望むこと (……いつかは飯テロしてみたい)
不器用な恋愛未遂事件を思い出してしまったその日、ワタシの畑に、ささやかな成果が実を結んだ。
しばらく前に実を採った草を移植しておいたものが、この畑での収穫をもたらしたのだ。
この世界、季節の変化に乏しく、気候も穏やか。 ほとんどの植物に季節的なサイクルはなく、その寿命や生態も様々だった。
いまのところ、実食できるのは生で食べられる果実や草の実くらいのものだ。
農業の発端といえば穀物なのだが、今は、まだ加熱という概念がない。
もちろん、火を扱う技術も知恵もない。
ワタシのイメージでの原始人はたいがい焚き火を囲んでいたものだが、そこに至るまでの道のりが万年単位であったという実態を、イマココで思い知っている次第だ。
このまま何を食べ続けるかで、進化の方向は変わる。
美味しさに関しては、目下は度外視。 その分いろいろと耐性もあって、前世で言うところの極限メシ状態でも大丈夫な胃袋を持っている。
未加工の穀類や種子類も、渋や何やも気にせず食べるし。
今世での食とは、飢えないためでしかない、ある意味壮絶な飯テロだった。
火起こしにチャレンジしても良いのだが、あれは、たまたまやってみたら火が着いた、と言うには作業がハードに過ぎる。
多分だがあれは、いずれ、石器の加工で石を叩いたり、何かに穴を開けようとして執拗に擦ったりしているウチに偶然発見されるのだろう。
だがまず、火の有効性に気付く機会が必要だ。
幸か不幸か、この辺りは山火事にあった事がないので、火を間近に見たことすらない。
それに、山火事なんかがあった日には多分だが、火の扱いに目覚める以前に恐怖を覚えるだろうし、食べ物が手に入りにくくなって餓死の危機な上に、生息地の変化で獣に襲われる危険も高まる。
ぞこで、ひとつ思い付いた。
少し前から「器」作りにチャレンジしていたワタシは、平べったい石に窪みを付ける所からスタートしており、結果、砥石として使った石が碁石状になり、モノによっては磨かれて光ったりして、出来上がった浅くて微妙な器よりもよっぽど人気のあるアクセサリーグッズとなっていた。
中には半透明の石もあり、そうした石は磨けば珠だ。
他の群れとの交易でも人気の、いわば特産品の爆誕である。
きれいなモノが欲しい群れの仲間達は、ワタシのために変わった石を見つけては持ち帰ってくれるようになっていた。
そんな中から透明度の高い石は、こっそりと、慎重に磨き続けた。
やがて洞窟内の岩に手水鉢状の窪みが出来て、皿状になった器で水が運ばれ、群れは水瓶をゲットした。
この程度でも、めちゃくちゃ文明が進んだ気になるあたり、ワタシもずいぶん原始に馴染んだものだ。
そしてワタシは、いくつかの透明な円盤の仕上げを進めていった。
石から砂へ、砂から粘土へ、そして木の皮や獣の骨で、とにかく根気よく磨き続けて、ついに、いびつながらもそれなりの、レンズを作り上げる事に成功したのである。