本当に何の用なんだろう。


「今日はサンディちゃん達、上手く魔石を取ってこれて良かったわね~。やっぱりリィヴ君が来てくれたから、やる気が出たのかしら?」

「え? ええ、そ、そうかもしれませんね」

「リィヴ君もサンディちゃん達と一緒に魔石狩りしたのよね?」


 ぐっ……まずい。

 マリアさんは魔石狩り初心者の俺を心配して来てくれたのか?

 サンディさん達もマリアさんからいろいろアドバイスをもらったそうだ。

 マリアさんは魔道具技師であると同時に探索者でもある。

 探索者の方は引退したらしけど、現役の頃は最下層で魔石狩りをしていたとか。

 その経験を俺に伝えようとしているのか。


 でもそれはまずい。

 話すといろいろぼろが出そうでまずい。

 俺との話を、後でマリアさんがサンディさん達と話すと、話の辻褄が合わないことが出てきてしまう。

 これはまずいぞ。


「は、はい。その、今日は見ているだけでしたけど……」


 あとでサンディさん達に、俺がマリアさんに何て話したのか全部伝えないと!


「あらあら~、そうだったの。でもリィヴ君ってなかなか強そうだから、魔獣とも戦えるのかと思っちゃったわ」

「ええ!? む、無理ですよ! 魔獣と戦うなんて!」

「うふふ、でもリィヴ君ならすぐに戦えるようになるわ」

「そ、そうですか?」

「ええ、私が保証しちゃう。リィヴ君は絶対に強くなる」


 おお! マリアさんのお墨付きをもらったぞ!

 俺ってもしかして才能あるように見えるのかな?



「だって、戦術で強くなるでしょ?」

「…………え?」


 いま、な、なんと?


「リィヴ君は戦術で強くなるでしょ? それに闘気もあるし」

「…………あ、あの」

「確か最初2つの最下級戦術を刻んでいるはずよね。槌と盾を持っていたから、槌術と盾術かしら?」

「あ、いえ、その……」

「戦術は過信しちゃだめよ。鍛錬が大事だからね。焦らず毎日鍛錬を続けるのよ」

「……は、はい」

「うんうん、リィヴ君は素直で良い子ね~」


 マリアさんは椅子から立ち上がると、ベッドの俺の隣に腰掛ける。

 距離が近い。

 すごく良い匂いがするけど、俺の背中は冷や汗でびっしょりだ。


「あらあら~。もしかして……気付かれていないと思ってた?」

「あの……はい」

「うふふ~。可愛いんだから~。サンディちゃん達も詰めが甘いわね~」

「えっと、なんで分かったんですか?」


 黒目黒髪ではないはずだ。

 カーリアの街を歩いていても、俺と同じ黒目黒髪の人達はいた。

 サンディさん達も珍しくないって言っていたし。


「教えて欲しい?」

「あ、いえ……その」


 マリアさんの胸が俺の腕に押しつけられた。

 や、柔らかい。

 すんげ~柔らかいんですけど!


「教えたら、私の質問にも1つ正直に答えてくれる?」

「え、その……いや、あの」


 さらに胸が強く押し付けられてくる。

 ドレスの中にある柔らかいマシュマロが形を変えるほどに。


「うふふ~。財布魔石よ。今朝、宿を出る時に宿代を払ったでしょ? その時にリィヴ君が持っていた財布魔石が最下級魔石だったじゃない。テラから来たばかりの子が最下級の財布魔石を持っているなんてあり得ないわ。

 探索者登録する時に買う財布魔石は小魔石よ。

 初めから最下級の財布魔石を持っているのは、異世界のエインヘルアルだけ」


 し、しまった~!

 シーラからもらった財布魔石を当然のように使っていたけど、これ最下級魔石じゃん!

 普通持ってるわけないですよね!


「あらあら~本当に可愛い。そんな顔されたら、ぞくぞくしちゃうじゃない」

「え、ええ?」

「サンディちゃんと昨日したの?」

「な、何をですか?」

「あらあら~、まだなのね。でも昨日会ったばかりなら仕方ないかな。サンディちゃんより先に私が食べちゃったら、サンディちゃん怒るかしら? あ、それにリタちゃんもいるわね。あらあら~順番待ち?」

「あ、あの本当に何を」


 腕に押しつけられた柔らかい感触が上下に動き始めた。

 固まる俺の耳元で、マリアさんは妖艶な声で喋り続ける。


「さて、今度は私が質問する番ね。あ、さっきのは違うわよ。リィヴ君を食べてもいいのかどうかの確認だっただけだから」


 食べて良かったら食べるつもりだったの!?



「では質問です。どうやって魔石を持ち帰ったの? 何か特別な方法があったのかしら?」



 うぐっ……いきなりそれですか。

 最も秘密にしたいことを聞かれてしまった。

 どうしよう……この状況をどうしたらいいんだ!?


「嘘はだめよ~。あ、私が異世界のエインヘルアル嫌いだってサンディちゃんから聞いてるでしょ? あれね~、確かに私は異世界のエインヘルアルが嫌いだけど、それにはちゃんと理由があってね。別にリィヴ君のことは嫌いじゃないわ」


 あれ? 俺はいいの?


「サンディちゃん達を助けてくれようとしたんでしょ? 私、優しいエインヘルアルは好きよ。リィヴ君がこれからもサンディちゃん達を助けてくれるなら、この部屋もずっと使っていいわよ」


 おお! も、もしかして、今そんなに悪い状況じゃない?

 俺てっきり、マリアさんに殺されちゃうのかと思ったよ。

 ま~死んでも生き返るんだけどね。


「うふふ、だから~。正直に質問に答えてくれると嬉しいな。私もリィヴ君と良好な関係を築いていきたいと思っているのよ~」


 俺の答えを待つ間、マリアさんのマシュマロは上下にゆっくりと動く。

 その誘惑はあまりに強烈でこのままずっと動いてもらいたいという願望が、俺の思考を妨げる。


「そ、その……ちょ、ちょっとした特殊な能力があって」

「うんうん」

「俺……その……効率的に魔石を集められるんです」

「うんうん。それはどうやって?」


 ぐはっ! その先を聞いちゃうんですか!?


「あ、いえ、その……それは……」

「うふふ~まだ言いたくない段階なのか、状況なのか。それとも私の信頼が足りないのかな? う~ん、やっぱり食べちゃって信頼度を高め合っちゃおうか?」

「はひぃ!?」

「お望みなら、私は全然構わないんだけどな~。でもやっぱりサンディちゃんが怒っちゃうかな。だから私の秘密を1つリィヴ君に教えてあげることで、私への信頼を高めてくれると嬉しんだけど」


 秘密?


「私がどうしてこんなことしているのか。それはね、魔石が欲しいの。しかも上級以上の魔石が」


 上級魔石!? しかも以上って最上級魔石も!?


「私ね……どうしても殺したい相手がいるの。でもその相手が強くてね。今よりもっと強力な戦闘魔道具が必要なの。だから、リィヴ君が優しいエインヘルアルで、さらに特殊な能力があるなら……私のこともサンディちゃん達みたいに助けて欲しんだけどな~」


 うお! 一気に危ない話になっちゃったよ。

 こんな妖艶な女性に殺したいって思われる人ってどんな人なんだ。

 そもそも人なのか? 悪魔?


 どうする? 魔法袋のことを言うべきか?

 いやいや、いくら何でもそれは……。

 いまマリアさんが知りたい核心部分だけ伝えるべきだ。


「え、えっと。俺が魔石を持っていても、魔獣は反応してこないんです」

「あらあら~、それはすごいわね。でも、どうして?」

「そういう能力なんです」

「……うふふ、そういう能力なのね。分かったわ。話してくれてありがとう。サンディちゃん達はそのこと知っているの?」

「いえ、知りません。サンディさん達とは魔石狩りは別行動なので、俺がどんな風に魔石を集めているのか知りません。効率的に魔石を集めることが出来る特殊な能力がある、とだけ伝えています」

「分かったわ。私も余計なことは言わないから」


 マリアさんの雰囲気がエロティックだけど迫りくるような圧迫感が消えて、柔らかく優しい雰囲気になった。

 あいかわらず柔らかいマシュマロは形を変えるほどに押しつけられているけど。


「リィヴ君の能力を知っているエインヘルアルはいるの?」

「いえ、いません。そもそも俺って神殿にまだ行っていないし、エインヘルアルの知り合いとかいませんから」

「あらあら~、まだ神殿に行っていないのね。ミズガルズに降りて本当にすぐにサンディちゃん達と知り合ったのね」

「はい。サンディさん達が、男3人組のエインヘルアルと揉めていて、そいつらがサンディさん達をころ……その……攻撃していたので……」

「いいのよ、言葉に気を使わなくても。さっきも言ったけど、リィヴ君のことは嫌いじゃないから。神殿に染まったエインヘルアルは嫌いだけど」

「は、はい。サンディさん達が殺されそうだったので、闘気を使って後ろからそいつらを攻撃したんです。そしたら自分でも驚いちゃったんですけど、そいつら真っ二つになったんですよ」

「あらあら~。闘気は強力よね。私も欲しいわ。闘気の理をリィヴ君知らない? あ……リィヴ君の心臓を見たら分かるのかな?」

「ええ!?」


 俺の心臓を……見る?


「くすくす。冗談よ。冗談。ほんのちょっと本気だったけど」


 怖い! マリアさん怖い!


「神殿に行ったら気を付けてね。神の名を借りた狸がたくさんいるから」

「狸ですか……」

「うふふ、自分の目で見て耳で聞いて、そして心で感じてきてね。リィヴ君の心が清らかでありますように」


 マリアさんは俺の頬に軽くキスをするとベッドから立ち上がった。


「リィヴ君の能力が知れて有意義な夜だったわ。しばらくはサンディちゃん達と一緒に頑張ってね。時が来ればまた私から逢いにくるわ。おやすみなさい」

「あ、はい……おやすみなさい」


 バタンとドアが閉まれば自動で鍵が閉まる。

 静けさを取り戻した部屋の中に、身体が熱く硬くなった俺が独り。


「冷たいシャワーでも浴びてくるか……」




「では、こちらにお乗りください」


 翌日、予定通り俺はテラに向かうことにした。

 瞬間移動石がある建物に向かい、中にいた男に異世界からきたエインヘルアルで初めてです、と伝えると定型文のような説明をしてくれた。

 魔法袋のことを隠すために、ちゃんと槌と盾は手に持っている。


 瞬間移動石は俺よりも大きな魔石だった。

 でかい。

 すんげ~でかい。

 これが最上級魔石か?


 瞬間移動石の前に立つと、神官のような男の人が何かを唱えた。

 俺には理解できない言葉、ルーン語だな。

 すると光りの奔流が俺を魔石の中に吸い込むように流れ始めた。

 この感じは覚えがある。

 シーラが俺を聖樹の森に降りしてくれた時と同じだ。

 その光り流れに乗るように、俺は石の中に吸い込まれていった。




「う~んと? 初めての方かな?」


 意識が戻ると、さきほどと似た部屋の中に立っていた。

 違うのは部屋にいる人が違う。

 さっきは男だったけど、女の人がそこにいた。


「はい、初めてです。名前はリィヴです」

「は~い。ではいま案内係りを連れて参りますので、少々お待ちください」


 こっちにも魔石。

 瞬間移動の魔道具には魔石が2つ必要なのか。


「お待たせしました、リィヴ様。案内役のケビンと申します。どうぞ、こちらへ」


 やってきたのはケビンという名前の若い男性だった。

 この人も神官のような服を着ている。

 神殿関係者なんだろうけど、エインヘルアルじゃないっぽい。

 たぶんミズガルズの人だ。


「あの、この魔石って最上級魔石ですか?」

「こちらの瞬間移動石ですか? いえいえ、違います。これは上級魔石を10個合わせたものになります」


 なんと! この大きさで上級魔石なのか。

 最上級魔石ってどんだけ大きいんだよ。


 ケビンさんに連れられて部屋の外に出てみると。


「おおお!!」

「ようこそ、王都テラへ。そして神の戦士エインヘルアルの神殿へ」


 部屋の外に出てみると、大きなガラスの壁があった。

 そして俺のいる場所から王都テラが一望できたのだ。

 高い。

 いま俺がいる場所はものすごく高い。

 そしてこの建物が神殿なのか。

 中にいるからどんな外観か分からないけど、王都の街並みを一望できるほど高い建物なのだろう。


 ルーン王国王都テラ。

 カーリアより少し発展しているぐらいを想像していたけど、とんでもない!

 全然違う!


 街並みは美しく、建物はどれも高い。

 もちろん俺のいる神殿の方が高いんだろうけど。

 何ていうか……近代的?

 封印されていない元の世界の記憶から、そんな言葉が思い浮んだ。


 見下ろすと、これまた綺麗に整備された幅の広い道が見える。

 そしてその道を走っているある物が見えた。

 あれ……車だよな?

 形はちょっと違うけど、間違いなく車だ。

 数はかなり少ないのか、見える距離から確認できるのは2台だけだ。

 それに、ここからだと距離が離れすぎていてよく分からないが、スピードがかなり遅いように見える。

 車の動力源は魔石か?


 俺が物珍しく巨大なガラスの壁からテラの街並みを見ていると、ケビンさんはにこにこ笑顔で時々「あれは」といろいろ説明をしてくれる。

 おそらく何度も異世界からのエインヘルアルに説明しているのだろう。

 疑問に思う点が同じだから、これを説明してあげればいいと分かるのか。


「こちらでございます」


 ケビンさんに連れられて1つの部屋に入った。

 そこは……誰かが生活するための1人部屋のような造りをしていた。

 だってベッドとかあるし。


「こちらがリィヴ様のお部屋になります」

「俺の部屋?」

「はい。神の戦士エインヘルアルには部屋が1つ与えられます。もちろん無料ですのでご心配なさらないで下さい。また食事も神殿の食堂なら全て無料でございます。服なども全て無料ですので服屋でお気に召したものがございましたら、ご自由にお使い下さい。お部屋の掃除はリィヴ様が魔石狩りに出掛けられている際にさせて頂きます」


 おいおい、至り尽くせりだな。

 全部無料かよ。


「もしかして、俺ってゼニは必要ない?」

「神殿内で生活されるのであれば不要となります。街に降りて遊ばれる場合はゼニが必要となりますので、そちらはリィヴ様ご自身が魔石狩りでゼニを獲得して遊ばれて下さい。ですが、神の戦士エインヘルアルの目的は、主神オーディン様の神玉を集めることです。あまり遊びに夢中になられるのは感心致しません」

「で、ですよね」

「はい。リィヴ様は真面目な方だと印象を受けました。是非ともルーン王国のため、この世界のため、そしてリィヴ様が元の世界に戻られるためにも、強さを求めて神玉を集められますことを願います」

「は、はい」


 あ、あれ~? なんかすげ~真面目な人なんだけど。

 サンディさん、リタさん、マリアさんの言葉から、何かどろどろした場所を想像していただけに、ちょっと意外だ。

 それとも、このケビンって人が異常に真面目なのか?


「ケビンさんは神殿に勤めて長いんですか?」

「い、いえ……実は私はまだ3ヶ月の新人でございます。ですがリィヴ様への説明で至らない点はないかと思うのですが……」


 あ、あれ? なんか一気に怯えちゃったぞ?

 こんだけ若いんだからベテランだとはこっちも思っていないんだけどな。


「あ、いえ。別に不満とか何もないです。ただずいぶん若く見えたので、ちょっと興味があって聞いただけです」

「そ、そうでしたか」


 ケビンさんは、心底ほっとした様子だ。


「それに俺こそミズガルズに降りたばかりの新人エインヘルアルですから」

「神の戦士エインヘルアルはみな偉大な御方です。私達をいつの日か神の地アースガルズに導いて下さるのですから」


 なんかすごい違和感だ。

 ケビンさんは好青年に見えるし、説明も丁寧だし、俺を敬ってくれているようにも見える。

 でも何か引っかかる。

 何ていうか……ごますり接待を受けているような感じだ。


「えっと、神殿内で服が無料って言っていましたけど、武器とか防具とかも無料でもらえるのでしょうか?」

「いえ、武器や防具は違います。そもそもリィヴ様がお持ちの武器や防具は『最下級』のはずです。それは聖樹の森の最下層でも十分に使える物でございます」


 ふむ、この武器と防具はかなり良い物なんだな。

 あくまでもルーン王国の人達からしたらだろうけど。


「リィヴ様が強くなられるためにも、ご自身の御力で魔石を集める必要がございます。これは神殿で定められた『法律』でございます」


 神殿が俺に魔石を融通してくれて、一気にレベルアップとかないわけね。


「いま神玉ってどのくらい集まっているのですか?」

「1つでございます」

「え?」


 1つ?


「神玉はミズガルズの神玉しかございません。残りの8つの異界からはまだ1つも神玉を手に入れることは出来ておりません」


 え!? まだたった1つも手に入れてないの!?


「神玉の話が出ましたので説明させて頂きます。まず異界の神玉どころか、神の戦士エインヘルアルが到達できた聖樹の森は上層まででございます。最上層に到達できた方はおりません」


 い、いまなんと?


「異界に行くためには、聖樹王の最上層の頂上まで登る必要がございます。そのためまだ異界に行くことが不可能な状況でございます」


 や、やばい。

 これはやばい。

 元の世界に戻るなんて絶望的なんじゃね?


 あれ? でもなんで到達したこともないのに最上層があるとか、そこから異界に行けるとか分かるんだ?

 あ、シーラの説明で最上級魔石の話があったな。

 ヴァルキューレから説明を受けたエインヘルアルがミズガルズの人達にも教えているのだろうか。


「ですが! リィヴ様は本当に幸運な方です!」

「え?」

「二日前に来られた『クロード様』! 奇跡のエインヘルアルが現れたのです!」


 クロード。

 確かシーラが候補にあげていた名前の1つでもあったな。


「強いんですか?」

「今はまだ上層どころか中層も難しいでしょう。ですが、クロード様は主神オーディン様より特別な魔道具を授かっておいでなのです!」



 な、なにぃぃぃぃぃぃ!?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ