表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
35/43

第18話

「おめでとうリリス」

「あ、ありがとうございます?」


 今回はさすがにリリスも疑問符がついている。

 そりゃそうだ。

 自分の体内から魔石が産まれてきた。

 訳が分からんよね。


 今朝リリスの姿が見えなかったのは、昨日1日中僕としていたリリスだが、明け方急にお腹に刺激が走ったそうだ。

 すると、あそこから何かが産まれるという感覚が。

 リリスは急いで1階に降りた。

 そして魔石を産んだ。


 自分の身体から出てきた魔石を見て、リリスは驚愕した。

 こんなこと普通じゃないと。

 もし、これが僕に知れたら、気味悪く思われて捨てられてしまうのではないかと恐れた。

 それでぶるぶる震えながら1階に隠れていたそうだ。


 すると、今度は僕の声が聞こえてきた。

 リリス! と叫ぶ僕の声に、すぐにでも出ていって抱きつきたかったけど、魔石のことをどう話したらいいのか分からず、外に出られなかった。

 窓からそっと僕を見ると、今度は僕がその場に倒れてしまったというわけだ。

 慌てたリリスは僕を担いで2階の部屋に飛んで、僕の頭をずっと撫でてくれていた。


 さて、リリスは自分が魔石を産んでしまったことに困惑しているけど、実は僕は困惑していない。

 なぜなら、僕はリリスの情報カードを持っているから。

 そこに書かれていたことが、これで判明したわけだ。



名前:リリス  年齢:16歳  性別:女  種族:サキュバス

魔体:ダークプリースト

特殊技能

 半人化

 魔石結晶化



 特殊技能にある魔力結晶化。

 何のことか分からないままだったけど、今回の出来事はこの技能によってだろう。

 リリスは体内で魔石を結晶化させることが出来るようになっているんだ。


 何を魔石に結晶化させているのか?

 僕の精から得られる魔力だろう。

 もしくは僕の精そのものか。


「ガイア様は私のことお嫌いにならないのですか?」

「リリスのことを嫌いになるわけないじゃないか。今度からも何かリリスの知らないことや、分からないことがあったら、まずは僕に相談するんだ。

 僕はどんなことがあっても、リリスを嫌いになったりすることはないから」

「ガイア様!」


 熱い抱擁。

 僕もさっきの2度と感じたくない負の感情のせいか、リリスを抱きたくて仕方ない。

 朝食なんていらない。

 今はリリスと愛し合いたい!





 事が終わり、ようやくお昼ご飯です。

 リリスの美味しいご飯を食べながら、リリスの身体から産まれてきた魔石を見る。



魔力魔石:4



 リリスが持っていた魔力魔石より高い魔力を持った魔石だった。

 この魔力魔石をダークプリーストに与えたら、それで魔力が4回復するのだろうか?

 試してみるしかない。


 何だかいろいろ試したいことが増えた。

 でも、加護を上げるための相手がいない。

 やはり魔族の森の奥を目指すか。

 またどこかにオークの里があったら、例の大角鹿作戦でおびき出して加護上げしたいな。


 それか迷宮。

 リリスは迷宮なんて入ったことない。

 今まで魔体を持たなかったリリスが入るわけない。

 だから迷宮がどんなところか、リリスはまったく知らないのである。


 ただ、迷宮の入口は見たことがあるそうだ。

 黒く輝く闇の渦が渦巻いていて、その中に入ると迷宮の空間に入るとか。

 友好派リーダーも迷宮は特別な空間だと言っていた。

 いったいどんなところなんだろう。


「この近くに迷宮ってある?」

「申し訳ありません。今まで迷宮に関心がなかったので……この近くに迷宮があるのか分かりません。私が以前に見た迷宮はずっと魔族側の大陸の方でした」

「そっか……人族と魔族って大陸をどんな感じで分けているんだっけ?」

「いま現在はちょうど半分ずつですね。西が魔族で東が人族です。人族との接触地のうち、半分がルーン王国となります。残りの半分のうち、さらに半分がバル王国ですね。

 ここルーン王国より北にバル王国はあります。

 そしてルーン王国より南で魔族と接触しているのは、最南端のエティル王国だけです」


 やっぱり魔族の森の奥深くを目指してみよう。

 人の街に向かうとしても、ルーン王国内は危険だ。

 アリバラや王都なんて言ったら、いつあの姫騎士に会うか分からないしね。


 でもその前にポーメンに一度戻りたい。

 揃えたい物もあるし。

 今日また偵察に行ってみるか。


「今後の方針だけど、魔族の森深くを目指そうと思う。でもその前に、出来れば一度ポーメンに戻りたい。

 聖騎士団が引き揚げれば、ポーメンに入ることが出来るはずだから、それまではこの近くで食料を確保しながら過ごそう」

「分かりました。ガイア様がポーメンに行かれている間、この近くに迷宮がないか探してみます」

「どうやって迷宮を探すの?」

「ガイア様より魔体を授かった今なら、迷宮の中から溢れる魔力を感じられるはずです」

「へ~それは頼もしい。でも無理はしないでね」

「はい」




 昼を食べた後、僕はポーメン方面の偵察に向かった。

 あいかわらず聖騎士団が巡回してるんだろうな、と思いながら近づいていったのだが、今日は違った。


 いない。

 聖騎士団がまったく見えない。

 慎重に、慎重にポーメンに近づいていった。



 ついにポーメンが見えてきた。

 まだちょっと距離はあるけど、聖騎士団はいない。

 どこかに潜んでいないかビクビクしながら、一歩、また一歩と、ポーメンに歩いていく。


 そしてポーメンの目の前までやってきた。

 門が見えている。

 門の前に立っている門番は、あの時の男の人達だ。


 すぐに声をかけるのは危険だ。

 もしかしたら、まだ村の中に聖騎士団がいるかもしれない。

 少し様子を……あ!


 門から1人の男性が出てきた。

 エドヴァルドさんだ。

 何だかすごく懐かしい気がする。

 実際もう10日以上経っているわけだから、懐かしく感じるのも当たり前か。


 エドヴァルドさんはものすごく気が抜けた顔をしている。

 弛んでいる、という言葉がぴったりだ。

 面倒臭そうに、森の中へ向かっていく。

 巡回か?


 僕はエドヴァルドさんの後をついていった。

 村からある程度距離が離れるまで声をかけない。

 村が見えなくなった頃、僕はそっと声をかけてみた。


「エドヴァルドさん」

「うおっ! ってその声は……ガイアさんか!?」

「はい」


 ゆっくりと姿を見せた。


「おお! 無事だったんだな! いや~良かった! 姫騎士様がよ、『森で不審な男と会った。聖体持ちだ。必ず探し出せ』なんて言うもんだから心配していたんだよ」

「あはは、実は魔族が攻めてきた時、僕も森の中にいたんです。南の教会に隠れて、魔族が通り過ぎたら後ろから魔族を倒していたんですよ」

「おお~! さすがはガイアさん! 男だね!」

「それでその時、姫騎士に姿を見られてしまって……いや~怖かった。あの人、問答無用で攻撃してきそうな雰囲気でしたから。すぐに逃げましたよ」

「よく姫騎士様から逃げられたな。ま、無事で何よりだ」

「聖騎士団はみんなアリバラに戻ったのですか?」

「いや、それが……1人残っている。そいつがまたうるさい奴でよ~。今も俺に森の中を巡回してこいって命令しやがって。

 まったく何が第2聖騎士団だ。ちょっと綺麗で、ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって……」


 1人残っているのか。

 ポーメンの村の中に入るのは危険だな。


「それだとポーメンに入るのはやめた方がいいですね」

「だな。姫騎士様が探しているのがガイアさんと確定したわけだから、やめておいた方がいい。

 あ、もちろん村ではガイアさんのことは何も喋ってないぜ。森で不審な男って聞いても、それがガイアさんか分からなかったし、仮にそうだとしても村の恩人を売るようなことは出来ないからな。

 ま、聖体持ちって聞いて、まず間違いなくガイアさんだろうとは思っていたよ」

「ありがとうございます。そういえば、魔族との戦いで被害は?」

「大丈夫だ。村に被害はないし、聖騎士団も誰も死んでいない。ただ疲れたってだけだよ。オークの数が尋常じゃなかったからな。

 俺も初めて魔族と戦ったけど、あの数には正直びびったね。でも戦ってみると、これが案外いけたのよ! いや~ガイアさんにも俺の勇姿を見せたかったぜ!」

「それはぜひ、いつか一緒に魔族と戦いましょう」

「おぅよ!」


 よかった。ポーメンに被害はなかったようだ。

 あの姫騎士がいるんだから、圧勝だったろうな。


「ところでエドヴァルドさん。実はちょっと困っていまして」

「お? 何だ? 他ならぬガイアさんの頼みだ。俺に出来ることなら何でもするぜ!」

「このまま旅を続けようと思っているのですが、その……」


 僕は旅に必要なものをエドヴァルドさんに頼んだ。

 一番は寝袋。

 頂いた毛布は本当に重宝しているけど、教会を出て野宿するなら寝袋が欲しい。

 簡易テントみたいなのがあれば最高だけど、それを望むのはさすがに悪いし、そもそもポーメンにそんなものがあるとは思えない。


「それならあのテントがいいかもしれないな」

「え!? テントなんてあるんですか?」

「ああ、こんな平和ボケしていたポーメンだけど、一応魔族との接触地だからな。魔族との接触地でこんだけ平和なのは本当に異常なんだぜ。

 ま、その一応魔族との接触地なおかげで、それなりの野営道具の備蓄はあるんだ。たぶん10年以上使われたことのない物だけど。

 今回の件で在庫の確認と点検をしたから、問題なく使えるテントがある。普通なら持てないけど、ガイアさんは聖体持ちだ。

 聖体に荷物を持ってもらえば楽勝だろ。あ、どこかで俺が聖体に荷物を持ってもらうなんて言ってたとは言わないでくれよ。姫騎士様が聞いたら一大事だからな」

「そうなですか?」

「ああ、聖体は聖神様の加護により授かった大切なもの、と考えられている。だからその聖体に荷物を持たせるなんて、あの姫騎士様が聞いたら発狂ものだぜ」

「な、なるほど」

「ま、そこまで厳格に思っているのは、あの姫騎士様みたいなお堅い人達だけだ。実際には聖体に荷物もってもらうなんてよくやってることさ」


 エドヴァルドさんは、他にもあれやこれと僕のために必要な物をいろいろ考えてくれた。

 優しい人だな。

 でも僕が本当の意味で『命の恩人』になったことも関係しているようだ。


 魔族が攻めてくる。

 その情報は魔族の森からやってきた、見知らぬ旅人からもたらされたもの。

 どこまで本当か、信憑性には疑問もあったはずだ。

 それでも信じてくれたのは、僕が聖体持ちだったから。本当は魔体なんだけどね。


 そしてアリバラから援軍が到着してすぐに、本当に魔族の森からオークが襲来してきた。

 もし、アリバラからの援軍が無かったら? おそらくオークにこの村は滅ぼされていたことだろう。

 だから、本当の危機を知らせてくれた僕は命の恩人なのだ。



 エドヴァルドさんと共にポーメンに戻った。

 もちろん僕は外で待機だ。

 しばらく待つと、エドヴァルドさんが出てきた。


「村長も喜んで協力してくれる。カールもな。真面目なあいつも村の危機を救ってくれたガイアさんには感謝していて協力的だぜ。

 ガイアさんに必要な物をここに運んでくるから、ここで待っていてくれ。

 保存の効く食料も持ってこよう」


 食料か。

 リリスがいるから食事には困っていない。

 むしろ調味料的なものが欲しいな。

 塩、砂糖、胡椒、お酢、醤油……この世界にあるのか?


「食料は大丈夫です。ただ、調味料的なものがあれば、少しでも分けて頂けると助かります」

「調味料だな。分かった村長に言っておこう。塩と砂糖は十分な量があったはずだから、それなりに分けられると思う。ただ胡椒はあまり無くてな……」

「あ、無理には大丈夫です。ポーメンの皆さんを困らせたいわけではありませんので、本当に余裕のある物だけで大丈夫です」

「すまないな」


 申し訳ないのは僕の方だ。

 大切な調味料を頂けるだけでもありがたい。



 エドヴァルドさんは再び村の中へ入っていった。

 しばらくすると、村の男性が旅袋を運んできてくれた。

 みんな僕を見たら「ありがとうございます」と感謝してくれた。

 何だか嬉しかった。

 そしてエドヴァルドさんが聖体を使って大きな荷物を運んできた。

 あれがテントか。


 木の棒と布と縄でテントを敷くのか。

 本当に簡易的なテントだな。

 しかも1人用だ。

 ま~狭くてもリリスとは密着して寝ればいいから問題ない。


 最後にエドヴァルドさんとがっちり握手した。

 村の中にいる聖騎士団の人に見つからないように、こんなにもたくさんの物を運んでくれた。

 僕は深く頭を下げて、感謝の気持ちを伝えた。


「本当にありがとうございます」

「こちらこそ、我らが命の恩人に少しでも報いることが出来て嬉しいよ。ガイアさんの旅に聖神様の加護があらんことを!」


 僕らは笑顔で別れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ