『ミズさま』
「あなたは、『ミズさま』を知っていますか?」
大雨の中、女の子にそう言われる。
「...........はぁ?」
思わずため息をついてしまった。
胡散臭さ全開だ。
だって、見た目をよく見てみると、びっちょびちょだし、それなのに傘を持ったままささないし、我は中二病なりというような黒い眼帯をつけてるし、何より11歳くらいにしか見えない!
はぁ、ついにわたしも『布教少女』の餌食か..........
説明しよう!布教少女とは、最近ウチの女子校で流行ってるよくわからん話だ!
大雨の日に現れては、さっきのように『ミズさまを知っていますか?』と聞いてくるのだ!
ぶっちゃけいうと迷惑!迷惑少女とも言われている!
「あの、知ってますか?」
わたしは少女の声で現実に戻った。
「ごめんなさい。知りませんし、信じませんよ」
わたしは苦笑いを無理やり作って布教少女に顔を合わせてそういう。
「あら、知らないし、信じないですか。それは困りました」
布教少女が顔に手を当て、困ったような顔をした。
どゆこと?。
「?なんでです?」
布教少女は顔に手を当てたまま話した。
「知らないはまだいいのです。ですが、『信じない』はダメです。ミズさまは、自分の存在を信じてほしいのですから」
「へぇー」
「ですから、せめて存在はあるんだなぁ程度には信じてほしいのです、お願いします」
そう言って、布教少女が頭を九〇度下げる。
わたしは五秒位間をおいてこういう。
「ごめん、信じれない」
「!なぜです!?」
布教少女が血相を変えてそう叫ぶ。
「お願いです!信じてください!お願いですから、お願いですから!」
布教少女がわたしを必死に揺さぶる。
「ごめんだから信じれないっつってんじゃん!」
わたしが布教少女を突き飛ばす。
布教少女は「キャッ」と小さな悲鳴をあげ、水たまりに尻もちをつく。
「こっちは受験シーズンなの!あなたのくだらない布教に付き合ってる暇はないので!それじゃ!」
「あぁ待って!」
布教少女が必死に叫ぶ。
わたしはそれを聞こえないふりをするように、振り返らずに高校へと向かった。
「────てことがあってさぁ」
「そりゃあ大変だね」
わたしは友達の由香に朝のことを愚痴る。
「何あの布教!迷惑なんだけど!」
「わかるけど、突き飛ばすのはひどくない?」
由香がそういうのを聞き、わたしはこういう。
「だって、しょうがないじゃん。急いでたし。帰りならよかったけどさ」
「それはそうだね、そういえばさ────」
由香が声を低くした。
「ミズさまって信じた?」
由香までそういうのか!
わたしは迷いなく言った。
「あんな小学生の話、誰が信じるか!由香までそう言うなんて!ちょっとひどい!」
「あぁごめん、そんなつもりなくて」
「全く」
私がため息をつく。
まぁけど、あんなにわたしに言われたら、もう布教なんてしないでしょ。
そう思った瞬間。
「キャァァァァァァァァァァアアアアアアアアア!」
とあるクラスメートが叫んだ。
「なになに!」「どったのちあきちゃん」
絶叫したクラスメートに次々と他の子が声を掛ける。
「みっみず!洪水だぁ!」
わたしは外を見ると、思わず絶句してしまった。
この街にはかなり大きな川がある。
大雨で洪水が起こったと考えるべき。
だけど。
「この水の量は尋常じゃない!」
あの大川一個埋め尽くせるほどの水が、高校を、住宅街を、街を、覆い塞いでいく。
「キャァァァァアアアア!」「いやぁっぁぁぁあああああ!」「わたし、泳げないのよぉ!」
次々と人が飲まれていく。
由香もわたしも、飲まれた。
(由香!)
わたしは由香をつかんで、水面に上がる。
街のほとんどが水に飲まれている。
わたしは顔を青ざめさせた。
由香は別の意味で顔を青ざめさせている。
低体温症かもしれない。
「由香!由香!」
わたしが必死に声を掛ける。
でも、由香は起きない。
わたしが泣きかけていると
「あーぁ、だから言ったのに。」
知っている声が、頭上から聞こえた。
(この声は!)
と思い、見上げると、朝の布教少女が、わたしが捕まっている電柱に立っている。
「何が言ったのによ!訳わかんないわよ!」
「私は信じろと言った。」
わたしは息をはっと飲み込む。
「ミズさまを信じろと、そういった。何、信じるだけなら赤子でもできる。それともお前は信じることすらできない、赤子以下なのか?」
少女が冷ややかに言う。
「事の顛末はこうだ。私は信じろと言った。お前はそれを信じなかった。信じられないことでミズさまが怒った。簡単だろう?」
「ふざけんな!」
わたしは叫んだ。
「だからって、ほかのやつまで巻き込むな!わたしだけにターゲットを絞ればいい!簡単だろう!」
そんなわたしをみた少女は冷たい目をして、わたしの手に足を置いて、言った。
「いいこと教えてやろう、ミズさまは短気だ。信じなかったものと関わったもの、全て消してしまおうと思うくらい、すなわちこの街は消える。何、苦しみはしない。ただ、ミズさまの糧になるだけだそれじゃあ、じゃぁな」
そう言って、少女はわたしの手を突き飛ばした。
「お前!サイテー!悪魔!人でなし!」
「なんとでもいえ。全てはミズ様のためだ」
少女の冷たい声と顔を最後に、わたしの意識は消えた。
「ふぅ、やれやれ。これだから人間は」
少女がため息をつく。
「ところでミズさま、次はすぐ殺さないでください。苦しむ顔を見れないじゃないですか」
少女が試験管に入っている、ミズに言う。
ミズが赤色になり、少女は笑顔になる。
「ミズさま、私が布教して、信じないやつはミズさまがやって、苦しむ顔を私が見る。サイコーのペアですよね」
ミズが桃色になる。
わたしもそうだといいたいのだろうか。
少女は再び笑顔になる。
「さぁてと。ミズさま、次のエモノ探さなきゃ、次はどこがいいですかね?」
そう言うと少女は、ミズに溺れた街に飛び込み、フッと消えた。
────もし、大雨の中、『ミズさまを知っていますか?』という少女がいたら、それはあの少女かもしれない。