第6話
「どうすれば魔体が強くなるのか……お前さんは魔体を授かった時に教わらなかったのか?」
「僕の故郷では魔体を授かった者がいなかったんです」
「なんと!? よくそれで生きていられたな」
「だ、誰にも分からない辺境にありまして……」
大角鹿を獲ってきた僕は、友好派リーダーに会って魔体について質問している。
里のゴブリン達は御馳走の大角鹿に大喜びだった。
友好派リーダーも喜んでくれた。
「魔体を強くする方法は2つだ。
1つは魔体を倒す。この場合、同等か格上の相手を倒す必要があると言われている。弱き魔体をどんなに倒しても魔体は強くならない。魔体を授かった者を倒しても魔体は強くならない。倒すのは魔体そのものだ。
もう1つは迷宮の魔物を倒す。これは弱い魔物を倒そうとも、数多く倒すことで魔体は少しずつ強くなる」
友好派リーダーにどうすれば魔体が強くなるのか聞いた。
そんなことも知らないのかと驚かれたけど、適当な言い訳に納得してくれて親切に教えてくれるこのゴブリンは、やはり心優しいゴブリンだ。
魔体を強くするためには、同等か格上の魔体を倒すか、迷宮の魔物を倒す。
このどちらかでないと、魔体は強くならない。
つまり、魔体を持たないオークをどんなに倒しても成長しない。獣をどんなに倒しても成長しないってことだ。
「迷宮とは何ですか?」
「迷宮とは何か……私にも分からん。分かっているのは、迷宮の中は特別な空間で、そこには魔物がいるということだ。そしてその魔物を倒せば魔体が強くなる。それ以上のことは知らん」
「この近くに迷宮はありますか?」
「今はない。以前はあったが、枯れてしまった」
「枯れる?」
「迷宮は時が経つと消えてしまうのだが、それを枯れると言うのだ」
「どうして消えてしまうのです?」
「さあな。知らん」
迷宮についてはあまり詳しく知らなかった。
とりあえず、今はないと。
そうなると、ハンマやゴブリンを成長させるには魔体持ちを倒すしかないか。
「あ、もう1つ聞いていいですか。魔体って倒されてしまうとどうなります?」
「当然失うことになる。1度魔体を失った者が、再び魔体を授かったこともあるそうだが、よほど神に好かれていない限りあり得ないだろう」
倒されたら終わりと。
幸運にも再び魔体を授かったとして、また1から育てることになるんだろうな。
「最後の質問です。魔体を出している間は、本体である僕は神の結界で全ての攻撃を無効化出来るのですが、同時に僕も相手を攻撃することが不可能になりますよね?」
「そうだ。神の結界に守られし者は、攻撃の意思を持って誰かを傷つけることは出来ない」
「ありがとうございます。勉強になりました。少しテントで休ませてもらいますね」
「ああ、ゆっくり休むがいい。明日は里がどうするか決断する日だ。その決断をお前さん自身がよく考えて、自らの道を決めることだ」
心優しい友好派のリーダーは、柔らかい笑顔でそう言ってくれた。
目が覚めてテントを出れば、当然のように日は沈んでいた。
もう立派な夜行性です。
昼間はゴブリン達が森の中で狩りをしていて、人間に戻ることが出来ないからこうして夜中の活動でいいんだけどね。
今夜はこれまでと違って獣を探すことなく、オークの里を目指して進んでいく。
獣を持たなければ、食料狙いのオーク達が僕に向かってくることもないだろう。
そして魔体のハンマを出しておけば、僕に向かってくるのは同じく魔体持ちのオークでないと来ないはずだ。
森の中をどんどん進んでいくと、次第にオークの気配を感じるようになった。
でも僕の前に姿を現すことはない。
このまま進んでいったら、さらに囲まれることになる。
ハンマがいくら強くても、多すぎるオーク相手は危険か。
ここら辺で、魔体持ちが出てくるのを待った方がいいか。
「お、きたな」
噂をすれば……って僕の独り言だけどね。
茂みの奥から1匹のオークがやってきた。
体が大きい。
全裸なのは変わらないが。
オーク 魔4
レベル4のオーク。
レベル2以上は魔体持ちという推測が正しければ、こいつは魔体持ちのはずだ。
友好派リーダーに、魔神の加護2以上が魔体持ちなのかという質問はしなかった。
僕が見える情報がゴブリン達にも見えているのか疑問だからだ。
それに魔体を強くする話でも、彼の口から魔神の加護という言葉は出なかった。
このことからも、一般的に見えるようなものではない可能性が高いと思う。
「ブヒィ!!!」
やっぱり出してきた。
オークの魔体だ。
手に剣を持っている。
そういえば、どうやったら魔体は武器を装備するのだろうか。
ハンマの情報の中に『装備』の欄がある。
最初のゴブリンが棍棒を持っていて、こいつが剣を持っていることからも、魔体が武器を持てるのは間違いない。
これも今度、友好派のリーダーに聞いてみよう。
剣を持ったオークに向かって、ハンマは躊躇することなく向かっていった。
同時にオークも向かってくる。
オークが剣を振り下ろすも、ハンマは避けることもなく腕で剣を受け止めた。
剣が突き刺さることはない。
魔体の肉体構造が普通とは違うのか分からないけど、ハンマに大したダメージはないようだ。
そのまま強引にハンマはオークの顔面に拳を食らわした。
そこからは一方的な展開だ。
よろけたオークをハンマがめった打ち。
ゴブリンよりかは時間が少しかかったものの、オークの魔体はハンマの攻撃で砕け散った。
ゴブリンの時と同じく、魔体を失ったオークは逃げ出す。
が、逃がさない。
ハンマの射程距離20mを考えて、初めからオーク本体に僕自身が近付いておいた。
逃げ出したオークをさらに追いかけて、ハンマの射程外に逃れることを防ぐ。
射程内なら、ハンマの方がずっと速く動けるのだ。
あっという間にオークを捕まえて、数発で倒した。
そして推測通り、ハンマはオークに手の平を乗せると吸収する。
やはり魔体持ちを倒した時だけ、種族を獲得するようだ。
その場から素早く移動する。
他の魔体持ちで強い奴が出てくるかもしれない。
ハンマの基礎能力が高いから少しレベル上の相手でも倒せるとは思うけど、さすがに10以上も離れた相手がきたら不安だ。
安全な川辺まで戻ったところで、情報を確認した。
半魔化
ゴブリン:生命力(小)、筋力(小)、体力(小)
オーク :生命力(小)、筋力(小)、体力(小)
魔体:半魔人
属性:無
魔神の加護:1
生命力:50+25+25
筋力:20+10+10
体力:20+10+10
俊敏:20
魔力:20
器用:20
装備:
技能:
予想通りの結果だ。
オークの能力値補正は、ゴブリンとまったく同じか。
ゴブリンとオークは魔族として同じぐらいの強さということか。
嬉しいのはゴブリンの能力値補正に足される形で、オークの能力値補正が入ったことだ。
獲得した種族の中で最も効果の高い補正値だけ、という可能性もあったけど、種族を獲得すればするほど、どんどん能力値は足されていくわけだ。
ハンマの強化は間違いなく、種族獲得によってなされるわけだ。
ただちょっと心配というか問題なのは、ハンマの魔神の加護が上がっていない。
前回はゴブリン魔2を倒して、今回はオーク魔4を倒した。
1つぐらいレベルアップしてもいいと思うんだけどな。
あ、待てよ。
もしかしてハンマって魔体の中でも上位の魔体なのでは?
基礎能力高いし。
友好派リーダーは、魔体を倒す時に同等か格上の魔体を倒す必要があると言っていた。
でもそれって魔体の基礎能力によって基準が違ってくるんじゃないか。
だってオーク魔4をハンマは余裕で倒せてしまった。
これは同等の相手とは言い難い。格下の相手と言える。
なるほど、自分で納得だ。
そういうことなのだろう。
前回と今回、この2回の魔体との戦いでハンマは経験値を得られていない。
経験値なんてゲーム的な考えなのか分からないけど、イメージとして間違った考えではないはずだ。
そうなると、ハンマのレベル上げはやはり迷宮か。
でもこの近くにないんだよね。
とりあえずハンマのレベル上げは置いといて、今夜はもう1つやるべきことがある。
それはオークの里への侵入だ。
侵入と言っても、旅人オークになって表から入るわけだけど。
でもちょっと嫌なんだよね。
なぜかって……たぶんオーク化したら全裸になるから。
ゴブリン化したら、なぜか服が腰巻に変化した。
それは吸収したゴブリンが腰巻だったからだと思う。
なら、いま倒したオークは全裸だったわけで、オーク化したら全裸になるのだろう。
そうは言ってもオーク化しないと、オークの里に入れない。
意を決してオーク化した。
「うぐっ!」
ゴブリン化で慣れたと思っていたら、オーク化はまた違った奇妙な感覚で一瞬眩暈がした。
すぐに納まり自分の姿を見たらやっぱり全裸のオークだった。
なんか恥ずかしい。
川の水面に映る自分を見れば、僕の顔に近いオークだった。
ゴブリン達も、ほとんど人間のような顔の僕を気にすることなくゴブリンとして接してくれたから、オークも問題ないかな。
でも顔が自分なだけに、全裸の状態はやはり恥ずかしい。
そして頼れるハンマもオークとなっている。
情報を見てみた。
魔体:オーク
属性:無
魔神の加護:1
生命力:8+4
筋力:10+5
体力:8+4
俊敏:4
魔力:1
器用:4
装備:
技能:
ほとんどゴブリンと同じだな。
違いは、ゴブリンは生命力10の筋力8に対して、オークは生命力8の筋力10か。
ゴブリンの方が生命力は高くて、オークは力がより強いのか。
ハンマは各能力値が全部20でバランスが良く、さらに生命力が50もある。
獲得種族の補正値の上積みで、最終的な生命力は100で、筋力と体力は40だ。
本当にハンマは優秀だな。
無事にオーク化したところで、オークの里に向かおう。
明け方までにはゴブリンの里に戻りたい。
旅人という設定にどんな反応を示すのか分からないけど、ある程度情報を得たらすぐに戻った方がいいな。
オークとなって全裸で森の中を歩いていく。
途中でオークに出会えたら、里まで案内してもらおう。
しかしすぐに異変が。
なぜかお腹が空いてきたのだ。異常なほどに。
テントでちゃんと夜ご飯食べてきたのに、どうして?
昨日もここまでお腹が空くことはなかった。
オークだからか?
オークは常にお腹が空くとか?
あ、そういえばオークの種族特性ってなんだ?
名前:鈴木大地 年齢:24歳 性別:男 種族:オーク(半魔)
種族特性:食欲旺盛
食欲旺盛か……太らないように気を付けよう。