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考察・チート

交易の最大の利点は、自力では得られないものを入手できることである。


あの時の焼肉の味は忘れられない。


味付けと言えば塩だけで、しかも肉自体がかなり獣臭くはあったが、この時代に生きていれば、そんなの、いまさら気にもならない。



あれ以来、様々な集落を訪れてみた。


品物はフクロをはじめとした編み物が主だ。

何せ、軽くて運びやすい。

あまりにも出来上がりが精緻過ぎるとアレなので、素材は、やや細めの麻紐程度を限度としている。

今のところ、各種フクロに、ぞうり、獣脂ロウソクなどが主流だ。


1回目の人生では、幼少時に祖父から草鞋の作り方を教わっていたし、老人会の手作業でぞうり型スリッパを布切れで編んだりもしていたのだが、ここへ来てそれが非常に役立っている。

履き物の需要はものすごく高かったのだ。


彼らが廃棄していた獣の角を受け取り、磨いたり削ったりして作った小物も歓迎された。

特に釣り針が好評で、自分で作っておきながら「デカ過ぎじゃね?」と思いもしたのだが、売りに行った川沿いの集落で、でっかい針に虫を刺し、隠す気ゼロの紐を結びつけただけの釣る気ゼロな仕掛けで実演して見せたところ、川に投げ入れて程なく、巨大な鯉のような魚が引っ掛かって、危うく引っ張り込まれそうになったりしたものだ。

あれには本気で驚いた。


そして、ワタシが投じた一石は良い方向に大きな波紋を招き、半年ばかりが過ぎる頃には、類似製品や、ちょっとした上位互換品が派生するようになってきている。


集落によっては、顔馴染みとなってからは集団作業に参加させてくれたり、数日泊まらせてくれたりするようにもなっていたので、ワタシも、教えられる事は積極的に伝授した。



ただし、編み物以外だ。

これは、今のワタシにとって最大の武器となる能力なのだ。

何ら特殊能力発現の兆しもない転生今世で、唯一、突出していられる技能がコレなのである。



元々は老人会で、毛糸タワシやキ○ィちゃんの編みぐるみやらを制作するところからスタートした編み物なのだが、老人会歴約20年ともなると、色々と進化を遂げていた。

最終的には、セーターなんかはお手のもので、我ながら見事なレース編みのテーブルクロスや、極細の糸でのブライダルベールまでサクサク編めるレベルに達し、バザーの華となっていたものだ。

暇をもて余した老後の優雅な趣味が、まさか原始の世界で役立つとは思っていなかったけど……。



こんな世界に転生したなら、ふつう、なんかチートとやらが付与されてしかるべきはずなのに、前回といい、今といい、ワタシにチート能力が発現する兆しは皆無だ。

前世の記憶があるだけでも十分チートと言えなくもないが、神も、変に言葉尻だけ捉えて中途半端に転生させるのはやめておいてほしい。

せめて一矢を報いるために、交易を重ねて、いずれ通貨という概念を派生させて「お金のない世界」という前提を崩してやろうと思っていたりもする。

そうすれば次に転生するときに、「話が違ったんですけど?」くらいの苦情は呈する事ができよう。


とはいえ、チートと言えなくもないものがあるような気も、全くゼロではなかったりする。


こんな世界で、ましてや子供の体で手探り生活をしているにもかかわらず、たいした体調不良も起こさずに生きている事自体が、奇跡と言えば奇跡なのだ。


これまで、食べてみて「あ、毒かも」と思った事もあれば、結構な怪我をしてしまって「ヤバいかも」と感じた事態など、命にかかわる危機は幾度もあった。

だが、いつもなんとなくすぐに治ってしまっていたので、ラッキ~、くらいに思っていたが……改めて思い返せば、少々異常なレベルかもしれない。


そういえば前回の人生では、不潔に耐えられなくなって憤死したはず。

そのくせ、不潔以前の世界に転生させられておかしいなあとは思っていたのだが……、もしや。

もしや、人の気持ちと空気の読めないワタシの神は、そこのところをしっかりと履き違えて解釈し、「不潔では死なない体」をよこしたのでは……?

更に言えば、あの時にものの例えで「時代の違う空気は毒」などとチラッと掠めた思考を変な方向で受け止めて、毒では死なないようにしてくれているとか……?


真偽はわからない。

わざわざ致死量とわかっている毒を飲んで試してみたりはしたくないからだ。


もし本当なら非常にありがたい。

ありがたくはあるが、正直、ワタシの神には1回目の人生を過ごした世界に降りていただき、小学校辺りで、読解力を少々学んでもらった方がよさそうな気がする。





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