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012-エルフェスタ王国

 …………ん?


 仄かな香り…………これは……花?


「……あら? お目覚めになられましたか?」


「……」


 ベットの脇には小さなテーブル……。

 白い花が数本生けられた花瓶が置いてある。


 その側には中学生ぐらいの少女が一人……丁度椅子から立ち上がったばかりのようだ。

 声を掛けて来たのは恐らく彼女だろうね。


 この場に居るのは僕と彼女の二人だけ……?

 いや、少女の数メートル程後方にも人影らしきものが……。


 目が霞んでいて良くは見えない。

 それに身体もやたらと重い。


 それでも何とか上半身を……。


「だ、大丈夫ですか?」


「……うん」


 此処は……木の家の中だね。

 でも、木製の板や柱を使って造られたようなものではない。

 そうそう見かける事すらないような巨大な木の中身をくり抜いた空間……。


 恐らく、幹の太さは十メートル前後はあるはずだ。

 窓の外を眺めれば、それくらいはあるであろう巨木が数本見えるからね。


 上半身を起こすのを手伝ってくれた少女……。

 そんな彼女の後方から、何者かが近づいて来た。


「ステラ、グラスを一つお願いするわ」


「畏まりました、プレミリーシア様」


 そのプレミリーシア様とやらが僕の直ぐ傍までやって来た。

 そして、片膝を床に突けた。

 きっと目線の高さを合わせてくれたのだろうね。


 ただそれだけの動作なのに何ともエレガント……。


「これでよろしかったでしょうか?」


「ええ、ありがとう」


 僕の目はまだ少し霞んでいる。

 でも、ステラという名の少女が運んで来たグラスが空なことぐらいは分かる。

 そして、そのグラスをプレミリーシア様とやらが左手で受取った事もね。


 目の前では、プレミリーシア様とやらの右手の人差し指から湧き出た生温かそうな液体がちょろちょろとそのグラスの中へと注がれ……。


「へー、そこから湧き出て来るんだ…………どんな仕掛け?」


「……はい?」


 不思議そうな表情でこちらを見つめているプレミリーシア様とやら……。

 どうやら寝起きの僕に自慢の手品を披露してくれた訳ではなさそうだ。


 でも、飲みたくはない……よね?




~約一時間後


 今現在、僕はリモリモの大森林と呼ばれている広大な土地を領土とするエルフェスタ王国という国に居るようだ。

 そして、プレミリーシア様と呼ばれていた指先から水が湧き出す女……彼女はこの国の第一王女らしい。


 因みに、リモリモの大森林の中で氣絶した状態で倒れていた僕をこの部屋まで運び、介抱してくれたのがプレミリーシア第一王女だったんだってさ。

 何でも森の中を散歩していたら、紫色の球体が空から舞い降りて来るのが見えたらしいよ。


「ありがとう、アイネス……僕を守ってくれたんだね」


 まあ、それはさて置き、これからどうしたものか……。


 霊体ホログラムが登場する漫画【地球セレクト!】。

 僕はその作中に登場した幾つもの世界……その中で最も僕好みのものをセレクトし、霊体ホログラムのエイリアスを創造したつもりだった。

 でも、この惑星の世界観はそれとはかなり違う……。

 まだまだ断言はできないけれど、少なくともエルフェスタ王国なんて国名は記憶にはないんだよね。


「うーん……となると、データ量が多過ぎて脳ミソに残っていた記憶が全部ごっちゃ混ぜになってこうなっちゃった……感じ? おっと、そんな事よりもだ……兎にも角にも、早急にアイネスと連絡をとらないと………くくく……アイネスの怒った顔が目に浮かぶよ」


 意識を集中し、ちょっとばかり不機嫌になっているであろうアイネスの顔を脳裏に思い浮かべる。


 イグジスト女子の三人とは、意識の深いところで繋がっている感覚があるんだ。

 あ、今は優凛とも繋がっている感覚があるから四人だね。


「あれ? おかしいな……」


 僕の意識……そのずっとずっと深いところでアイネスとの繋がりは今もしっかりと感じている。

 でも、全く繋がらない。


「……距離は関係ないって言っていたよね。それに、僕の護衛が使命だと結構本氣で信じているから、ほぼ確実にこの惑星に来ているはず……だよね? うーん……となると、何者かによって妨害されている……とか?」


 現時点では、アイネスの存在をこの世界の誰にも話してはいない。

 それに、プレミリーシア第一王女……延いてはエルフェスタ王国が、何らかの魔法を使って妨害している、とは考え難い。

 そもそもリモリモの大森林で平和的に暮らしているエルフ族が態々そんな事をしてくるとは到底思えない……よね?


「むう……もう一度あの王女と話をしてみる必要があるみたいだね」


 種族すらも違うこの僕を快く助けてくれたばかりか、こうして身体を癒す場所をも提供してくれたプレミリーシア第一王女……。

 そんな彼女に対してちょっとばかり心苦しくもあるけど、幾つかのお願いをしてみる必要がありそうだ。




地球で言うところのユーラシア大陸に相当する地域……。

そのほぼ全域が旺盛に生い茂る巨大樹――リモリモ――で覆われているらしい。

 だから、この惑星に住む人々は、途轍もなく広大なその森林をリモリモの大森林と呼んでいるそうだ。

 そして、そのリモリモの大森林を領土としているのがエルフェスタ王国、との事だ。


 そのエルフェスタ王国の国民は、ファンタジー世界では定番のエルフとダークエルフで凡そ半分を占めているらしい。

 そして残りの半分は、その二種族の間に生まれたハーフエルフやクォーターエルフ等々となっているそうだ。

 要するに、エルフ族以外の王国民は存在しないらしい。

 因みに、彼等は肌の色で別々の種族と分類することはなく、全てを同一の種族と捉えているようだ。


 それらの事実からも推測できるように、かなり平和的な文明を築き上げている。

 そしてそれは、僕も肌で感じている。

 何かね、真っ白な羽毛で包まれているかのような幸せな雰囲氣が漂っているんだよね……この王国には。


 そんな王国の生活水準は意外と高いらしい。

 殆んどの家は、巨大樹リモリモの幹をくり抜いたものらしいけど、開けた場所には石で造られた建造物も多々存在しているようだ。

 だから、地球の歴史で言うところの中世……それに匹敵するであろうレベルの街並みも存在しているらしい。


 それに加え、国民の殆んどが多かれ少なかれ魔法を使う事ができる為、エネルギー不足という事態にはならないようだ。

 しかも、魔力石と呼ばれている魔力を蓄える事が可能な石や、魔導具(マジックアイテム)までもが存在しているらしい。

 そんなこんなで、かなり環境に優しい世界を構築しているようだ。

 石油や発電所が必要ないって、ある意味地球よりも進んでいる……よね?


 また、この国には所謂”勝負”とか”競争”といったものがほぼ存在しないらしい。

 その事をプレミリーシア第一王女から聞いた時は大して氣にはならなかったけど、よくよく考えてみると、地球に当たり前に蔓延っている価値観とは大きく違うと言える……よね?

 だって、学校での勉強や運動から始まり、社会に出てからの仕事や地位、果ては恋人の容姿や家に車等まで、ありとあらゆる事で他者や他社と競い合っている地球人とは相当違うよね?


 この国はそのような有り様でちゃんと成り立っているそうだ。

 何でも、他者に優しく協力的な……所謂、利他的な人々が大半を占めているらしい。

 例えば何らかの新技術等を発見しても、それを秘密にするような事はしないそうだ。

 逆に、それらを惜しみなく公開し、知識や技術をどんどん広めてゆくんだってさ。


 とは言え、実際のところは、僕がそういった設定の惑星を生み出したはず……だよね。

 でも、【地球セレクト!】に出て来た設定とはかなり違うんだ。

 まだ、この惑星のほんの一部しか見てはいないのだけれど……。


 もしかすると、幼少期からの様々な妄想などなど僕の脳ミソに残っていた色々なものがゴチャゴチャに入り混じってしまったのかもね。

 今後の為にも、その辺の事も踏まえておいた方が良さそうだ。


 あれ?

 そう言えば、僕の中にまだ残っていたはずのプレイアのエイリアスが綺麗サッパリ消えちゃっているみたいだ。

 でも、纏うと変な感じだったし、見れないおっぱいになんて未練はない……かな。


 まあ、それはさて置き、夢のような理想世界とも言えるエルフェスタ王国……。

 そんな国が存在するこの惑星にも幾つかの問題が存在していた。

 やはり全ての国や地域が等しく平和で安全という訳ではないようだ。

 そしてそれこそが、今の僕にとっては最も重要で且つ解決すべき問題だね。


 そんな事を考えていると、部屋の扉が叩かれた。

 その後、扉を叩いた主は、何とも優雅な身のこなしで僕の前まで歩いて来ると、当然のように片膝を突いた。


「エルフェスタ王国第一王女プレミリーシア……仰せにより、ただ今罷り越しました、偉大なる父ステファン様」


 ――お前のオヤジじゃねーよっ!


 だが、そう叫ぶのは心の中だけにしておくとしよう。

 だって、このプレミリーシア第一王女……あまりにも頭が固過ぎて、どうにも融通が利かない。

 その点に置いては、アイネス……いや、彼女以上かもしれない。


 とは言え、僕がこの惑星の創造主なのは事実だし、そのように扱われるのも嫌ではない。

 だって、そもそも僕のイメージの法則は創造主ごっこをする為のものだからね。

 まあ、この惑星を創造したのは、セイクリッドネストの人員不足を解消するのがメインの目的だけれど……。


 にしても……プレミリーシアは「紫色の球体で地上に降りてこられたのが創造主様であらせられる証」とか言っていたけれど……そんな設定なんて記憶にはないよ?


 まあ、それもさて置き、ホントどうしたものか……。

 創造主ごっこは楽しいけど、必要以上に堅苦しいのはちょっとね。


「えーと……よく来てくれたね、プレミリーシア。でも、僕は堅苦しいのは苦手なんだ」


「……分かりました。では、わたくしも可能な限りそのようにさせて頂きます、偉大なる父ステファン様」


「――お、お前のオヤ…………おほんっ……えーと……とりあえず、その呼び方を何とかできないかな?」


「さ、左様でございましたか……では、何とお呼びすれば?」


「じゃあ、シンプルに”ステファン”でどう?」


 ホントは嫌だよ?

 そもそも僕の名前は”ステファン”じゃないよ?

 でもさ、もしもアイネスがこの場にやって来たら、話がややこしい事になりそうじゃん?


「畏まりました、偉大なる――」


「――い、偉大じゃねーよっ!」


「し、し、失礼致しました……ス、ステファン……さ、様」


「はあ……”様”は有っても無くてもどっちでもオーケーって事で……まあ、兎に角、なるべく早く慣れてよね」


「――はっ!」


「そうそう、本題に入る前に一つばかり聞いておきたい事があるのだけれど……この惑星には名前ってあるのかな?」


「いいえ……ですが、王家に伝わる伝説では、創造主様が現れた時に命名されると……」


 またまた憶えのない設定が出て来たよ。

 色々と謎だね。


「ふーん……つまり、僕が好き勝手に命名しちゃっても構わない……感じ?」


「はい、ステファン様のお望みのままに……」


「くふふふ……そうか! ならば…………むう……我はこの惑星をイアと命名しよう!」


「――――っ!!」


 エルフェスタ王国第一王女プレミリーシア……期待以上の反応だよ!

 あまりの歓びに声も出ないってな感じだね。

 涙がちょちょぎれちゃっているよ。


 良いよ良いよ!

 僕はこういうのに憧れていたんだ!


「むふふふ……では、そろそろ本題に入ろうかな?」


「――はっ!」




 エルフェスタ王国第一王女プレミリーシア……類稀な美貌と頭脳を持った才色兼備だけれど、トラウマレベルで融通が利かない。

 ただ、透き通るように美しい瑠璃の瞳……あれはプレイアの右目ととても似ていたような氣がした。

 まあ、何であれ、次に「偉大なる父」などという言葉を口にしたならば、都合良く改変したエイリアスを創造してしまおう。

 そして彼女をイグジスト化させてしまえば、今よりかは多少マシな性格になる……よね?


 あれ? そういう使い方も場合によってはアリ……だよね?


 まあ、それはさて置き、念話を妨害している可能性が高い三つの原因を特定することができた。

 そんなこんなで、早速明日から行動を起こすことにした。


 プレミリーシア第一王女の妹であるイアルリーシア第二王女が随伴してくれる予定だ。

 何でもその第二王女は剣術と魔法にかなり秀でているらしい。。


 まあ、それはそれで頼もしいけど、極々普通に融通の利く性格じゃないと……ちょっと困るよね?




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