弱肉強食なんだよね
いまさらながら、ここは原始の世界だ。
弱々しく且つ体も小さな人類にとって、生き延びる事は容易ではない。
ろくな犬歯も持たないそんな生命体が、凶悪な肉食獣と張り合って肉を食するには、道具と、高度な連携と、策謀が必須だ。
ハイエナよろしく食べ残しを漁るにしても、ライバルは多いのだ。
現時点での人類は、群れ単位で比較的大型で動きの鈍い草食獣を狩るスタイルが主流のようだ。
草食獣といえども概ね体は大きく力も強いため、バカにできない危険な相手だ。
かといって、危険度の低い生き物はそれなりに身を守る術を持っており、肉弾戦で狩るには難易度が高いのだ。
今のところ、棍棒と石の手斧が武器の全てと言っても過言ではなく、自然、近接戦となる。
飛び道具といえば、せいぜい投石が関の山。
ワタシも生まれた群れでは何度も狩りに同行したが、前線の大人達はそれこそ命がけで、満身創痍となっていたものだ。
また、獣に襲われる事もある。
集落では周りに石や木の枝を積み上げてそれなりの防壁を築いているが、一歩外に出てしまえば人間なんて、か弱い上に皮が薄くて食べやすい、絶好の獲物だ。
したがって、悲しい事ではあるが、死は非常に身近であった。
探索している間には、壊滅した集落や、襲われて全滅したとおぼしき狩りの一団などの遺留品を何度も目撃したものだ。
現在ワタシは、比較的近くの集落からここ数日煙が見えなくなってしまっていることに気づいて、確認に向かっているところだ。
何度か交易で訪ねた集落だが、どこからか分派してきて間もないらしく、10人にも満たない小さな群れだった。
やはり顔見知りとなると気になるものだ。
単にねぐらを変えただけなら良いのだが。
それに空き家になっていたならそれなりに、ワタシには使い道がある。
途中、別荘(?)で夜をやり過ごし、目印をたどりつつ丸二日間歩いた末に、ワタシは目的地に着いた。
そこは洞窟とも言えない、斜面の窪みを掘り込んだだけの浅い穴を、住処としていた。
逃げ場がないぶん、周囲にはうず高く防壁となる障害物が積み上げられている。
以前来たときの入り口は、外側から被せたらしい、比較的新しい枝葉で隠されていた。
ということは、全員でここから出ていったのだ。
だが、帰って来るつもりはあるようだ。
ワタシは少し迷ったが、とりあえず声をかけてみることにした。
「おーい?」
もちろん、ここでの一般的な呼び掛けではないのだが、要は伝われば良いわけだ。
返事はなかった。
だが、防壁の向こう側から、微かな物音が聞こえた気がした。
「誰かいるの?」
当然だが、誰がいようと言葉が通じるわけはない。
しかしながら、微かにくぐもった声が返って来たように感じたワタシは心を決めて、入り口の障害物を引きずり下ろした。
何事もなければ、また積んでおけば良いだけだ。
中に何か異変があるなら、助けたい。
もしかすると病気や精神病の仲間を見捨て、封じて逃げた可能性もあるが、まだそこまでのケガレ概念は派生していないはずである。
石積みをよじ登って越えると、狭い庭程度の広場があった。
一寸見、棄てた住処らしくはない。
この世界では未だ貴重な生活雑貨があちらこちらに残っているし、浅い洞窟の中には毛皮も敷かれたままだ。
焚き火は完全に燃え尽きて、すっかり灰になっている。
これは珍しいことで、通常は貴重な火種を絶やさないように最低限、熾火は残すものなのだ。
だが、それすら燃え尽きている。
最もあり得る事態は、短期間のつもりで全員でここを出て、戻れなくなったというものだ。
狩りにしろ、採集にしろ、ここは危険な未開の地。
現にワタシだって設定上は、採集の内に行方不明となっている身なのだ。
これは、しばらく近くの別荘(?)で様子を見守って、もし本当に誰も戻って来なかったならワタシが頂いちゃうことにしよう、そうしよう。
そう思いつつ防壁をじっくりと見回して、ふと気がついた。
石積みの窪みにすっぽりと収まって、小さな子供がこちらを見ているではないか。




