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プロローグ

浅い夕焼けを背に、君は喘鳴(ぜいめい)としながら僕の腕を掴んでいる。その白い手には、もはや力はさほど残っていない。小刻みに息が漏れて、大胆にたじろぐ気力もなくなってしまった身体。瞳孔が宙を仰ぐ。握り締めた手の力が抜けていくのを感じる。彼の薬指の指輪が眩しくて見てられない。君は一体、何を見て、何を考えて、そしてどうやってここまで生き長らえて来たのだろう。首にかける力が、より一層強くなる。君は今にも泣きそうで、それなのに助けを求めることはせず、僕の下に屈服したままで。

 大丈夫。君が望んだのだから、僕は手を緩めたりしない。これは正しいこと?間違ってるなんて、もうとっくに分かってるよ。というか、産まれた事自体が、僕らにとっては過誤だったんだから。長い年月が過ぎて、何もかも青くて、傷付いてばかりで、何者かになりたくて、全てが敵でしかなかった、幼い十七を思い出すよ。

「思ったより、長生きしてしまったね」

然れど、彼の誕生日が近付いている。あの時から、もう一回り程年が経つなんて。時間は思いの外優しくて、僕がまさか君と今一緒に居れるだなんて思ってもみなかった。

 指輪は彼の手から離れない。彼を縛り付けて、どこにも行かせてはくれない。全部夢だったみたいに、今まで生きてきたのを証明しろと言われたら、する手立てが見つけられないくらいにはあの頃と今では随分何もかも変わってしまった。僕は彼を深く失望させ、彼は僕以外の誰かを愛して、今でも忘れられない。それでも僕は彼を愛してやまない。彼は寂しいだけ、懐かしさを思い出したいだけ。眠りたいだけ。それだけで構わない。失うと決まったわけじゃないのに、僕はもう君を愛惜していた。何故かといえば、僕にも掴めな|い濁たらしい何か。引力、その他の(まじない)

 君は麗しい。どこまでも綺麗で、そして悍ましい。ここは暗いのに君だけは燦々と輝いていて、死にそうなのに、幸せそうに笑っている。淡い熱帯魚の様に、目を奪って離さない。君の誕生日には、蝋燭の代わりにシガーを立ててやろう。くどいものが苦手な彼に、僕からの甘い祝福。



























 その甘美な表情のまま、僕を蔑めて、僕の暗い紺に一条の光を注いで。

















 


 

 

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