第20話
ゴブリンの里に発生していた迷宮。
僕達はその黒く輝く渦の中へと入っていった。
「ここは……」
「森……の中ですね」
迷宮という言葉からダンジョン的なものを想像していたけど、入ってみるとそこは森の中だった。
しかも何となく見覚えがある。
ゴブリンの里の近くの森だ。景色に見覚えがあるぞ。
「まさか迷宮の中に自然が広がっているなんてね」
「驚きです……あ、あれは……」
リリスの指さす方にいたのは、1匹の獣だ。
小さな兎のような獣。
迷宮の中には生き物が住んでいるのか?
「あれって本物?」
「おそらく違うと思います。あの獣から魔力を感じます。あんな魔力を感じさせる獣はいません」
ああ、あれも『魔物』か。
迷宮の中で魔物を倒せば魔体が強くなる。
なら、この迷宮の中にいる生き物は全て魔物なのか。
「あんまり強そうじゃないな。あれを倒してもあんまり経験値もらえなさそうだ」
「経験値ですか?」
「ああ、なんでもない。気にしないで。さて、早速検証を始めるかな」
ハンマからオークの魔体を出した。
検証とは、この複数魔体の成長システムである。
ハンマから出てくる魔族の魔体は、その魔族に魔族化している時の魔体だ。
このままの状態、つまりハンマから出した状態でも魔物を倒せば成長するのか、それともその魔族に魔族化して倒さないといけないのか。
これによって魔物狩りの仕方が大きく変わってくることになる。
幸いなことに、迷宮の出口は入口と表裏一体だった。
僕達の真後ろには黒く輝く渦がある。
念のためその渦に入ったら、問題なくゴブリンの里に戻れた。
再び迷宮の中に入り、探索を始めることにした。
「よし、行こう」
「はい!」
辺りを探索して、見つけた魔物の獣を片っ端からオークで倒した。
結果はだめだった。
30匹倒しても、オークの加護が上がることはなかった。
獣のような弱い魔物では経験値が少なすぎるのか? と思ったけど違った。
なぜなら、検証のためにインキュバス化して、インキュバスの魔体を出して獣を狩ってみた。
15匹目で加護が2に上がったのだ。
続いてオーク化した。
インキュバス以外の魔族に、リリスの前でなるのは初めてだったからちょっと緊張した。
リリスもちょっと驚いていたけど、感動してくれた。
「素敵……これが魔族化の能力なんですね」
「うん。ちょっと見た目があれだけどね」
全裸です。
「いいえ、素敵です。オーク化しても、ガイア様は素敵です」
オークな僕にハグしてくれるリリス。
ああん、癒される!
オークの魔体で獣を狩る。
10匹目で加護が2に上がった。
インキュバスより少ない。
下位種族は、加護が上がるのは早いのかもしれない。
「やっぱり魔体を強くするには、その魔族になっていないとだめみたいだね」
「魔体が強くなったかどうか、お分かりになられるのですか?」
「うん、ある程度だけどね」
ちらりとダークプリーストを見てみる。
ダークプリースト 魔6
ダークプリーストは、リリスとHすることで加護が上がることは分かっている。
僕とのHで6まで上がったのだ。
迷宮に入ってからは上がっていない。
ダークプリーストは攻撃していないから、経験値を得られていないのか。
それともパーティーシステムのようなもので、僅かでも経験値を得ているのか。
まだ判断は出来ないけど、たぶん経験値は得られていないと思う。
ダークヒールをかけてもらうことも、まだない。
魔物の獣相手に傷つくことなんてない。
獣はほとんど攻撃してこないからね。魔物になっているから好戦的になるわけではないようだ。
Hだけでダークプリーストの加護を上げていくのは大変だ。
いや、毎日するし、したいし、やっちゃうけど、それでもHだけで加護を20も30も上げられるのか?
攻撃系の魔法魔石が手に入ればいいけど、そんな簡単に手に入るとは思えない。
願わくは、ダークヒールを唱えて魔体の傷を癒すことで、ダークプリーストの加護が上がって欲しい。
それなら魔物と戦いながら、ダークプリーストも加護上げが出来るから。
「お……やっぱりか」
「あれは、ゴブリン?」
「ゴブリンだね。ゴブリンの里に迷宮があったから、何となく出てくるんじゃないかな~とは予想していたけど、本当に出てきたな」
ゴブリン 魔1
徐々にゴブリンの里に近づいて行くと、ついにゴブリンの魔物が出てきた。
魔1のゴブリンか。
ゴブリンを倒すのは何となく忍びないけど、でも僕達が成長するためには必要なことだ。
「倒そう。ここから先はゴブリンの魔物が出てくるだろうから、慎重に進もう。もし僕の魔体が傷ついたら……あ、いや、待って。すぐにダークヒールは使わないで」
「え? わ、分かりました」
「ダークヒールの性能も検証したい。僕に考えがあるから、僕が指示を出すまでダークヒールは使わないように」
「はい!」
ゴブリンの里に向かって、ゴブリンの魔物を倒しながら進んでいった。
ゴブリンは獣と違って、こちらを認識すると襲いかかってきた。
ちょっと悲しくなったけど、目の前にいるのは魔物のゴブリンであって、本物のゴブリンじゃない。
襲ってきた時は冷静に対処して、逆にこっちに気付いていない時は奇襲で倒していった。
これまで魔1から魔5までのゴブリンが出てきた。
魔物は倒すと、魔体と同じく砕け散って消えていく。
そして魔5の魔物を倒した時、初めて魔石が残った。
「これが魔物の残す魔石か。あまり変わらないね」
「はい。とても小さいですが、魔石で間違いありません」
「う~~ん」
魔力魔石:1
魔力値1の魔石だった。
リリスの産む魔石は質が良いのかもしれないな。
あれからリリスは毎日魔石を産んでいる。
毎晩しているからね。
魔石は魔力魔石で、魔力値は4が続いていたけど、今日の朝初めて魔力値5の魔力魔石だった。
少しずつ魔力値の高い魔力魔石になっていくのかもしれない。
精を与える僕の能力や、リリス自身の能力が上がれば、より良い魔石を産めるはずだ。
そしてリリスが産むのは魔力魔石だけなのだろうか?
武装魔石、魔法魔石、技術魔石や、その他の特殊な魔石とか出てこないかな。
もし出てくるとしたら、それはランダムなのか。それとも何か法則があるのか。
これは検証しないといけない。
検証するためには、しないといけない! なんて素晴らしいサイクルなんだ!
「リリスがもっていた魔力魔石と同じぐらいの魔力魔石だね」
「魔石の種類がお分かりになるのですね。私は識別出来ません」
「な、なんとなくね。それにしてもダークヒールは優秀だね」
「嬉しいです! 素敵な能力を与えて頂き本当にありがとうございます」
ぐいっと抱きついてくるリリス。
ま、基本ずっと密着だけどね。
戦闘は魔体がしてくれるわけだし。
ついさっきオークからインキュバス化したから、いちゃつくインキュバスとサキュバスの図となっています。
「ああ、ガイア様……」
あれ? リリスがなんか欲情してる?
どうしてだ?
オークの時も全裸の僕に抱きついて、いろんなところを弄っていたけど、こんな欲情した眼差しと、妖艶な声じゃなかった。
あ、魅了? もしかしてインキュバスの魅了が効いてるのか?
そういえば、リリスとHする時はいつも人間の姿だけど、魔族の姿でHしたらどうなるんだろう?
産まれてくる魔石に影響があるかもしれないな。
これは検証しないといけない!
検証するために魔族化して、やらないと!
「はぅ!」
リリスの尻尾をぎゅっと掴んで、優しく擦ってあげる。
サキュバスはここが弱点なんだよね。
それはもう散々弄り倒したから、リリスの弱点なんて熟知していま……。
「はぅぅぅぅぅ!」
「い、痛かったですか!? も、申し訳ありません」
「い、いや。痛くないよ。ただすごい感触で驚いただけ」
「嫌でしょうか?」
「う~~~ん、悪くない。むしろ気持ち良いよ」
「良かった。嬉しい」
インキュバス化した僕の尻尾をリリスが撫でてきた。
優しく撫でられただけで、あの衝撃。
こ、これは掴まれたり、もしくは、CからDに成長した胸とかで、あんなことや、こんなことされたら……。
これは検証しないといけない!
インキュバス化した時の自分の弱点を知っておかないといけない!
さすがに迷宮の中で、しかも初迷宮の中でしちゃうのはどうかと思った。
思ったけど、燃え上がった僕達は自分を止めることが出来なかった。
一応魔体を出しておけば、よっぽど加護の高いゴブリンでも現れない限り、大丈夫だからね。
互いの感情が納まるまで、たっぷりと愛し合ってしまった。
「お腹……空いた」
「はい!」
愛し合ったところで、昼ご飯を食べることにしよう。
お昼を食べながらダークヒールの性能を整理した。
魔5のゴブリンに対して、僕も加護9のゴブリンを出した。
そして相手の攻撃をしばらく受け続けさせた。
加護9のゴブリンの生命力は補正込みで63ある。
魔物のゴブリンの攻撃を受けると、生命力が削られていくのが分かった。
生命力:42+21(▲40)
リリスの魔力消費と同じく▲のマイナスで表示されたのだ。
今まで戦闘中に魔体の情報をいちいち確認していなかったけど、ちゃんと見れば残り生命力も把握できるわけだ。
ダークヒールは1回で生命力を32回復できた。
ダークプリーストの魔力は32+32の64だ。
ダークヒールに補正値が乗らないのか、それとも補正値込みの半分が回復力なのか。
はたまたダークヒールの回復力に魔力は関係していない可能性もある。
いずれにしても、魔力2を消費して生命力を32回復出来ることが判明した。
回復魔法があるのは心強いけど、過信してはいけない。
まず、ダークヒールは即時回復ではない。
ダークプリーストが歌を唄うように詠唱すると、傷ついたゴブリンの魔体の身体が一瞬光り、その後に生命力が回復した。
光りが納まると、傷ついたゴブリンの魔体の傷も無くなっていた。
回復まで少しの時間を要するから、それを考慮しないといけない。
あと気をつけないといけないのは、ダークプリーストの魔力だ。
ダークヒールは魔力2を消費するが魔力が足りない場合、瞬間的に魔力を回復する手段がない。
魔力魔石を吸収すれば魔力は回復するけど、吸収までに時間がかかるのだ。
魔力値4の魔力魔石で、吸収するのに2分弱かかる。
正直2分弱もあったら、魔力魔石を吸収するより僕と愛し合った方が早い気もする。
話を戻して、リリスのダークヒールがあれば、1対1ではよほどの実力差がなければ負けはしない。
少しぐらい加護が上の相手も倒せるはずだ。
この迷宮はゴブリンの里とその周辺の森が再現されている。
そしてゴブリンの里に近づけば近づくほど、加護の高い魔物のゴブリンが現れる。
里の中には、おそらくゴブリンリーダークラスがいるだろう。
リリスと力を合わせれば、きっと勝てるはずだ。
どこの迷宮も同じなのか分からないけど、ここは一度倒した魔物がまた現れることはないようだ。
ゲームでいうリポップがない。
一度倒したらお終いだから、加護上げを考えるなら森の中を隅々まで探索して、全ての魔物を見つけて倒すべきだな。




