第24話
リリスと愛し合って小休止。
すっかり日も暮れて夜です。
この迷宮の中は外の世界と同じ時間が流れていて、迷宮の中が夜になったということは、外も夜になったということだ。
小休止どころか愛し合い過ぎて疲れるところだけど、ゴブリン化したままなので精力絶倫の効果で疲れ知らずです。
魔族化したままリリスと愛し合うようにもなっている。
数日前にインキュバス化した時、リリスに尻尾を撫でられて強烈な快感を覚えてから魔族化したまま愛し合うことを始めたのだ。
ただオークではしていないけどね。
ゴブリンは種族特性に精力絶倫があるので、リリスと愛し合うには良い効果だ。
でもリリスは普通の人間の姿の僕と愛し合いたがる。
人間の時の精が一番美味しいと言っていた。
なので余裕がある時は人間の姿で愛し合うことにしている。
人間とゴブリンの時は僕が攻めるけど、インキュバス化の時はリリスに奉仕してもらう。
インキュバスは尻尾だけじゃなくて羽も実は感じるんだよね~。
リリスにいろんなところを愛でてもらって、新たな世界が開かれた気がしたよ。
さて、この話はまた今度ゆっくりするとして、今はこの迷宮に残された最後の魔物のことだ。
友好派リーダーもどきの魔25のゴブリンである。
族長もどきの魔28にも勝てたから、問題なく勝てるだろう。
リリスの魔力も回復したことだし。
「いくよ!」
「はい!」
棍棒を持ったゴブリンの魔体が向かっていく。
すると魔25が立ち上がった。
同時にとんでもない咆哮が響いた。
「ゴブゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!」
例の硬質化だ。
肉体を鋼のように硬くすることで、防御力が一気に向上する何らかの技能なのだろう。
魔28は危なくなったら使ってきたのに、魔25は最初から使ってきた。
どうやらこいつの方が手強いようだ。
「しかも盾持ちか!」
魔25のゴブリンは右手に棍棒、そして左手に盾を持っていた。
硬質化で防御力が上がっているのにさらに盾まで出してくるとは。
これは予想外だ。
いったん退くことも考えておいた方がいいかもしれない。
「ゴブゥォオ!」
棍棒の一撃も重いな。
さすがに大剣ほどじゃないが、こっちの生命力をかなり削ってくる。
しかもこっちの攻撃は盾で防がれてしまう。
盾にどんなに攻撃しても、相手へのダメージはなさそうだな。
「ダークヒール!」
戦闘開始から5分以上経過したか?
旗色が悪い。
こっちの攻撃で有効打はほとんどない。
いくらリリスのダークヒールがあっても、相手に確かなダメージを通せないんじゃ倒せない。
このままだとリリスの魔力が尽きてしまう。
「ダークヒール!!」
ダークプリーストの魔力はまだ半分ある。
でも、あと半分しかないとも言える。
どうする? いったん退くか……でも退いたところで同じ結果だ。
あの盾をどうにかしないと。
「一度戻してハンマを出す!」
「は、はい!」
ゴブリンの魔体を僕の中に戻すと、すぐに人間に戻る。
そしてハンマを出すと、ハンマの中からゴブリン、オーク、インキュバスを出した。
相手はすぐに僕に向かってきていたけど、ギリギリセーフでゴブリンが攻撃を受け止めた。
ハンマから出てくる魔体は、魔族化して出した魔体と同じ魔体だ。魔族化して出した魔体の生命力が減らされていたら、ハンマから出てくる魔体の生命力も減っている。
さっきゴブリンの魔体を戻した時に傷ついていたから、ハンマから出てきたゴブリンの魔体も傷ついたままだった。
すぐにリリスがダークヒールを唱えて回復してくれる。
盾だ。
こいつの盾を奪う。
武装魔石の盾を奪えるのか分からないけど、とにかくやってみる。
ゴブリンは棍棒で相手の攻撃を防ぐことに専念する。
オークが大剣で相手の左腕を狙い、盾をその手から落とさせる。
盾が落ちたらインキュバスが奪ってしまえばいい。
こっちが複数になったことで、魔25のゴブリンはさらに慎重になる。
攻めてこない。
じっとこっちの出方を待つ構えだ。
族長や強硬派リーダーとは違い、やっぱりこの友好派リーダーもどきが一番賢く強い。
すごく困った状況だけど、なぜか嬉しく思う自分がいる。
でも倒させてもらうよ!
オークが攻める。
その大剣を盾でしっかり受け止めて、棍棒を振り下ろしてくる。
その棍棒をゴブリンが棍棒で打ち返す。
インキュバスは相手の周りを動き回って、相手の意識をかく乱する。
さすがに3対1なら、僕達が優勢だ。
オークの大剣が何度も相手の左腕を切り刻む。
でも盾を離すことはない。
武装魔石の盾は離れることはないのか?
徐々に魔25のゴブリンの動きが鈍くなってきた。
左腕はもうぼろぼろだ。
盾を離すことはないけど、ぼろぼろの左腕では盾を満足に使えていない。
計画とは違ったが、これはこれで結果オーライだろう。
タイミングを見計らって3体の魔体をハンマの中に戻す。
そしてハンマを僕の中に戻すと、再びゴブリン化してゴブリンの魔体を出した。
「これで倒す!」
ゴブリンが向かっていく。
さっきとは違い、棍棒を盾で完璧に防ぐことはできない。
確かなダメージを与えていく。
「ダークヒール!」
ダークプリーストの魔力はさらに半分になっていた。
ハンマを出さなかったら、本当に魔力が尽きて退くことになっていたな。
危ない危ない。
「ゴブゥゥォオオオオオ!」
友好派リーダーもどきは、最後に断末魔を叫び砕け散っていった。
さようなら。
いろいろとありがとうございました。
貴方を救えなかったことは本当に残念です。
貴方の分まで、この世界を僕は生きていきます。
「ふぅ、倒せた」
「強かったですね。守りが堅くてとても厄介な相手でした」
「うん。でもハンマの能力と、リリスのダークヒールのおかげで勝てたよ」
「ハンマの能力はガイア様の能力でございますよ。勝てたのはガイア様の御力があってことです」
「そうだね……うん、そうだね」
ハンマは僕の能力。
何て言うかあまり実感がないんだよね。
この世界に転移した時にもらったチート能力。
だからなのか、あまり『自分の力』って感じがしない。
ま~でもリリスが言う通り、ハンマは僕の魔体なんだからハンマの力は僕の力だ。
胸を張って行こう。
魔25のゴブリンが砕け散った後には、1つの魔石が残されていた。
武装魔石:ゴブリンの盾
盾だ。
これでゴブリンの防御がさらに硬くなるぞ。
さっそくゴブリンに与え……お? ゴブリンが大きくなってる?
これは……とりあえず先に盾を与えておこう。
ゴブリンの左手に光の粒子と共に現れた盾。
見ると、木で造られた盾に何かの獣の毛皮を張り付けてあるようだ。
頑丈さはさっきの戦闘で証明済みだから問題ない。
安心して攻撃を受け止めることができる。
そして体が大きくなったゴブリンの魔体。
期待しながら情報を見てみた。
魔体:ゴブリンリーダー
属性:土
魔神の加護:20
生命力:88+88
筋力:47+47
体力:47+47
俊敏:24+12
魔力:2
器用:24+12
装備:棍棒、ゴブリンの盾
技能:金剛
いろいろすごいことになっていた。
まずは予想通りゴブリンからゴブリンリーダーにランクアップした。
喜ばしいことだ。
ランクアップと同時に体格が一回り大きくなったのだろう。
次に属性。
土の属性が与えられた。
これは技能の『金剛』とも関係しているのかな?
技能の金剛は、肉体を硬質化して防御力を上げる技能だろう。
本当に一気に防御力が上がったぞ。
そして能力値。
まず成長値が変わっている。
加護が上がる時の成長値は一定だった。
生命力4、筋力と体力が2、俊敏と器用が1、魔力は0。
これが加護20に上がった時には、増えていたのだ。
計算すると……生命力6、筋力と体力3、俊敏と器用2、魔力1だな。
ついに魔力も上がるようになったぞ!
魔力が上がらないと、技能の金剛も使えない可能性があるからね。
魔20の強硬派リーダーが金剛を使ってこなかったのは、使用するための消費魔力が無かったからかもしれない。
さらには補正値。
これも強化されている。
生命力、筋力、体力は2倍。
俊敏と器用が1.5倍だ。
まさか補正値も変わるとは思っていなかったから、これは本当に嬉しい。
この補正値が強化されたということは、たぶんハンマもそうだろうな。
人間に戻りハンマを出してみた。
魔体:半魔人
属性:無
魔神の加護:1
生命力:50+50+25
筋力:20+20+10
体力:20+20+10
俊敏:20+20
魔力:20+10
器用:20+10
装備:
技能:
半魔化
ゴブリンリーダー:生命力(中)、筋力(中)、体力(中)、俊敏(小)、器用(小)
オーク :生命力(小)、筋力(小)、体力(小)
インキュバス:俊敏(中)、魔力(小)、器用(小)
予想通り、ハンマの補正値も上がっていた。
でももうハンマで戦うことはないだろう。
なぜなら3体の魔体の補正値を足したハンマよりも、ゴブリンリーダーの方が強い。
さらに魔族の種族を獲得していけばハンマの方が強くなるかもしれないけど、現時点ではゴブリンリーダーの方が強いのだ。
ハンマは複数魔体で戦う時にだけ使うことになるかな。
それにしても加護20でのランクアップ効果は予想以上に劇的だ。
これはオークとインキュバスも加護20を目指さないと。
そしてリリスのダークプリーストもね。
1ヶ月ぐらい引き籠って愛し合い続けたら、加護20になるだろうか……ちょっと本気でやってみようかな。
「これでこの迷宮は終わりだね。迷宮っていずれ消えちゃうって聞いていたけど、魔物がいなくなっても迷宮だけはしばらく残るのかな……もしかしたら時間が経つとまた魔物が現れるかもしれないから、1ヶ月後ぐらいに見に来ようか」
「はい。確かにまた魔物が現れるかもしれませんね」
「それで、その1ヶ月の間なんだけど……」
リリスに引き籠り生活のことを言おうとした時だ。
視界がぐらりと揺らいだ。
眩暈?
違う、世界が歪んでいる。
歪み曲がる世界の中で声が響いた。
美しい女性の声だ。
「残念。もうこの迷宮は終わっちゃうわ」
限界まで曲がった世界は弾けた。
ひびが入った世界は砕け崩れ落ちていく。
新たに現れた世界は……同じくゴブリンの里だ。
でもここは迷宮じゃない。
小屋の中に僕達のテントが見える。
本物のゴブリンの里だ。
「な、なんだ?」
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
「リリス?」
リリスの息が荒い。
なんだ? 顔も真っ青だ。
「ガ、ガイア様、に、逃げないと……お、恐ろしい魔力が……」
「リリス? リリス!? 落ち着くんだ。大丈夫、僕がいるから」
「あら~熱々ね。ずいぶんとその子を可愛がっているのね」
さっきの女性の声。
聞こえてきたのは……真上?
視線を空に上げてみる。
そこには1人の女性が……空に浮かんでいた。
月明かりにきらめく銀髪の髪。
絶世の美女という言葉が相応しい顔立ち。
黒目に桃色唇の顔は、柔らかい笑みを浮かべている。
顔以外は漆黒のマントの中に隠れて見えないが、雪のような白肌だ。
何者だ?
羽は見えないのに、どうして空に浮かんでいられるんだ?
リリスがこんなに怯えているのは、こいつのせいか。
人間ではないことは明らかだ。
なら、情報が見えるはずだ。
空に浮かぶ女性の情報を見ようと目を凝らした。
魔56 始祖ヴァンパイア『アーシュ・ドラキュラ』
「ごきげんよう。ちょっと貴方達に聞きたいことがあるの。お時間いいかしら?」
出来れば御免願いたい。
魔56の始祖ヴァンパイア。
アーシュ・ドラキュラは名前か。
名前持ちの魔族。
間違いなく上位種族だ。




