第12話 作戦遂行中
「大丈夫ですか?」
「う、うん……やっぱり大丈夫じゃないかも」
「オ、オレも、今にも身体が千切れそうだ」
ニニと2度目の魔石狩りを行ってから、既に10日が経過している。
この間、俺はサンディさん達と一度も一緒に魔石狩りに行っていない。
なぜなら、あれから毎日マリアさんがサンディさん達と一緒に魔石狩りに行っては、基礎鍛錬と魔獣との戦闘に関して、厳しく指導しているからである。
スパルタ教育だ。
「リィヴ君もそのうち一緒にやりましょうね」
マリアさんは何喰わぬ顔で嬉しそうに言ってくる。
俺がエインヘルアルであることを隠そうとしてくれるサンディさん達も、俺がマリアさんのしごきに参加しないことを徐々に不満に思ってきているようだ。
所用という言葉で俺はいつも別行動である。
俺は俺で、ニニと2人で最下層の魔獣掃討作戦を頑張っているのだから、本当は不満に思われることはないんだけど……。
これまたニニと一緒に行動していることは秘密なので、サンディさん達には俺は最下層で魔石狩りをしていることになっている。
最下層の魔獣を狩り尽くすことを目標に始めた掃討作戦は実に順調だ。
あれから連日ニニと一緒に最下層の魔獣を倒しまくると、最近では魔獣の数が目に見えて減ってきている。
浅瀬や最下層の魔獣が進化して最下層の終わりへと向かうより、俺達が倒す速度が勝っているのだろう。
最下級魔石はこの10日間でさらに貯まり、累計で1500個ほど獲得した。
1日で手に入る数は徐々に減ってきている。
俺達が同じ場所でずっと魔石狩りをしているからなのだが、作戦のためなので仕方ない。
目的は下級魔石なのだから。
魔石の分配に関しては俺とニニとマリアさんで3等分。
ニニと初めて魔石狩りに行った時の分配はマリアさんのおかげでニニが助かったからまだ分かるけど、今回のは何でマリアさんまで含めて平等に分配なのか疑問だ。
だって、頑張っているのは俺とニニで、マリアさんは作戦を指示しただけ。
その作戦も過去にエインヘルアルが考えた作戦なので、マリアさんが初めての考案者ってわけでもない。
でも何となく怖くて聞けないでいると、俺の心を見透かしたのか「私の取り分にはサンディちゃん達への指導料込みですからね~」と言ってきた。
普段はのほほんとしているけど、やっぱりマリアさんの裏の顔は怖い!
怖い怖いマリアさんにしごかれたサンディさんとリタさんは、ベッドの上でぐったり。
最近はあまりの疲労から、俺と格闘しない日も増えてきた。
そんな時は、優しくマッサージをしてあげる優しい俺。
小まめな気遣いでポイントアップです!
「あ、そこ気持ちいい。うんうん、すっごくきく。あぁ! そ、そこ……くぅぅぅぅ」
「リィヴ~~~、早くオレにもしてくれよ」
「はいはい。少しだけ待って下さいね」
今日もまたサンディさんの美しい身体を優しくマッサージしながら、明日からのことを考えている。
明日から、俺とニニは下層に入ることにした。
作成が成功してれいば、いま下層の入口付近の魔獣は圧倒的に少ないはずである。
この隙に、聖樹から下級魔石を採集しまくる!
仮に魔獣と遭遇することがあっても、数が減っているのだから連戦になる可能性もまた低くなっているはずだ。
あの時のように、豚からの大猿からの大猿のように、3連続で魔獣と戦うことになるなんてことはご免である。
「あぁん! そ、それ! その堅いのが! い、いぃ! 痛いけど気持ちいい!」
「お客さん凝ってますね~」
今の俺達なら、下層の入口付近の弱い部類に入る下級魔獣なら勝てるだろう。
俺も強くなっているし、そしてニニも強くなっているのだから。
今までの魔石の分配で500個ほど最下級魔石を手に入れた。
下級魔石5個分である。
俺は合成で下級魔石4個を造り出せた段階で、シーラに会いにいった。
そこで戦術の槌と盾、そして闘気を全て『下級』にしてもらった。
「これで私も下級ヴァルキューレになれます」
戦術を刻んでもらうために、その場で下級魔石を吸収したんだけど、これで俺の神石には累計で下級魔石1個分以上の魔力が溜まったことになる。
その記録から、俺の担当であるシーラは最下級ヴァルキューレから下級ヴァルキューレにランクアップすることになるのだ。
「全てリィヴ様のおかげです」
久しぶりに会ったシーラは、変わらず俺に忠実なヴァルキューレだった。
そして変わらず俺にすぐに抱きついて絡まってくるヴァルキューレだった。
「ルーン文字を教えて欲しいんだけど、この下級魔石1個の魔力でヴァルハラってどれだけ維持できる?」
「今はまだ最下級ヴァルキューレとしての維持ですから、100日ぐらい維持できます」
「次に会う時は?」
「私が下級ヴァルキューレとなった後は、時を止めたヴァルハラを1日維持するのに、下級魔石1個分の魔力が必要になります。その代わりより本当の姿に近いヴァルハラにリィヴ様を招くことが出来ます」
「この何もない真っ白なヴァルハラなら最下級魔石1個分で1日維持できる?」
「申し訳ありません。下級ヴァルキューレになった後は、この何もない真っ白なヴァルハラにリィヴ様を招くことは不可能です」
最下級魔石1個分の魔力でヴァルハラを1日維持出来るのは、その時が最後になってしまった。
でも仕方ない。
いつまでも最下級の戦術で鍛錬しても強くなれない。
下級、中級、上級と進歩していかなくてはいけないんだ。
真っ白な世界のヴァルハラで100日間、俺は鍛錬とルーン文字の学習に励んだ。
下級となった槌と盾の戦術は、最下級の基礎の動きをさらに突き詰めた感じだった。
より速く、より強く、より合理的に。
その上で少しだけ応用の動きがイメージ出来るようになった。
ルーン文字は早朝と夜に教わることにした。
基本となる文字を読むだけならそれほど難しくなかった。
しかし魔力を引き出すための特殊な文字は、その1文字に様々な意味が込められており、さらにそれらを繋ぐ法則は複雑で難解を極めた。
そしてほぼ挫折しかけた時だ。
「私のルーン文字は神石に戦術を刻んだり闘気を刻んだり、エインヘルアルを再生したりするものなので、かなり難しいのでしょう。魔道具を造るためのルーン文字はもう少し簡単なのかもしれません」
「あれ? シーラは魔道具を造るためのルーン文字は知らないの?」
「はい、申し訳ありません。ヴァルキューレは魔道具を造らないので、それらのルーン文字を知らないのです。私がより高位なヴァルキューレになりヴァルハラ宮殿に入れるようになっても、果たしてそこに文献があるかどうか……」
戦術や闘気の理を解するためのルーン文字を学ぶのは、決して無駄ではない。
自分のことを知ることに繋がるのだから。
何より闘気の理が分かれば、もしかしたら魔道具として闘気を再現出来るかもしれない。
魔石の魔力分限定の闘気だけど。
まぁ魔力は補充すればいいしね。
槌と盾の下級戦術を100日間も鍛錬出来たのはよかった。
中級魔石を手に入れた時も、同じように100日間鍛錬出来るようにしよう。
そのためには、中級魔石を手に入れてもすぐに吸収しないでヴァルハラに来てから吸収だな。
「はぅぅぅぅん! きくぅぅぅぅぅ! リィヴのマッサージ最高だわ。リィヴに揉まれると最高に気持ちいいのよね」
「いや~そんなに喜んでもらえると、俺ももっと気持ち良くしてあげたくなっちゃいますよ」
「……しちゃう?」
「おいおい、オレの番だぞ。オレにもマッサージしてくれ~」
「はいはい。では交代です~」
「あ~ん、私のリィヴが~」
今回の作戦で下級魔石が何個手に入るかな。
俺の取り分で400個得るには、1200個集めないといけない。
さすがにそこまでは取れないだろうな。
聖樹の森は奥に行くほど狭くなっていく。
最下層より下層、下層より中層と、取れる魔石の量はどんどん少なくなる。
特に今回は下級魔獣の数を減らす作戦をしているわけで、魔獣との戦闘は最小限になるだろう。
それは、魔獣から魔石を取れるチャンスが少ないことにもなる。
下級魔石の合成で中級魔石4個なんて高望しないで、やれることをやろう。
とりあえず、盾と防具を下級魔石と合成して下級戦闘魔道具にランクアップだ。
後は自分で下級魔石を吸収して、下級闘気を余裕持って使えるようにする。
「おふぅ! そこそこ、リィヴそこがいい。きゅぅぅぅぅ! 女将のしごきは本当にきつい。リィヴもいつまでも逃げないで参加したらどうだ? いっそうのこと、エインヘルアルだってばらしても大丈夫じゃね? リィヴも女将と仲良さそうだしさ」
「い、いえ。俺は遠慮しておきます。戦術があるので自分で鍛錬できますし」
「ずるいな~」
そういえば、サンディさん達の装備と最下級魔石を合成したら、最下級の戦闘魔道具になるのか?
魔力の補充だって、今の俺がいれば……ってそれはだめか。
俺はずっとサンディさん達と一緒に行動するわけじゃない。
サンディさん達が、自分達の力で最下層の魔獣を倒せるようになって、自分達の力で魔力を補充できるようにならないと。
何か歯痒いけど仕方のないことだ。
でも通常の武器に魔石を合成することで、どんな戦闘魔道具になるかちょっと見てみたいな。
サンディさんが以前使っていた剣にちょっと合成してみて試してみるか。
「サンディさん」
「私の番!?」
「まだだよ。オレの番はさっき始まったばかりだろ」
「サンディさんが以前使っていた剣ですけど、あれもらってもいいですか? ちょっと試してみたいことがあるんです。元には戻せなくなっちゃうと思いますけど」
「いいわよ。リィヴに買ってもらった剣があるから、あの剣はもう使わないわ」
「ありがとうございます。リタさんの斧もいいですか?」
「もちろん。好きに使ってくぅぅぅぅぅぅぅ! きくぅぅぅぅぅぅ!」
リタさんのマッサージが終わると、サンディさんがもう一度マッサージをおねだりしてきたので、また揉んであげた。
サンディさんの二度目のマッサージの間にリタさんは眠ってしまった。
そしてサンディさんも俺のマッサージを受けながら、すやすやと寝てしまった。
今夜はこのまま部屋に退散である。
部屋に戻る時、サンディさんとリタさんの古い装備の剣と斧を頂いて戻った。
そして部屋の中で早速合成してみることにしたのだ。
まずはただの鉄の剣と最下級魔石1個を合成してみる。
一瞬の輝きの後できたのは……魔鉄の剣だった。
あれ? 戦闘魔道具じゃないな。
一覧で表示された名称は魔鉄の剣で、実際に握ってみてもただの剣だった。
鋼鉄と魔石を合わせて造る魔鋼のように、鉄と魔石を合わせて魔鉄になっただけのようだ。
もしかして魔法袋で魔道具って造れない?
俺の槌は戦闘魔道具として最下級から下級に進化した。
でもそれは最初から戦闘魔道具だった槌に魔石を合成したからだ。
それに下級となった俺の槌は、効果が何も変わらなかった。
魔力が槌に流れて性能を向上するだけで、他に目立った特殊効果は何も付与されていないのだ。
神殿で説明を受けた下級の戦闘魔道具の中には、様々な特殊効果が付与されているものがあった。
魔道具でない物に魔石を合成しても、魔道具にはならないのか。
でも果たして本当にそうなのか?
魔法袋を使う俺が、魔道具を造るためのルーン文字を解していないのが問題なのではないか。
それに実際の魔道具が魔石に繋がるようにどうやってルーン文字を刻んでいるのかも知らない。
知らないことだらけだ。
魔法袋がそれを全部簡単に解決してくれるなんて、そこまで便利な道具じゃないか。
合成図に残された鉄の斧と最下級魔石を浮かべながら、あれこれと考える。
一応鉄の斧も魔鉄の斧にしておこうかなとか、最下級魔石の個数を増やして強度をさらに上げておくか、とか。
シーラに習ったルーン文字の中で最下級の斧術の文字はこんな感じだったな、とか。
「お?」
その時だ。
合成図に新たな枠が増えた。
今までは右と左に枠が1個ずつで、そこに合成する物を浮かべていた。
しかしその下に枠がずらりと並び、そこに最下級の斧術のルーン文字が浮かんできたのだ。
これはいけるのか?
しかし合成されない。
合成と念じても何も起きない。
なぜだ?
最下級魔石が足りてないのか。
試しに浮かべる最下級魔石を10個にしてみた。
合成されない。
次に20個……30個……40個……50個……100個。
だめだ、何も起きない。
そもそも魔石に戦術って刻めるのか?
戦術を刻むのは神石だ。魔石じゃない。
神石ってなんだ?
エインヘルアルの心臓であり、死んでも再生を叶える神の石。
そして戦術と闘気を刻める。
魔石じゃだめのか。
でも合成図の新たな機能が発見できたのは大きい。
ルーン文字を思い浮べたから、それに応じてルーン文字を刻むための枠が出てきたのだろう。
魔道具を造るためのルーン文字が分からないので、今の俺では宝の持ち腐れだけどね。
魔法袋の弱点は、俺以外の誰でも使えること。
奪われたら終わりだ。
しかし、それは同時に強みでもあるのか。
マリアさんがこの魔法袋を使ったら、あっという間に魔道具を造り出せるのではないか。
魔道具を実際に造るとなれば、かなりの労力だろう。
でも魔法袋を使えば、刻むルーン文字だけ思い浮かべるだけでいい。
いや、本当に思い浮べるだけでいいのか、まだ分からないか。
一度マリアさんに……使ってみて欲しいところだけど、そうなると魔法袋のことを全部話さないといけなくなる。
マリアさんとは協力関係でさらに肉体関係でもあるわけで、話しても別にいいんじゃないかと思えてしまうけど、どうなんだろう。
信頼できる魔道具技師がいれば……。
二ニも魔道具技師なんだよな。たぶん。
この10日間でニニとはさらに仲良くなれたと思う。
あいかわらずちょっと生意気な小僧ではあるけど、魔獣を相手するのに2人で連携して戦うようにまでなった。
当然、俺が前衛でニニが後衛だ。
今日の狩りではなかなか良いコンビネーションが炸裂したので、思わず親指を立ててしまったほどだ。
ニニは「それは何ですか?」と聞いてきたので、「連携が上手くいった時に互いを褒め合う動作だよ」と答えると、ちょっと恥ずかしそうに親指を立てていたっけ。
本格的な前衛をやってみて、盾はもっと大きめの盾が欲しくなった。
俺の身体をすっぽり守ってくれるような大盾がいいな。
魔法袋の中から瞬時に取り出すことも出来るから、持ち運ぶ大きさに気を使わなくてもいいしね。
おっと、思考がそれた。
ニニとの仲は良い方向に向かっている。
それは良いことだけど、だからと言って魔法袋のことを話せるほどの仲かというと、やっぱりまだだ。
それにまだニニの正体だって知らないわけだし。
とりあえず、明日からの下級魔石の採集を頑張ろう。
翌日。
俺はニニと一緒に下層に入った。
作戦の狙い通り、下層の入り口付近にはほとんど魔獣がいない。
最下層の終わり全域をカバーして魔獣を掃討出来たわけじゃないけど、それでも効果は確かにあったようだ。
時々、魔獣と戦闘になることもあった。
でも下級戦術を100日間ヴァルハラで鍛錬してきたことが功を奏して、下級魔獣の動きを抑えることは難しくなかった。
そもそも、あの大猿並みのスピードを持つ魔獣には遭遇しなかったけどね。
俺が下級魔獣の動きを抑えれば、後ろからニニが銃を合体させた長銃で上位属性の魔法弾を打ち込む。
ほとんどが氷だ。
聞くと、ニニは氷属性が好きだし得意らしい。
ニニの氷弾で氷漬けになる魔獣もいれば、氷弾で肉体を切り裂かれて消滅する魔獣もいる。
順調に下級魔獣を倒しながら下級魔石を採集していけば、この日は下級魔石が108個手に入った。
予想以上の成果だ。
「本当にリィヴさんのおかげです。こんなにもたくさんの下級魔石が手に入るなんて。夢みたいですよ」
「いやいや、ニニのおかげだよ。俺は魔獣の動きを抑えているだけだから」
以前は年下だと思いながらもちょっと丁寧な言葉で話していたけど、今ではだいぶ砕けた言葉になっている。
ニニが呼び捨てでいいと言ってきたので、遠慮なく呼び捨てしている。
俺のことはさん付けだけどね。
「リィヴさんは攻めより守りの才能がありますね。盾はやっぱりもう少し大きい方がいいかもしれません」
「だよね。盾は新しいのを買うか」
「神殿で買うのですか?」
「ま~そうなるよね。下級戦闘魔道具の大盾っていくらしたっけな……」
「そ、その……」
「ん?」
「つ、造ってもらってはどうでしょうか?」
「へ? 誰に?」
「え、えっと……ス……マ、マリアさんに」
「マリアさんか……なるほど、そういう考えもあるか。武具の戦闘魔道具は鍛冶師と連携して造るようだけど、マリアさんには知り合いの武具店があるもんな。ニニの魔力銃も銃の部分はあのお店で造ってもらったのか?」
「はい、そうです。あの武具店なら信頼できますよ。ただの武具しか造らない店とは違って、神殿からの受注を受けて多くの戦闘魔道具用の武具を造っていますから。かなり細かい注文にも対応してくれます」
「なるほど……この木の盾みたいに素材は木で造ってもらえるのかな。これ何の木か分からないけどすんげ~頑丈だし使いやすいんだよね」
「リィヴさんが使っている槌と盾の素材は、どちらも聖樹だと思いますよ」
「え? これ聖樹?」
「はい、そうでないなら、魔獣の強力な爪や牙を防ぐなんて無理です。聖樹は奥に生えている聖樹ほど堅いので、素材として持ち帰るなら奥にある聖樹がいいですね。もちろん危険は高くなりますけど」
「ふ~ん、それだとやっぱり一番堅いのって聖樹王になるのか?」
「はい。ですが聖樹王を素材として持ち帰るのは不可能でしょうね。傷一つつけることすら出来ないと言われていますから」
ニニと会話しながら、頭の中ではちょっと別のことを考えていた。
合成のことだ。
合成は物と魔力を合成することで、上位の物を造り出せる。
今まで魔力との合成は、戦闘魔道具の魔力が切れた時に魔力を補充するために使っていた。
魔道具技師でない俺でも、魔法袋を使えば簡単に魔道具に魔力を補充できてしまう。
実に便利だ。
便利過ぎて、魔力補充のための魔力との合成になってしまっていた。
違うのだ。
魔力との合成は、上位の物を造り出せるはずなのだ。
今日だけで下級魔石の俺の取り分は30個以上だ。
検証してみるしかないな。
俺の盾に魔力を合成する時に、魔力補充ではなく、盾の木が上位の物に進化するように想像してみよう。
ルーン文字を想像すれば、魔道具を造り出すために刻むルーン文字の枠が出てきたように、合成は使う者が何を想像しているかで様々な効果を発揮してくれるはずだから。
カリーンの門が見えてきた。
ニニはいつもカリーンに入ると、寄るところがあるので、と言って何処かへ行ってしまう。
たぶんニニと一緒に俺がニレの宿屋に戻ると、俺達の関係が噂になるからだろう。
細かな気遣いだ。
「そ、それでは僕はこれで……」
「おぅ。また明日な」
「は、はい……」
あれ? 何かモジモジしてる。
なんだ?
いつもならすぐに行ってしまうのに。
「あ、あの」
「ん?」
「さきほどの話なんですけど」
え? どの話?
「そ、その……マリアさんも本当に素晴らしい魔道具技師で、文句のつけようもない戦闘魔道具を造ると思うのですが……その……」
ああ、大盾のことか。
焦った。一瞬何の話か分からなかった。
「む、娘のスラシルさんも……い、いいと思いますよ」
「スラシルちゃん? そういえばスラシルちゃんも魔道具技師か」
「え、ええ! そうなんです! そ、その……僕の2つの銃が1つの長銃になるのは、わた……スラシルさんが考えてくれたんです」
「え? まじ?」
「はい。マリアさんには無い斬新な発想がスラシルさんにはあると思うのですよ。だから、一度相談してみては……」
へぇ~スラシルちゃんの発案だったとは驚きだ。
でも問題があるな。
「う~ん、でもな」
「……」
「いや、実は俺……スラシルちゃんに何か嫌われてるっぽいんだよね」
「え?」
「何か俺にだけ妙に余所余所しいというか、微妙な雰囲気というか。俺が相談したらスラシルちゃん嫌がるかもしれないんだよな~。でもスラシルちゃんってすげ~明るくて優しそうな子だから、本当は嫌なのに俺の相談に乗ってくれるかもしれない。でもそれってやっぱり悪いし」
「……そ、そんなことはないと思いますけど」
「え?」
「え?」
「もしかしてニニって……スラシルちゃんと仲良いの?」
「え!?」
「俺のこと何か聞いてるんじゃないのか!? お、教えてくれ! スラシルちゃん何か言ってたんだろ!」
「な、何も聞いてません! ほ、本当です!」
「じゃ、じゃあ! 聞いてきてくれ!」
「え?」
「スラシルちゃんに、俺のこと嫌ってるのかどうか聞いてきてくれ! 宿屋で会う度に微妙な感じとか嫌じゃん? 嫌われているなら嫌われているってはっきり分かった方が俺も楽だし。そうじゃないなら、俺の思い過ごしなわけで」
スラシルちゃんがニニの長銃を発案したなら、2人には繋がりがあるはずだ。
マリアさんが間に入って、スラシルちゃんは何も知らない可能性もあるけど、ニニの様子からして恐らく知り合いだ。
ここは相棒に頼るべきだ!
「頼んだぞ相棒! 明日聞かせてくれよ!」
それで会話を打ち切ると、俺は颯爽とニレの宿屋に向かうのであった。
今日もサンディさんとリタさんは、マリアさんの地獄の特訓で疲れ果てていた。
食事の後、優しくマッサージをしてあげると、2人ともそのまま眠ってしまった。
自分の部屋に戻り、早速合成の検証だ。
合成図を展開させると、まずは盾と防具に下級魔石を合成する。
これでどちらも下級戦闘魔道具にランクアップだ。
戦闘魔道具としてのランクは上がったけど、素材となっている聖樹はそのまま。
今度はこれを進化させる。
まずは盾。
盾と魔力の合成で、盾の聖樹がより堅く大きくなることをイメージする。
すると……。
「お、きたな」
合成図に新たな展開がきた。
魔力との合成後に造られる盾の予想図が見えたのだ。
そこには今までよりも大きく、そしてさらに頑丈そうに見える盾が表示されている。
デザインは変わっていないな。
まあデザインなんてあってないような盾だけど。
これは盾の素材の聖樹そのものが進化したと考えていいだろう。
魔力によって形を大きくすることも出来るようだ。
俺は鍛冶の知識なんてないし、デザイナーでもないので、魔力で盾を格好良いデザインに変えてあげることは出来ない。
見本となる盾があったらそれを真似ることぐらいは出来るかな?
いや……そもそもデザインだけ合成するって出来るんじゃないか?
この盾に気に入ったデザインの盾を合成すれば、性能そのままにデザインだけ上書きとか。
出来そうだ……ああああ!!!!
デ、デザインの合成がいけるなら……ルーン文字の合成もできるんじゃ?
同じ大きさの盾に、仮にこういう効果を付与したい場合のルーン文字を刻んだ盾を準備してもらえれば……。
でもかなり妙な依頼だ。
マリアさんに言ったら絶対怪しまれる。
スラシルちゃんが仮に俺のことを嫌っていなくても、依頼したら変だと思うだろう。
とりあえず槌、盾、防具にそれぞれ下級魔石5個分の魔力を合成して、素材を進化させた。
盾は俺の身体半分ぐらいの大きさにした。
防具の急所を守る部分は聖樹だけど、それ以外は革で、何の革か知らないが進化させておいて損はないだろう。
それ以外に自分で下級魔石を5個吸収して、魔法袋にも下級魔石5個を与えておいた。
俺の今日の取り分はほとんど使ってしまった。
ま、装備が強くなっても一番大事なのは俺自身の強さだから、勘違いしないで毎日の鍛錬を頑張らないとね。
しかし明日、このでかくなった盾を見たらニニは何て言うかな~。