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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
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第10話

「魔族との戦いにガイアさんも参加して頂けるなら、これ以上心強いことはありません。村の危機を知らせてくれただけではなく、一緒に戦って頂けるとは……ガイアさんはアルス王子と同じくまさに勇者でございますな」

「と、とんでもないです」


 村長に、今日は村の外の地形を把握するために探索することと、魔族との戦いには自分も参加することを伝えた。

 ただし、アリバラからやってくる騎士団の援軍の中ではなく、僕個人として単独で動くという前提で。

 そうでないと、ゴブリン化してゴブリン達と接触し難くなってしまうからね。


「ポーメンからアリバラ方面の森には大した猛獣もおりませんが、ガイアさんがやってきた魔族の森の方面には猛獣も出ます。もちろん魔族との戦いを考えるなら、そちらの地形を把握する必要があるでしょうな。

 実は昔、魔族の侵攻を防ぐために、森の中にいくつか『教会』を築きました。今はもう使っておらず、10年以上も放置してしまっていますので、朽ちて廃れていることでしょう。

 今回の戦いでその教会が防衛拠点として機能するとは思えませんが、よろしければ、教会の様子を見て頂けると助かります。

 エドヴァルドは二日酔いのようで、役に立ちそうにありませんから」

「はい。わかりました。教会の様子を見てきますね」


 村長から村周辺の地図を見せてもらった。

 大事な物なので貸し出しは無理とのこと。

 だいたいの位置を頭の中に叩きこんでおいた。


 教会は全部で3つ。

 全部回れるか分からないけど、とりあえず様子を見に行ってみよう。

 魔族化する時の隠れ家として使えるかもしれないしね。


 村長の奥さんが昼食と新鮮な水が入った水筒を持たせてくれた。

 荷物はハンマに持ってもらえばいい。

 戦う時は地面に置けばいいしね。



 さて、魔族の森方面の門から外に出た僕は、早速教会に向かって歩き始めた。

 一番近い教会は3つの中で真ん中の教会だ。

 まずはそこの様子を見て、それから次にどっちの教会に向かうか決めよう。


 森の中を歩きながら、エドヴァルドさんから聞いたことを思い出す。

 はぐれサキュバス。

 村長には伝えなかった。

 そして昨夜、僕のことを襲おうとしたのは、たぶんこのはぐれサキュバスなのだろう。


 サキュバス。

 魔族の中でも中位種族に位置するそうだ。

 魔族は下位種族、中位種族、上位種族、と人族が勝手にランク付けしている。


 魔族のランク付けの定義の1つに、魔体持ちの比率がある。

 下位種族は、人数は多いけど魔体持ちは少ない。そして能力も低い。ゴブリンとオークは下位種族である。

 中位種族は、人数は少ないけど魔体持ちは半々ぐらいの比率。能力もそれなりに高い。

 上位種族は、人数が極めて少ない。しかしほぼ100%魔体持ちであり、能力もとんでもなく高い。


 そんな中位種族であるサキュバスだけど、『はぐれサキュバス』と呼ばれる者達がいる。

 それは魔体を持たないサキュバスだ。


 魔体を授かるかどうかは半々。その中で、魔体を授かることが出来なかったサキュバスは、サキュバスの里から追い出されることになると言われている。

 そうしたサキュバスは自らの力だけで『精』を集めることになる。

 魔体を持たないサキュバスは、魔体を持つ下位種族よりも弱いんだとか。


 ちなみに、人族は聖神の加護により『聖体』を授かる。

 その比率は魔族の下位種族以下。

 なぜなら、人族はこの世界で最も多い人数を誇っている。

 母体が多いのだから、聖体持ちの比率が低くなるのは仕方がないわけだ。


 ゴブリンの里で友好派リーダーが『加護を授かった者』なんて言葉で表現したものだから、魔体と聖体の区別がついていなかった。

 危ない危ない。

 村からの信頼を得ようとハンマを見せたけど、『僕の魔体は』なんて言ってしまっていたら、間違いなく魔族認定されていただろう。



 エドヴァルドさんがサキュバスに襲われたのは、3日前だそうだ。

 その時、エドヴァルドさんも途中で起きてしまい、そしてサキュバスは慌てて逃げていったとか。

 どうして俺は起きてしまったんだ! と嘆いていた。


「精を吸われ過ぎると死ぬこともあるそうだが、はぐれサキュバスは相手を殺すようなことはしないらしい。自分が弱い存在だと分かっているから、精を吸える相手は貴重な存在ってわけだ。だから精を一度吸われたら、その後は何度もサキュバスが精を求めにやってくるってわけよ」


 3日前に未遂に終わったサキュバスは、その後まだエドヴァルドさんに姿を見せていない。

 昨夜、僕のところに来たのはそのサキュバスで間違いないだろう。


「でもどうして聖体を持つエドヴァルドさんを狙ったんでしょうね。普通の村人なら魔体を持たないサキュバスでも勝てるのでは?」

「あ~、それはだめなんだ。サキュバスは加護を受けた男の精でないと意味がないらしい。狙われるのは必ず加護を受けた男だ」


 つまり、ポーメンでサキュバスに襲われる対象はエドヴァルドさんとカールさん。

 2日前はカールさんが襲われたそうだ。

 そしてカールさんも同じく失敗に終わった。

 そしたら新たな加護持ちの僕が現れたので、僕に狙いをつけてきたのか。


 ま、僕も失敗に終わってしまったんだけどね。

 ちょっと惜しかったな。

 あのまま寝た振りを続ければ、サキュバスに精を吸ってもらえたわけだ。

 どんだけ気持ち良いのか、一度ぜひ体験してみたかった。


 それにあのサキュバス……夢を見ながら聞こえてきた声があのサキュバスの声だとしたら、処女の可能性がある。

 初めて成功しそうとか、初めて見たとか呟いていたから。

 サキュバスなのに処女。

 すげ~レアな存在だ。



 さて、そんなことを考えていたら教会に到着した。

 教会といっても、建物が1つあるだけ。

 周りを囲む柵も何もない。


 建物も、2階建ての小屋みたいなものだ。

 木ではなく、石で造られている。ちょっとは頑丈に造ろうとしたのかな。


 教会の周りは草と木が生い茂り、教会の中にまで生え伸びている。

 10年も放置していたら、こうなるよね。

 これは魔族との戦いの拠点として使えそうにもないか。

 本当に雨風しのげるだけになる。


 念のため、2階も見ておこう。

 1階から2階に上がる階段が崩れないかちょっと心配だったけど、1歩1歩ゆっくりと上がっていった。

 そして2階の部屋のドアを開けた。


「ん?」


 微かな音が聞こえた。

 この世界に来てからやけに良く聞こえるようになった耳が、微かな音を拾った。

 それは、何かが飛び立ったような音に思えた。


 窓を見る。

 開いていた。

 2階の窓が最初から開いていたかどうか、来た時に注意して見ていないので分からない。


 でも2階の部屋は1階とは違う、誰かが住んでいたという気配がある。

 どうして1階ではそう感じられなかったんだ?

 もし2階に誰かが住んでいたとしたら、1階から階段を上がってこの部屋に来るはず。

 階段に積もっていた塵に、人が通った跡がついていてもいいはずだ。


「まさか!」


 急いで窓から外を見た。

 辺りを見渡すも、見つからなかった。


「ここに……隠れていたのか」


 間違いない、サキュバスだ。

 昨日見た後ろ姿には、背中から小さな羽と尻尾が生えていた。

 サキュバスなら1階を通らないで、直接この2階に飛んで入ってこれるだろう。


「これでここから別の場所に移動したとしたら……エドヴァルドさんの計画は完全にダメになっちゃうな。ま、しょうがない。別にエドヴァルドさんの手伝いをする理由もないんだから」



 中央の教会から、今度は北の丘の上にある教会を目指して歩き始めた。

 エドヴァルドさんの計画を思い出しながら。




「はぐれサキュバスは、一度精を吸った相手に何度も精を求めにやってくる。それを利用して……サキュバスを捕えようと思っているんだ」

「捕える?」

「そうだ。加護を受けたガイアさんだから言うんだぜ! もしかしたらガイアさんの精を吸いに来るかもしれないから。そしたらお願いだ! 俺の計画を手伝ってくれ! あ! もしかして昨日……サキュバスがガイアさんのところに来たとか!?」

「い、いえ。来ていませんよ」

「そうか……それならよかった。でも出来れば今日か明日、俺のところに来てくれないかな……明後日には、カールがアリバラから加護持ちの援軍を連れてきちまう。そいつらの誰かがサキュバスに精を吸われたら、俺の計画は台無しだ」

「サキュバスを捕えるってどうやるんですか?」

「『奴隷魔石』だよ」


 奴隷魔石。

 魔石には様々な種類がある。

 そもそも魔石とは、迷宮の魔物を倒すと残る石のことだ。

 ほとんどが魔力を宿した魔力魔石なのだが、中には特別な効果を持った魔石がある。


 武装魔石もその1つだ。

 他には聖体が魔法を使えるようになる『魔法魔石』

 そして聖体が様々な技術を取得する『技術魔石』などがある。


 奴隷魔石はその中でもレア中のレアな魔石で、1個で砦が1つ建つぐらいのお値段が付くとか。

 理由はその名の通り、この魔石を与えた相手は主人に一切逆らえなくなる。

 奴隷魔石はまず、主人となるものが魔石に血を数滴垂らす。

 そして奴隷にしたい者の胸に魔石を押し当てると、魔石が体内に勝手に吸収されていく。

 完全に吸収されるまで10分近くかかるそうだけど、全て吸収されたら完了だ。


 奴隷となったものは理性を失うわけではない。

 しかし主人の命令に逆らうと、死よりも恐ろしい苦痛を味わうことになる。

 また主人を傷つけようという考えを持てば、途端に身体は硬直して一切動けなくなり、そして同じく苦痛を味わう。


 さて、そんな超高価な奴隷魔石をエドヴァルドさんが持っているのか?

 当然持っていない。

 エドヴァルドさんは、サキュバスを自分の奴隷にするのではなく、王都の金持ちの奴隷にしようと企んだわけだ。

 ルーン王国の王都テラ。

 そこにいる貴族の中には、悪趣味な野郎が大勢いるとか。

 表向きは禁じられていても、魔族を奴隷にしたいと望む者は多い。

 それがサキュバスともなれば、破格の値段になる。


 はぐれサキュバスに精を与えて手懐ける。

 そして、王都の金持ち貴族にサキュバスの奴隷を買わないか持ち掛ける。

 もちろん奴隷魔石は相手貴族が用意する。

 主人にしたい者の血の垂らした奴隷魔石を用意してもらって、サキュバスの胸にその魔石を強引に押し当てるという計画だ。


 カールさんにこの計画を話したら、一蹴されてしまったそうだ。

 でも、エドヴァルドさんの計画を村長には黙っている。

 魔族を奴隷にして金儲けするのを、善いとか悪いとか思っていないのかもしれない。


 ま、その壮大な計画も、ついさきほど僕のせいで失敗に終わることになったかもしれない。

 はぐれサキュバスはとにかく臆病。

 自分が弱いと分かっているから、ちょっとでも危険を感じると、すぐに逃げてしまう。

 隠れ家の教会が見つかったのだから、もうポーメンの村を狙うこともないかな。

 他の村や町に行ってしまうだろう。



 北の丘の上にある教会に到着した。

 さっきとほとんど同じ2階建の小屋だった。

 ここは中央の教会より、魔族の森により近い。

 僕の隠れ家にするならこっちかな。


 アリバラからどんな援軍が送られてくるのか、まずはそれを確認する。

 そして、ポーメンにはこれだけの戦力が……ってゴブリン化した伝えたところで、どこまで信用してもらえるかな。

 どうして僕がそんな情報を知っているのか、説明する必要がある。

 適当なところだと、心配で先にポーメンの様子を見に行ったら、ポーメンの人族が守りを固めているところ見てしまったとか?



「ふぅ……お昼食べるか」


 これからのことを考えながら、村長の奥さんに頂いた昼食でお腹を満たし水筒で喉を潤した。


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