第22話
「ちょっと緊張するね」
「はい。でもガイア様ならきっと勝てます。私も頑張ります!」
ゴブリンの里の前に来ています。
迷宮の方ね。
門には門番が2体。
魔物のゴブリンだ。
ゴブリン 魔10
ゴブリン 魔10
加護10のゴブリン。
右は剣、左は棍棒を持っている。
加護が二桁の魔物との戦闘は初となり、そして複数相手も初となる。
僕はゴブリン化している。
相手が複数なのだから、ハンマから3体の魔体を出して戦った方がいい。
当然そう思う。
でもそれでは加護が上がらない。
せっかくの二桁加護の魔物なのに、経験値を得られないのは勿体ない。
そこでゴブリン化です。
オークとどちらにしようか迷った。
でもオークは生命力が36しかない。
ダークヒールの回復量が48だから、回復量を最大限に生かせないのだ。
しかし筋力は63もある。ゴブリンの筋力が42だから、早く倒すことを考えたらオークである。
でも結局ゴブリンを選んだ。
ゴブリンもオークも万が一、魔体を失ったらすぐにもう一度獲得できない。
いや、そもそも魔族化している時に出している魔体を失ったら、ハンマがどうなるかも分からない。
安全策を取って、生命力が75と高いゴブリンにしたのだ。
1対2で、被弾は2倍……どころじゃ済まない。
それはゲームの場合だ。
1対1ならこっちの攻撃が当たり相手の体勢を崩せば、そのままこちらは攻撃を受けることなく相手を倒せる。
でも1対2で、フリーの魔物に攻撃されたら……逆にこっちの体勢が崩れて一気に押し倒されてしまうかもしれない。
リリスのダークヒールに頼り過ぎてはいけない。
信頼すると昨日言った。確かに信頼とは信じて頼ることだ。
でも頼り過ぎはいけない。
都合良く考えてはいけないのだ。
「剣を持っている右に狙いをつける」
「了解です」
右のゴブリンを狙う。
左のゴブリンの攻撃は受けるしかない。それに耐えて、右のゴブリンを倒す。
1対1になればこっちのものだ。
リリスがいれば負けることない!……あれ? めっちゃ頼ってる感じが……まあいいや、これは信頼だ。
ゴブリンの魔体が走り出す。
同時に僕達も前に出る。魔体と離れられる距離は20m。
あまりギリギリの距離でも、ゴブリンが相手をふっ飛ばしたのに距離の問題で追撃出来ないとかあったら大変だから、10mぐらいまで近づいておく。
これならダークヒールも問題なく届く距離だ。
門番の魔物のゴブリンは、僕の魔体を視界に捉えるとすぐに叫んで向かってきた。
ゲームみたいに一定距離まで近づいたら向かってくる仕様なら楽だったのにな。
魔物も生きて考えているってことなのか?
戦いは理想通りに進んだ。
まず右の魔物の初撃を避けたのがよかった。懐に入り込んだ魔体の右拳が綺麗に入ると、相手の体勢を崩してそのまま地面に押し倒した。
しかし左の魔物の棍棒がゴブリンの身体に打ち込まれる。
フリーの左のゴブリンは、無防備な魔体に思いっきり棍棒を打ち込んでくれやがった。
くそっ! やっぱり複数相手はきついな。
棍棒の直撃1発は、魔体の生命力を一気に削った。
魔体:ゴブリン
生命力:50+25(▲15)
1発で15も減った。
あり得ない減りですよ。
魔体:ゴブリン
生命力:50+25(▲25)
次の1発でさらに10減った。
魔体は構わず押し倒したゴブリンの頭や体に拳を打ち下ろしていく。
棍棒の3発目が入った。
が、そこでリリスがダークヒールを唱えた。
「いいタイミングだ」
「はい!」
美しい声で唄うダークプリースト。
完璧なタイミングだ。
やはりリリスは頼りになる。信頼ですよ、信頼!
魔体:ゴブリン
生命力:50+25
3発分のダメージを全て回復。
そして4発目の棍棒が振り下ろされた時、最初に押し倒した剣持ちゴブリンが砕け散っていった。
僕の魔体はすかさず振り下ろされてきた棍棒に向かって腕を出し防御する。
今度は直撃じゃない。
魔体:ゴブリン
生命力:50+25(▲4)
すぐに目標を左の棍棒ゴブリンへと変えると相手の脚を思いっきり蹴り飛ばす。
ゴブリンの体勢がぐらついた。
それでも棍棒を再び振り下ろしてくる。
しかしそれを冷静に腕でガードして、見事な右ストレートを顔面に炸裂させた。
その衝撃で後ずさるゴブリン。
僕の魔体は勢いを止めずそのままゴブリンに向かって拳と脚を繰り出していく。
勝ったな。
「やりました! さすがはガイア様です! 素敵です!」
「ふぅ、ありがとう。リリスのおかげだよ。回復完璧なタイミングだったね」
「本当ですか!? 嬉しい!」
ぎゅっと抱きしめて、むぎゅっとキスをする。
スキンシップは大事です。
「勝てて良かった。でもやっぱり複数を相手はちょっと危険だね」
「はい。囲まれると厄介ですね」
どうにか出来ないものか。
ゲームみたいに釣れるならいいんだけど……いや、釣れるか?
それもやりようではないか。
こういう時こそインキュバスの俊敏性を生かすべきではないのか!?
ゴブリンからインキュバスに変えた。
里の中がどうなっているか覗いて、上手くゴブリンを森の中におびき寄せる。
それで1体ずつ倒していけばいいんだ。
倒す速度が重要なら、オークの方がいいかもしれないな。
魔体:インキュバス
生命力:13
インキュバスの生命力は減っていない。
魔族化した時に出す魔体の生命力は、それぞれ別々なのだ。
危ない時は別の魔族になれば、一気に生命力が回復! ……だったらいいんだけど、別の魔族になるためには、その時の魔族の魔体を消さないといけない。
魔体は僕の身体から出てきて、消す時はまた身体の中に入っていくから、すぐに消せるものではない。
それに魔体を消した瞬間、僕が攻撃されてしまったらハンマに大ダメージとなってしまう。
魔族化した時に出す魔体の生命力がそれぞれ別々であることを把握して、場合によっては生かすことが出来れば良いけど、最初からそれを頼りに考えるのはやめた方がいいだろう。
さて、インキュバスとなって門から中に入っていく。
まずはどんな様子なのか確認しないと。
「うわぁ……なんじゃこりゃ」
「す、すごいですね」
迷宮のゴブリンの里の中は、実際のゴブリンの里とほとんど同じだ。
見事に再現されている。
この迷宮ってゴブリンの霊が集まって発生したのかな。
里の中はゴブリンだらけだった。
モンスターハウスという言葉が思いつく。
この数のゴブリンが一斉に向かってきたら……恐ろしい。
「やっぱりいたか」
「何がでしょうか?」
「ちょっと強いゴブリンがいる」
ゴブリンリーダー 魔28
ゴブリンリーダー 魔25
ゴブリンリーダー 魔20
加護まで同じかよ。
魔25が友好派リーダーで、魔20が強硬派リーダーだったな。
そんで族長が魔28だ。
他にも魔10から19までのゴブリンが、里の中にうじゃうじゃいる。
これは実際とは違う。
こんなに加護の高いゴブリンはあまりいなかった。
仮にいたら、オークに負けることはなかっただろう。
「さて、どうするかな。こんだけいたら1体だけおびき寄せるのは無理があるか?」
「そうですね……誰かが叫んだら全員気付いちゃいますよね」
「ん?」
誰かが叫んだら?
あれ? でも門番は叫んだよね。
あの叫び声が里の中に聞こえない……なんてことはないと思う。
もし本当のゴブリンの里だったら、門番の叫び声に気付いて駆け付けてくるはずだ。
でも来なかった。
誰も来なかった。
本物とは違う。ここのゴブリンはあくまでも魔物ってことか。
ゲームと同じように、一定の法則で動いているだけなのか?
これは試してみる価値があると思う。
もし周りのゴブリンまで群がってきたら、迷宮の出口まで全速力で逃げればいい。
「次、近づいてきたゴブリンの注意を引く。石を投げてみるよ。それでそいつだけ向かってきたら、門の外までおびき寄せて倒そう。もし他のゴブリンまで来たら、迷宮の出口まで一気に逃げるよ」
「は、はい……」
リリスは不安そうな表情を浮かべている。
でも大丈夫! 僕に任せるんだ。
これは絶対釣れる。
そうじゃなきゃ、攻略なんて出来ない。
1体ずつ釣れるようになっているはずだ。
しばらく待つと、加護12のゴブリンがこっちに近づいてきた。
タイミングを見計らって、そいつに石を投げつける。
石は見事にそのゴブリンの頭に直撃した。
「ゴブッ!!!」
叫んだ。
こっちを認識した。
僕達は門に向かって走り出す。
上手く釣れたのか?
「ゴブッ! ゴブブッ!」
「ゴブゴブゴブ!」
「ゴッブブゴッブブ!」
「ゴブン! ゴブン! ゴブン!」
「ゴブブッ! ゴブブッ!」
「ゴブッ!」
「ゴブッ! ゴブッ!」
「ゴゴゴゴ!」
「ブブブブ!」
「ゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブ!」
「ゴーブ!」
「ゴブゴブ!」
「ゴブッ!」
「ゴブッ! ゴブッ!」
「ゴブッ! ゴブブッ!」
「ゴブン! ゴブン! ゴブン!」
「ゴブッ! ゴブッ!」
「ゴブゴブ!」
「ゴッブブゴッブブ!」
「ゴブン! ゴブン! ゴブン!」
「ゴブブッ! ゴブブッ!」
「ゴブッ!」
「ゴブッ! ゴブブッ!」
「ゴブゴブ!」
「ゴブゴブ!」
「ゴブッ! ゴブッ!」
「ゴゴゴゴ!」
「ゴブッ! ゴブブッ!」
「ゴブブッ! ゴブブッ!」
「ゴッブブゴッブブ!」
「ブブブブ!」
「ゴッブブゴッブブ!」
「ゴブン! ゴブン! ゴブン!」
「ゴブブッ! ゴブブッ!」
「ゴブッ!」
うわあああああああ! なんか聞こえてくるんですけど! 聞こえてくるんですけど!
「リ、リリス! 逃げるぞ! 出口まで走るんだ!」
「は、はぃぃぃ!!!」
後ろを振り返ることは怖すぎる。
無理、絶対無理。
「くそ~~~! やっぱりゲームとは違うかぁぁあああああ!」
「はぁはぁはぁ……いや~怖かった」
「うう、怖かったです~」
リリスを抱きしめて落ち着かせてあげる。
そしてリリスを抱きしめることで、僕もまた落ち着ける。
全速力で逃げた僕達は、無事に迷宮から脱出して本当のゴブリンの里に戻ってきた。
途中から魔物のゴブリンの叫び声は聞こえなくなったけど、とにかく外に出ようと走った。
あれ、攻略は無理だろ。倒せないよ。
でもどうして門番の叫び声には誰も反応してこなかったんだ?
里の中と外で区切られている?
いや、こんなゲーム的な考え方ではそもそもダメだ。
ここは迷宮。
何が起こるかなんて分からないんだ。
しばらくテントの中で休憩した。
もちろんリリスと愛し合いながらね。
お昼も食べて、さらに少し休憩した後にようやくテントから出てきた。
あ~このまま今日はテントの中に引き籠りたいな。
またリリスとラブラブなことを……。
でもこのままじゃ、あの迷宮の攻略が進まない。
別に攻略しなきゃいけないわけじゃないけど、こうして目の前に強くなるための試練があるのだから、越えていかなくちゃいけないと思うんだよね。
どうすれば、里の中にいるゴブリンをおびき寄せることが出来るか。
1体ずつとまでいかなくても、2体ぐらいまでに抑えておびき寄せたい。
でも里の中で叫ばれたら、あの数のゴブリンが群がってくる。
とりあえず偵察だな。
観察して考えないことには、何も浮かんでこない。
再び迷宮の中に入り、里を目指した。
しかし事態は一気に好転することになる。
それは、里を目指して森の中を歩いていると……。
「え……まじかよ。こういうことなの?」
里の中にいたはずのゴブリン達が、森のあちこちに散らばっていたのだ。
結果的にゲームの考えが役に立ったわけだ。
ここは迷宮! 本当に何が起こるか分からない!
「よし、倒しまくろう!」
「はい!」
魔体:ゴブリン
属性:無
魔神の加護:17
生命力:74+37
筋力:40+20
体力:40+20
俊敏:20
魔力:1
器用:20
装備:
技能:
魔体:オーク
属性:無
魔神の加護:15
生命力:36+18
筋力:66+33
体力:36+18
俊敏:18
魔力:1
器用:18
装備:
技能:
魔体:インキュバス
属性:無
魔神の加護:11
生命力:25
筋力:1
体力:15
俊敏:64+64
魔力:38+19
器用:38+19
装備:
技能:
魔体:ダークプリースト
属性:闇
魔神の加護:13
生命力:44
筋力:1
体力:30
俊敏:16
魔力:60+60
器用:60+60
装備:
技能:ダークヒール(回復力60・消費魔力2)




