013-サキュベール公国
エルフェスタ王国の王都は、地球で言うところのキルギスにある。
より正確には、巨大な湖……イシククル湖の東岸に位置している。
因みに、こちらでの名称はルククシイ湖だよ。
地名に関しては、【惑星まるごと世界を創造】で使われていた安直な名称がそのまま使われていた。
でもね、果てしなく透明な水を湛えたルククシイ湖の美しさやその湖畔に築かれた王城の荘厳な雰囲氣などは地球で生まれ育った者がイメージしたものなどではないのかもしれないね。
何となくだけど、この世界観には僕の脳ミソにあったもの以外にも何者かのイメージが加えられている……そんな氣がするんだ。
僕の脳ミソでは上手く表現できないけど、一言で言えば、地球外文明的な雰囲氣がぷんぷんしているんだ。
そんなギャラクティック風光明媚な王都をイアルリーシア第二王女と共に出立し、最初にやって来たのは地球で言うところのアフリカ大陸に相当する地域……。
因みに、こちらではカリフア大陸と呼ばれている。
単なる逆さ言葉だから、分かり易いと言えば分かり易いよね。
僕達が最初に訪れたのはその北部に位置するサキュベール公国。
直線距離で四、五千キロメートル程は離れていたはずだけれど、イアルリーシアの転移魔法でほんの一瞬で来れてしまった。
何とも呆氣ない……。
そのサキュベール公国のあちらこちらには青く澄んだ水が湧き出る大きな泉が点在し、その周辺には草木が生い茂っている。
正に絵に描いたような砂漠のオアシスであり、そこに築かれた街並みの中を歩く淫魔一人一人がまるで咲き誇る花のようだよ。
そんな光景を空から眺めていると、嫌でも視界に入ってしまうものがある。
最近現れた堕天使が発動したという大魔法……その影響で念話が繋がらなくなっているのかも、ってな話なんだよね。
「……なるほど、あんなものがあったら、確かに念話は通じないかもしれないね」
「そうですわね」
「それで……イアルリーシアはこの状況をどう見る?」
「正直に申し上げれば、ワタクシが予想していたものとはちょっと違いました……ですが、あの魔力の色からして……うふふふ……凡その見当はつきましたわ」
「へえ……随分と心強い事を言ってくれるね!」
良いね、良いね、イアルリーシア第二王女!
融通は利くし、頭も良いし、タクシーよりも速いし、ホント素晴らしいっ!
文句の付け所なんて一つもないっ!
「ところで、ステファン様……お連れのお方の反応などはあの中から感じられますか?」
「うーん……分からないね。でも、もしもアイネスがあの中に居るとしたら……くくく……きっと淫魔の格好が氣になっているだろうね」
「――そ、それって、もしかしてビキニアーマーの事でしょうか?」
イアルリーシアががっつくように顔を近づけて来た。
煌びやかなドレスの下にはビキニアーマーを装着しているようだし、相当に興味が有るみたいだね。
ああ、益々イアルリーシアの事が氣に入っちゃったよ。
僕はね、ビキニアーマーを熱く語り合えるようなお友達が欲しかったんだ!
「そ、そうだけど?」
「……ぐふっ」
「アイネスってさ、ビキニアーマーにかなり興味が有りそうなんだけど……僕とは熱く語り合う氣はないらしくてね。だから、まあ、何と言うか……」
「――そ、そのアイネスというお方はきっと淫魔好きの変態さんなのでしょうね!」
「……はい?」
「ぐふ……ぐふふふ」
あれ?
あれあれあれ?
何でそんなにニヤニヤしてるの?
ひょっとして、アナタもダメな感じ?
「お、おい、イアルリーシア……?」
「うひひひ……早くそのお方とお会いしたいものですわ」
「い、一応聞いておくけど……何で?」
「だって、ワタクシと同じ嗜好のお方なのですよね?」
いきなりドレスを脱ぎ捨てたイアルリーシア……。
まるで女王様のようだ。
あ、鞭が似合う方のね。
「……す、凄い……な」
「ぐははは……つ、遂に……遂にワタクシも真の友と巡り会えるのですねぇぇぇぇぇ!」
「――お、お前とは違う嗜好だと思うけどっ!」
エルフェスタ王国第二王女イアルリーシア……あの頭固過ぎで融通の利かないプレミリーシア第一王女の双子の妹でありながら、その性格は世間の常識にとらわれない柔軟さを持ち合わせている。
しかも、その戦闘力はかなりのものらしく、魔法と剣術の両方でエルフェスタ王国随一との名を馳せているようだ。
常に薄っすらと笑みを浮かべ、余裕綽々と言った感じだ。
さすがにイグジスト程ではないとは思うけど、護衛として傍に居てくれるだけでかなり心強いのは間違いない。
でも、そんな彼女には変態要素がかなり多めに配合されていたみたいだ。
と言うより、この女は紛うことなき変態だ。
目の前に晒されている彼女の酷い表情が全てを物語っている。
あ~あ……結局、二人共癖が強かったね。
地球で王族やっている人達もやっぱりこんな感じだったりするの?
まあ、それはさて置き、先ずはすべき事をとっとと済ませないとね。
「えーと…………そうそう、あの紅い魔法結界ってさ、一つ一つが随分とデカいよね」
「あ、はい……しかも、どれもこれも見事なまでのおわん型……うふふ……まるでワタクシのおっぱいみたいですわ……あははは!」
誇らしげに胸を張ったイアルリーシア……。
こちらをチラッと見ては更に胸を張る。
こういう振舞いって……かまってちゃんだよね?
テキト―に流すに限る……よね?
「へー、それは良かったね。それで、どう対処するつもりなの?」
「お、おほんっ……えーと、あれらを一つずつ無効化する事は、恐らくそれ程難しい事ではないはずですわ。ですが、氣付かれた時点で絶対に暴れ出すと思いますわ。あの魔法結界を張ったワイルドミーならば……間違いなく!」
突如サキュベール公国に現れたという堕天使はワイルドミーという名前みたいだ。
公共の場所に魔法結界を勝手に張ってしまったその素行の悪さとその名から察するに、恐らくはかなり野蛮な堕天使なんだろうね。
きっと筋肉もりもりで全身に傷があるような強面の男……まあ、間違いないだろうね。
僕は前方からヤクザが歩いて来たら迷わず道を譲るタイプだからね。
なるべく関わらずに穏便に済ませたいところだけれど、場合によってはイアルリーシアに活躍してもらうことになりそうだ。
因みに、魔法結界の内側で生活をしていても特に問題にはならないらしく、現時点では大きな問題にはなっていないみたいだ。
でも、他の地域との念話が不可能となってしまっているから、一部の淫魔達が不満を募らせているらしい。
そのせいで、日に日に治安が悪化しているとか……。
にしても、念話が僕達だけの専売特許じゃなかったなんて地味にショックだよ……。
「それで、イアルリーシア……その堕天使を見つけ出し、対話する事って可能なのかな?」
「ええ、可能と言えば可能……だと思いますわ」
「そうなんだ……じゃあ、先ずはそのワイルドミーとかいうヤバそうな堕天使を見つけ出そう」
「因みにですが……ワイルドミーは胸も身長も控え目な、とっても可愛らしい女性の堕天使ですわ」
「あ、そうなんだ…………へえ」
「あら? どうかしましたか?」
「いや、かなり意外だったもので…………でも、まあ、何にせよ、どうしてあのような結界を張ってしまったのか……先ずは、それを本人から直接聞いてみる必要がありそうだね」
「ああ、それでしたら……うふっ、ワタクシ、心当たりがありますわ!」
得意氣な表情を見せたイアルリーシア。
再び胸を張り、無駄におっぱいを揺らす……。
勿論凝視したいよ?
でもさ、そんな事しちゃったら、この女は……ねえ?
「へ? イアルリーシアに心当たりが……あるの?」
「はい……ワイルドミーには放浪癖がありまして、サキュベール公国を訪れていたのは偶々かと……」
「ふーん……随分と詳しいんだね。それで?」
「え、えーとですね……割とつい最近の出来事なのですが、ワタクシ、ワイルドミーとの念話を一週間程繋ぎっぱなしにしてしまいまして……」
「ふむふむ……つまり、どういう事?」
「あははは……一方的にワイルドミーから嫌われちゃったみたいですわ!」
「――お、お前が原因かよっ!」
「で、ですが、この恋……既に諦めはついていますから、ワタクシ……例えあの魔法結界が消滅したとしても、決して同じ過ちなどは――」
「そんな事はどうでもいいからさ、兎に角、今直ぐ、ワイルドミーに謝って来てくれる?」
到着早々、サキュベール公国で起きていた問題を解決する事ができた。
それにしても、王女という地位にありながら、イアルリーシアの自由奔放さには困ったものだ。
放浪癖のある堕天使に恋をする程度ならまだしも、他国の街中で次から次へと淫魔に抱き着くのはどうかと思うよ。
まあ、何処までも他人事として見れば、彼女の行動は色々と面白いよ?
でもさ、もう少しは自重して欲しいよね。
それと、堕天使ワイルドミーには同情してしまった。
何でも事ある毎に長時間に渡り睡眠の邪魔をされ、ついイラっと来てしまったのが例の魔法結界を張ってしまった理由だそうだ。
でも、その後に十分な睡眠をとれたから、既に怒りは収まっている、との事だったね。
因みに、彼女はイアルリーシアの事を現在でも然程嫌ってはいないらしい。
実はあの二人、意外と氣が合っている……のかもしれない。
それにしても意外だったのはワイルドミーという堕天使の人柄と風貌だね。
その名と種族から推測してしまうようなものとはかなり違っていたんだ。
あ、翼とかはなかったね。
まあ、それはさて置き、サキュベール公国で得られたものが全くなかった訳ではない。
実は、新たなエイリアスをゲットする事に成功した。
そう……僕は、堕天使ワイルドミーのエイリアスを纏う事が可能となったんだ。
地球に帰ったら色々と楽しめそうで、今からワクワクしている。
それと、この地で一番人氣との噂に高い淫魔が一時的に仲間として加わってくれる事となった。
彼女の名はムンムン……臍の下に浮き出た淫紋がとっても印象的な精霊族との意思の疎通が可能だという貴重な人物なんだ。
そうそう……態々説明するまでもないとは思うけど、アイネスは結界内に閉じ込められてはいなかった。
だから、サキュベール公国での用事が全て済み次第、直ぐに次の目的地へと転移する予定。
イアルリーシア第二王女……かなりの変態だと判明してしまったけど、彼女の魔法はマジで役に立つ。