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飯テロ  (吐くレベル)

健康食なんかの主張によくあったネタだが、「原始人はやってなかった」だの「縄文人はこれを食べていた」だの「江戸時代はこうだった」だのと、やたら懐古回帰の思想が多かった。


だが、考えてほしい。


その頃の平均寿命の短さと、体格のことを。


ワタシが去った頃の日本人なんて、身長170センチない男性に対する差別発言が社会問題になっていたものだが、その、ほんの100年前には、160センチでもそこそこ大男だったのである。

一時的に高身長だった時期もあるらしいが、有史以前は140センチそこそこが標準的だったと何かで読んだ。


しかも文明初期、人類の生物寿命は30代。

江戸時代だって、50代ですでに老人と呼ばれていたレベルなのである。

まして昭和の食改革で、体格も寿命も、老化でさえも大きく変わり、ワタシなんぞも86までめちゃくちゃ元気に生きていた。

あの時感染症の流行にまで勢い乗ってしまわなければ、多分だが、余裕うで100まで生きた。


ナチュラルな生活は一見すると体に良いような気がするが、それは日頃カロリーを不自然に過剰摂取するデブに対する比喩であり、極端に自給自足に近い限界集落なんかだと、寿命こそ長い場合もあるが、概ね住民は小柄。



要は栄養の吸収効率が悪いのだ。



今世なんて食べられるもの自体が貴重なので、できれば栄養素はフル活用で取り込みたいが、食べるものすべてが消化に悪いものばかり。

太る余裕なんかないので、みんなガリガリだ。


ここに必要なものは、デンプンだ。

要は、穀物。

加熱しなければ、ただの種子としてあらかた消化器官をスルーしてしまう、あいつらなのである。

たんぱく質なら、とりあえずは焼けば良い。

だが、穀物には加工が不可欠で、調理にも、また食べる行為にも、器の類いが必要となる。

そして、まずは水に浸けて柔らかくする事から始まって、やがては煮炊きへと突き進むのだ。


浅いながらも石の皿ができ、手水鉢ができ、ワタシの手作業から「石で擂り潰す」という方向への道筋もつき、概ね準備は整った。

そこそこ食べられる穀類も、いくつか見つけた。



ここからは、少し危険な冒険となる。


急激な躍進は、畏怖や、嫌悪をまねきがちだ。

また、利己的な損得も芽生えてくるだろう。

今はまだ宗教的な概念はないが、言葉の語彙が増え、思考と意思疏通に感情や理屈が加わり始めると、おそらくそこに至るまでの時間は短いだろう。


だが、ワタシだって、早くまともなものを食べたい。

現代人と、エセ中世貴族の食生活の記憶を持ちながら、猛獣が食い残した肉やら、虫やら、魚介類やらを、鮮度いまいちな生食で乗り越えて来たのである。


とりあえずは粟粒のようなものを集めてきて、石皿の上で叩き潰し、水を加えて擂り潰してみた。

加熱してない米ぬか汁のような、粉っぽい以前にブツブツザラザラなモノが出来上がったが、初めてこれを口に含んだ時の感激はひとしおだった。


うめえ……。


こんな飯テロ、前世なら吐くレベルだろうが、うめえよ……。



群れの皆も興味津々で、このお粗末な粥を舐めに来た。

概ね気に入ったようで、それからは、皆も色々な草木の種を集めてきて食べ比べるようになったのだった。


これが普及したなら、いよいよ次は加熱のお時間だ。


偶然を装って火を起こすという難関をクリアしなければならないが、問題はシチュエーションであって、物理ではない。



そう、ワタシには、レンズがあるのだ。



すでに何度か着火には成功している。

煙に気付かれたり、燃え広がったりしては困るので、ものすごい自制心を以て調理の誘惑には耐えた。



さあ、来い、グッドタイミングよ!




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