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木の棒のエターナルノート  作者: 木の棒
第1エター テンプレ異世界物語
1/43

第1話 転移からの説明

 面白い迷惑メールにアクセスすれば、いきなり異世界ユグドラシルに転移してしまった。

 主神オーディン復活のため、そして元の世界に戻るため、不死身のエインヘルアルとなった俺は世界に散らばった神玉を集める。

 主神オーディンからもらったチートな魔道具を使いこなせ!


※このお話は現在、大幅な改稿作業中です。しばらくは第2エターの更新となります。

 


『急募! エインヘルアル!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 なんだれこれ?

 俺の携帯に突然届いたメールは、迷惑メールとしか思えない内容だった。

 こんな怪しいメールに書かれたサイトにアクセスする奴なんているのか? とすぐに消去した。

 まだまだ寒いな、と頬を切り裂くような3月の冷たい風に身体を震わせながら家に帰る。


 家といっても1人暮らし用のマンションだ。

 帰っても、おかえりを言ってくれる人はいない。

 大学入学と同時に始めた1人暮らし。実家から大学に通うこともできたけど、憧れで1人暮らしを始めてしまった。

 彼女がいれば楽しい1人暮らしなのだろうが、残念ながら俺はフリーである。

 今月で契約を解除して実家に帰ろうかな、と真剣に悩んでいるのだ。


 マンションに着いてドアを開けた時、携帯にメールが届いた。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 またか。

 しかもなんか特典ついてきたぞ。

 必死さが伝わってきて、ちょっと面白いな。

 まだまだ増えたりして。

 とりあえず、すぐに消去した。


 家に帰っても飯作るか、洗濯するか、ネットするかぐらいしかない。

 とりあえずPCを立ち上げる。

 寂しいからテレビもつける。


 PCのメールソフトを起動する。

 広告メールしかこないけどね。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 さらに今だけのチャンス! 最下級魔石を無償で提供!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 迷惑メールきてたよ。

 おいおい、PCの方にも送られてきているぞ。

 しかもまた特典増えてるし!

 なかなか面白いが、サイトにアクセスしたら間違いなくウィルスか何かだろうな。

 すぐに消去した。


 しばらくネットの世界を見て回ると、腹が鳴った。

 飯の時間だ。

 作ってくれる優しい彼女が欲しい。

 彼女が出来ても今の時代は男も料理できて当たり前とかアピールしちゃって、結局自分で作ってそうだけど。

 チャーハンでも作るか。


 ほかほかのチャーハンを食べていると、携帯にメールが届いた。

 その音になぜか期待してしまう。

 にやけながらメールを確認した。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 さらに今だけのチャンス! 最下級魔石を無償で提供!

 さらにさらに、なんと今回だけのスペシャル特典! 最下級武器を無償で提供!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 最下級武器? などと考えてしまう時点で、俺はこの迷惑メールに負けているのかもしれない。

 どんどん特典が増えていくな。

 これだけ特典をもらえたらすごいんじゃないか?

 なんて馬鹿なことを考えながら、すぐに消去した。


 綺麗にチャーハンを食べ終えると、食器をぱぱっと洗ってしまう。

 食器は溜めるとだめだ。

 食べた後すぐにぱぱっと洗ってしまうに限る。


 食べ終えた後もやることがない。

 優しくて可愛い彼女がいればイチャイチャタイムなんだろうけど。

 再びPCの前に座る。

 メールソフトを見ると、受信トレイにそれはあった。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 さらに今だけのチャンス! 最下級魔石を無償で提供!

 さらにさらに、なんと今回だけのスペシャル特典! 最下級武器を無償で提供!

 振り向いてくれない貴方だけに超スペシャル特典! 最下級防具を無償で提供!

 特典はこれが限界です!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 最下級武器の次は最下級防具か。

 すごいのか、すごく無いのかよく分からんが、これで限界のようだ。

 でも本当にこれで限界なのか? と考えてしまう。


 まだいけるだろ。

 お前ならまだいけるだろ。

 もっといけるだろ!

 お前はやれば出来る子だ!


 なんて馬鹿なことを考えながら、すぐに消去した。


 無料動画サイトを巡って、面白い動画を見たり、音楽聴いたり、ネットゲームは何となくする気になれなくて、ぼ~っと過ごした。

 そろそろ風呂入るかと立ち上がったところで、風呂にお湯を溜めるの忘れていたと思い出しシャワーで済ませた。

 洗濯籠の中には洗濯物が溜まっている。

 食器とは違い、こっちは溜める。溜めて、溜めて、溜めて、週末に一気に洗う。

 それが経済的だ。ちょっと匂うから夏場は危険だけどね。


 パジャマ代わりの黒ジャージに着替えると、期待を込めてPCのメールソフトを確認した。

 それは……なかった。

 何故かすごく寂しい気持ちになってしまった。

 どうして来ないんだよ……俺ずっと待ってるのに!

 最後の希望を「送受信」に込めてクリックする。



『受信トレイ(1)』



 キターーーー! と頭の中で叫んでしまった。

 まるで彼女からのメールを待っている情けない男みたいだな。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 さらに今だけのチャンス! 最下級魔石を無償で提供!

 さらにさらに、なんと今回だけのスペシャル特典! 最下級武器を無償で提供!

 振り向いてくれない貴方だけに超スペシャル特典! 最下級防具を無償で提供!

 ドSな貴方だけに秘密の特典情報! エインヘルアルは死んでも生き返ります!

 もう本当に特典はこれが限界です!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!』



 必死な文章を読んだ俺の感想は、死んだらセーブ地点に戻るのか? である。

 そして、さすがにこれは本当に限界か? いや、まだいけるんじゃないか? と馬鹿な思考を開始する。

 ここまで楽しませてくれたのだから、俺も何かしないといけないだろう。

 でもサイトへのアクセスは嫌だ。ウィルス嫌だ。


 俺は「返信」をクリックすると、メールを送った。



『限界を超えた時、さらなる世界が待っている』



 無責任な言葉だと思う。

 でも俺は信じた。無限の可能性を信じた!

 彼ならやれる! 彼が誰なのか知らないけど!

 そして彼はその期待に応えてくれた。



『急募! エインヘルアル!

 今なら特典で初期資金1万ゼニを提供します。

 さらに今だけのチャンス! 最下級魔石を無償で提供!

 さらにさらに、なんと今回だけのスペシャル特典! 最下級武器を無償で提供!

 振り向いてくれない貴方だけに超スペシャル特典! 最下級防具を無償で提供!

 ドSな貴方だけに秘密の特典情報! エインヘルアルは死んでも生き返ります!

 契約してくれる人は以下のサイトをクリックしてね!

 返信してくるなんて面白いなお前。しかしそちらからの干渉で条件が整ったようだ。お前だけ特別な魔道具を1つ与えてやる』



 それまでのへりくだった文章ではなく、素なのかちょっと見下した感な文章だけどちゃんと特典をつけるという面白い文章が返ってきた。

 そして、今回は限界ですという文章がついてない。

 それが逆に本当に最後なんだな、と思ってしまう。

 迷惑メール業者とメールでやり取りするなんて、面白い体験だ。

 しかも怒らず、さらに面白い文章送ってきてくれたところが好感持てる。


 エインヘルアルはネットで調べてみるとすぐに出てきた。

 北欧神話に登場する戦士で、死んでも生き返るらしい。

 ゾンビみたいなものか?

 ヴァルハラに集められて、毎日戦いに明け暮れているとか。


 

 とりあえずサイトにアクセスしてみるか。

 ウィルスソフトは入っているから、仮にウィルスだったとしてもすぐに対処されるだろう。

 最初からそう思っていたけどね。

 そんじゃま~ポチっとな。



 その瞬間、床が崩れた。

 しかも全ての床が。

 一瞬見えたそれは俺の座っている床だけではなく、部屋全体の床が崩れ落ちていく様だった。

 そして俺も落ちていった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その落下は1秒や2秒ではなかった。

 暗闇の底へ、いつまでも落下していく。

 死んだ、と悟った俺の意識は闇の中へ消えていった。









 暗い暗い闇の底の、さらに深淵の闇の底。

 そこに向かって俺は落ちている。

 もう驚きの声を上げることもない。

 いつまで続く落下なのかも分からない。


『選べ』


 と、声が聞こえた。

 選べ?


『魔道具を選べ』


 ずいぶん偉そうな声だ。

 こいつがメールの差出人なのか?

 それに選べって言われても……俺って死ぬんだよな?


『死にはしない。お前はエインヘルアルとなる』


 なってどうするんだ?


『9つの世界に散らばった我が神玉を集めるのだ』


 それって危険なの?


『当然だ。しかしお前はエインヘルアル。死んでも生き返る』


 そのエインヘルアルになった俺は強くなってるのか? 俺、ただの学生だぜ。


『強くなることは可能だ。魔石を集めろ。それはお前に強大なる力を授けるだろう』


 元の世界に戻れるの?


『全ての神玉を集め、我が復活すれば元の世界に戻してやる』


 おお、戻れるのか。


『早く選べ。お前が転移する世界について詳しいことは後でヴァルキューレが教えてくれる』


 落下を続ける俺の前には、3つの魔道具が俺と同じように落下して見えている。

 左にあるのは指輪だな。

 真ん中は袋だ。

 右にあるのは植物の種?


 これ、それぞれの能力とか効果とか教えてくれないの?


『直感で選べ。選んだものだけ説明してやる』


 む~、不親切な。

 でもどうしよう。

 指輪、袋、種……指輪が一番高価なものに見えるけど、何回か祈ったら崩れてなくなりそうだな。

 袋は茶色の布製の袋に見えるが、大きさは腰に下げるポーチぐらいの大きさだ。中に何か入っているのかもしれない。

 種は育てると何かすごいことになるのかもしれない。何がすごいのか分からないけど。


 さてさて、本当にどうしたものか。

 ま~何を選んでもハズレではないし、適当でいっか。


 この真ん中の袋にするよ。


『魔法袋か、良い物を選んだな。きっとお前の役に立つことだろう。魔法袋が持つ能力は2つだ。

 まずは無限の収納能力。大きさに関係なくどんなものでも無限に収納することができる。魔法袋の中に入れる時は、収納したいものを魔法袋の中に入れるか、魔法袋の口に当てて『収納』と念じればよい。後は勝手に魔法袋が収納してくれる。

 無限収納能力で収納したものを知りたい時は、魔法袋の中に手を入れて『一覧』と念じれば見れるだろう。

 そして収納したものを取り出したい時は、魔法袋の口を持ちながら取り出したいものを思い浮かべて『解放』と念じればよい。

 もう1つの能力は収納したものを合成する能力だ。ものとものを合成することも出来るが、ものに魔力を合成させて上位のものを造り出すことも出来るぞ。

 合成したい時は魔法袋の中に手を入れて『合成』と念じればお前の視界に合成図が展開されることだろう。

 だが、どちらも魔法袋に魔石で魔力を与えないと使うことはできない。魔石を手に入れるまでは、ただの袋でしかない。魔法袋に魔石の魔力を与える時は、袋の中に魔石を入れて『魔石を食べろ』と念じればよい。

 既に魔力を与えて魔石を収納しているときは、収納しているどの魔石を食べるか念じて指定してやることだな。

 それと無限収納能力で収納するものは、そのものに応じて必要魔力が違う。魔力が足りていないと、収納出来ない。取り出す時の魔力は不要だ。

 合成も同じだ。合成するものに応じて必要魔力があるので、足りていなければ何も起こらない』


 ほほ~、アイテムボックスみたいなものか。

 でも魔力が必要と。

 そんで中に入れた物を合成して新たな物を造り出す能力があるのか。


『魔法袋のことは簡単に話さない方がいいだろう。指輪と違ってお前以外の誰でも使うことが出来るからな。魔法袋の能力に気付いた者がお前より強ければ奪われてしまうかもしれん。お前がよほど信頼できると思った者にだけ話しておけ。ではお前の活躍に期待する。我が神玉を集めるのだ!』



 という偉そうな声を最後に、俺の落下は止まった。

 止まったというより、宙に浮いているようなふわふわした感じになった。

 真っ黒な底から、溢れんばかりの光りが押し寄せてくるのが見えた。

 見えたと同時にその光りに包まれると、浮遊感が消える。

 俺は真っ白な大地に立っていた。


「ようこそ、ヴァルハラへ。私は貴方を担当するヴァルキューレのシーラです」


 美しい女性が俺の目の前に立っていた。

 その女性の背中からは真っ白な翼が生えている。

 輝く金髪は腰まで長く、均衡の取れた身体に白と青が混じったドレスのような衣装を着ていた。

 まさに天使だ。


 でもこの真っ白な世界がヴァルハラなのか?

 ヴァルハラって確か宮殿じゃなかったっけ?


 天使はシーラと名乗ると、じっと俺のことを見ている。

 俺が名乗る番なのだろう。


「えっと、俺は、俺は……あれ? 俺の名前なんだっけ?」

「記憶の制御は問題ないようですね。ここは貴方が住んでいる世界とは異なる世界。そのため、貴方の世界での記憶の一部は封印されています。それは主に私達の世界『ユグドラシル』に相応しくない知識なのですが、他にも貴方自身の名前と、貴方の人間関係に関する記憶も封印されています」

「ど、どうして?」

「ユグドラシルで貴方は我らが主神のため、世界に散らばった神玉を集めるエインヘルアルとなりました。

 エインヘルアルは歳を取ることもなく、また死んでも生き返ることが出来る神の戦士です。

 そして主神との契約を果たせば貴方は元の世界に戻ることになります。その際にこの世界の記憶を抹消することになるのですが、記憶の抹消には『名前』を消すことが必要となります。

 本当の貴方の名前を消すといろいろと問題があるので、ここで新たな名前を決めて頂きます」

「なるほど……」

「また貴方以外も、様々な世界からエインヘルアルが召喚されています。中には貴方と同じ世界から召喚された者もいるでしょう。

 その時に偶然にも知り合いで、相手の名前を叫んでしまうと、その者が本当の名前を取り戻してしまいます。そのため、人間関係に関する記憶も封印させて頂いています」

「分かりました」


 白い世界のどこまでも透き通るような声のシーラは、神秘的な美しさを兼ね備えているけど、どこか機械的に見えた。

 淡々と作業をこなしているだけといった感じだ。


「では早速、ユグドラシルでの貴方の名前を決めたいと思います。何か希望の名前がありますか?」

「う~ん、特にないかな。候補として良く使われている名前をいくつか教えてもらえます?」

「クレール、ガルデル、アルベルト、リィヴ、クロード、ルシラ」


 最後に聞こえた名前に妙な引っ掛かりを覚えた。

 きっとユグドラシルに持ち込んではいけない、封印された記憶に関係するのだろう。


「その中からだと、リィヴがいいかな」

「では、貴方の名前はリィヴとなります。リィヴがユグドラシルで契約を果たして、貴方の世界に戻れるよう精一杯支援させて頂きます」

「は、はい。どうぞこちらこそよろしくお願いします」

「まず偉大なる主神より、リィヴに1万ゼニ、最下級魔石、最下級武器、最下級防具が与えられています」

「1万ゼニってどれくらいの価値なんです?」

「1日に3回食事して3千ゼニから4千ゼニかかります。安い宿でも5千ゼニかかりますので、1日分の生活費となります」


 おい、意外とケチだな。

 1ヶ月分ぐらい支給してくれよ。


「与えられる最下級魔石は3個ですが、そのうち1個は『財布』となります」

「うん? 魔石が財布?」

「財布は魔石の中にゼニの情報を記憶します。この財布の魔石で売買する時に決済します。1万ゼニはこの財布の魔石の中に情報として記憶されています」


 シーラは親指ほどの大きさの黒く輝く魔石を3個見せてくれた。

 その中の1つだけ、魔石の表面に何か文字が刻んであった。

 どうやらこれが財布の魔石のようだ。


「これって文字?」

「ルーン文字です。魔石にルーン文字を刻むことで魔道具となります」

「俺、このルーン文字って見ても理解できないな。あと俺がいま喋っている言葉ってユグドラシルの言葉? 俺の世界の言語に関する記憶は封印されてる?」

「ルーン文字を解する者は少ないです。リィヴがルーン文字を解したいなら、相応の努力が必要となりましょう。いまリィヴが喋っている言葉は、ユグドラシルの人族が使う言葉です。リィヴが察している通り、リィヴの元の世界の言語に関する記憶は封印されていますが、代わりにユグドラシルで人族が使う言語を解するようになっています」


 どうやら新たに言葉を覚える必要はないようだ。

 ありがたい。


「次に最下級武器ですが、リィヴはどんな武器がいいか希望はありますか?」

「俺ってただの学生で、武器なんて何も使ったことないです」

「リィヴの『神石』に『戦術』を刻めば、自然と武器の使い方が分かる様になります。ですがそれも限界がありますので、極めるには時間と努力が必要になるでしょう」

「神石?」

「エインヘルアルとなったリィヴの心臓のことですよ」


 俺はそっと自分の左胸に手を当ててみた。

 ドクドクと確かな鼓動が聞こえる。

 俺の心臓が神石?


「魔石を吸収すれば、リィヴの神石に魔力が蓄えられます。その魔力で己の神石に戦術を刻むことが出来ます。例えば剣術、槍術、棒術といった具合です」

「まず魔石を吸収ってどうやるんです?」

「いまリィヴが手を置いている左胸の辺りから、魔石を身体に押し込むようにすれば体内に吸収されますよ」


 なにそれちょっと怖いんだけど。


「神石に戦術を刻むのは?」

「それは私が行います。いまのリィヴでは無理です」

「将来的には出来る様になります?」

「望むのであれば。ただし、まずはルーン文字を解することが必要となりますよ」


 これはルーン文字の重要性高いな。

 覚える必要があるかもしれん。


「シーラ様のお薦めの武器とかあります?」

「槌ですね。私のことはシーラでいいですよ。それと言葉も畏まったものではなく、ごく自然に話してもらえればいいです。私とリィヴはパートナーなのですから」

「了解です」


 天使のシーラに面と向かってため口とか無理だよ。

 それにしても、槌か。

 槌ってハンマーとかメイスってことだよな。

 せっかくシーラがお薦めしてくれたんだし、それでいいか。


「では、槌にします」

「はい。これが最下級武器として与えられる槌です。外からでは分かりませんが、中に最下級魔石が埋め込まれています」


 真っ白な空間に光が集まると、光の中から1本の槌が出てきた。

 材質は木か?

 長さ1mほどの棒の先端は角度のある長方形となっており、この部分で殴られたら痛そうだ。

 柄の部分は握りやすいように革のようなものが巻かれている。

 真っ白な空間に浮かぶその槌に手を伸ばして掴んでみると、宙に浮かんでいた槌は浮遊をやめて、俺の手にその重さを伝えてきた。


「おお~。生まれて初めて武器なんて持ちましたよ。なんか感動しますね」

「少し振ってみるといいでしょう」


 シーラに言われた通り、その場で何度か槌を振ってみた。

 俺に扱えないような重さではない。

 見る限り材質が木なのが気になるが、最下級ってことだから仕方がないか。

 これで十分だろう。


「良い感じです」


 俺の笑顔にシーラも初めて笑顔を見せてくれたが、やはりどこか機械的な笑顔だった。


「では次に最下級防具です。リィヴには動きやすいのが良いかと思うのですが」

「シーラがそう思うなら、それでいきましょう」


 もう完全にシーラ任せである。

 それでいい。

 素人の俺があれこれ考えたって、いいことなんてないだろう。


 再び真っ白な空間に光が集まると、光の中から防具が出てきた。

 見ると革製の服に、これまた材質は木なのか胸当て、肘当て、膝当てといった感じで補強されている。

 革製のブーツのような靴も出てきた。

 それと、槌と同じく木で出来た盾だ。


 なんで木なんだ?

 そしてここで着替えるのか? シーラの前で?


「えっと、ここで着替える?」


 俺はパジャマ代わりの黒ジャージ姿のままだ。

 シーラの前でこれ脱いで着替えるとか、ちょっと恥ずかしいんだけど。


「はい。こちらは胸当てと盾にそれぞれ最下級魔石が埋め込まれています」


 シーラは当然のように説明してきた。

 そこで俺は防具を取った後、じっとシーラを見つめてみた。

 じ~~~~っと。

 シーラは俺の視線を不思議に思ったのか、ちょっと戸惑い始めた。

 そして、


「あ。後ろを向いていますね」


 気付いてくれたようだ。

 あ、って気付いた瞬間の顔は機械的ではなかった。

 ちゃんと感情を持っているんだな。


 せかせかと与えられた防具を身に着ける。

 Tシャツとパンツだけそのままに、木の補強材がついた革製の服に着替えた。

 変わったデザインに思えるけど、これがユグドラシルでは普通のデザインなんだろう。


「あれ」


 真っ白な大地に置いた俺の黒ジャージは、すっと大地の中に吸い込まれていった。

 没収ですかい。

「あ、終わりました」

「はい」


 シーラはゆっくりと振り向いた。

 その動作1つが美しく、まさに天使である。


「こちらでお預かりしたリィヴの服は、元の世界に戻る時にお返しします。肌着はそのままにしますが、あまりユグドラシルの人々に見せないようにしてください」

「分かりました」


 肌着を誰かに見せるような展開が待っているのだろうか。

 出来ればシーラに見せて脱がせてもらいたいところである。


 あれ……そういえば魔法袋どこいった?

 ああ! 黒ジャージのポケットの中……と思ったら、なぜかこの革服のズボンのポケットの中に入っていた。

 おお~神よ、ありがとう! 感謝します!


「これで主神よりリィヴに与えられる物は全てです。続いて、リィヴの神石に戦術を刻みたいと思います」

「おお~、俺の神石って魔力あるんですか?」

「財布以外の2つの最下級魔石を吸収してみて下さい」


 シーラに言われた通り、俺は黒く輝く小さな石2つを自分の心臓の中に押し込むようにしてみた。

 すると、何の感触もないまま魔石は俺の体内に入ってしまった。

 不気味だ。


「これでいいのかな?」

「はい。大丈夫です。どうですか? 神石に魔力が宿ったのが分かりますか?」


 う~ん、分からん。

 シーラにそう言われると何か心臓が熱くなったようにも感じるけど、ぶっちゃけ分からん。


「最下級魔石は魔力が少ないですからね。あまり感じられなくても仕方ありません」

「ユグドラシルで取れる魔石は、最下級魔石が一番魔力の少ない魔石?」

「いえ、最下級魔石よりも少ない魔力の魔石はあります。むしろ最初の頃は最下級魔石を手に入れることは難しいでしょう。砂粒ほどの極小魔石や米粒ほどの小魔石から集めることになります。

 聖樹の根に生えている魔石で一番小さいのは小魔石です。極小魔石は聖樹の根元の大地に土と一緒に混じっています。極小魔石は聖樹の中で結晶化されなかった屑のようなものです」


 最下級なんて名前がついているけど、実はけっこう貴重品なのかもしれない。


「おおよその魔石が持つ魔力量ですが、極小魔石100個で小魔石1個分、小魔石100個で最下級魔石1個分、最下級魔石100個で下級魔石1個分で、中級、上級、最上級と続いていきます。

 そしてリィヴの神石に最下級戦術を刻むには最下級魔石1個が必要ですし、下級戦術を刻むには下級魔石1個が必要です。

 今は最下級魔石2個分の魔力がありますから、最下級の槌術と盾術の戦術を刻むのがいいでしょう」

「槌術と斧術って違うのですか?」

「1つの戦術を覚えれば、似た武器にも効果は波及します。ですが槌を使うなら槌術と刻むのが、槌を使う上では最も効果が高いです」

「なるほど。分かりました。では槌術と盾術でお願いします」


 シーラは優しく微笑むと、俺に近づいてその美しい両手を俺の胸元に置いた。

 そして、何かを唱え始める。

 だが、その言葉を俺は理解することが出来なかった。

 これはルーン文字? というかルーン語か?


 シーラの美しい両手から暖かい何かが流れ込んできた気がした。

 同時に俺の心臓がドクッ! と大きく鼓動を打った。


「終わりました。これでリィヴは最下級の槌術と盾術を得ました。槌と盾を持って動いてみて下さい」


 さっきと何が違うのか。

 俺は槌と盾を持って動こうとした。


 お? おお!? なるほどね!

 確かにこうやって動くものだと、なぜかイメージ出来るというか、頭が分かっている感じがする。

 だからそのイメージ通りに動けるかというと、それはまた別なんだけどね。

 でもこれなら、イメージに従って鍛錬すれば出来るようになれるだろう。


「いかがですか?」

「すごい! 槌と盾の使い方が確かに分かります。これなら戦えそうです」

「よかったです。でも焦らないで下さいね。リィヴは新しいエインヘルアルです。強さを手に入れるまで長い道のりが待っているのですから。下級戦術を刻むことができれば、より強い動きを得られるようになるはずです」

「ユグドラシルにエインヘルアルって何人ぐらいいるのですか?」

「詳しい数は分かりませんが、私の担当だけでもリィヴを含めて5人です。もしかすると1000人以上いるかもしれませんね」


 それはかなりの数だな。

 そんなにいるなら、神玉なんて簡単に集まるんじゃないの?

 あれ? もしかして、それだけ数を揃えても神玉って集めるのが難しいのか!?


「神石はこうして戦術を刻めること以外にも、蓄えた魔力を肉体に流すことで超人的な身体能力を得ることが出来ます。それは『闘気』と呼ばれています。

 闘気も魔石により強化することができます。いまはただの闘気ですが『最下級闘気』『下級闘気』と強化すれば、肉体に流せる魔力量が増えて、さらに超人的な身体能力を得ることが出来るでしょう。

 しかし、闘気は強力ですが多くの魔力を必要としますので、最初の頃は使うべきではありません。魔石を得たら神石になるべく多くの魔力を蓄えて、上位の戦術を得るべきです」


 なるほどね。

 でも俺はさらに魔法袋にも魔石を与えないといけない。

 シーラは俺が主神から、魔道具の魔法袋をもらったことを知っているのかな?

 主神は簡単に話すなと言っていたけど、シーラって主神の部下みたいなものなんだろうから、知っているかもしれないな。


「魔道具とかあります?」

「はい、あります。リィヴは神玉を探すことが最大の目的になりますが、まずは魔石を集めることから始めます。そしてその魔石をミズガルズのルーン王国王都テラに持っていけば、ゼニと交換するか『魔貨』と交換することが出来ます」

「魔貨?」

「はい。魔貨は魔道具を買うための貨幣で、魔石からの交換のみとなります。どんなにゼニを積んでも魔貨との交換は出来ません」

「魔貨の情報も財布に?」

「はい、そうです。さきほどリィヴに渡した武器と防具も魔道具です。正確には『戦闘魔道具』と呼ばれています。

 効果は攻撃する際には埋め込まれている最下級魔石から自然と魔力が槌に流れ、防御する際には盾や防具に自然と魔力が流れます。魔力が流れることで性能を向上させてくれます。

 また、闘気を武器や防具にも流せるようになっていますので、闘気と合わせればさらに強力になります。ですがさきほども言った通り、闘気は当分使わない方がいいでしょう」


 魔道具って言葉を振ってみたら、新たな情報を得た。

 でも魔法袋のことは言ってこない。

 これはシーラも知らないな。

 主神が知らせていないのなら、今回はシーラにも黙っておこう。


「さきほども言いましたが、リィヴが最初から最下級魔石などを手に入れることは難しいです。ミズガルズで魔石を手に入れるためには『聖樹の森』に入る必要があります。

 魔石は聖樹の根元に生えているからです。そして『聖樹王』に近づけば近づくほど、生えてくる魔石は大きくなっていきます。聖樹王の根に生えている魔石となれば、間違いなく最上級魔石となるでしょう。

 ですが、聖樹の森には恐ろしい敵がいます。

 魔獣です。

 獣が魔石を喰らうと、魔獣となります。

 土や草についた砂粒程度の魔石を食べてしまうことで獣は魔獣となります。

 魔獣は魔石しか食べません。

 魔石を食べるほど強力な魔獣となっていくのです。

 魔獣は聖樹の根に生える魔石を喰らうか、魔獣を襲い殺して心臓を喰らいます。

 魔獣の心臓は魔石なのです。

 魔獣の知能は様々で、闘う本能しか持たないような魔獣もいれば、罠を張る狡猾な魔獣もいます。

 力に自信があり知能の高い魔獣なら、見つけた魔石を育てることすらあります。

 普通の獣と魔獣を見分けるには、魔獣は体が大きくなるのでだいたい見れば分かりますが、魔獣の目は赤く光ることが多いので、それで見分けることも出来ます。

 さて、魔獣は魔石しか食べませんが、人を襲うかどうかは魔獣により違います。

 リィヴが最初に降りる場所などでは、ほとんどの魔獣はこちらから刺激しない限り襲ってくることはないでしょう。

 ですが、リィヴが魔石を持っていたら? もちろん襲ってきます。

 聖樹の森から魔石を持って帰るためには、魔獣に負けない強さが必要になるのです。

 リィヴがその強さを得るまでは聖樹の森の浅いところで、砂粒ほどの極小魔石と米粒ほどの小魔石をかき集め魔獣に見つからないように街に戻る日々が続くことでしょう」


 元から説明する予定だったのだろう。

 シーラは魔獣に関することを一気に喋り通した。

 俺が魔道具なんて言ったからなのか、最初のうちはそんなもの買うことは出来ませんよ、と注意しているのだろう。

 俺も買えるとは思っていない。


「よく分かりました。それでは『魔法』はあるのでしょうか?」

「はい、あります。魔法も魔道具の中の1つです。正確には『魔法石』と呼ばれています。人が魔法を直接唱えることは出来ません。それは神のみが起こせる奇跡だからです。ですが、魔石にルーン文字を刻み魔法石とすることで、その魔石が持つ魔力分だけ奇跡の魔法を行使することができます」


 ふむふむ、人が魔力を操って魔法を唱えるのではなく、魔石にルーン文字を刻むことで魔法石となるわけか。

 やっぱルーン文字の重要性が高すぎる。

 いつか学ぶ必要がありそうだ。


「これをリィヴに渡しておきます」


 シーラはルーン文字が刻まれた魔石を1つ俺にくれた。


「これは?」

「今後、私がリィヴと会えるのはリィヴが死ぬか、寝ている間だけです。私に会いたい時はその魔石を吸収して寝て下さい。そうすれば、寝ている間にまたここに来られます」

「死んだ時は?」

「リィヴは死ぬとここで生き返ります。なのでその時も会えますよ」


 出来れば死にたくないです。

 痛いだろうし。


「蓄えた魔力で新たな戦術を刻みたい場合、他にも何か相談をしたい時など、いつでも会いに来て下さい」

「それじゃ~毎日会いにこようかな」

「え?」


 シーラは出会ってからの僅かな間の中で、最も人間らしい驚いた表情を見せた。

 俺の言葉がそんなに意外だったのか?


「あ、いえ。単にシーラとお話したいから会いにこようかなって……あはは」

「……無駄話をするつもりはありません。その魔石も貴重なものなのですから」

「ご、ごめんなさい」


 怒らせてしまったか?

 驚いた顔は、すぐに元の機械的な表情に戻ってしまっている。

 怒っているのか、怒っていないのか判断し難いぞ。


 まずいな。

 本当は最後に、俺こんな契約するつもりじゃなかったんで、全部無かったことにして元に戻してもらえませんか? って聞いてみようかと思ってたんだよね。

 まあそんなこと言ったら、やる気のない奴って思われるだろうし、もしかしたら何か罰があるかもしれない。

 主神が怒って出てきて、魔法袋取り上げられたら嫌だし。

 これからお世話になるシーラの機嫌をさらに損ねるような地雷は踏まないでおこう。


 仕方ない。

 もうこんな状況になってしまったんだ。

 夢なら勝手にいつか覚めるだろう。

 夢じゃないなら全力で頑張って、元の世界に戻るしかない。



「……では、リィヴをミズガルズに降ろします。ルーン王国の近くにある聖樹の森の聖樹の根元に降ろします。

 意識が戻り立ち上がれば、遥か天空まで伸びる巨大な樹が見えることでしょう。それが聖樹王です。聖樹王を背に歩いていけば、いずれ街に着くはずです。

 そこで自分はエインヘルアルであることを告げなさい。そうすれば、後は自然と事が進んでいきます。神玉のことも王都テラで詳しい話を聞けるはずです」

「わ、わかりました。でも直接その王都テラに降りることは出来ないのですか?」

「私が降ろしてあげられるのは、聖樹の根元だけなのです。できるだけ近くに魔獣のいない地点にしておきます」


 天使にも制約があるのか。


「分かりました。ミズガルズで頑張ってきます!」

「頑張って下さい。リィヴに主神オーディン様の加護があらんことを!!」


 シーラが真っ白な空に向かって手を上げると同時に、俺が立っている真っ白な大地から光りの奔流が下から上に流れてきた。

 その流れに乗るような感覚に導かれ、俺の意識は光りに混ざり途切れた。


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