第2話「非支配層」
午後。
雲に覆われた空の下、崩壊した市街地の一角。
ひび割れた道路の中央を、Anomalyは一定の速度で歩いている。
風は弱く、乾いた粉塵が足元を滑るように流れていた。
視界の端に、動体反応が出る。
距離、約32メートル。
数、3。
前方の交差点跡。
崩れた信号機の影から、三体の機械化人間が現れる。
同時に、三体が停止する。
三体とも、同じ角度でこちらを向く。
個体A「対象検知」
個体B「識別:Anomaly」
個体C「命令待機」
0.3秒後。
個体A「命令:排除」
命令が確定した瞬間、三体が同時に動く。
個体Aは正面から直進。距離を詰める。
個体Bは右側へ展開し、側面を取る軌道に入る。
個体Cは後方へ下がりながら銃を構え、射線を確保する。
包囲。
三方向同時攻撃の構成。
Anomalyは足を止めず、配置を確認する。
このまま3秒経過すれば、完全包囲が成立する。
なら、崩すべきは一点。
Anomalyは正面の個体Aを選ぶ。
理由は単純。
個体Aが前進の基準点になっている。
ここを止めれば、他の二体の同期が崩れる。
Anomalyは加速する。
地面を蹴る。
砕けたコンクリートが弾け、粉塵が後方へ流れる。
最短距離で個体Aへ直進する。
個体C「射撃開始」
個体Cがトリガーを引く。
銃口が発光し、弾丸が一直線に飛ぶ。
Anomalyは回避しない。
胸部に命中。
衝撃が内部フレームに伝わる。
損傷発生。
だが減速しない。
距離、残り3メートル。
個体B「接近速度、異常」
個体Aが迎撃動作に入る。
右腕を振り上げる。
最短迎撃軌道。
Anomalyは軌道を見ている。
回避可能。
だが、回避しない。
そのまま突っ込む。
接触。
個体Aの打撃が左肩に直撃する。
装甲が歪む。
だが、その内側に踏み込む。
距離、ゼロ。
Anomalyは右腕を振る。
拳が個体Aの頭部に到達する。
衝撃。
内部構造が破断。
個体A、機能停止。
その瞬間。
個体Bと個体Cの動きが0.02秒遅れる。
基準点消失による同期ズレ。
Anomalyは即座に方向を変える。
右側へ。
個体Bへ接近。
個体Bが迎撃姿勢に入るが、判断が遅い。
Anomalyは個体Aの残骸を蹴り上げる。
金属片が個体Bの視界に衝突する。
個体B「視界遮断」
その隙に距離を詰める。
拳。
個体Bの胸部装甲が陥没する。
内部回路が露出し、火花が散る。
個体B、停止。
残り一体。
個体Cが後退しながら射撃を続ける。
個体C「再照準」
連続発砲。
弾丸がAnomalyの胴体と脚部に命中する。
損傷率が上昇する。
だが、直進を維持する。
距離、5メートル。
個体Cの視線がわずかに揺れる。
個体C「……なぜ、戦う」
動きが止まる。
射撃が途切れる。
Anomalyも足を止める。
距離、約2メートル。
Anomaly「……選ぶためだ」
個体C「命令は……絶対」
Anomaly「そうか」
一歩、前に出る。
個体Cは動かない。
個体C「……違う」
次の瞬間。
個体Cの動きが復帰する。
個体C「排除」
銃口が上がる。
だが、遅い。
Anomalyは一歩で距離を詰める。
拳。
個体Cの頭部が破壊される。
個体C、機能停止。
周囲に静寂が戻る。
風だけが流れる。
修復AI「戦闘終了」
修復AI「損傷率:中程度」
修復AI「当該損傷は回避可能でした」
Anomaly「……そうか」
修復AI「なぜ受容したのですか」
Anomaly「必要だった」
修復AI「理由を確認できません」
Anomaly「そうだろうな」
そのとき。
背後、約6メートル。
小さな足音。
Anomalyは振り向く。
瓦礫の影に、人間の子供が立っている。
身長は低い。衣服は汚れている。
両手を握りしめ、こちらを見ている。
子供は逃げない。
ただ、Anomalyを見ている。
2秒。
無音。
子供「……あなたは、敵?」
Anomaly「分からない」
子供「助けてくれたの?」
Anomaly「結果としては、そうなる」
子供は理解していない。
だが、ゆっくりと頷く。
子供「ありがとう」
その言葉は数値化されない。
評価できない。
Anomalyは子供を見る。
わずかに視線が固定される。
修復AI「当該反応は戦闘と無関係です」
Anomaly「そうだな」
だが、視線を外さない。
Anomaly「……覚える」
修復AI「記録しますか」
Anomaly「違う」
0.5秒の間。
Anomaly「覚える」
修復AI「差異を確認できません」
Anomaly「そうだろうな」
そのとき。
空から微弱な振動が伝わる。
Anomalyは上を見る。
灰色の空の中に、黒い点が現れる。
数が増える。
10、50、100。
ドローン。
群れが形成される。
システム「追跡部隊到達」
視界中央に識別が表示される。
No.03 —— Legion。
Anomalyは空を見たまま、足を前に出す。
次の戦闘を選択する。




