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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
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第15話

サキュバス(半人化) 魔2



 おいおい、エドヴァルドさん! 話が違うじゃないか!

 はぐれサキュバスは魔体を持たないんじゃなかったのかよ!


 昨日素敵な体験をさせてもらった相手だ。

 出来れば争いたくないけど、僕を殺そうとしているなら戦わないといけない。


「こ、ここにお住まいなのですか? た、たまたま近くを通りかかったもので……」


 なかなか苦しい嘘をついてくるな!

 いま現在、ポーメンはオークと戦の最中だ。

 もうすでに終わっているかもしれないけど。

 それなのに、ポーメンのプリーストがたまたまここを通るわけないだろ!


 ま、こっちはもう相手の正体が分かったんだ。

 話を合わせて、相手の意図を探るべきだな。


「そ、そうでしたか。えっと、僕は旅をしているガイアと申します。この近くを通りかかって、ちょうど寝泊まりするには良い小屋があったので、使わせてもらっていました。だめでしたでしょうか?」

「い、いえ! だめなんてことはないです!」

「それは良かった。ところでポーメンは大丈夫でしたか? もうオークとの戦いは終わったのでしょうか?」

「あ、え、いえ、その、あの」


 どもり過ぎだろ!

 僕を騙すつもりなら、もうちょっと設定を考えてから来いよ!

 こんな怪しいプリーストを信じる人間がいると思っているのか?


「明日にはここを発とうと思っています。村のみなさんにはよろしく伝えて下さい」

「え!?」


 ここを発つ。

 僕がここにいるなら、毎晩精を吸い取りにこれると思っていたのだろう。

 ここを去ってしまったら、せっかく吸えた相手に逃げられてしまうかもしれないと焦っているな。

 よ~し、もっと焦らせるか。


「ポーメンを越えてアリバラへ向かうつもりです。その後は、王都へと。ルーン王国の王都は素晴らしい都だと僕の故郷まで噂が聞こえてきました。一度死ぬまでに見てみたいと思っていまして」

「あ、え、その、えっと、その、あ、あ、」


 すんげ~慌ててるぞ。

 ちょっと面白い。

 サキュバスをからかうことになるなんてね。

 癖になりそうだ。

 見た目は16歳ぐらいの可愛い女の子プリーストが、僕の言葉にびくびくと反応してくれるんだ。

 しかも自分がサキュバスだとばれているとも知らずに。

 さらには自分がこの子の初めての相手だと思うと興奮してしまうな。

 ああ、あの赤紫の瞳に見つめられると昨日の快感が蘇ってきそうだ。



 さて、サキュバスをからかうのもいいけど、相手の意図が見えてこない。

 そして問題は『半人化』だ。

 文字をそのまま受け止めるなら……僕とは逆ってことだろう。

 僕は魔族になれる。

 逆にこのサキュバスは人族になれるのか。

 でもどうして?

 サキュバスは人族になれる?


 インキュバスの情報に半人化なんて種族特性はなかった。

 あったのは『魅力』だけだ。

 あ、僕はいま魅了されているのか?

 だからこんなに可愛く見えるとか。


 さらに問題なのが『魔2』だ。

 加護が2。つまり魔体持ち。

 魔体持ちである以上、油断するわけにはいかない。

 なんだけど、ここまで自信なさげで、慌てふためく様を見ていると、何て言うか保護欲? 守ってあげたくなっちゃう気持ちにさせられるな。

 これも魅了の効果なのかもしれないけど。


「あの、その……」

「はい、何でしょうか?」


 にっこりと笑顔を向けてあげた。

 その笑顔のおかげなのか分からないが、サキュバスはついに覚悟を決めて言ってきた。



「ガイアさんは……魔族なんですか?」



 妙な沈黙が一瞬流れた。

 僕は魔族なのか? さて、どうしてその質問が出てくるんだ?


「あの……今朝、見ちゃったんです。その……ガイアさんが……インキュバスに」


 ああ、見ていたのか。

 どこかに隠れていのかな?

 今朝、教会の外でインキュバスになって、空を飛べないかと飛行訓練をしていたのを見られたわけだ。


 く……よりによって、見られたのがあの恥ずかしい飛行訓練だとは!?

 もっと格好良い姿を見せたかったよ!


「僕がインキュバスになったのを見たんですね?」

「は、はい」

「なるほど……それで、仮に僕がインキュバスだとしたら?」

「……どうして」


 そこでサキュバスは言葉を止めた。

 どうして……どうして人の姿に? ってそれはお互い様だろ。

 サキュバスだって半人化で人の姿になっているのだから。



「どうして、私は人族になってしまったのですか?」



 は?

 どうして私は人族になってしまったのですか?

 知らないよ! って自分のことだろ!


「え? ど、どういう意味ですか?」

「昨日……ガイアさんから精を頂きました。私は、昨日のサキュバスです」


 うん、そうだよね。

 朝方までたっぷり、絞り取っていったよね。

 あと少しでミイラになりそうだったよ。


「そ、それで?」

「私は人族から、はぐれサキュバスと呼ばれています。15になるまでに魔体を授かれなかったサキュバスは、無能として里を追い出されます。1年間、自力で精を得ようとあちこちを放浪しましたが、まったく上手くいきませんでした。

 そして数日前、この近くの人族の村に辿り着いたのです」


 1年もの間、このサキュバスは精を得られなかったのか。

 サキュバスって普通に食事とか取るのかな? それとも精を得ないと死んじゃうのかな?


「闇に紛れて村に忍びこみました。それほど難しくなかったです」


 ポーメンの守りだめだめじゃないか。

 完全に気が緩んでいたんだろうな。

 僕が魔族のことを知らせるまで30年もの間、平和に暮らしていた村だから仕方ないか。


「村には加護を受けた男の匂いが2つありました。

 その1つに近づきましたけど失敗して、次の日にもう1つに近づきましたけど失敗しました。

 ああ、やっぱりだめなんだと思っていたら、ガイアさんが村にやってきたんです。

 それでガイアさんの精を求めにいったのですが……たぶん覚えていらっしゃると思いますが、失敗しました」

「う、うん。そうだったね」


 あと一歩のところで、僕が起きちゃったんだよね。


「やっぱり私はだめなサキュバスなんだと落ち込みながら、隠れ家にしていた教会に戻りました。

 そしたら、そこにガイアさんがやってきたんです。慌てて、この丘の教会に逃げました」


 え? ここに逃げてたのか。


「そしたらまたガイアさんが……でもその時は誰か来ないか警戒していたので、すぐに隠れることが出来たんです。

 ガイアさんが去った後、この教会に留まりました。

 すると夜にまたガイアさんが……私は魔神様が与えてくれた好機だと思い、勇気を出してガイアさんの精を求めました」


 うんうん、それで僕達は結ばれたんだよね。

 めでたし、めでたし……じゃなかったわけだ。


「私にとって初めての精でした……とっても嬉しかったです。ガイアさんの精は温かくて優しくて、私の中に注がれたガイアさんの精が愛おしかったです」


 相手がサキュバスじゃなかったら、すんげ~恥ずかしい言葉だな。


「私は森の木陰から、ガイアさんの様子を伺っていました。どこかに行くならついていこうと思っていたからです。

 初めてだったけど、精一杯ガイアさんのために頑張りました。私とすることが嫌じゃなかったら、ガイアさんはまた私を受け入れてくれると期待していたんです。

 でも……ガイアさんは人からインキュバスに姿を変えました。自分が夢の中にいるんじゃないかと思うぐらい驚きました」


 そりゃ~驚くよね。

 サキュバスやインキュバスが、人の姿になるのが当たり前でないなら、驚くよね。


 しかしこれはまずいぞ。

 僕の秘密を見られてしまったということだ。

 この世界にとって異常な存在だと、気付かれてしまったんだ。

 それで、僕が魔族なのかと聞いてきたのか。


「人がインキュバスになる……それともインキュバスが人になっていた……私は考えました。人に化けられるインキュバスの話は聞いたことありませんでしたが、世の中にはそんなインキュバスもいるのかもしれないと思いました。

 その時です。

 いきなり体験したことのない、不思議な感覚に襲われました。一瞬の眩暈の後……気が付いたら私は人族の……プリーストの姿になっていたんです」

「な、なるほど」


 何がなるほどだよ。

 今度は僕が答えに困っている。


「自分の身に起こったことが信じられなくて唖然としていたら、ガイアさんは森の奥へと走り出してしまいました。

 すごく速くてまったく追いつけませんでした」


 ご、ごめんね。

 追いかけてきたんだ。


「人族となってしまったことで空も飛べない。サキュバスに戻りたい! と思ったら、また不思議な感覚に襲われて、あっという間にサキュバスに戻っていたんです! もう訳が分からなくて……。

 とにかくガイアさんを探そうと、森の中を飛び回りました。

 ようやくガイアさんを見つけた時、ガイアさんはオークと戦っていました。

 オークの剣にガイアさんの魔体が斬られたと思ったら、ガイアさんがオークを倒してしまいました。

 あんなに大きくて強そうなオークを倒してしまったのも驚きでしたが、その後……ガイアさんの魔体が……オークを吸収するのが見えたんです」


 やばい、吸収の瞬間まで見られている。

 完全に僕の秘密を知ってしまっている。


「本当に頭が混乱していました。冷静になろうと思えば思うほど、頭が爆発しそうでした。そんな時、人族の騎士がやってきたんです。とても強そうな騎士でした。無意識にガイアさんが危ないって思ったんです。

 それで私……人族になって悲鳴を叫びました。騎士の注意を引き付けようとして」


 あの悲鳴はこのサキュバスだったのか。

 僕を助けようと、姫騎士の意識をそらしてくれたんだ。


 つまり恩人。

 命の恩人だ。

 このサキュバスは僕の命の恩人だったのだ。


「人族の騎士はものすごい速さで、私の方に向かってきましたけど、悲鳴を叫んだらすぐにサキュバスに戻って木の上に飛んで逃げたので、見つからずに済みました」


 命の恩人サキュバス様。

 どうやったら空を飛べるか、僕にも教えてくれませんか?


「またガイアさんを見失ってしまいましたけど、不思議とここにいるんじゃないかと思えて、ここに来たんです。

 私……私……自分がどうなってしまったのか、これからどうすればいいのか……もう分からなくて……」


 泣き始めてしまった。

 プリーストに人化したサキュバスが泣いている。

 可愛い女の子を泣かしてしまった。


 でも泣きたいのは僕だよ!

 だって僕も訳わからないんだもん!


「お、落ち着いて。一緒に状況を整理しよう。ね? ね?」

「う、ひぐぅ……は、はい……ぐすん」




 まずはサキュバスを落ち着かせた。

 お互い敵意がないと分かり、距離も近くなる。

 落ち着かせる流れで、サキュバスの手を握ってしまっている。

 おそるおそる握ったら、サキュバスはすごく嬉しそうにはにかんでくれた。

 その笑顔可愛すぎるぞ!


 さて、ここまで話を聞いたところで、実は1つ不思議な点がある。

 このサキュバス……魔体を持っているはずだ。

 見える魔族の情報では、加護が2になっている。

 加護2以上は魔体持ちのはず。

 それとも違うのか?

 一応聞いてみた。


「君は魔体を持っていないんだよね?」

「はい。授かれませんでした」

「魔神の加護って……魔体を持たない者でも上がるの?」

「魔神様の加護が上がる……とは?」


 だめだ。聞いてみたけど、通じない。

 魔神の加護が情報として見えるのは、僕だけか。

 ゴブリンの友好派リーダーも、魔神の加護がいくつとか言わなかった。


 自分の情報が見えるカードもそうだ。

 ゴブリンの誰1人としてカードを出したことはない。

 ポーメンでも、エドヴァルドさんがカードを出すことはなかった。


 サキュバスは人族からサキュバスの姿に戻っている。

 人族の時はなぜかプリーストのような服だったけど、サキュバスになったら……よりセクシーな服になった。

 黒いブラとパンティーに網タイツ。まさにサキュバスのイメージそのままの服だ。


「サキュバスは精を得ることで強くなるの?」

「多少は……でもそれは魔体を授かった者のように強くなれるのではなく、精を得てそれを体内で魔力に変えることで、ほんの少しだけ魔力を操れるようになる程度です。

 精を得るのは、生きていくためです。サキュバスは精を得ないと、いずれ枯れて死んでしまいます」


 生きるためか。

 でも1年も精を得ないで生きていられるのか?


「サキュバスの里を出てから精を得たのは僕が初めてなんだよね? 1年ぐらいは精を得なくても生きていられるの?」

「いいえ、1ヶ月も精を得なかったら死んでしまいます。里を出てから昨日まで、これで命を繋いでいました」


 サキュバスが見せてくれたのは魔石だった。

 その魔石を見ると『魔力魔石:1』という文字が浮かんで見えた。


「これは?」

「魔力魔石です。里を出される時にもらえて、これを吸収することで命を繋いでいました。サキュバスは15になるまで、大人達が集めてくる魔力魔石を吸収して成長していくんです」

「へ~……どうやって吸収するの?」

「身体に直接押し当てて吸収します。これぐらいの小さな魔力魔石なら1分ぐらいで吸収できます」

「へへ~、美味しいの?」

「いいえ、美味しくありません。でも不味くもありません。魔力魔石は魔力を得られるだけで、味が何もないんです」


 なるほどね。

 里を追い出される時にもらえた魔力魔石が尽きる前に、精を得られる相手を見つける必要があるわけだ。


「魔力魔石はあと何個残ってる?」

「これが最後の1つです。あ、あの……こんなことを言うと、嘘っぽく聞こえるかもしれませんが……ガイアさんの精を得た後から、ガイアさんの精だけ欲しくなったんです。

 ガイアさん以外の男性から精を得ることを考えると、何だか嫌な気持ちになるんです。どうしてか分かりません。

 私のようなはぐれサキュバスはもともと精を得られる相手を見つけるのが難しいので、精を得られた相手にくっつくことはあると思いますが、こんな気持ちになるなんて聞いたことありません。

 でも、ガイアさん以外の男性から精を得たいとは思えなくなってしまいました」


 な、何かすごいこと言ってくれるな。

 相手がサキュバスだから、人間の場合とちょっと意味合いが違うけど、それでも『愛の告白』に聞こえてしまう。

 だって僕以外の男とは、したくないって言ってくれているんだから。


「お願いです! 側にいることをお許しください。私、何でもしますから」


 サキュバスは膝をついて僕に懇願してきた。

 その上目遣いに僕はイチコロ。

 もちろん答えはYES!

 でも精を吸い取る量は相談しようね。


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