神の力 (目下、原始人ラブロマンスにしようか悩み中)
原始人ラブコメにするかどうか迷い中
最初の人生は、86年。
2度目はわずか17年。
転生小説ではよく「合計42歳で心は中年おばさん」とか言ってたが、今時、40そこそこで自分を中年だと思っている人なんていないだろう。
心は二十歳とか、若い頃には、寝言は寝て言え……と思っていたものだが、実際ワタシも20代後半くらいから80代に至るまで、自分の心が老いたという自覚はなかった。
無論、容姿や体力に老いを痛感する瞬間はあったが。
2度目の人生は、何も思い出さないまま、無邪気に16年間の令嬢生活を過ごした。
殺されたけど。
最期の時に86歳の噛み分けBBAとして覚醒し、最愛の人だったはずの裏切り者が、めちゃくちゃおぼこいガキに見えてしまったのが、唯一の年の功だった。
今だって全部足せば110歳に手が届く人生経験者なのだが、正直、年齢にしては賢過ぎる程度。
ただ、環境の文化レベルが低過ぎるので、単なる年の功が神の神業な効果を呼んじゃうだけだ。
まだ子供だが、人類と言えども一介の野生動物に過ぎない今世では、走ることができるようになれば、一人前と見なされる。
何しろ、寿命が短いのだ。
ほとんどの親は10代半ば前後で子を産み、それでも、孫を見るほど長くは生きられないのが通常だ。
ワタシも今や立派な頭数。
狩りにも同行しているし、採取もしている。
狩りの方はまだどうにもならないが、洞窟から少し離れた場所に、ちょっとした畑を作りつつある。
落ち葉や動物の糞を集めて堆肥を作り、食べられる草木の種を撒いたり移植をしたり。
特に農業を興そうとかの大志はないが、前世で、庭に吐き捨てたスイカの種が翌年芽吹いたりしたのを思い出し、なんとなく始めて見ただけだ。
ビワの種なんか、ほぼ100%発芽して、3年目には実がついていた。 面白くて、ビワの鉢だらけになってしまって、困った家族が知り合いに押しつけまくっていたっけ。
当時の家族の顔は、もう、思い出せない。
でも、悲しくも寂しくもない。
なんせ、延べ110年も経ってるし、単調ながらも今世の人生はインパクトが強すぎて、戻りもできない前世を偲んでくよくよしている暇なんてないからだ。
食事が良くなれば、寿命は結構延びるはず。
ママや集落の仲間たちには、少しでも長生きしてほしい。
野生の知恵レベルの薬草も、集めてきている。
長い時間を普通に生きてきて、悟った事が、ひとつある。
それは、神の存在だ。
ワタシにとって神とは、心の底からの願いを酌んで、変わって行こうとする生き物たちの、進化の原動力だ。
もう少しだけ上の木の葉が食べたいキリンの首が伸び、身を隠したいヒラメが擬態できるようになる、ああいう不思議な、何らかの意志が作用したとしか説明のできない変化をもたらす力こぞ、ワタシにとっての神様なのだ。
進化は緩やかで、その身ではなく世代をまたいで変異していくのだ。
まだ生きたかったワタシの願いは、世代どころか世界をまたいじゃったけど。
つまらない謀略や小知恵の渦巻く身分社会に絶望したら、知恵すら微妙な段階まで遡ってしまったけど。
多分だが、、ワタシの「願う力」は、結構イケてると思われる。
チートといえば、これは究極のチート。
死ななきゃ叶わないのかもしれないのは置いといて、毎日、心から願っていれば、少しでも望む進化が得られるかもしれないと考えている。
植物なんかは、種の時点で世代が変わる。
もしかしたら、今世の寿命が尽きる前には、進化の兆しを感じられるかもしれない。