第4話 ギルド登録?
ピピピピピピピ!
アラーム音が鳴り響く。
いつもの癖で枕元の携帯を探すが、すぐにその音が携帯だからではないことに気付く。
アラーム音を鳴らしているのは、魔石だ。
時計代わりの魔石である。
ユグドラシルの時間や数字は、俺の元の世界と完全に一致している……はず。
単に俺の記憶が封印されて、ユグドラシルの時間や数字の概念を解するようになっているだけかもしれないけどね。
暦だけ俺の記憶の中にないものだった。
今日は聖樹王暦1499年3月25日。
今は朝の7時だ。
昨夜はサンディさんとリタさんが酔っ払い始めると、マリアさんがやってきてお開きとなった。
マリアさんはサンディさん達の部屋までついていってあげていたが、途中で振り返って「サンディちゃん連れていく?」と真顔で聞いてきたので慌てたっけ。
リタさんもケラケラ笑いながらマリアさんに同意してサンディさんを俺の部屋に連れていこうとするし。
サンディさんも笑いながら冗談だと聞き流していたけど、一瞬俺の部屋に行っちゃおうかな! とか叫んだからさらにドキドキしてしまった。
あのまま本当に酔った勢いで俺の部屋に来ていたらどうなってたんだろうか。
とりあえず朝シャンでもしますか。
小さいけど部屋にお風呂がついているのはすごいことらしい。
サンディさんもリタさんも、お酒を飲みながらこの宿がいかに素晴らしいか語っていたな。
本当にありがたい部屋だ。
朝食は7時から9時の間に食べられる。
酔っぱらったサンディさん達は、朝食は勝手に食べておいて~と叫んで3階に消えていったので、俺は下に降りると食堂に向かった。
サンディさん達の姿はなく、代わりに男の探索者達が8名ほど席に座っていた。
俺は適当に席に座る。
朝食は決まっているので、特に注文を言う必要はないそうだ。
席に座ってしばらくぼ~っとしていると、朝食が運ばれてきた。
うむ、美味そうだ。
頂きます!
「おい」
もぐもぐと朝食を食べていると、1人の男が声をかけてきた。
昨日もいて、こっちを睨んでいた人だ。
嫌だな~、なんか絡まれるのかな。
見た感じ20代後半の、ちょっと人相の悪い兄ちゃんって感じだ。
「はい?」
「お前、サンディさん達とパーティー組んでいるのか?」
「え? え~っと」
なんて答えればいいんだ?
む!? マ、マリアさんがいつの間にか食堂に入ってきてこっち見てる!
やばい、あの設定を貫き通さないと。
「俺、サンディさ……サンディ姉さんの弟なんですよ。昨日カーリアに着いたばかりで……」
「あ……なんだ弟さんだったのかよ。はぁ~ビックリした。あ~すまねぇ、驚かせちまって。俺はジェフだ。浅瀬で探索者をしている。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします。え、えっと、リィヴです」
「リィヴ君か。やはり君も例の事件で?」
例の事件?
な……何でしょうそれは……まったくもって分かりませんよ。
しかも『例の』なんて言葉で言われたら、推測することすら出来ないじゃないかよ!
やめて欲しいんですけど! そういうのやめて欲しいんですけど!
「え、ええ。まぁ、そうです」
「あ~災難だったな。何ていうか軽々しく言えたもんじゃないが、元気出して頑張れよ。応援するからな」
「は、はい! 頑張ります!」
本当に軽々しく何も言わないでくれ。
これ以上言われたらぼろが出るから!
お願いだから、席に戻ってくれ!
俺の願い虚しく、にこにこ笑顔でマリアさんが近付いてくると会話の輪の中に入ってきてしまった。
「リィヴ君も頑張って魔石狩りで稼いで、テラの家に仕送りできるようにならないとね」
「え、ええ。そうですねよ。が、頑張ります」
「まだ会って昨日今日だから、あんまり立ち入ったこと聞くつもりはなかったんだけど、リィヴ君の家族は何人ぐらい家にいらっしゃるの?」
だめだ。
今にも会話が成り立たなくなりそうで怖い!
でも言葉から推測するに何か災難な出来事があって、サンディさん達は魔石狩りをするようになったのか。
サンディさん達も魔石狩りを始めたのは最近だって言ってたもんな。
そしてテラに家がある。
サンディさんの家なのか?
その家に魔石狩りで稼いだお金を仕送りしているのか。
俺はサンディさんの弟ってことになっているから、俺もその家に当然仕送りすると思っているんだろう。
でも分からないのが、俺の家族が何人いるって言葉だ。
サンディさんの弟なら、家族が何人かってサンディさんと同じになるんじゃないのか?
む~~~分からん。
適当でいっか。
「2人です」
「そう……弟さんか妹さん?」
「ええ、そうです。弟が1人に、妹が1人です」
「頑張ってね! リィヴ君が家族を支えていくんだから! リィヴ君が一人前になるまで、私やここにいる先輩方がリィヴ君を支えるわ! ……でもジェフさんはあまり頼りにならないかもしれないわね」
「おっと。女将さ~ん、それはないよ! いや、確かに浅瀬から抜け出せずにいるけど、俺も頑張ってるんだぜ~」
「はいはい。分かっていますよ。ジェフさんも精一杯頑張っていますよね。でも稼いだ魔石のゼニはちゃんと装備を整えるのに使って下さいね。変なことに使わないで」
「ぎゃははは! ジェフやめておけよ! 女将さんは何でもお見通しだからな!」
「わかってるよ! まったく、これは参った。でもリィヴ君、大人の遊びを知りたくなったらいつでも声をかけてくれよ」
「ジェフさん!」
「うひゃ~退散!」
ジェフさんはマリアさんに怒られると一目散に自分の席に逃げていった。
そして席に座っていた8名の男は全員立ち上がると、「今日も頑張りますか!」と調子の良い声でマリアさんにアピールして出て行った。
これから魔石狩りに向かうのだろうか。
「リィヴ君。聖樹の森での経験を先輩方から聞くのはいいですけど、変なことは教わってはいけませんからね~。もしそういう気分になってしまったら、サンディちゃんの寝込みを、こうがばっと!」
「がばっと何するんですか? 女将さん」
いつの間にかサンディさんがマリアさんの後ろに立っていた。
マリアさんは「あらあら~サンディちゃんおはよう」と笑顔で挨拶すると、その笑顔のまます~~~っと食堂から逃げていった。
「まったく。朝っぱらから何しているんだか」
「あ、あははは」
「ジェフ達に話しかけられたの? いま降りてきたらちょうど声をかけられてね。弟さんのこと応援しますから! って言われたよ」
「はい。何か俺のことが気になったのか、サンディさん達とパーティー組んでいるのかって聞いてきたんです」
「なるほどね……なんて答えたの?」
「サンディさんの弟で、昨日カーリアに着いたばかりなんですって。そしたら何か『例の事件で?』とか聞かれちゃいました。しかもマリアさんまで話に加わってきちゃって。それでちょっと適当に話を合わせちゃいました」
「そう……うん、分かった」
やっぱり災難はサンディさんと関係があるのか。
何やら神妙な顔つきになってしまって、テンションも少し下がったような気がする。
俺の隣に座ったサンディさんの席に朝食が運ばれてきた。
それを食べるサンディさんの隣で、俺はぼんやりお茶を飲む。
リタさんはまだ起きてこないのかな……。
「1年ほど前……聖樹の森に『悪魔』が出たの」
サンディさんは静かな声で語り始めた。
「悪魔は『ニブルヘイム』と呼ばれる聖樹王の遥か下の底に広がる異界からやってくるわ。聖樹王の巨大な根の中にあいた穴を通ってやってくるらしいの。聖樹王の根の中は聖結界で覆われていて悪魔は通ることができないんだけど、たまにその聖結界にも穴があいてしまっている場合があるんだって」
俺は静かにサンディさんの話を聞いた。
サンディさんは辛いことを思い出すような悲しい声で話し続けた。
「その悪魔は三つの頭を持つ巨大な蛇だったわ。隠蔽能力が高くて誰にも見つからず浅瀬まで来てしまった。そして……浅瀬で魔石狩りをする多くの探索者達が犠牲になったわ。私の夫も、リタの夫もその時に死んでしまったの……。悪魔はエインヘルアル達が総出で何とか倒したけどね」
おお……いろいろ衝撃が大きい。
情報の整理に頭が追い付かないぞ。
「その時に家族を失った者達が身を寄り添って1つの家に集まったわ。それが私達の家。そこには私の息子のエリックと、リタの娘のシャインもいるのよ。他にもトーラとルーラという双子の姉妹がいてね、私達の子供の面倒を見てくれているわ。トーラとルーラにも子供が1人ずついるから、私達は4人の子供とトーラとルーラが食べていけるだけのゼニを毎月仕送りしているの」
うお……ま、待って欲しい。
さらに衝撃が大きいぞ! まずい! 情報を整理しなくては!
「リタもトーラもルーラも、みんな夫が魔石狩りの仲間だったの。一緒にパーティーを組んでいてね。それで悪魔にみんな一緒に襲われて死んじゃった。どうしようかと相談して、一番大きかった私の家にみんな集まって、リタ達の家は売って生活費にしたわ。それから私とリタで魔石狩りをして収入を得ようと考えたってわけ」
俺よ落ち着け、落ち着くんだ。
サンディさんとリタさんは未亡人。
そしてお子さんがいらっしゃる。
生きていくために、みんなが力を合わせて頑張っている。
よし、いいぞ、その調子で情報を整理していこう。
「カーリアに来たのは半年ほど前なの。亡くなった夫から女将さんのこと聞いていて訪ねてみたら、私達にすごく良くしてくれてね。本当に助かったわ。おかげで何とか死なずに魔石狩りを続けていられる状態よ。……本当はみんなでカーリアに住めればいいんだけど、この街は聖樹の森で魔石狩りをするための街として発展しているから、教育環境があんまりよくないのよね。それにせっかく王都テラに家があって住所があるんだから、やっぱり子供達には王立学園に通って欲しいし……」
サンディさん、すげ~苦労してきたんだな。
平和ボケして生きてきた俺とは次元が違う。
昨日奢ってもらった自分が本当に情けない。
これはすぐにでも、昨夜考えた俺の『計画』を実行するべきだ。
うん、そうだ。
これはきっと運命だ。
神様が……って言うと、あのオーディンになっちゃうんだけど、神様が導いてくれた運命なんだ!
「リィヴに声をかけたジェフって男はね、私達のことを何度もパーティーに誘ってきた男なの。悪い人ではないんだけど、いろいろと軽い男なのよね。そうじゃなかったら、一緒に魔石狩りしていたかもしれないわ。私達には経験が無かったし、知識も亡くなった夫から生前に愚痴のように聞かされていた話程度だったからね。でも女将さんがいろいろ教えてくれたから、私とリタの2人で何とか魔石狩りを始められたわ。変な男に引っかからずに済んだってわけ」
サンディさんはようやく少しだけ明るい声になった。
強い人だな~。
悲劇からまだたった1年なのに、もう前を向いて歩いているんだ。
やっぱり女性は強いな。
女性は男性より過去を振り返らないで、前を向いて生きていくって聞いたことがある。
しかも守るべき者があるから、なおさら強いんだろう。
果たして俺だったら悲しさと辛さから立ち直って前を向けるだろうか……。
とにかく、今は愚かな俺が出来ることをするべきだ。
それは俺にとっても必要なことだしね。
「サンディさん、実はですね……」
「うん?」
ソールが輝いている。
太陽のことを、こっちではソールと呼ぶらしい。
そして俺達は聖樹の森に向かっている。
本来なら今日の予定は、サンディさん達にカーリアの街を案内してもらって、瞬間移動石でテラに向かうはずだった。
でも違う。
なぜなら俺は探索者になるからだ。
魔法袋のことを秘密にするためにいろいろ考えた結果、俺は2つの顔を持つことに決めた。
エインヘルアルとしての顔と、探索者としての顔だ。
本当にサンディさんの弟……というよりも、半年前の悪魔の事件で両親を失った青年という形で探索者登録をしてしまおうと考えたのだ。
怪しまれない程度に2つの場所で魔石を交換すれば、魔法袋のことを隠しながら上手く稼げることになるしね。
交換率がギルドと神殿で違うのかは分からない。
サンディさん達は神殿のことは詳しく知らないから、これは行ってみて説明を受けてみるしかない。
怪しまれる程度がどのくらいなのか……『幸運』という言葉でどこまで片付けることが出来るのか、匙加減が難しいところだ。
でも、俺は俺で魔石をギルドに売る。
サンディさん達にも魔石を渡して売ってもらう。
これでギルドでの売却も2倍稼げることになる。
サンディさん達に魔法袋のことを話すつもりはない。
俺にはちょっとした特別な能力があって魔石を効率的に集めることが出来るんです、とだけ伝えた。
魔石狩りはもちろん別行動だ。
見られるわけにはいかないからね。
そして俺の能力のことはエインヘルアルを含めて誰にも知られたくないので、俺が秘密を守りながら効率的に稼ぐためにもサンディさん達に手伝ってもらいたいと伝えた。
こう言えば、サンディさん達も俺の魔石をギルドに売ってゼニを得ることの理由になるしね。
俺が特別な能力を持っていることは絶対に秘密にして下さい、という口止め料みたいなもんだ。
この話をサンディさんにした時、かなり怪しまれた。
本当にそんな能力があるのか? どうして私にそんな大事なことを言ったのか? と。
やっぱりここら辺の感覚は、平和ボケした俺とは違うんだろうな。
いくら昨日命を助けてもらった相手だからって、言うことを何でもかんでも信じて受け入れることはないようだ。
これに対しては、俺の素直な気持ちを伝えた。
サンディさん達の境遇を聞いて、何か力になりたいと思ったと。
サンディさんには「リィヴに同情してもらいたいわけじゃないよ」と言われた。
俺は「でもこうして何かの縁でサンディさん達と会って、一緒にお酒を飲んで、そして力になりたいって思ったんです。上手く言えないけど、そう思ったんです」と答えた。
サンディさんは笑いながら俺の頭を撫でた後、こう言った。
「リィヴはお酒飲んでないけどね」
リタさんが眠そうな顔で食堂に降りてきて朝食を終えた後、俺の部屋で話し合いを持った。
サンディさんがリタさんに一通り説明すると、リタさんは「いいじゃないか。リィヴにそんな能力があるなら、オレは是非とも頼りたいね」とものすごく軽く言った。
リタさんは説明の内容より、サンディさんの気持ちを考えて言ったように思える。
説明するサンディさんの口調や表情から、きっと俺の提案に乗ることに迷っているサンディさんの背中を押してあげるつもりだったんだろう。
サンディさんが迷っているのは俺の提案が嫌なんじゃなくて、一度俺に頼ってしまってその特別な能力とやらに慣れてしまうのが不安だったのかもしれない。
自分達の力が強くなって魔石狩りが上達するわけじゃないからね。
出た結論はとにかく1日やってみよう、であった。
俺に本当にそんな特別な能力があるのか、まずはそれを実証してみせることにした。
それに探索者ギルドへの登録には大きな問題があった。
国から発行してもらう身分証明書が必要なのだ。
当然俺にはそんなものはない。
サンディさん達は、俺に本当にそんな特別な能力があるならギルド登録への方法を考えると言ってくれた。
何か雰囲気的にちょっといけない方法のような気がするけど、サンディさん達に当てがあるならそれに乗っかろうと思う。
カーリアの門を出てしばらく歩けば、目の前に聖樹の森の浅瀬が広がり始める。
昼飯用の硬いパンと硬い干し肉、それに水筒が入ったリュックを背負っている。
ちなみに全部、サンディさん達に買ってもらった。
昨日の宿泊代で俺のゼニはもう僅かしか残ってない。
今日の稼ぎで返すという条件で、ゼニを借りたのである。
「それじゃ~ここからは別行動ね」
「はい。ソールが西に半分ほど傾いたら、ここで集合ですね」
「ええ、そうしましょう。リィヴの成果に期待してるからね」
「オレもな」
「頑張ります。サンディさん達も、昨日のこともあるしエインヘルアルを見かけたら距離を取って逃げて下さいね」
「大丈夫よ。あんなこと早々あるわけじゃないから」
「危なくなったらリィヴ! ってオレが叫ぶから、飛んできてくれよ」
「……聞こえたら善処します。では!」
俺は闘気を使って一気に駆け出すと、サンディさん達とあっという間に離れた。
念のためさらに走ってから止まると、リュックを降ろして魔法袋の中に収納した。
槌と盾も収納すれば、持つ物はなくなって身軽になる。
これでよし。
さ~て、頑張って稼ぎますか!
浅瀬の聖樹の根元には必ず小魔石があるわけじゃない。
魔石のない聖樹の方がずっと多い。
誰かが取ったか、魔獣が食べたか、どちらかだろう。
それでも根元の大地には砂粒の極小魔石は必ずと言っていいほど落ちていた。
ここまで小さな魔石は、人だと判別が難しいだろう。
魔獣だって完全に判別して極小魔石だけを食べるのは難しいと思う。
聖樹の根元の土を魔法袋の中に一杯入れては魔石だけを収納する。
さらに小魔石が根元から生えていたら、ありがたく収納する。
途中何度か魔獣と遭遇したけど、俺に興味を持つ魔獣はいなかった。
ただ、魔獣がいる聖樹の根元の土を取ろうとすると警戒されるので、魔獣を見たらすぐに方向転換して別の場所に向かうことにした。
そうしていると、ソールが頭の真上にきていた。
魔法袋からリュックを取り出して、昼食の硬いパンと硬い干し肉を食べる。
昨日サンディさんからもらった干し肉ほど美味しく感じられない。
でも水筒の水はすごく美味しかった。
硬いパンと硬い干し肉を食べながら、俺はある検証を行うことにした。
魔法袋の合成だ。
いま現在、魔法袋の中には小魔石が30個に極小魔石が584個ある。
オーディンは魔法袋の中にある物と物を合成することが出来ると言っていた。
さらに物と魔力を合成して上位の物を造り出すことが出来るとも言っていた。
そこで、俺はまず極小魔石と極小魔石を合成してみることにした。
極小魔石100個で小魔石1個分なら、極小魔石100個を合成すれば小魔石1個になるんじゃないかと思ったからだ。
ただ、合成にも魔力が必要となる。
消費する魔力がいくらぐらいなのか、数字として確認出来ないのが辛いところだな。
とりあえず、まずはやってみよう。
魔力が足りなかったら何も起こらないわけだし。
俺は魔法袋の中に手を入れて『合成』と念じた。
すると『一覧』の時と同じように、合成図が頭の中に直接浮かんでくるように見えた。
右と左に枠のようなものがそれぞれ見える。
まずは右の枠に極小魔石50個と念じると、枠の中に極小魔石50と表示された。
さらに左の枠にも同じく極小魔石50個と念じれば、枠の中に極小魔石50と表示された。
これでいいのかな?
それでは、合成! と号令を発するように念じると、合成図が一瞬光り輝く。
右と左の枠は消えて、真ん中に枠が1つ現れて文字が見えた。
小魔石1
成功だ!
やっぱり魔石と魔石を合成すれば、1つ上のランクの魔石を造り出すことが出来るんだ。
これは大きいぞ!
俺は聖樹の森の最下層に行かなくても、ここ浅瀬で極小魔石と小魔石を集め続けて合成すれば、最下級魔石を手に入れることが出来るんだ。
もちろん時間をかければ、下級、中級、上級、最上級の魔石だって手に入れることが出来る。
さすがに最上級魔石を浅瀬で造り出そうとしたら非効率的だろうけどね。
俺は続けて極小魔石400個を合成した。
300個は無事に小魔石になった。
でも、最後の100個は小魔石にならなかった。
「魔力切れか」
魔法袋に食べさせた魔石は、ミズガルズに降りた日に与えた極小魔石だけだ。
いろいろ収納したり合成したりしたから仕方ない。
あの極小魔石の魔力でここまでやれたんだから、燃費は相当良いと思う。
極小魔石100個を与えるのと、小魔石1個を与えるのは何か違うだろうか。
それともまったく同じ魔力を与えることになるのだろうか。
同じなら合成しないで極小魔石のまま与えた方が効率的だな。
とりあえず、残った極小魔石184個を魔法袋に与えた。
初めての合成と検証を終えて、魔石狩りを再開する。
来た道とは別の道を通りながらも、集合場所に戻るように移動していった。
道に迷った時は闘気で聖樹のてっぺんに登って方角を確認すればいい。
ソールが西に半分ほど傾く頃、俺は集合場所にちゃんと戻れていた。
集合場所に着く前に魔法袋から槌と盾、そして空の水筒が入ったリュックを出しておく。
リュックの中には小魔石が10個入っている。
朝、サンディさん達に聞いたところ、1日浅瀬で魔石狩りをしたとして小魔石を2~3個ほど持ち帰れれば大成功だそうだ。
実際には聖樹の根元にある小魔石を見つけたら、それを取り出してすぐにカーリアに戻ることになる。
極小魔石も一定量を超えて袋の中に入れていると、魔獣が強く反応してしまうので、ある程度採集したらカーリアに戻る。
それを1日に2~3回繰り返すのがいつものパターンらしい。
なら、小魔石を10個も見せれば俺に特別な能力があると信じてもらえるだろう。
実際にギルド売却するのは、今日のところは3個にしておく。
それでも大成功な1日になるのだから。
先に集合場所に着いた俺が待っていると、聖樹の森の方角からサンディさんとリタさんが歩いて戻ってきた。
2人は俺を見つけると、ほっと安堵したような笑顔を見せてくれた。
もしかして、俺のこと心配していたのかな?
まあ死んでも生き返るんだけどね。
「おかえりなさい」
「ただいま。リィヴも無事に戻れて良かった」
「あはは、戻ってこれないと思ってました?」
「ああ。魔獣に襲われて死んでないか心配したよ。サンディがリィヴ大丈夫かなって何度も言っていたぞ」
「ちょっと。リタも言ってたでしょ」
こんな美人お姉さん……ではなく、美人未亡人の2人に心配してもらえて、俺は幸せ者である。
さてさて、門から街に入る前に近くの木陰に移動する。
今日の成果を見せるためだ。
「これが今日の成果です」
「どれどれ……すご!」
「オレにも見せて……これはたまげた。本当に特別な能力持ちかよ」
リュックの中で黒く輝く小魔石が10個。
それを見たサンディさん達の反応は劇的だった。
宝箱の中の金貨を見る海賊とは、こんな顔をするのではないかと思えてちょっと笑えた。
「俺の能力、信じてもらえました?」
「ええ、もちろんよ」
「ああ、リィヴの能力はすごいな!」
よし、まずは俺の能力を信じてもらえることに成功だな。
「サンディさん達はどうでした?」
「小魔石は1個も取れなかったわ。極小魔石が目算で70個ぐらいかな?」
「そんなもんだろうな。オレ達はまだ選別もちゃんと出来ないから、ただの土混じりでギルドに持っていくことになるんだ。ギルドで選別してもらうから、選別料も取られることになる」
「へ~選別料なんてあるんですね。では今日のところは小魔石3個を渡しますので、それをギルドに売るってことでどうでしょうか? 初日だから怪しまれない程度がいいんですけど」
「それなら小魔石2個がいいかな。3個って本当に幸運な時だから」
「了解です。ちなみに小魔石1個でいくらのゼニと交換なんです?」
「小魔石1個で10万ゼニだよ。極小魔石は1個で500ゼニだね」
「あれ? それだと極小魔石100個で5万ゼニですよね?」
「リィヴの言っていた極小魔石100個で小魔石1個分の魔力からすると合わないね。ま~でも極小魔石と小魔石だと使える用途が違うから」
「用途が違う?」
「極小魔石は小さすぎて生活魔道具にはならないの。生活魔道具になるのは小魔石からで、極小魔石は魔力が切れた生活魔道具に魔力を注ぐための燃料なのよ」
魔力を注ぐ?
そんなこと出来るのか……魔法袋とちょっと似たようなことだな。
「魔力が切れた生活魔道具に魔力を注ぐのって誰でも出来るんですか?」
「いいえ、出来ないわ。魔道具技師の人でないと」
「魔道具技師なんて職業の人がいるんですね」
「とてもすごい職業なのよ。神々の文字『ルーン』を解することが出来る人達なの」
おお! ルーン文字!
ここできたか!
ルーン文字の登場に興奮していた俺に、リタさんが悪戯をする子供のような笑顔で言ってきた。
「さて問題。リィヴはその魔道具技師に実はすでに会っている。それは誰でしょう?」
え? 会ってる?
魔道具技師に会っている?
もしかしてサンディさんかリタさんのどっちかが魔道具技師なのか?
でもそれなら魔石狩りなんてしないで、きっと魔道具技師として働いて稼ぐはずだ。
だから2人じゃない。
となると、俺が出会った人達の中で……あ! もしかして……だからあの宿屋は特別なのか!?
「くすっ。気付いたみたいね。そうなの。マリアさんは魔道具技師なのよ」