第17話
「おめでとうリリス」
「ありがとうございます。本当に全てガイア様のおかげです。私の命はガイア様のものです。どうか下僕として一生お側に仕えることをお許し下さい」
サキュバスにリリスという名を与えた翌日。
リリスはまた新たな感動に涙し、そして僕の下僕になると誓った。
別に下僕じゃなくて、奥さんでもいいんだぞ?
さて、リリスに新たな感動を与えたのはもちろん魔体だ。
ダークプリースト。
リリスが得た魔体の名前だ。
サキュバスではなかった。
サキュバスが得る魔体はサキュバスだ。
リリスもサキュバスの里で、サキュバス以外の魔体を見たことはないそうだ。
どうしてダークプリーストなのか。
おそらく半人化が影響しているのだろう。
ま、どういう理由であれリリスが魔体を持てたことに変わりはない。
リリスは僕が魔体を与えてくれたと思っている。
でもそれはどうなんだろう?
リリスの情報を見た時、魔2という情報が見えていた。
そして僕から精を得る度に、実は彼女の加護はどんどん上がっていたのだ。
昨日の時点で、魔5まで上がっていた。
リリスは初めから魔体を授かれるサキュバスだったとも考えられる。
それがたまたま昨日授かったとか。
いや、それは都合良すぎだな。
リリスの半人化は、おそらく僕と初めてした時に得たものだ。
なら、その時に魔体を得ていたというのはどうだろう。
それなら、初めてリリスの情報を見た時に魔2と見えたのも辻褄が合う。
さらには、魔体を得たけど発動は出来ない。発動するための条件は名前を授かること。
これも都合が良すぎる考えだけど、まだこっちの方が納得できるかな。
それにしても、魔族に名前を与えるのって別に魔王でなくてもいいんだな。
誰でもいいなら、適当に名前を付け合えばいいのに。
ゴブリンでは名前を付け合うって発想が出ないか。
「これが私の魔体……ああ、なんて素敵なの!」
素敵……か。
確かに、男の僕が見るとかなり興奮しちゃうような魔体だ。
黒いプリーストの服は、リリスが人化した時の服と同じだ。
胸の谷間を露出させ、しかも深いスリットから悩ましい太ももと脚が見える。
ここまではいい。
なぜか魔体のダークプリーストは目隠し状態だ。
しかも両手両足が鎖で繋がれている。
何ともSMチックな雰囲気を醸し出している。
でもそれ、歩き難くない?
なんて思っていたら、ダークプリーストは微かに浮いて移動していた。
飛べるのか?
そっか、リリスが飛べるんだからダークプリーストも飛べないとだめだよな。
ダークプリーストの情報は見れた。
僕の魔体と同じく情報が見れたのだ。
魔体:ダークプリースト
属性:闇
魔神の加護:5
生命力:20
筋力:1
体力:14
俊敏:8
魔力:28+28
器用:28+28
装備:
技能:ダークヒール
魔力=器用>生命力。
魔法型だな。
そして初の属性持ちにして、初の技能持ち。
僕の魔体じゃないから、初って言うのもおかしなことだけど、情報が見れることからも僕と何らかの強い繋がりがあるのは間違いない。
魔力と器用はハンマより上。
魔法型としては優秀なのだろう。
それに技能のダークヒール。
名前からして、魔体の傷を癒してくれると推測している。
聖体の傷は癒せなさそうだな。
リリスは魔体を得たことで、リリス自身の能力も飛躍的に上がっている。
特に魔力とその制御が、自分でも信じられないほど強く感じられるそうだ。
制御。
これは器用が影響していると思う。
能力値の中でも、文字だけでは理解し難いのが器用だったけど、器用が高ければそれだけ能力の制御に優れ、能力を最大限生かせるのではないか。
例えば筋力100と器用30という能力値の魔体がいるとする。
筋力は100あるけど、それに対して器用が低い。
すると、常に筋力100の能力を魔体が発揮できない。
こんな感じだろう。
「この両手両足を繋いでいる鎖が私の魔体の武器なのでしょうか?」
え? 鎖が武器?
いやいや、違うだろ。
情報にも装備の欄は空白だ。
「違うんじゃないかな。リリスの魔体は何も武器を持っていないと思うよ」
「え!? 魔体を授かる時には、必ず武器を授かると聞いていたのですが……」
ありゃ、そうなんだ。
それは知らなかった。
「そ、そうなんだ。でもリリスのは違うと思う。特別だから」
「特別……そうでした。私の魔体はガイア様の御力で授かった特別な魔体でした。それに里で魔体を授かれなかった私は、魔体の知識があまりありません。どうか厳しくご指導をお願い致します」
「う、うん」
僕も魔体の知識なんかありません! 僕が教えて欲しいぐらいだよ!
っと嘆きたくなるけど、リリスを導くのは僕だ。
愛想尽かされて逃げられた悲しい。
頑張って良い主人を目指そう。
「えっと、リリスの魔体の名前はダークプリーストだ」
「魔体の名前をお分かりになるのですね」
「ま、まあね。それと、リリスの魔体には技……特別な力があるみたいなんだ。ダークヒールという力で、たぶんなんだけど、僕の魔体の傷を癒してくれる力なんじゃないかな」
「素敵! ガイア様のお力になれるなんて!」
リリスは僕の胸に抱きついてきた。
赤紫の髪はいつも良い匂いがする。
そして同じ赤紫の瞳を輝かせながら、本当に嬉しそうに喜んでいる。
可愛いやつめ!
「僕の魔体にダークヒールをかけてみようとしてみて欲しい。いまは僕の魔体は傷ついていないから、特に効果はないだろうし、そもそも発動しないかもしれないけど」
「わかりました」
僕の胸に密着しながら、リリスはダークプリーストを見た。
すると、ダークプリーストが何かを唱えた。
それはまるで歌を唄っているようだった。
「素敵な声だね」
「はい。ガイア様への愛の歌です」
「あ、ありがとう」
さらっと恥ずかしいことを言ってしまうリリスだけど、表情はいたって真面目だ。
ふざけていない。
真面目に僕のことを慕ってくれているんだ。
「ダークヒールの発動は問題ないようだね。リリスはどう? たぶん魔力を消費すると思うんだけど」
「はい。特に疲れを感じることはありませんでした。ですが、魔体は何か疲れたように感じます」
「ふむ」
再びダークプリーストの情報を見てみた。
魔体:ダークプリースト
属性:闇
魔神の加護:5
生命力:20
筋力:1
体力:14
俊敏:8
魔力:28+28(▲2)
器用:28+28
装備:
技能:ダークヒール
魔力に▲表示で数字が示されていた。
マイナスってことか。
ダークヒール1回で魔力を2消費するのか。
魔力の最大値は56だから、28回使えるわけだ。
魔力の回復はどうなんだろう?
ゲームみたいに時間が経てば勝手に回復するのか?
それとも食事を取ったり寝たり……あ、いや、リリスの場合は僕から精を得ることか。
僕から精を得たら、魔体の魔力も回復するのかな?
ちょうど朝食を食べ終えたところだ。
食料のストックも問題ないし、今日は昼まで部屋に籠ることにしよう。
「リリス」
「はい、ガイア様」
唇を奪うと、そのまま毛布の上に倒れ込んだ。
結論から言って、回復した。
僕からリリスが精を得ると、ダークプリーストの魔力は回復した。
しかも、それだけじゃない。
魔体:ダークプリースト
属性:闇
魔神の加護:6
生命力:23
筋力:1
体力:16
俊敏:9
魔力:32+32
器用:32+32
装備:
技能:ダークヒール
加護が上がっていた。
サキュバスの魔体は精を得ることで強くなるとリリスが言っていた。
つまりダークプリーストはサキュバスと同じで、魔体や聖体を倒したり、迷宮で魔物を倒したりするのではなく、僕の精を得ることで加護が上がっていく仕組みなのだ。
ダークヒールはたぶん回復系の魔法だし、筋力1のダークプリーストが魔物を倒すのは大変だ。
そう考えると、ありがたい仕組みだな。
リリスと毎晩愛し合うことで、リリスがどんどん強くなっていくなんて、素晴らしいことだ。
そのうち攻撃系の魔法魔石を手に入れたら、ダークプリーストに与えるのもいいかもしれない。
そうしたら、魔物を倒して加護を上げることも出来るだろう。
しかし昼までのつもりが、昼ご飯を食べた後にまたしてしまった。
もうすっかり空は暗くなっていた。
そしてリリスが美味しそうなご飯を作ってくれている。
これを食べたら、きっとまたしてしまうだろうな。
「ガイア様。お食事の用意が出来ました」
「うん、ありがとう」
この後の展開は予想通りであった。
1つ違ったのは、ご飯を食べた後に一緒に川に水浴びにいって、川でもしてしまったということぐらいだ。
「ん……んん」
身体がだるい。
昨日は1日中リリスとしてたから、かなり精を取られてしまった。
精を取られることに慣れたのか、最初のようなものすごい疲労感に襲われることは無くなったけど、さすがに1日中はやり過ぎた。
目が覚めると隣にリリスはいない。
食事を作るのはこの2階だから、たぶんトイレかな?
トイレ用の水もリリスが全部汲んできてくれるから、ありがたい。
しばらくリリスが帰ってくるのを待った。
でもなかなか帰ってこない。
そこで、あっと気付いた。
昨日は1日中リリスとしていた。
つまり、僕だけじゃなくて、リリスも丸1日仕事を出来なかったわけだ。
トイレ用の水が無くなっていたんじゃないか?
川まで汲みに行ってるのかな?
窓から外を見てみる。
リリスの姿は見えない。
トイレ用の水が置いてある場所に行ってみた。
「あれ?」
確かに水は無くなっていた。
でも木で作った桶はそのままそこにあった。
川に水を汲みにいっているなら、桶も持っていくはずだ。
「飲み水の桶は2階にあったもんな……」
急に不安が胸に広がってきた。
リリスと肌を重ねるようになってから、僕が教会にいる間、リリスが僕から離れるのはトイレの時だけだ。
それ以外の時は、密着しているか、目に映る場所でご飯を作っているか。
それなのに、いまどこにいるのか分からない。
「リリス!」
リリスの名を叫んでみる。
聖騎士団に聞こえたらなんて考えを持てるほど、冷静じゃなかった。
何度もリリスの名を大声で叫んだ。
「リリス! リリス!! リリス!!!」
ああ、まさか……逃げた?
でもどうして?
魔体を手に入れたから?
サキュバスの里に帰ったのか?
魔体を持たない者は里から追い出される。
なら、魔体を得たリリスは里に帰れる……とか。
うわ……ちょ、ちょっとこれはやばい。
僕の心がやばい。
これは辛い。
え、まじで? 本当に?
だって、昨日だってあんなに愛を囁いてくれたじゃん。
僕の下僕として一生側にいるって……。
僕は下僕どころか伴侶のつもりだったのに……。
目の前が真っ白になった。
本当に世界が真っ白に染まっていった。
ああ、立っていられない。
だめだ。
真っ白な世界が、ぐるりと回転した。
その瞬間、僕は意識を失った。
「×××よ~、主に捧げしこの命を~」
歌?
誰かの歌声が聞こえてくる。
幻聴か?
あれ? 誰かの優しい手が頭を撫でている。
それに頭の後ろには柔らかい感触が。
ゆっくりと目を開けた。
そこにいたのは……
「リ……リ……」
「あ、ガイア様。お気づきになられま、きゃっ!」
力強く抱きしめた。
本当に力一杯にリリスを抱きしめた。
あまりの力にリリスは驚いていたけど関係ない。
リリスがいなくならないように、しっかりと抱きしめた。
「リリス、どこに?」
「……申し訳ありません。私は……ずっと1階にいました」
へ? 1階に?
ようやく周りを見れば、教会の2階の部屋だった。
リリスが運んでくれたのか。
でもなんで1階に隠れていたんだ?
「どうして1階に……何度も呼んだのに」
「申し訳ありません。それは……」
リリスの表情が曇る。
何があったんだ? どうしたんだ?
「う、うまれたんです」
「うまれた?」
「はい。うんでしまったのです」
「うんだ?」
え? 何を?
「私の中から……魔石が……私、魔石を産んでしまったんです!」
へ? どういうこと?
 




