言語チートは? (それ以前の問題だった)
当座のショックは強烈だったが、ワタシはまだかろうじて離乳できる程度の赤ん坊。
思うところは色々あるが、なされるがまま、家族に身を委ねる事しかできない体だ。
オムツどころか衣服もないので、あれやこれやは垂れ流しである。
ワタシがちょっと寝床から這い出して用を足すと、今世の母は嬉しそうに、誉めてくれているらしき声を上げた。
あれ?
こういう転生って、普通、何故か言葉は最初っから理解できたりするもんじゃないの?
まあ、言語チートのないシビアなパターンもあるにはあったが、ワタシの場合は苦情処理のための再転生だ、難易度が高いはずはない。
思考能力とかはある程度体……というか、脳の成長度合いに引っ張られている感じなので、まだ、理解できないだけかも?
正直言って、前世、前前世いずれしても、それに準じる理性が今にあったら、正気でいられる自信はない。
衛生レベルとか、食べ物とか。
乳幼児の離乳食がちょっと腐りかけの生肉とか……、ただただ慣れるしかなかったりするからだ。
それにしても、おかしい。
普通、赤ん坊相手なら、うだうだ話しかけたりするもんじゃないのか?
母はといえば、うーだのおーだの言うばかりで、ワタシの名前すら呼んでくれない。
見た感じでは、10代前半くらい? 同じ洞窟で暮らす群れの中では、年頃も体格も標準くらいだ。老人というほどの年寄りはおらず、子供は少ない。
文明で武装できていない今頃、多分だが、40年も生きられれば良い方だったはずである。ましてや出産や乳幼児に優しい環境であるはずはない。 ワタシの3回目の人生、死産で終わる可能性は低くなかったと言うことだ。
ふざけんな、神!
それにだ、いくら合計100年超の人生消化率とはいえ、せっかく転生させといて、平均余命40年とか、ちょっとバカにしてるんじゃないのか?
この群れに、時間とか、年齢とかの概念があるかどうかも甚だ怪しい。
日にちや、年数が元の世界と同じだという確証もない。
だが、今日も普通に日が傾くと、まだ夕焼けにもならない内に、仲間たちが戻り始めた。 夜行性の獣が蠢く暗闇の野辺で、人間達が生き延びる可能性は、ほとんどゼロ。 火の気にも縁のないこの群れには、暗くなったら眠る以外にできることは何もないのだ。
帰って来た人々が、身振りや、声で、賑やかに何やら鳴き交わしている。
地べたに絵のようなものを描いて、指差し合っている者もいる。
ん?
ちょっと待てよ?
言語チートが効かない……って思ってたけど、もしかして、この世界の人類には、まだ言語自体がないんじゃ……?!