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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
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第25話

 突如として消滅してしまった迷宮。

 迷宮の世界が崩れ落ちると、僕達はゴブリンの里に出た。

 そして、いま宙に浮かぶヴァンパイアに僕達は狙われている。


 リリスはヴァンパイアを直視できないほど怯えている。

 僕と違って魔力を感じられるからだろう。

 びくびくと身体を震わせて、その場にしゃがみこんでしまっている。


 宙に浮かぶヴァンパイア。

 見えてくる情報は魔56と、とんでもなく加護が高い。

 しかも始祖ヴァンパイアで名前持ちだ。

 これはもう勝てる気がしない。

 しかし逃げることも不可能だろう。


「うふふ、そんなに怯えないで。私の質問に答えてくれるだけでいいのよ。簡単なことでしょ?」

「そ、そうですね」

「いい子。素直な子は好きよ。でも嘘はだめ。正直に答えてね?」

「は、はい」

「貴方の名前は?」

「……ガイアです」


 いきなり困った質問だ。

 本名は鈴木大地だけど、この世界ではガイアでいってる。

 だからこれは嘘とはいえないはずだ。


「そっちの彼女の名前はリリスちゃんね。さっき貴方が叫んでいたのを聞いたわ。素敵な名前ね……ガイア君がつけたの?」

「そ、そうです」

「ふ~ん……それでガイア君とリリスちゃんはこの迷宮で何をしていたの?」


 何をしていたって、迷宮ですることって魔物を倒すことだろ?

 何でそんな質問が……。


「魔物を倒していました」

「どうして?」

「魔体を強くするために」

「ふ~ん……」


 その『ふ~ん』ってやめて下さい!

 視線も何だか痛いです!

 ドMな世界の扉を開いたら、ご褒美の視線なのかもしれないけど!


「ガイア君の魔体……ちょっと見せてもらっていいかしら?」

「は、はい。どうぞ」


 反論なんて出来るはずもない。

 戦った瞬間、僕達は殺される。

 言う通りにして、見逃してもらうしかない。


 ハンマを出した。

 すると空からすす~っとヴァンパイアが降りてくる。

 羽がなくても魔力で飛んでいるのか?


 ヴァンパイアはハンマに近寄ると、じろじろと観察を始めた。

 しばらくハンマのあちこちを観察すると、最後にじっと瞳を覗きこむ。


「………………ふ~ん」


 またでた! ふ~んばっかりだな!


「さっきみたいに、他の魔体を出してみてくれる?」

「は、はい」


 見ていたのね。

 迷宮の中での戦いを見ていたのね!

 嘘が通じる相手じゃないから、この魔体の能力は? と聞かれたら同じことだったけど。

 ハンマから3体の魔体を出して見せた。

 すると、今度はその3体の魔体をじろじろと観察していく。


 僕は怯えるリリスの肩を抱いて、少しでも落ち着かせようとする。

 今にも失神してしまいそうなほど怯えきってしまっているのだ。


「ふ~ん…………なるほどね」


 おお、今度は『なるほどね』がついた。

 何が分かったんだ? もしかして僕も知らないハンマの正体が分かったとか?

 ヴァンパイアって長生きしてそうだから、いろいろ知ってそうだもんな。

 何歳なんだろう?


「いま、失礼なこと考えたでしょ?」

「い、いえ! ち、ち、ち、違います!」


 いきなりきっと睨み付けてきた。

 うわ~~~怖い、怖すぎる!

 視線だけで殺されそうです!


「それじゃ~次にゴブリンになってもらえるかしら?」

「は、はい」


 逆らわず、ヴァンパイアの目の前でゴブリン化する。


「魔体も出して」

「はい!」


 何だか忠実な部下になった気分だ。

 ゴブリンの魔体も出した。


「……他の魔族にもなれるのよね?」

「はい」

「なら見せてちょうだい」

「はい!」


 オークとインキュバスも見せた。

 ゴブリンと同じく、じろじろと観察された。


「なれる魔族は他にはないの?」

「は、はい。今のところゴブリン、オーク、インキュバスだけです」

「今のところね。どうすればなれる魔族が増えるのかしら?」

「え、えっと。僕もちゃんと分かっていないんですけど、判明しているのは魔体持ちの魔族を倒すと、このハンマがその魔族を吸収するんです。そしたら魔族化できる種族が増えました」

「ハンマって、ガイア君の魔体のことね」

「は、はい」

「ハンマって名前なのね」

「はい。半魔人なので、ハンマって呼んでいます」

「…………ふ~ん」


 まだかな。早く終わらないかな。

 見逃してもらえるのかな。


「ゴブリンとオークの種族は分かるけど、インキュバスの種族はどうやって手に入れたの?」

「え、えっと……その、リ、リリスと……その……」

「リリスちゃんと?」

「その……リリスと初めてした時に手に入れました」

「…………ふ~ん」


 あれ? いまちょっとイラっとしなかった?

 サキュバスと一緒にいるんだから、そりゃ~してるって分かるでしょ!


「女癖の悪さの原因は治ってないみたいね」


 へ?

 女癖の悪さの原因? 治ってない? 何のことだ?


「ま~いいわ。質問は以上よ」

「は、はい」


 ふぅ、終わった。

 思わず安堵の表情を浮かべて、ヴァンパイアを見た。

 ヴァンパイアもにっこりと笑顔を浮かべてくれた。

 これで見逃してもらえる……。


「質問に正直に答えてくれてありがとう」

「いえいえ、それでは僕達はこれで……」

「待ちなさい」


 あ、やっぱり見逃してくれないよね。


「本物かどうかちょっと試させてもらうわ」

「えっと……何をでしょうか?」

「さぁ~何でしょうね。でもすることは簡単なことよ」

「は、はぁ」

「ちょっと殺し合いましょう」


 その瞬間、ヴァンパイアから殺気が放たれた。

 魔力を感じることのない僕でも分かる。

 圧倒的だ。

 ちょっと殺し合うとか無理ですよ。

 瞬殺されて終わりだよ。


「戦わないなら、本当に死ぬわよ?」


 ヴァンパイアは魔体を出していない。

 生身で戦うつもりか?

 戦わないなら死ぬ。

 なら戦うしかない!


「ハンマ!」


 ハンマから3体の魔体を出して……あれ?


「ハンマ? おい、ハンマ……ハンマ!?」

「……」


 動かない。

 ハンマはぴくりとも動かない。

 3体の魔体すら出てこない。

 どういうことだ。さっきは普通に出てきたのに。


「ちょ、ちょっとこれは違うんです!」

「……」


 まずい。

 殺気が納まる気配はない。

 ゴブリン化して戦おう。

 ハンマを戻して……って戻ることすらしないのかよ! どうなっているんだ!?


「……ふん!」


 ハンマに手の平を向けるヴァンパイア。

 すると、ハンマが一気にふっ飛ばされる。

 僕と離れられる20mまで飛ばされたハンマは、そのまま宙吊り状態だ。


 なんで戦わない? 勝てない相手だと分かっているのか?

 僕も勝てるなんて思ってないよ。

 でも戦えばたぶん見逃してもらえるんだ。

 動けよ! 動いてくれハンマ!!


「視えているの? それともそういう風に制御されているのかしら? どちらにしても……気に入らないわね!」


 やばい、ヴァンパイアからの殺気がさらに激しくなった。

 憎悪を感じさせる殺気を放ちながら、あいかわらず意味不明なことを言っている。

 僕は何も悪いことしていないよ!?


「ぁぁ……ぁぁあ……」

「リリス?」


 まずい。リリスの精神が限界か?



「本当に……殺してしまおうかしら」



 ヴァンパイアのその一言が、リリスの何かを目覚めさせた。

 それは本当に予想外のことだった。

 リリスはヴァンパイアの魔力に怯えて、動くことなんて出来ないと思っていた。

 でも違った。

 怯えていたのは間違いないけど、そんな中でもリリスは僕のことを想ってくれていたんだ。

 どうすれば僕を救えるか。

 それだけを考えていたリリスの中で、何かが弾けて目覚めた。



「ぁぁあ……ぁああ! ……ぁぁぁあああああ! ああああああああ!!」

「リリス!?」

「ん?」


 リリスの絶叫に呼応するかのように、ダークプリーストが現れる。

 さらに高まるリリスの絶叫。

 その声は脳が痛くなるほどだ。

 リリスを抱きしめていた僕の手も、耳を押さえようと離れてしまう。

 同時にリリスが消えた。


「え?」

「ああああああああああ!!!!!」

「小賢しい!」


 リリスはヴァンパイアに襲いかかっていた。

 ど、どうしたんだ?

 いつものリリスじゃない。

 その後ろ姿はまるで猛獣のように見えた。


「まだお前の番ではないんだよ! 後でゆっくり見てやる!」


 リリスの拳を手の平で受け止めたヴァンパイアは、そのままリリスを持ち上げると放り投げた。

 しかし止まらないリリス。


「あああああああああああ!!!!!!!!!!」

「小娘が! 私に刃向うつもりか!?」


 まずい、まずいぞ!

 ヴァンパイアは僕達を殺すつもりには見えなかった。

 それは僕の勘違いかもしれないけど。

 でも今のリリスの行動で、ヴァンパイアも切れてる。

 このままじゃ本当に殺されてしまう。


「リリス! 落ち着け!」

「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 絶叫はさらに大きく高まっていく。

 ダークプリーストもリリスに呼応して絶叫している。

 何なんだよ! 何が起こっているんだ!?


「え!?」

「ほ~、面白い!」


 ダークプリーストの鎖が……千切れた。

 両手両足を繋いでいた鎖が千切れたのだ。

 そしてダークプリーストがリリスと重なっていく?

 身体の中に戻ったのか!?

 これでリリスを落ち着かせたら……え? 目隠しが……外れた……。



「――――――――――!!!!!!!!」



 それが声なのか音なのか振動なのか分からない。

 それを聞いていたら、僕は死んでいたかもしれない。

 僕の耳を押さえてくれていたのはヴァンパイアだった。

 いつの間にか僕の後ろに立っていたヴァンパイアは僕の耳を押さえてくれていた。


 音が消えた世界で僕が見たものは……ダークプリーストと一体化したようなリリスの姿だった。

 美しい赤紫の瞳が真っ赤に染まっている。

 その表情は虚ろで、異常な状態だと一目で分かる。

 リリス……リリス……リリス!!


「もう大丈夫よ。耳に魔力の膜を張っておいたから、これであの魔音にやられることもないわ。それにしても生意気ね。魔体を『魔装化』させるなんて……制御出来ているわけじゃないから、暴走状態だけど」


 魔装化? 魔体を魔装化?


「ハナレロ……ハナレロ」

「くすくす、残ったのはガイア君への愛情だけのようね」

「ガイア様ニ、フレルナァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「きなさい。遊んであげるわ!」


 魔体を魔装化させ暴走したリリス。

 あの優しいリリスの面影は残っていない。

 完全に猛獣と化したリリスはヴァンパイアに襲いかかった。


 それを余裕の笑みで迎え撃つヴァンパイア。

 サキュバス対ヴァンパイアの戦いが始まった。


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