年越しジャンプ
「一足先に年を越えてやる!!」
そう言って、元気よく笑いながら辰巳さんは走り出した。
坂道のカーブ。
終業式を終えた僕らは、家が近所なので仕方なくいつも一緒に帰っていたんだ。
だって田舎の道は暗くなるのも早いし、街灯も少ない。
「年頃の娘さんに何かあったらどうするの?!」
これが母さんの口癖だった。
でもどう考えても、モヤシみたいな僕と走り幅跳び選手の辰巳さんじゃ、辰巳さんの方が強いんだけどね。
元気よく走った辰巳さんがちょっとした段差をジャンプした。
僕は飛び降りる度胸もなくて、坂道のカーブを急いで走って追いかけた。
「……あれ?……辰巳さん??」
けれど、飛び降りたはずの位置に辰巳さんがいない。
僕を脅かそうと隠れていると思ってあちこち探したが見つからない。
だんだん焦ってきた僕は電話をかけた。
「すみません。宇佐美です。辰巳さん、帰ってますか?!」
怒って僕を置いて先に帰ってしまった事もある。
今回もきっとそうだと自分に言い聞かせる。
ドキドキと嫌な鼓動。
おばさんが確認して答えてくれるまでのほんの僅かな時間が永遠のようだった。
「宇佐美くん?!まだ帰ってないけど、何かあったの?!」
僕の全身から血の気が引いた。
貧血みたいになって、頭が真っ白になった。
「宇佐美くん?!宇佐美くん、大丈夫?!今どこ?!」
おばさんの声にハッとする。
僕は状況を必死に話した。
その声は震えていた。
ジャンプした辰巳さんは、消えてしまった。