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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第2エター 異世界で中途半端な魔族始めました
24/43

第7話

「腹減った!」

「お腹空いた!」

「肉! 肉! 肉が食べたい!」

「俺は何でも食べたい!」




 オークの里に入りました。

 道中考えていた旅人なんて設定は無意味でした。

 なぜって、オークの里には門番はおらず、豚人間が好き勝手に出入りしているような無法地帯だったのだ。


 あちこちから聞こえてくる食への渇望の声がうるさい。

 本当にオークは食べることしか頭にないのか。

 里の奥へと進みながら、魔体持ちでレベルの高いオークを探してみた。


「いた」



オークリーダー 魔26

オークリーダー 魔24

オークリーダー 魔22

オークリーダー 魔20

オーク 魔19

オーク 魔19

オーク 魔17



 高レベルのオーク達だ。

 オークリーダーが4人もいる。

 ゴブリンの里では見かけた限りでゴブリンリーダーは3人。

 族長、友好派リーダー、強硬派リーダーの3人だ。

 他にもレベルの高いオークが結構な数いるな。

 あれ、もしかしてゴブリンよりオークの方が戦力上なんじゃないか。


 何やら会議でもしているのか集まって話し合っている。

 出来るだけ近づいて、耳をすましてみた。


「決めた。殺す」

「当然だ」

「ゴブリンなど敵ではない」

「いつやる?」

「いまでしょ!」

「待て」

「待ちます」

「あの生意気なゴブリンの提案には乗る」

「ポーメンの人族も殺して食べる!」

「そうだ。ゴブリンだけじゃない。人族も殺す」

「食べたい。ゴブリン食べたい。人族食べたい」

「食べたい」

「食べたい」

「食べたい」



 やけに短い言葉での会話だな。

 あまり知能は高そうに思えないけど、言っている内容は恐ろしい。

 こいつらゴブリンと手を結んで、人族を殺した後にはゴブリンも殺すつもりか。


 まずいぞ。

 ゴブリン達が人族と手を結んでオークを倒すと決めてくれたらいいけど……。

 いや、待て。

 そもそも何で既にオーク達に、一緒にポーメンを攻めるという提案がされているんだ?

 どうするかを決めるのは明日だったはず。

 まさか、強硬派が先に動いているんじゃ。


 これはさらにまずいぞ。

 オークと手を結んだら、きっとゴブリン達は皆殺しにされてしまう。

 だってこれ、あきらかにオークの方が戦力上でしょ。

 レベル10以上のオークの数もそれなりにいる。

 さらにはレベル2以上、つまり魔体持ちの数もオークの方が多い。


「ご飯食べたい!!」

「うるせぇ! 俺も食べたいんだぞ!」

「肉~! 肉~! 肉~!」


 はぁ……本当にうるさいな。

 ん? 待てよ……そうだ!!!!





「お前本当にいい奴だな~! ど、どこだ? どこにあるんだ?」

「静かにしろ。兄弟だけ特別に連れてきたんだ。他の奴に気付かれたら大変だぞ」

「お、おぅ。すまん。でも大角鹿なんて大物よく捕えられたな」

「たまたま弱っていたんだ。さぁ、こっちだ。もうすぐだぞ」

「はぁはぁ、はぁはぁ、早く喰いてぇ~!」

「ほら、あの洞穴の中だ。あの中に隠しておいたんだ」

「ブヒィー!」


 僕はいま魔5のオークを『2人だけで大角鹿を食べよう』と誘い、里から少し離れたところに見つけた洞穴に連れてきている。

 洞穴は本当に偶然見つけたもので、そして本当に中には大角鹿を置いてある。

 でも食べさせることはない。

 洞穴に入った瞬間、僕は人間に戻るとハンマを出す。

 そして後ろからの奇襲でオークを倒す。


 大角鹿に目を奪われたオークは魔体を出すことすらない。

 そのままオークをハンマが1発叩けば、それだけで魔体は消滅だ。

 パリンという音と共に、オークの体から砕け散った魔体が少し見える。

 唖然とするオークを、後はハンマが倒すだけ。

 簡単な作業です。


 魔体を出していない状態で攻撃を受けたら魔体に大ダメージだと教わった通り、奇襲はかなり有効だ。

 魔2から始まって、魔3、魔4、そして魔5も全て1発で魔体が消滅している。

 次は魔6を連れてくるか。


 今夜のうちに、どれだけオークの戦力を減らせるか。

 作戦自体は上手くいっている。

 でもちょっと問題がある。


 ハンマのレベルが上がらない。

 魔神の加護は1のままだ。

 やはり、ハンマにとってオークは格下の相手か。

 もっとレベルの高いオークじゃないと経験値にならないのか。


 どれだけレベルの高いオークならいいんだ?

 もしかしてオークだとダメとか? いや、そんなことはないだろう。

 後ろからの奇襲で、魔5のオークとハンマが実際に戦った時にどれだけ力の差があるのか分からない。

 奇襲でなくても、ハンマが余裕で勝つんだろうけど。



 オークの里に戻る。

 魔6のオークを探してうろうろ。

 あちこちで腹が減ったと叫ぶオークでごった返している里だ。

 うろうろしていても、まったく不審に思われない。

 人間顔なオークでも不審に思われません。


「僕もついに魔体を授かったぞ!」


 魔6を探していた時だ。

 何やら喜んで叫んでいるオークがいた。

 見ると魔1だ。

 レベル1のオーク。

 しかし魔体を授かったと叫んでいた。

 周りでは羨ましがる声が聞こえる。

 魔体があれば、たくさん肉が食べられるとか。


 こいつレベル1の魔体持ちだ。

 都合がいい。

 ハンマじゃなくて、オーク……いや、ゴブリンで倒してみよう。

 これでゴブリンのレベルが上がったら、ハンマのレベルが上がらない理由が格下相手だからと確信が持てるし。


「おめでとう兄弟!」


 僕は笑顔でそいつに近づいていった。





「ふぅ、さすがに一撃とはいかなかったか」


 洞窟の中。

 魔体を授かったばかりのオークをゴブリン化して倒した。

 奇襲でも一撃で魔体を消滅させることは出来なかったけど、大ダメージのアドバンテージもあって余裕で倒せた。

 オークの死体は洞穴のさらに奥に集めて置いてある。


 そしてゴブリンのレベルは……。



魔体:ゴブリン

属性:無

魔神の加護:2

生命力:14+7

筋力:10+5

体力:10+5

俊敏:5

魔力:1

器用:5

装備:

技能:



 上がった。

 魔神の加護が2に上がった。

 そして各能力値が少し上昇している。

 やっぱり魔神の加護はレベルに相当する概念なんだ。


 能力値は、生命力が4上がっている。

 筋力と体力は2で、俊敏と器用は1か。

 魔力は上がらなかった。


 基礎能力が上がったことで、追加される補正値みたいなものも上がっている。

 やはり半分だな。

 生命力、筋力、体力は1.5倍になるわけだ。


 よし、次は魔2のオークを連れてこよう。

 それに、他にも魔1の魔体持ちのオークがいたら、オークのレベルも上げておくか。

 そんなに上手く見つかるか分からないけど、とにかく時間が許す限り、ゴブリンとオークのレベル上げを兼ねて、オークの戦力を削るんだ。





 薄っすらと空の色が変わり始めている。

 ここまでか。

 急いでゴブリンの里に戻らないと。

 まずはゴブリン達がどんな決断をしたのか聞こう。


 洞穴作戦は大成功だった。

 結果はこうだ。



魔体:ゴブリン

属性:無

魔神の加護:9

生命力:42+21

筋力:24+12

体力:24+12

俊敏:12

魔力:1

器用:12

装備:

技能:



魔体:オーク

属性:無

魔神の加護:8

生命力:22+11

筋力:38+19

体力:22+11

俊敏:11

魔力:1

器用:11

装備:

技能:



 ゴブリンはレベル9、オークはレベル8まで上がった。

 オークの筋力はついにハンマを超えてしまった。

 それでも全体の能力値からすれば、ハンマの方が全然強いけどね。


 これでゴブリンのままでも、ある程度は戦えるかもしれない。

 レベル1のままだと、本当に弱くてどうしようもなかったからね。


 ゴブリンの里に着いた時には、すっかり空は明るくなってしまっていた。

 ゴブリン達の決断はいかに!?


「はぁはぁ、戻りました」

「おお、無事だったか。戻ってこないので心配していた。無事で何よりだ」

「狩りがなかなか上手くいかなくて……それで、その……どうすることに?」

「ん? ああ、里の方針のことか。決まったよ」


 どっちなんだ?

 頼む! 人族と手を結んで、


「オークと共にポーメンの人族を滅ぼすことになった。さきほどオークの里に使いの者が向かった。早ければ今日にでも、オークと共にポーメンに向かうことになる」


 僕の願いは打ち砕かれた。




 友好派リーダーからそのあと話を聞いた。

 ポーメンの村がある場所は、もともとはゴブリン達が住んでいた森だったそうだ。

 それを今から30年ほど前に、人族に奪われた。

 森の奥に逃げてきたゴブリンは、オークといざこざを起こしながらも、今のこの集落を築いて生活してきた。


 微妙なバランスの中で共存してきたゴブリンとオークだけど、オーク達の食料が不足してきたのか、ゴブリン側まで食料を求めてやってくるようになった。

 そこでゴブリン達はオークを倒すか、ポーメンの人族を倒すか、悩んだ。

 結論は、もともと自分達の土地を取り返す、であった。


「貴方はどうするのですか?」

「もちろん戦う」

「でも……」

「里の方針は絶対だ。例え、ポーメンを滅ぼした後に強力な人族がやってこようとも、最後まで戦うまでだ」


 死ぬつもりだ。

 それが戦士の誇りなのだろうか。


 戦士が誇り高く死ぬ。

 それならまだいいのかもしれない。

 でも、ポーメンを滅ぼしたらきっとオークはすぐに裏切る。

 あいつらの知能は低そうだけど、どんな罠を仕掛けてくるかは分からない。


 どうする。

 どうすれば、この心優しいゴブリンが生き残れる。

 出会って数日、そもそも僕は本当のゴブリンじゃない。

 見捨てたって構わない。

 僕は人間の村や街に入ることの方が大切なのだから。


 でも、この心優しいゴブリン達には恩がある。

 ご飯をくれた。

 腹が減っていた僕にご飯をくれたんだ。


 獣を取ってきてからは、その対価とも考えられる。

 でも初日はそうじゃない。

 初めてこのゴブリンの里に入った時、彼らは旅人だという僕にご飯を恵んでくれたのだ。


 助けたい。

 どうにかして、心優しいゴブリン達を助けたい。

 最悪、強硬派のゴブリン達は仕方ない。


 それに加えて、さらに問題がある。

 まだこの世界で出会ったことはないけど、この世界の『人』が危ない。

 ポーメンの人々だ。

 彼らはこのままいけば、ゴブリンとオークの奇襲を受けて殺されてしまう。


 ポーメンの人々を助けるために、先行して知らせるか?

 でもそれでポーメンの防衛が万全のものになったら、オークと一緒にゴブリンも倒されてしまうかもしれない。



 まずはポーメンに向かおう。

 彼らに危険を知らせるんだ。

 同じ人として、彼らの危険を見逃すわけにはいかない。


 それにポーメンの防衛が堅ければ、ゴブリンもまた考えを変えるかもしれない。

 引き返してくれるかもしれない。

 これだ!

 ポーメンの守りが万全な状態だと、ゴブリンに分からせればいいんだ。


 オークがいつ裏切るか心配だけど、ポーメンを攻めるまでは裏切らないだろう。

 ポーメンの守りが万全で、ゴブリンとオークが引き返す。

 その後に、僕が今夜のようにオークを倒していく。

 オークの戦力を徹底的に削れば、ゴブリンだけでオークを倒すことだって可能になるはずだ。


「僕はまた旅に出ます」

「そうか。もともとお前さんは自由だ。この里の方針に従う必要はない。お前さんの旅が無事であることを祈ろう」

「ありがとうございます」



 それから寝泊まりしていたテントのゴブリンに挨拶を済ませ、さらには族長に旅を続けると告げて、僕はすぐにゴブリンの里を出た。

 いつも夜に出ていた入り口とは反対の、さらに川を下る方の入り口から出て行った。


 ポーメンの位置は友好派リーダーから聞いたことがある。

 ここからさらに川を下っていくこと5日ほどの距離だ。

 食料は自分で調達である。

 獣を狩っても僕では生肉を食べることしかできない。

 だからゴブリンの里で食べた果実や木の実、それに食べられる草など、いくつか教えてもらった森の恵を多く採ろう。

 水は果実の水分で補いながら、後は川の水を飲むしかない。


 1日でも早く着きたい。

 早く着けば着くほど、ポーメンの守りを固められる。

 そしてその万全な守りであることを、ゴブリンに知らせて、彼らの戦いを止めるんだ!


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